72話 平和な学園生活
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「何故だ…何故なのだっ!?」
ソータが学園長の許可を得て、授業に顔を出さなくなって既に1週間、ただをこねる様な声が教室に響き渡った。
その声の主は、獣王国からの編入生であり、その美しい容姿から数多くの生徒の注目を集める存在……吸血姫と恐れられる古き魔王は今、机に突っ伏し頬を膨らませながら愚痴っていた。
彼女の正体を知っている者からすれば想像も出来ない光景なのだが、幸いこの学園内にて彼女の正体を知っている存在は殆どいない。
もしこの場に、魔王の配下である高位の吸血鬼がいたとすれば、主人の機嫌が悪いことをすぐさま察知し、脱兎の如く、蜘蛛の子を散らす様に逃走する光景なのだ。
よって、周囲の学園生達には、むくれながらもどこか可愛らしい少女にしか映らず、その光景をどこか微笑ましげに見守っていた。
「まぁまぁ、落ち着こうよ、ね?」
そんな彼女を宥める為に声を掛けるのは彼女同様に獣王国から編入してきた金髪の少年。
古き魔王である少女、ネルヴィアに声を掛ける少年もまた古き魔王の一柱であり妖精王として知られる存在であるのだが……
そんな存在とは知る由もない令嬢達から黄色い声が上がる、幼く中性的な容姿の彼はネルヴィア同様、注目の的である、主に令嬢達にだが。
魔王に有るまじき姿を晒しているネルヴィアにキッと睨まれて少年、ヴァイスロギアは苦笑いを浮かべながら救援の視線を送る。
その視線の先にいたのは、ネルヴィア、ヴァイスロギアと共に獣王国から編入してきた最後の1人である、黒髪の青年だ。
「そんなお顔をしていては、可愛いのが台無しですよ」
優しい微笑みを浮かべてそう言う青年を目撃した令嬢達からヴァイスロギアの時と同様の黄色い声が巻き起こる。
魔王で有るネルヴィアにそんな風に話しかけれる彼もまた古き魔王の一柱であり、龍王として広く恐れられる存在なのだが、勿論その事を令嬢達が知るはずも無い。
「しかしだな、ソータの奴が…」
それでもなお、機嫌が悪そうなネルヴィアを青年、アヴァロスと、ヴァイスロギアの2人で宥めようと声を掛ける光景を見て教室内の反応は幾つかに分かれる。
先ほどの令嬢達の様に、微笑ましげに見守る者もいるのだがそうでないと者も勿論存在する。
ネルヴィアに声をかけたいのだが、相手にされないのに対し、親しそうに話しているアヴァロスとヴァイスロギアに対して嫉妬の視線を向ける男子学生。
それを見て、令嬢達は呆れているのだが、嫉妬に狂う彼らはそれに気づいていない。
「しかし、確かにどこに行ってしまったのか気になりますね」
「確かに気になるよね〜」
むくれているネルヴィアを見て苦笑いを浮かべながらアヴァロスとヴァイスロギアが言った言葉にネルヴィアも同意する。
「これは次に会ったら一発殴ってやらねばならぬな」
「はっはっは、程々にね」
むくれた顔から怒りを浮かべた顔に変わりそう言うネルヴィアに冗談めかしてそう言うヴァイスロギアだが、その心情は冷や汗ものだ。
もしだ、もし、次にソータが授業に顔を出した時にネルヴィアが本気で殴りかかったりしたら……
魔王の中でも常識人であるヴァイスロギアとアヴァロスはその光景を想像し思わず顔を歪める。
「いや、殴るだけでは事足りぬ、少し本気でお仕置きする必要がありそうだな」
くっくっく、と目が全く笑っていない笑みを浮かべるネルヴィア。
「いやいやいや、そんな事したら大惨事だから!」
そんなネルヴィアにツッコミを入れるヴァイスロギアだが、そんな彼をよそにネルヴィアは何故だ、と言わんばかりに首を傾げている。
もし、この学園でネルヴィアがそんな暴挙に出れば、学園は崩壊し、それだけに止まらず帝都の大部分は壊滅。
そんな地獄がこの地に顕現する事になることは容易に想像できる。
もしそんな事になれば、魔王達と人間の戦争に発展しかねない、まぁそれは最悪いいのだが、とヴァイスロギアは考える。
「戦争になったらなったで楽しそうだけど、それじゃあ神がどんな風に介入してくるかわからないし、何より学園生活が送れなくなってしまうじゃないか!」
それを聞いたのが常人であれば戦争の方が重要だ、とツッコミを入れる事だろう。
しかしながらここにいるのは、常人ならざる存在である魔王である。
「む、それは困るな」
学園生活を暇つぶしとして楽しむつもりであるネルヴィアにとっては戦争などよりもそちらの方が遥かに重要なのだった。
「でしょ?
だから、そんな事したらダメだよ」
「ふん、仕方ないな」
一応納得してくれたようだと、ヴァイスロギアは安堵のため息を吐く。
「ならば転移で拉致してから、殴るればいいという事だな」
「ははは、そうだねー」
どこをどう解釈したらそうなるのか、ヴァイスロギアは諦めの境地と言う目でそう返す、そしてアヴァロスはそれを苦笑いしながら見守っていた。
「う〜ん、ネルヴィア様、機嫌直ったのかな?」
「どうでしょうか?」
ソータが姿を消してから実力的に魔王である3名に色々な事を教えてもらっていたお子様三人衆は、ネルヴィアの怒りが冷めるの遠目に見ていた。
「妾は魔王の怒りが怖いのじゃ…」
そして、具体的に魔王三柱の怒りが爆発すればどのような事態に陥るのか想像できてしまうヘルは恐怖に震えていた。
そして勇者一行はと言うと…
「司波は何で授業に出て来ないんだよ!?」
何やら魔王達と知り合いらしいソータに話を聞こうと思っていたのだが、何故が授業に来ない事に中村が困ったように声をあげた。
「魔王達は何の目的でこの学園に来たんでしょうか?」
「それも司波は知ってるかもしれねぇな」
北山の疑問にそう返す坂本。
そんな何度目かわからない不毛なやり取りに中村、坂本、北山、広瀬の4人は思わずため息をこぼす。
「全く、何やってんだよあいつは」
そうこぼす、中村を横目に、初日にソータとヘルに完全に無視された坂東は、魔王やお子様三人衆を憎悪を含んだ目で鋭く睨む。
その日の午後にあった実技訓練で三柱の魔王とソータは勿論、自身よりも明らかに年下である少女3名からあしらわれたのだ。
自身の強さを信じて疑って無かった彼の自尊心はその時いとも簡単に崩れ去った、そして残るのは憎悪と言う、八つ当たりの感情だったのだ。
何やらやらかしそうな坂東を見て中村は疲れたようにため息を吐く。
そんなやりとりがありながらも、大した問題もなく平和に過ぎていく時間、しかしその平和も長くは続かない。
表面下では静かに闇に平穏を壊す闇が忍び寄っていた。
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「伝説の吸血鬼となった商人は怠惰スローライフをお望みです」
そこそこ読める作品だと思うので是非読んでみてください!!




