90話 神魔の契約
「さてと、じゃあ気を取り直して。
取り敢えず、ネルヴィアは何で俺たちをここに呼んだんだ?」
結局あの後小一時間、正座をさせられ子供に諭すかのようにお説教を食らったが。
まぁその事はこの際どうでもいい。
なぜ俺あんな仕打ちを受けないとダメなのかはわからないけどもう、この際どうでもいいのだ。
いい加減話が進まないにも程がある。
俺としては早く家に帰って久しぶりのベットでゆっくりと寝たいし。
とまぁ、俺の事は置いとくとしてだ。
そもそも俺が学園長達を連れてこの場所に来たのはネルヴィアから連れて来いって連絡があったからだ。
流石の俺でも、説明をしやすくする為に古くからの仲間を売るつもりはないからな。
「ふん」
が、何故かあの一件からネルヴィアが拗ねてんだよなぁ…
昔は力が強くなったって言えばそれはもう子供のように喜んでいたのに。
「仕方ないな。
後で模擬戦でもしてやるから機嫌直せって、な?」
「ソータさん、幾ら何でも女性にそれ…」
「約束じゃぞ?」
学園長の言葉を遮り、ポツリとネルヴィアが呟いた。
その事に驚いた様子の学園長以下4名だが、この人達は何をそんなに驚いてるんだか。
「あぁ、約束だ。
今回は全力でやれるように異空間を作ってやってもいい」
「うむ、今の言葉、覚えておくのじゃぞ?」
俺の提案にネルヴィアもニッコリご満悦なご様子。
これでやっと話が進むな…
「それで、何で俺たちを呼び出したんだ?」
「む、それは少しコヤツらと女子だけでの話がしたくてな。
まぁそれは後で良い。
コヤツらも聞きたい事が色々とあるだろうしな、気兼ねなく話をする為にも先にソレに答えてやるといい」
「だそうですけど、何か聞きたい事はありますか?」
「えぇ勿論、それも沢山ありますよ。
あの禍々しい黒い魔力や坂東くんの変貌、それにあの魔神。
ですが、最も聞きたいのは貴方の事ですソータ・ユーピルウス殿」
そりゃまあ説明も無かったら納得できないよな。
しかし、黒い魔力と魔神はともかく坂東の変貌って……
俺が思うにアイツは前からかなり危うい所があったと思うんだが。
それに……こいつらの前で俺の事を話すのも後々面倒そうだしなぁ。
「わかりました、全部正直に話しましょう。
ですが、その前に」
「うむ、心得ておる」
俺の目配せに当然のようにネルヴィアが頷く。
「あの、いったい…」
「いやぁ、久しぶりにソータのアレが見られるなんてねー。
あの魔神戦もそうだけど今日は来て良かったよ!」
「ええ、ソータ様がどれ程のモノを呼び出すか楽しみです」
学園長達は何の事かわかってないようで困惑気味だが。
魔王2人は当たり前のように察したようで面白そうに口角が上がってやがる。
「お待たせ致しました」
そう言って新たな吸血鬼が部屋に入ってきた。
と言っても顔見知りなんだけどさ。
「久しぶりですねムングさん」
「ご無沙汰しておりますソータ様」
俺への挨拶のために一瞬だけ動きを止め、滑る様な見事な動きで一枚の紙をテーブルに差し出した。
その吸血鬼の正体は、ネルヴィアの側近の1人でもある執事のムングさんだ。
うんうん、実に執事らしいこの感じ。
ムングってよりサバスって感じで実に仕事のできるネルヴィアには勿体無いくらいの従者と言える。
ウチのお子様三人衆も少しは見習ってほしいものだ。
「やっぱりムングは魔王になった方がいいと思うんだけどなぁ」
ヴァイスロギアが何気なく言った一言で学園長以下勇者パーティーが固まってしまったぞ。
「そうですね。
実力でも貴方は天羽王よりも上でしょう」
「お褒めに預かり光栄でございます」
「えっと、は?
つまりその執事が十魔王よりも強いって?」
坂本が混乱の声を上げるのも無理はない。
だって今のムングさんからは全くと言っていい程そのオーラを表に出してない。
これほどの魔力操作は早々できるものじゃない。
初めから知ってれば別だけど多分、学園長レベルの人が見ても初見じゃ常人にしか見えないだろうな。
「いえいえ、私など十魔王の皆様と比べれば足元にも及びません」
「だ、だよな。
流石に執事が十魔王より強いってそりゃねぇよな」
「ふーん、でそこんとこどうなのさムングくん?」
「おふざけもそこまでにせよ。
ムングを引き抜こうとするな」
ふん、とあらぬ方向を向きながらそう言うこの光景。
ツンデレかっ!!
ってまぁ知ってたけどさ。
「ふふふ、ありがとうございますお嬢様」
「ふん、何の事かわからぬな」
「皆さまご用意が整いましたので、私はこれで失礼いたします」
……これが世にいう主従愛ってやつか。
「これは、後であの執事さんのことも聞かないとダメですね…」
扉が閉まると同時に頭痛を堪えるようにしながら学園長が呟いた。
まぁ、ヴァイスロギア達の態度を見てればアイツらの言葉が嘘じゃないってわかるよな。
けどまぁその前に。
「では、始めましょうか」
「これから何を始めるのですか?」
俺たちの前の机に用意されたのは真っ赤な線で魔法陣が描かれた黒い紙。
そして、その黒い紙の四方を囲うように五芒星が描かれた白い紙が配置されている。
「契約魔法ですよ、学園長も使った事はでしょう?」
「ええ、それは勿論ありますが…」
契約魔法は体系化されており機密などが多い国の上層部とかじゃあ結構使われる魔法だ。
そこで使われる契約魔法は体系化されているだけあって、かなり簡略化されており。
契約内容の描かれた紙に血判を押すと発動するようになっていてはっきり言って誰にでも使える魔法だ。
が、それは簡略化されてることもあって強制力は大して強くない。
そもそも契約魔法とは精霊や悪魔と言ってた精神生命体に対価を差し出し仲介させることで他方がそれを破った場合に制裁を加えると言うもの。
簡略版ではその精神生命体がかなり弱い。
微粒子的な自我もないような存在が殆どと言っていい。
戦闘能力を全く持たないデブ家族なんかだったら、それで十分だろうが。
その程度であれば多少の心得があればどうとでもなる。
それでも貴族社会や各国間で契約魔法を使われるのは一種の慣わし、暗黙の了解ってやつだな。
「これはそれの発展版と言ったところす」
「成る程、それほどの情報ですか……」
「ええ、そう考えてもらって構いません。
ではこれより行う契約魔法において、これから話す内容を俺の許可なく他言しないと制約して頂きます。
それが了承出来ないのであればしばらく別室でお待ち下さい」
「問題ありません」
真剣な面持ちでそう答える学園長に続き、中村達に視線を向けるとこっちも真剣な表情で頷く。
「はぁ、わかりました。
では、始めましょうか神魔の契約を」
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明日、月曜日更新予定
「伝説の吸血鬼となった商人は怠惰スローライフをお望みです」
そこそこ読める作品だと思うので是非読んでみてください!!