84話 いざ、戦場へ
「おいおい、人様の庭を何勝手に荒らしてくれちゃってんの?」
転移門を開き、第23階層に移動した俺は第一声でそう言い放った。
そんな俺を中村達が半ば唖然と見つめてくる……
そ、そんなに見つめられても、恥ずかしくなんか無いんだからねっ!!
《……》
俺なりにツンデレを演じてみたのだが……うんリエルさんからの無言の圧がすごく辛い。
何故こんな事をしてしまったのか、今となっては後悔しかない。
軽く自己嫌悪もしてしまったし、うん、二度としないと心に誓おう。
「し、司波、何でお前が此処に…」
「はぁ、何度も言ってると思うけど、俺の名前は司波じゃなくてソータ・ユーピルウスだって何度言えばわかるかな?」
「そ、そうだったな、すまないユーピルウス殿」
未だに俺の事を司波と呼んでくる中村にいい笑顔でそう言ってやると軽く頬を引きつらせながらも納得してくれたみたいだ。
まぁ実際、以前はどうだったから置いておくとして現在の俺の名前はそうなのだから仕方がない。
「き、貴様はっ!!」
「ん?」
何処かで聞いた事があるような無いような声がしたのでそちらを見ると……変な奴がいた。
「誰だお前?
残念ながら俺にはお前の様な変な知り合いは……まぁそれなりにいるが、取り敢えずお前の事は知らん」
そう、永劫の時を生きるロリっ娘ツンデレ吸血鬼。
俺には理解不能な性癖の持ち主で美少年の姿になっている妖精の王。
何故か執事の様な事をしている龍王、その他諸々と変な知り合いはいるが目の前のコイツと会うのは初めてなのだ。
「なっ!?わ、我を忘れただと……巫山戯るなっ!人間風情が我を侮辱するかっ!!」
「いやぁ、そう言われてもな……」
う〜ん、でも確かに何処かで見た事がある様な気がしないでも無い……ま、いいや。
「どうも、学園長お久しぶりです」
俺はそう言って軽く学園長に頭を下げた、うんうん、挨拶ってやっぱり大事だよな。
「あ、はい、お久しぶりです」
俺が挨拶した事で何故かぽかんとしていた学園長も挨拶を返してくれた。
「貴様ァッ!!」
「ツッ!?」
無視された事が癇に障ったのか、変な奴が怒鳴り声をあげ、学園長以下中村達が強張った様に身構える。
「塵すら残さずに消し去ってやるっ!!」
そんな事を言いつつ学園長達を完全に無視し変な奴はそれなりのスピードで俺に殴りかかってきた。
「死、ぶべぁっ!?」
殴りかかって来たので、カウンターを入れると綺麗に吹っ飛び、迷宮の壁に突き刺さってしまった。
「なっ!?」
その光景に学園長は唖然と声をもらし、中村達は声も無く唖然と目を見開いている。
けどまぁ、俺は悪くないと思う、そう!これは正当防衛なのだ!!
「と、まぁ冗談はこれくらいにして。
久しぶりだな魔神タージスクタ、早く出てこいよ、この程度じゃあ、大したダメージも無いだろう?」
《ソータ様……》
リエルさんが呆れている様な気がするが、気にしたら負けだ、俺だって少しくらい悪ふざけしたいのだ。
「クッ…クックック、そうですねぇ。
悪ふざけはそろそろお終いにいたしましょう」
そんな声と共に瓦礫とかした迷宮の壁を吹き飛ばし現れた魔神は全くの無傷、まぁこれしきでダメージを受けてるんじゃ期待ハズレもいいとこだけどな、
因みに、吹き飛んだ瓦礫は俺たちの所にも飛んで来たが、俺が結界で弾いたので実害は無い。
「しかし、可笑しいですね。
我は貴方に名乗った覚えは御座いませんが?」
「ん?あぁ、それはまぁ、俺もタダでは逃さないって事さ」
俺の言葉にタージスクタは軽く息を呑む、俺の言葉の意味をちゃんと理解できた様で何よりだ。
「クックック、やはり貴方は確実に始末しなければならない存在の様です」
そう言う、タージスクタの顔は軽く悔しげに歪んでいる。
「まぁ、そう悔しがるな。
あの場では誰も俺の目の存在に気づか無かったし、お前が気づけ無かったのも無理ない事だ。
まぁ、アイツに一瞬で見抜かれた上に一瞥された瞬間にリンクは途切れたけどな」
ホント、女神ジルといいあのお姉様とか言う奴といい、世の中上には上がいるもんだは。
「あの、ユーピルウス殿それはどう言う…」
俺とタージスクタの会話を聞いていた学園長がそう聞いてくるが……
これは答えてもいいのだろうか?う〜ん、わからん、こう言う時は取り敢えず先延ばしにするべし!
