58話 友好関係
う〜ん、何というか……とても気まずい。
目の前で繰り広げられる親と子の感動の再会って、ドラマかっ!!
てかドラマでもこんなベタな設定今時ないのにそれをまさか自分の目でみることになるとは思ってもいなかった。
さて問題です、目の前で感動の再会を遂げた王女とその身内たち、その光景を前にして現在の王女の保護者はどんな表情を作ればいいのでしょうか?
……答えは簡単、無表情だ。
ここでもし苦笑いでも浮かべていればこの騎士達に何を言われるかは目に見えている。
逆に、この空気に合わせて涙を浮かべるとしたら、それはそれで部外者が…とさっきの若い騎士がキレてきそうだ。
まぁそうなったらなったで対処法は幾らでもあるのだが…出来ればリーナの故郷と敵対するような事態は避けたい。
となれば、俺が取れる最善の一手は無表情で成り行きを見守る事になるという訳だ。
因みにミラとヘルは腕を組み良かった良かったと頷いている……それを騎士達は微笑ましそうにみているのだが、これをもし俺がするとするすると彼らの反応はどうなのだろうか?世の中はやはり不平等で理不尽だなぁ。
暫くの沈黙の後、リーナがハッとした表情で俺に視線を向けた。
そのリーナの行動に部屋にいる者全ての視線が俺とリーナに集中する、まぁ例外としてミラとヘルがいるのだが…
「どうかしたのか、リーナ?」
「あの、申し訳ありません」
そして、気まずそうにリーナはそう俺に向かって謝罪した……ん?
はて、何のことに対する謝罪なのか俺には全く心他当たりがないのだが?
因みに今のリーナの謝罪で騎士達の俺に向ける視線が鋭いものになった。
全く、少し過保護すぎるんじゃないかな?まぁいいや。
「身元が判明するような発言をしてしまいました」
続くリーナの言葉で謝罪の意味がわかった、つまりはこういう事だ、リーナは先程国王に向かってリーナ・ユーピルウスと名乗った。
家名があるという事はリーナの今の身分は少なくとも貴族かそれに準ずる地位にあるということに他ならない。
そして、王族の力があればその家名から俺を特定することも可能だろう、ましてや相手は第四の大国と呼ばれるアレネメス王国だその程度の事は容易にできるだろう。
それに現在俺は新たなSSSランクとして多少目立っているし、俺の正体を特定する事は児戯に等しいだろう。
というか、そもそも俺が正体を明かしたくなかったのは国に迷惑がかかる可能性があったからなのだが……まぁこうなっては仕方がない、エラムセス国王には後で謝っておくとしよう。
まぁ俺は冒険者でもあるし、俺がどう動こうが国王にとやかく言われる筋合いは無いのだが、ここはひとつ大人の対応というものをお子様三人衆に見せておくのも教育というものだろう。
という訳だから、すまんエラムセス王……もし国際問題に発展したら仲裁してやるからな!
「いや、俺個人としてはそこまで隠しておきたいわけでもないから別にかまわない」
さてエラムセス王にちょっとした借りを作ることになるかもしれないんだ、さっきの若い騎士にちょっとした意趣返しでもしてやらないと俺の気が収まらない。
まぁちょっとした意地悪なのだが、これくらいは許容範囲内だろう。
「そこの近衛騎士君、君はさっき俺に何様だ?と聞いたね?」
いきなり話を振られた近衛騎士は無粋な態度を崩さずに俺を睨見つけている、う〜ん、お前ごときが我らが第二王女様に謝罪させるなってその目が雄弁に語ってるな。
まぁいいんだけどさ、他の騎士達も概ね同じように睨んでくるし……流石の俺も少し傷つくよ全く。
「ふん、それが何だというのだ。
見たところ多少は腕の立つ冒険者か傭兵と言ったところだろう。
そのような下賤な分際で、誇り高き近衛騎士である私に語りかけるな」
うん、まぁ、何というか…ここまで特権階級意識が強い奴は久しぶりに見た気がする。
それに国王が自ら招いた客人に向かって下賤って、全くこれだから最近の若いもんは常識がなったてない。
え?俺も最近の若い奴だろうって?チッチッチ、俺をコイツらと同じにされては困る、一国の王を相手にしても全く無礼がない俺の対応術は完璧に近いと言っていいのだよ。
「酷い言われようですね。
まぁいいんですけどね、では下賤な分際ながら自己紹介させてもらいます。
俺の名前はソータ・ユーピルウス、見ての通り冒険者をしています。
とは言ってもつい先日SSSランクに昇格したばかりの若輩者ですが」
俺の自己紹介を聞くにつれ、猪突猛進気味だった若い近衛騎士の顔からは目に見えて血の気が引いていく、まぁそれは国王含めこの部屋にいる俺達4人以外全員なんだけどね。
「ですが、三大国が一国であるエラムセス王国国王より侯爵の地位を賜っておりますので、一応ではありますがこう見えて貴族の1人です」
俺がエラムセス王国の侯爵だと言った時にはさっきの騎士は青いを通り越して白い顔をしていた、うん、まぁ意趣返しには十分かな?
