61話 2日ぶりの再会
バカ2人は王城から帰ったあと手合わせをして欲しいと言ってきたので、アビスに戻り軽く手合わせをしてやったのだが。
まぁ、2対1で軽くあしらってやったら修行バカはまだまだ鍛え方が甘かったようだ、研究バカは次はもっと凄い魔法を開発してくるわ、とか言って帰って行った。
ハッキリ言って何がしたかったのかイマイチわからないがあの2人はもともと自由気ままな奴らだからなぁ。
それに流石は人間最強の2人だけあってそこそこ楽しめたので俺も久し振りに息抜きが出来て清々しい気分で夜を明かしたのだった。
しかしだ、清々しか気分でいられたの今日の昼までのことだった……
現在俺はエラムセス王都にある俺の屋敷にて1人頭を抱えている。
それもそのはず、今日、昨日に国王に言われた書類を王城に取りに行き、その書類に軽く目を通した時にそれは発覚したのだ。
何と、学園に編入するのはお子様三人衆だけでは無かったのだ、そこに書かれていた名前は全部で4人、そう最後の1人は俺の名前だった……
しかもだ、話はこれだけでは終わらない。
百歩譲って俺が学園に通うことになるのはまだ許せる、だが、国王が編入申請をした学園が非常によろしくなかった。
いや、通常であれば普通ならば非常に良い待遇だと言えるのだろうが、俺にとってはその限りではない場所、そこは世界最高峰の学園。
その名もメビウス魔導総合学園、三大国が一角であるメビウス帝国が世界に誇る学園にして、勇者一行が通う予定になっている学園だ。
魔導学園と呼ばれるこの学園には世界各国から様々な有力者の子供とかが入学する社交の場でもある。
因みに勇者一行が魔導学園に通う事はほんの数日前に決定したらしくメビウス帝都から離れているここではまだ出回っていない情報の1つだ。
まぁけど、俺の情報網をもってすればこの程度の情報はすぐに手にいれることができる。
というか、こう言っては何だが各国の国家機密でも簡単に手にいれることができる。
俺にとって各国が機密情報を外部に漏らさないために使っている防御魔法など塵芥に等しいのだから。
とは言えだ、今はそんな事どうでもいい、問題は俺が魔導学園に通わなければならなくなってしまった事だ。
咄嗟に思いついた、俺がこの国にいなければもしもの時どうするのか?
という現状を打破する一手すら、貴殿には転移魔法があるのだろう?と簡単に返されてしまった…
しかも、帝国の皇帝が新しいSSSランクに会ってみたいとかで、魔導学園に編入するのはこっちの都合に合わせてくれるという好待遇。
これで、現在ミラがいないから勇者と同じ時期に編入するのは時間的に無理だという言い訳も完封されてしまった。
まぁ、俺が勇者の件の事を口にしたので少し驚いたような顔をされたがすぐに、まぁ貴殿だからな…と国王が言うと何故かそれを聞いていた人たちが納得の表情を浮かべていたのが理解できないが。
ともあれ、こうして逃げ道を潰されてたじろぐ俺見て、勝ち誇った方な笑みを浮かべた国王のあの顔…
くっそぉ、こうなったら国王のフッサフサの毛髪に少しダメージを…くっくっく。
そこに俺が調合した秘伝の育毛剤を売りつけて一儲けしてやるとするかな?
「はぁ」
誰もいない部屋に俺のため息が良く響く、ミラは迷宮、ヘルはバカ2人を見て触発されたらしく少し鍛えてくると言ってアビスに山籠りならぬ迷宮籠りに。
リーナはアレネメス王国に帰省中、よって今この屋敷にいるのは俺1人だけだと言うわけだ。
つまりこの悩みを相談して俺を気分を軽くしてくれる存在は誰もいないと言うことで、憂鬱なのは憂鬱なのだが、何もすることがなく暇なのには変わりない。
アビスでストレス発散するにしても今行けばヘルを追いかけたみたいだし、そうなればヘルがニヤニヤしながら言い寄ってくる姿が目に見えるので却下だ。
かといって他のダンジョンに行ってもレベルが低くて逆に不完全燃焼でストレスが溜まりそうなのでこれも却下。
もうこうなったら、魔王に喧嘩でも売りに行くくらいしかすることが無い…
「あっ、魔王といえば、ネルヴィアがアイツらを連れてまた来るって言ってたなぁ」
バカ2人と学園編入のショックが強すぎて重大な事を忘れていた。
「よし、する事もないし学園に編入する事になったことを伝えに行くとするか……はぁ」
そしてまた俺のため息が響き渡った。
出来ればいいに行きたくないなぁ、学園に行く事になったと言う事はアイツらがここに来ても俺がいないと言う事になる、つまりは暫く会えそうにない事を伝えないといけないのだが……
「ネルヴィアのヤツ、かなり楽しみにしていだからな、きっと荒れるだろうな…」
しかしだ、これを伝えないでいると、意気揚々とあの2人を連れてネルヴィアがここに来たときに、俺がいなかったら……
俺の屋敷が、いやそれどころかこの王都全体が物理的に消滅する事になる未来が見える。
それは流石にエラムセスに住む人々が不憫すぎる
「はぁ、仕方ない、行くとするか」
そして、ため息を残して人知れず魔王の城に転移する。
はい、やって参りました魔王城!!
それも、下位の魔王の城なんかじゃなく上位に位置する真なる魔王が一柱である吸血姫ネルヴィアが支配する城だよ!!
けどまぁ、うん、2日ぶりじゃあ感動もクソもないな。
「ようこそお越しくださいました、人間」
そんな心境で軽く死んだ魚の目をしていた俺に銀髪を纏めたメイドが声をかけてきた。
文面で見れば丁寧なのだが、最後の俺の呼び方からわかるようにかけられる声は非常に見下したような冷たいものだ。
やれやれ、俺も嫌われたものだよね。
「あー、ネルヴィアに用があって来たんだけど今アイツいるかな?」
すると、スゥっと鋭く、殺気が溢れんばかりの目になるメイドさん…うん、怖いわ。
しっかし惜しいな、これでメガネでもかけていたらドSメイドと言うある意味テンプレみたいな存在だったのになぁ。
「人間、何故貴様がここに来る事が許されているのかは知らないですが、ネルヴィア様を呼び捨てにするなど調子に乗ってもらっては困ります。
思わず殺してしまいそうになりましたよ」
そう言ってふふふと上品に微笑むメイドさん、うん、何というかやっぱり君、怖いよ。
まぁ殺される気はないし、このメイドさんが俺の事をどう思おうがハッキリ言ってどうでもいい、強いて言えば美人メイドに嫌われるのは少し残念だが。
どのみち既に嫌われているようなのでこれまた考慮する必要なしだな。
「それで、ネルヴィアは今いるのかな?」
「人間風情が…」
「やはり来ておったか!」
かなり怒っていらっしゃるご様子のメイドさんの言葉をここで遮るものが現れた。
メイドさんと俺の視線の先にいたのは勿論…
「よぉ、2日ぶりだなネルヴィア」
「ふん、来たのならそんな所で油を売っておらんと、早く此方に来るがいい」
偉そうに無い胸を張ってそういうネルヴィアがそこにはいた。