「その話はまた後日、取り敢えずアイツをどうにかしないといけませんからね」
しかし、どうしたものかさっきからの戦闘を見ていればわかる通り迷宮と言えど上層は俺たちからすれば非常に脆い作りになっている。
これは一重に俺がこの場を作るときにコストを抑えるためと、あとは普通に面倒だったと言う人には言えない背景があるのだが。
そんな訳で、ここでタージスクタとガチバトルするとなると迷宮の上層部が壊滅的被害を被る事はほぼ確実と言える。
因みに、この場で何があったのかは当たり前だがダンジョンマスターである俺は大体把握しているし、リエルからの報告もあってほぼ完璧に理解しているつもりだ。
と、まぁそんな事はどうでもいいか……よしあそこを使わせてもらうとしよう。
「おい!お前の所を使うからなっ!!」
「ユーピルウス殿?」
突然大声を出した俺に学園長ならびにタージスクタ、中村達でさえ訝しむ様な視線を向けてくる。
が、これは必要な事なのだ、今現在も迷宮の最深部で、俺の許可もなく何故か寛いでいるアイツらは今もこの場を見ているはずだからな。
「おい、タージスクタ、お前と出会った場所で相手してやるよ」
「は?それはどう言う…」
最後まで言わせる事なく俺はタージスクタを強制転移させた。
ふっ、高みの見物を決め込んでいた様だがそうはいかない。
慌てふためくアイツの顔が、ネルヴィアの顔が脳裏に浮かぶ様だ。
けどちょっと待てよ……衝動的にやってしまったが、これって後でめちゃくちゃ文句を言われることになるんじゃ…
《ほぼ確実にそうなります。
彼女の配下、及び城に被害が出れば怒り狂う事になるでしょう》
「さてと、俺も行くとするか」
ため息をつきつつも、パチンと指を鳴らし転移門を出現される。
あーあ、どうせアイツらも向こうに移動してるんだろうな……最悪の場合タージスクタの次はそのままネルヴィアとなんて事になりかねない。
「ちょっと待ってください」
げんなりしつつ、出現させた転移門に足を向けたとき背後から学園長に呼び止められてしまった。
そう言えば、この人達の事を忘れてた。
「変異種の原因はあの魔神だったようですし、もうこの迷宮内に脅威はいないでしょう。
学園長達は先に戻っていて下さい」
「生徒達は既に退避させました、私も連れて行って下さいませんか?」
さて、どうするべきか。
本来であればネルヴィア達の正体と俺との関係が露見しかねないから、連れて行くのは得策ではない。
の、だが、ハッキリ言ってこの人もうネルヴィア達に裏がある事は確信してるだろうし……う〜ん、別に良いかな。
「わかりました」
「俺達も一緒に連れて行ってくれ、頼む」
中村がそう言って来るが……流石に自衛も出来ないような足手纏いを連れて行くのはなぁ。
「それは許可できない」
「な、何で!?」
「SSSランク冒険者である学園長は兎も角、いくら勇者と言えど今のお前達が一緒に来ても足手纏いでしか無いからだ」
「っ!」
俺の言葉に中村達は悔しそうに俯き手を握りしめる、けどまぁそれが現実だ。
「私からもお願いします。
彼らを連れて行っては貰えないでしょうか?」
これは意外だな、まさか学園長がいくら勇者とは言え学生を危機に晒すような事を言いだすとは思わなかった。
「自衛も出来ない者達を連れて行く訳には行きません」
「私が彼らを全力持って守ります。
それともユーピルウス殿はSSSランク冒険者、迅雷の剣姫の実力をお疑いですか?」
嫌な言い方するなこの人…
「…はぁ、わかりました。
けど、俺はどうなっても知りませんからね?」
「ええ、承知しています。
それに、彼らも覚悟の上でしょう」
学園長の視線に中村達は真剣な表情で頷いた。
その様子を見て、俺が密かにため息を吐いたのは言うまでもない。
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こっちは明日更新します!!
「伝説の吸血鬼となった商人は怠惰スローライフをお望みです」
そこそこ読める作品だと思うので是非読んでみてください!!