「侯爵ですかな?
名誉爵位では無く…」
国王の後ろで唯一冷静沈着に黙していた老練の騎士がその目を見開いて聞いてくる。
「ええ、そうですよ。
まぁ冒険者が一代限りの名誉爵位では無く純粋な爵位を与えられている事は珍しいことかも知れませんけどね」
さて今の俺の発言はこの場において非常に大きいもので、この場の緊張感が一気に倍増した、まぁミラとヘルは気にせずお菓子を頬張っているが。
そもそも三大国の侯爵ともなれば小国の王よりもその地位は上なのだ、その証拠に三大国が一国であるメビウス帝国の属国である王族の地位は帝国内では伯爵と同位なのだ。
「とは言っても今回この国に来たのは俺の独断なのでエラムセス王国自体は関係ありませんけどね」
そう言うとアレメネス国王の緊張が明らかに緩和される、まぁその気持ちは分からなくもない。
もし俺が国の使いでこの場に来ていたとしたら、アレメネス王国はエラムセスの使者に下賤な分際という明らかな侮辱をしたことになる。
最悪の場合、エラムセスとアレメネスの戦争になってもおかしくない事態だからな。
「まぁ俺の事は今はどうでもいい事です。
それよりもリーナ、本当にそれでいいのか?」
「…はい、もう私の居場所はここではありませんので」
また室内に重い空気が降りるが、まぁこれがリーナの決めた事なのなら俺がいう事は何もない。
けどまぁ、こんな辛気臭い顔をされたら俺の気分が優れない。
「ところでアレメネス王、ここはひとつ商談といきませんか?」
「商談ですかな?」
「そうです、俺も一応はエラムセス貴族な訳ですし、本来の目的とは異なるとはいえ折角こうしてアレメネス王と話し合いの場を持っているのですから、少しは貴族らしいことでもしておこうかと思いまして」
まぁ、こうしておけば後々俺が独断でアレメネスに行ったがエラムセスでバレた時に言い訳になるからな。
「アレメネスにはエラムセスには無い、大規模な交易ルートがありますからね。
それに十魔王が一柱である獣王国との貿易で得られる特産品なども他国からしてみれば魅力ですからね」
「では…」
「ええ、まだエラムセス王に話は通していませんが、商業大国、第4の大国であるアレメネスと友好を築くとなると首を横には振らないでしょう。
まぁ、しばらくの間は我が侯爵家を介することになるでしょうけどね」
それにアレメネス王国は三大国との友好を結べる、どちらにとっても利のある話という訳だ。
「ふ、ふっふっふ……貴殿はお優しいのですね。
いいでしょう!その話、ぜひ前向きに進めてさせめ頂きたい」
「それは有難いですね。
まぁ詳細はまた後日詳しい者を連れてくるとしましょう」
「では、その時は事前に通達を頂きたい。
流石にいきなり王城に現られたのであっては色々とまずいのでな」
「…返す言葉もないですね。
わかりましたでは次にこさせて頂く時には事前に通達を出しましょう」
その言葉を聞いて明らかにホッとしているのが見て取れる国王と王子、だがそれ以上に安堵のため息を漏らしたいのは騎士達であったのだが、流石にこの場で漏らすものはいなかった。
「そのソータ様、ありがとうございます」
リーナはそう言ってくるが、はて何の事だろうな?
「何の事だ?俺はただ貴族としての仕事をしただけだ。
それにアレメネス王国との繋がりを持てるとなればエラムセス王に対する貸しも作れるからな」
「本当にソータ様はお優しいです」
うん、まぁ柄にも無いことをやった自覚はあるよ。
「ご主人様やっさしぃ〜!!」
「カッコつけおってまったく!」
ニヤニヤとからかうような笑みを浮かべてミラとヘルが俺に暖かい目を向けてくる。
「あれ?もしかしてご主人様照れてる?」
「おっ、顔が赤くなっておるぞソータよ」
我慢だ……我慢するんだ、ここで暴れては面子も何もあったもんじゃ無い、深呼吸、深呼吸。
「はっはっは、申し訳ない後でじぃっくりと言い聞かせておきますので」
「そ、そうですか。
しかし、我々は気にしていないので」
「いえ、これではマナーがなっていませんからね」
国王は気にしないと言っているがそれとこれとはまた別の問題だ。
「という訳だから帰ったら覚悟しておくようにね」
そう、ミラとヘルにニッコリと微笑みかける。
「「ヒィッ……ごめんさない」」
2人は小さく悲鳴をあげて謝るのだった……まぁ許しませんけどね。
次回59話は11月25日・日曜日更新予定です!!
少しでも『面白かった』『続きが気になる』と思ってくれましたら、
ブックマーク登録及び、下記の評価ボタンを押して頂けますと嬉しいです。
これからもよろしくお願いします!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
題名変更しました!
「伝説の吸血鬼となった商人は怠惰スローライフをお望みです」
そこそこ読める作品だと思うので是非読んでみてください!!