52話 国に巣食う吸血鬼5
その吸血鬼、リースナルの纏う魔力を見て皆がそれぞれ思うところはあった事だろうが、この場にいる者の中で最も衝撃を受けたのは恐らくは俺だろう。
「ふん、禁忌の力に手を出したか、愚か者め」
リースナルに名を呼ばれて軽く目を細めるネルヴィア、まぁコイツはプライドがかなり高いからな自分が同等かそれ以上と認めた存在以外に親しくされたり呼び捨てにされたりするとそれはもう恐ろしい事に……
うん、考えるのはやめておく事にしよう、参考までに言っておくと彼女の機嫌一つで滅んだ国は一つや二つでは無いだ。
ちなみに俺は彼女に認められた実力者の1人だから呼び捨てにしても問題ないし、軽い冗談程度は言いまくれる。
本当に今更ながら何故こんなに親しくしている存在がいたのにこの世界がゲームだと思っていただろうか?
まぁ、女神ジルの話ではそこにはなんらかの神が関与しているらしいが、それでも不思議に思う事は仕方ない事だろう。
「魔神の力か」
「その事を知っておるとはやはり侮れんな貴様は」
「まぁな、けど貴様じゃなくて名前で呼んでくれてもいいんだぞ?
あ、今はワールド事無くてソータだけどな」
「誰が貴様の名など呼ぶものか。
そう言う事は龍王や妖精王に言ってやれば良い」
「それは遠慮したいな。
まぁ尤も、あいつらなら俺がとやかく言う前に名前で馴れ馴れしく絡んで来そうだが」
「吾からしてみれば貴様もアイツらも大した差はない」
「それは酷いな、俺とアイツらのどこが同じだと?」
「そういう所全てだ」
全く取り付く島もない、昔はよく一緒に魔物を狩ったりした中だというのに、まぁそこには龍王と妖精王もセットでついて来てたけど。
とまぁ、敵の前でこんなにも悠々と結構どうでもいい話を続けられるのは、リースナルが大したことがない敵だからだ。
まぁ、確かにアイツの纏う魔力の質には驚かされたが、それだけだ。
魔力の量も密度も圧もどれを取っても取るに足らない程度でしかない、まぁそれでも常人にとっては驚異だろう、ミラやリーナでは勝負にならないほどの力は持っていると思う。
まぁ、言ってしまえばヘルと互角程度だ、勿論その程度では俺にしてみれば大した脅威でもないしそれはネルヴィアにとっても同じだ。
完全に無視されてリースナル鋭い目で睨んで来るがそんな事は知ったことではないし、旧知の人物との再会を中断するほどのことじゃない。
そんな事よりも今は俺が言った魔神という発言をネルヴィアが忘れてくれる事を願うばかりだな。
「ネルヴィアはまだ良い、だが君に言葉を発する許可を与えた覚えは無いよ」
どうやら少しは冷静さを取り戻した様で、ゴミでも見るような冷たい目でそう俺に微笑むが、目が全く笑っていない。
「おっと、申し訳ない。
リースナルだっけ、君がいた事を忘れていたよ、それで何の用かな?」
「ふふふ、面白い事を言うね君。
確かに私の部下を殺す程の人間がいるとは思いませんでした。
どうです私に忠誠を誓って我が配下になりなさい、そうすれば貴方方の命は保証するよ」
いつものように煽りを入れるが、軽く流されてしまった、口では見下しているかのような事を言っているがその目が油断していない事を物語っている。
「ふん、ご冗談を。
俺より弱い奴の配下になるつもりは毛頭ない」
「そうですか、それは残念だよ」
う〜ん、なんか俺が自分の力を慢心して主人公に絡んでくるテンプレ冒険者みたいな感じになってるんですが……。
よし、コイツには圧倒的な力の差に絶望しながら死んでもらう事にしよう。
「待て、コヤツは吾の相手だ」
やる気になってる俺にそう待ったがかかる。
「コヤツは元とはいえ吾の配下の者だ、その不始末は吾がつける」
「お前って昔からそう言う所マジメだよな」
「何か問題があるか?」
ちょっとだ、ちょっとからかったように言っただけなのに凄まじく冷たい目で睨まれてしまった、しかもぶつけてくる魔力の量がもう半分殺しにかかってる勢いなのは気のせいだろうか?
