78話 漆黒
俺は駿とは違い、本来戦闘時には通常の剣、スキルでは無く実際に実在する剣を使用して戦う。
その理由はただ一つ、俺には駿の様な好きな時に武器取り出し、好きな時に武器消す事が出来ないからだ。
では、駿の作り上げた剣を使用すればいいのでは無いか?と思うかもしれないがそう言うわけにもいかない。
何故ならば、駿がスキルで作り出した剣は言い換えれば駿の魔力の集合体で、駿以外の魔力がその武器に触れると僅かな時間で霧散してしまうのだ。
つまり俺がもし駿の作り出した剣を使って戦うと、戦闘中に突然剣が霧散してしまう可能性がある訳で……と言うかほぼ確実にそうなる。
よって、俺は普通に実在する一振りの剣を使用していると言う訳だ。
まぁ、駿のスキルがチートなだけで俺の様に実在する武器を使って戦うのが普通なんだけどね……
とまぁ、そんな訳で俺はこの世界に召喚されて初めての実戦訓練の時からずっとアストラル国王様に授けられた宝剣を使っているのだが……
実を言うと俺にもある方法を取れば駿の同じ様に魔力を使い剣を作り出す事が可能だったりもする。
いや、可能になったと言った方が的確だな。
そして、その方法こそが聖剣解放……
眩い光が治ると同時に、ドチャッと音を立てながら何が地面に転がった。
地面に血液を撒き散らして転がる肉塊を一瞥し手に持っている聖剣を見ると、そこには一切の汚れもない純白の刀身が僅かに輝いている。
地面に転がるそれ、断末魔の悲鳴をあげる事すら許されずに生き絶えたゴブリンキングだった肉塊に背をにロードに聖剣を構えて向き直る。
「流石、やるねぇ」
まさに一瞬の出来事にゴブリンロードさえもが唖然と佇む中、駿がニヤリと笑みを浮かべその静寂を破る。
すると、それを同じくして時間が動き出したかのように……
「人間、今何をした?」
ただただ冷静に、冷淡に探るような視線と共にゴブリンロードが静かにそう問いかけてくる。
とても最下級の魔物であるゴブリンとは思えず、普通の人の様にしか見えないそのロードの姿に僅かに苦笑いが漏れる。
「見てわからないのか?
俺がゴブリンキングを切り裂いた、それだけだ」
「ふむ、素直に答えるはずもなし、か……
まぁいい、雑兵とはいえ我の腹心であったキングをよくも殺してくれたな人間」
そこで言葉を切り、ゴブリンロードは配下の死を悲しむ様に俯き視線を地面に下げる。
見た目が人間とほとんど変わらないからだろうか、こうしていると仲間の死を悲しむこの姿を見ると本当に人間にしか思えない。
「ク、クックッ…クハッハッハッァア!」
すると、ゴブリンロードが突然、狂ったように笑い始めた。
さっきまで俯いていたのが嘘の様に愉悦に顔を歪めその間には狂気が浮かんで見える。
「…何が可笑しい?」
「可笑しい?そうか、これは可笑しいのか…クックック」
狂気を孕ませ牙を剥き狂ったように獰猛に笑みを浮かべる。
「あぁ、愉しいなぁ……我が腹心を殺したのだ、貴様はたっぷりと甚振ってからゴミ共の餌にしてやろう。
どうだね、人間?」
愉悦に歪んだ視線を向けてくるゴブリンロードは楽しそうにそう聞いてくる。
「中村っち、アイツ狂ってるよ」
そのゴブリンロードを見て雫が引きつった顔でそう言いながら俺の方にあかりを伴って歩いてきた。
まぁ、俺はキングと一対一で対峙する為に俺とキングだけで隔離された結界内にいる訳だから、俺と合流する為にコッチに来てくれるのは助かるんだが……
「助かるんだが、ゴブリンの群れを割って歩いて来るのは辞めろよ…」
まるで、伝説にあるモーセの海割の様なその光景に、思わず苦笑いが漏れる。
まぁ尤もも割れてるのは海では無くゴブリン群れだけど……
「何か言った?」
「いや、何でもない気にするな」
「いやいや、気にするなって言われると逆に気になるんだけど、ねっあかり!」
「えっ?えっと、そうですね。
けれど、今はゴブリンロードに集中しましょうね?」
有無を許さない謎の迫力の笑みを浮かべるあかりに俺と雫は素直に頷くことしか出来なかった。
