63話 世界は残酷
対峙する俺とネルヴィアの周囲には只々広大な荒野が広がっていた。
荒野といってもそこらじゅうにクレーターが形成され、場所によっては融解し地面がマグマの様になっている。
そこに元の草原は見る影もない、完全なる環境破壊を行ったわけだが、ここに充満する高密度の魔素で一週間もすれば元の草原に戻るだろうな。
「ふぅ、ガチで強くなったなネルヴィア」
「ふん、ぬかせ。
まだまだ本気を出しておらん事はわかっておるのじゃ」
「それはお互い様だろ?」
「ふん、もうお前など知らん吾は帰るのじゃ」
結局丸一日かけてやっとネルヴィアの怒りが収まった様だな。
けどあのネルヴィアがたったの1日で治るとはな、彼女も成長したものだ。
以前ならば一週間程度はずっと機嫌が悪かったのにな……そう考えると何か不気味でもあるのだが、ここはネルヴィアが成長した事を信じよう。
ネルヴィアらそう言うとその場から姿が掻き消えた、城に転移したのだろう、それにしても…
「惨状だな」
ここに住んでいた魔物達には悪い事をしてしまった、けどまぁどうせすぐに元どおりになるだろうし別に俺が気にするようなことでもない、か。
「俺も帰るとするか…」
俺たちが戦った際に出る被害の大きさに軽く現実逃避惨状とかした草原から転移した。
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「ふむ、ソータの奴は帰った様だな」
「どうやらその様で御座いますな」
最初にソータとネルヴィアが話をしていた部屋の吹き飛んだ壁からソータが転移するのを見ていたネルヴィアの呟きにムングが答える。
「よし、ならば奴らに連絡を取るのだ」
「かしこまりました」
ムングはそう一礼すると、自らの主人の様子を見て軽く優しい微笑みを浮かべて部屋を出る。
「ふむ、丁度良い主もついてまいれ」
突然転移で現れたネルヴィアにずっと跪いていたメイドにそう声を掛ける、その声には怒りの感情は含まれておらず楽しそうな声だった。
「は、はいっ」
「行くぞ」
そう言って歩き出すネルヴィアが振り向きざまに軽く手を振ると破壊され散らかっていた部屋が1人でに片付いて行く。
その光景にメイド吸血鬼は目を見開く、本来であればこの様な雑事をネルヴィアがする事はなく、それをしたという事は現在のネルヴィアの機嫌がこの上なくいい事を意味していた。
「ふふふ、お前1人で楽しい思いはさせぬぞソータよ」
メイド吸血鬼を引き連れ廊下を歩くネルヴィアは、見た目相応の子供が楽しそうにイタズラするような笑みを浮かべていた。
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「ふぅ、どうにかなったな」
ネルヴィアの怒りをどうにか沈める事に成功しエラムセスの屋敷に戻ってくることが出来た訳だが。
まぁ、環境破壊をしてしまったもののこれで俺の屋敷が知らぬ間に消滅する事は無くなった……多分。
さてと、飯でも食って寝るとするかなぁ。
「あっ!ご主人様どこに行ってたのよ!?」
広々としたダイニングキッチンに行くと、既に先客がいたやうだ。
因みにこのダイニングキッチンは俺が勝手にリフォームして作ったものだ。
まぁキッチンとダイニングが離れているのは現代日本で暮らしていた俺からすれば勝手が悪いからな。
それにしても、まさかもう帰って来てるとは思ってなかったな。
「思ったより早かったじゃないかミラ」
そこにいたのは、自作のクックコートに身を包んだミラだ、予想では後半日程度は帰ってくるまでに時間が掛かると思っていたのだが、予測よりもかなり速い。
「フッフ〜ン、まぁ私にかかればこんなモノなのよ!
てっ、そうじゃなくて、今大変な事になってるんだからね!?」
勝ち誇ったように胸を張った後に、そう言って詰め寄ってくる、全く忙しい奴だな。
「ぬ、ソータよ帰って来なのか!」
「ソータ様、至急ご報告したい事がっ!」
すると、ヘルとリーナも焦った表情をして部屋に入って来た、リーナがここまで取り乱すのは珍しい、それ程までにまずい事態になっているのか?
俺がネルヴィアを相手取っていた時にこれは、タイミングが良すぎるな、これは高位存在の介入を考慮に入れるべきか?
「落ち着け、そう騒がれても要領を得ない」
「むぅ…」
「も、申し訳御座いません」
「全く2人ともそんなに取り乱すなんてまだまだね」
いや、お前もだろミラ……
まぁいい、それよりも今は何があったのかを聞く方が優先だ。
「それで何があったんだ?」
「はい。
先日王城から使者が血相を変えてやって来たのですが、その内容が問題でして」
うん、やっぱりこう言う事務的な事はリーナが一番しっかりしているよな、全く2人も見習ってほしいものだ。
「今まで永きに渡り、動きの無かった魔王に動きがあった様なのです」
ふむ、魔王か俺も魔王のネルヴィアと会っていた訳だがその時に別の魔王が動くとは奇遇だな。
「動きを見せた魔王は吸血姫ネルヴィアです。
ソータ様の知人の様ですし信じられないかも知れませんが本当なのです」
……えっ?
「先日魔王城を監視している密偵から連絡があったらしく。
意図は不明ですが、吸血姫ネルヴィアの城の近辺で大規模な戦闘があったようです」
それってつまり……
「約一月前のアレサレム王国の件がありますし、既に各国は厳戒態勢をとっています。
それで、王城からソータ様に至急来て欲しいとの連絡が入りました」
「………」
「あ、あの大丈夫ですか?」
「うん、べつにだいじょうぶだよ」
心配そうな顔で気を遣ってくるリーナに、そう答えな俺の目はおそらく死んだ魚の様な目をしている事だろう。
そんな俺をミラとヘルもどこか不安そうな表情で見ている。
多分、俺とネルヴィアが親しい間柄だと知っているから俺が落ち込んでいると思っているのだろう。
けどそうじゃない、そうじゃないんだよ……
「ただね…フッ、世界は残酷なんだなぁ」
俺にこの状況でどうしろと?
あっ、それ俺です!なんて流石の俺でも言えない。
「そ、ソータよ、落ち着くのだ!」
「そ、そうですよ元気を出して下さい!」
「ご主人様ならどうにか出来るわよ!」
3人はそう言って励ましてくれるが、そうじゃ無いんだよ…
「いや、俺にはどうすればいいのかわからない。
そのネルヴィアが暴れた原因が俺だなんて言えるはずが無い…」
「「「えっ…?」」」
3人の声が綺麗に重なった。
「実はな……」
俺の説明を聞いた3人は俺と同じく死んだ魚の様な目をして虚空を見つめている。
「はぁ、どうすればいいんだろうな?」
「どうすればいいんでしょうね?」
「どうにかするしか無いんじゃない?」
「どうにもならないのじゃ」
俺の素朴な疑問にリーナ、ミラ、ヘルの順で答えが返ってくるが、結局全員、死んだ魚の目をしていた…
次話は金曜日ぐらいに更新予定です
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本日同時更新です!
「伝説の吸血鬼となった商人は怠惰スローライフをお望みです」
そこそこ読める作品だと思うので是非読んでみてください!!