「い、いや」
「そうか、ならば黙ってそこで見ておれ」
「はい…」
視線だけで人を簡単に殺せそうな目で睨まれて俺がそう答えたのも当然の流れだろう。
「ソータ様…」
と、そんな俺にリーナの不安そうな声が届いた。
そうでした、忘れてたかどここってリーナの故郷であるアレメネス王国王城の中でした。
確かにここでネルヴィアとリースナルが本気で戦ったらこの王城どころか王都そのものが地上から消え去る事になりかねない。
そうなったら今回ここまできた意味も一緒に消し飛ぶ事になる、それは流石に許容できない。
「そうだな…よしそれじゃあこうしようか」
ふっふっふ、こう言うこともあろうかと打開策は用意済みだ。
パチンッ、と一度指を鳴らし魔法を発動する。
「むっ!?」
その変化に対応出来たのはネルヴィアだけだ、まぁ対応といっても軽く声をあげたぐらいだが、他の連中は反応すらすることができない。
それ程までに滑らかに発動された魔法は強制転移だ、勿論俺たちも一緒にだ、魔法の効果範囲はあの部屋内になっているため、あの部屋にいた人物は全員もれなく転移されている。
本来であれば俺の場合、魔法を使うときに詠唱を唱えたり何らかの動作、例えば杖を構えたりなどをする必要はない。
だが、今回あの場にはネルヴィアがいた、彼女の抗魔力は並大抵じゃないのでほとんど魔法を無意識のうちに弾いてしまう。
抗魔力とは、まぁわかりやすく言えば、自身以外の魔力がもたらす効果への対抗力のことだ、これが高けれ身体に直接何らかの効果がある魔法は効果をなさない。
そしてネルヴィアの抗魔力は魔王達の中でもトップクラス、今回使った強制転移など通常は彼女の前では効果をなさない。
だからこそ、自身の魔法へのイメージを強化し攻略を上げるために指を鳴らしたと言うわけだ、別にカッコをつけたかったわけじゃない……
そして今俺たちの眼前に広がる景色は広大な荒野だ、周囲に生命反応は全くないしここであれば誰に迷惑をかけることなく、ネルヴィアとリースナルが戦うことができると言うわけだ。
ちなみにここは俺たちがいた大陸から沖に数百キロほどの場所にある無人島だ。
それにしても、俺でもネルヴィアを強制転移できたのは今回が初めてだぞ、やっぱり俺はゲーム時代の俺を超えた。
「貴様、いきなり何をするのだ、転移するならばそう一言言えば良いであろう」
と、1人感激に震えていた俺にネルヴィアから非難の声が飛ぶ。
「まぁよい。
それでリースナルよ貴様にはせめて吾が殺してやろう」
俺が何も答える気がないと見たのか、一方的に文句だけ言ってリースナルに向き直るネルヴィア。
「ふ、ふっふっふ、ファッハッハァ!!」
うん、怖いな。
そのネルヴィアの言葉を聞き唐突に狂ったように嗤い出したリースナル。
「ネルヴィア、君が私よりも強かったのは昔の話だ。
今の私は魔王である君をはるかに凌駕した力を手に入れた完全なる吸血鬼。
私が君に負けることなどあり得ないのだよ」
そう言うリースナルから発せられる魔力が一気に膨れ上がる、その魔力で大気が振動し、周囲に渦を巻くように風が巻き荒れ、地面は軋みをあげる。
そして、奴から発せられるのは漆黒の魔力だ、まるで女神ジルとは対をなすようなドス黒い魔力。
「これが今の私の力!
さぁこの我が至高の力に恐れをなしひれ伏すがいい!!
今すぐ私に忠誠を誓うと言うのであればネルヴィア、君を特別に私の妃にしてあげよう」
そう、言って満足そうに一人で笑みを深めるリースナル、だが…
「哀れだな」
「何だと?」
だが、コイツはわかっていない
「貴様は神の傀儡となった哀れな人形だ」
「ネルヴィア、いくら君でもあまり調子に乗っていると痛い目を見てもらうことになるよ」
真なる魔王と言う存在を。
「ふん」
ネルヴィアがそう軽く鼻で笑った瞬間、この場に満ちていたリースナルの漆黒の魔力がそれ以上に膨大で圧倒的な魔力に塗り潰される。
大気を震わせていた振動は何かの前触れのように動きを止め、軋みをあげていた大地はネルヴィアを中心に段階的にクレーターを作り上げる。
この場の全て、この空間自体が彼女の魔力に包まれ、新たな空間を作り上げていく。
これが真なる魔王と言う存在だ、新たに生まれた魔王などとは比べ物にならないほどの力を持つこの世界の頂点に立つ本当の存在なのだ。
「な、なんだ、これは…これは一体」
「所詮は貴様の力など偽りの物に過ぎぬ、その様な力で吾に勝てると本気で思っていたのか?」
と言うことはやっぱり、リースナルのあのドス黒い魔力は、悪神や邪神、魔神の力ということか。
「そ、そんな馬鹿な…
ど、どうかが慈悲を、私に今一度チャンスをお与えください!」
ネルヴィアとの圧倒的な実力差を感じて命乞いを始めたリースナル、だが。
「死ぬがいい」
無慈悲に降りかかるのは純粋な死だ。
ネルヴィアから発せられる死の光がリースナルを完全に消し去り、その場には何も残らない。
「ふん、馬鹿な奴め」
リースナルがいた場所を一瞥しネルヴィアは静かにそう言い捨てた。
次話53話は10月22日目 月曜日……明日更新予定!!
もしかしたら間に合わずに明後日の火曜日になるかもしれません。
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題名変更しました!
「伝説の吸血鬼となった商人は怠惰スローライフをお望みです」
そこそこ読める作品だと思うので是非読んでみてください!!