まぁ、確かにあかりの言う通りだ、それに俺のこの力もそう長くは持たないからな。
そして、当のゴブリンロードはと言うと……
「男共は四肢を削ぎ落としゆっくりと時間をかけてゴミ共の餌に、ハッハッそうだいい事を思いついた四肢を削がれ身動きが取れなくなった男共の目の前で女共を犯してやろう、貴様らが殺したゴブリンを貴様ら自身で産み落とすと言う訳だ滑稽な話だなぁ」
狂気を滲ませ狂った様にうわ言の様に呟き続ける。
そして、やがて再びクックックと笑いを漏らすとその目に凄まじい殺気を漲らせながら俺に視線を向けた。
「さぁ、愉しい殺し合いと行こうじゃないか!」
そして、声を上げた瞬間、今までとは比べ物にならない程濃厚な魔力がゴブリンロードから渦巻く様に迸り、間近でそれを受けた駿が顔を顰める。
漆黒の靄が纏わり付くようにゴブリンロードの周囲に漂い始め……駿の身体が宙に舞い上がり吹き飛んだ。
「ふむ、防がれたか」
いつのまにか駿のいた場所に向けて片手を挙げているゴブリンロードが淡々とそう言葉を紡ぐ。
そして、それを証明する様に宙に舞っていた駿が空中で体制を立て直し何とか着地を決めた。
「痛ってぇ…アイツはやべぇぞ亮太」
幸か不幸か俺たちの近くに吹き飛ばされた駿は空中を飛んでいる内に雫が張り巡らせた結界の中に入った為にゴブリン達の上に落ちずに済んだのだが……
まぁ、この分だとゴブリンの上に落ちていても大丈夫そうだったな。
「咄嗟に創造した剣を挟み込んだが、この通りだ」
そう言う駿の手には刀身全体に大きく皹が入った、駿の背丈ほどもある大剣があった。
「ほう、我の一撃を受けて砕けんとはな。
誇ってもいいぞ貴様」
結界の外から響く傲慢な言葉、しかしそれが許される強者は愉しいそうに笑みを浮かべる。
「まぁ、せいぜい足掻いて見せよ人間。
さも無くばすぐ様終わってしまう事になるぞ?」
圧倒的な、絶対強者のみが許されるその傲慢、そしてそれが許される強者たり得るゴブリンロード……いや、事この場に置いてはまさに彼が絶対強者とさえ言えるだろう。
もし、この場に魔導学園の生徒達がいたら……いや、生徒だけじゃ無い、屈強を誇る帝国騎士達でさえも為す術もなく蹂躙される事になるだろう。
それ程の圧倒的な強さを誇っているが、それでも……アイツらには到底敵わない。
何故か現在クラスメイトになっているこの世界の頂点に君臨する存在と俺達の前から姿を消し再び突然現れた顔が浮かび、思わず苦笑いが漏れる。
「なぁ、皆んな。
こんな絶望的な状況なのにアレよりはマシだと思ってしまうんだが」
「あぁ、俺も同感だぜ」
「私も……まぁあんなのを見せつけられたら、ね」
「同感です」
俺の言葉に肯定の言葉を返す駿、雫、あかりもその時の光景を思い出したのか引きつった苦笑いを浮かべている。
思い出されるのは編入初日の実技訓練、学園長自ら出向いて結界を張ると言う例外中の例外の中で行われた光景。
魔王が軽く腕を払うと地面が吹き飛び、魔法を放てばクレーターが形成される、そしてそれに平然と対峙する元クラスメイトの姿。
悔しいが、あの実力は俺たちなんか足元にも及ばない程だろう、アレに比べたら…
「俺のこの状態もそう長くは持たない。
速攻で決着をつけるぞ」
俺のその言葉に各々の言葉で頷く皆んなを一瞥し聖剣を構え直してゴブリンロードに対峙する。
そして、ゴブリンロードはと言うと、無視され続けた事でフラストレーションが溜まりに溜まったのか、既にこの顔に笑みは無く、俺たちを射殺さんばかりに睨みつけ……
「楽に死ねると思うなよ、人間がっ!」
その瞬間、漆黒の魔力が吹き荒れた。
『面白かった』『続きが気になる』と思ってくれましたら、
ブックマーク登録及び、下記の評価ボタンを押して頂けますと嬉しいです!
これからもよろしくお願いします!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「伝説の吸血鬼となった商人は怠惰スローライフをお望みです」
そこそこ読める作品だと思うので是非読んでみてください!!