47話 集う王と侵入者
そこは黒いと表現することが最も当てはまる空間、女神ジルが座した空間とは全くの対となる空間だ。
尤も、本当に黒いわけではなく、かの空間に発せられている魔力と魔素がそう思わせている。
この空間にあう漆黒の石で出来た長い机に、赤を基調としたまるで王座を彷彿とさせる左右に5脚ずつ椅子が計10脚、そしてそこに座す存在たちこそがこの空間の色を作り出している。
「やぁ皆んな久しぶりだね」
そう言葉を発するの右最奥に座すのは1人の少年、そしてその背にある2対の羽がその少年がどのような存在なのかを物語っている。
「白々しい事を」
少年の言葉にそう憤る様に答えるのは、短く切り揃えられた金髪の青年。
「何故、吾がこんな事を…」
少年の言葉を無視し、1人紅瞳を光らせ、ごちる銀色長髪の少女。
「まぁ、そう愚痴るなよ」
何処か楽しそうに少女を嗜める、肩口で切りそろえられた漆黒の髪の青年。
「皆さん取り敢えず席に着いては?」
そう皆に進める、背に1対の漆黒の翼を持ち、白い長髪の美女。
「やはり愉快な奴らだ」
と豪快に笑うのは、この場の中で最も大きな身体を持つ巨漢。
「下品な奴らだ」
心底面倒だと言わんばかりの表情でそう言う、のは漆黒とは真逆の純白の翼を持つ青年。
「ふん」
その様子を鼻を鳴らして見ているのは、赤髪をした少年。
「……」
無言で佇むのは、黒髪長髪の少女。
その全員がそれぞれ自身の席に着く。
「では、始めましょうか」
それを確認した存在が、もう1つの最奥の席に腰掛けていた黒髪の青年がその金に輝く瞳でそう言う。
これからこの世界の頂点に立つ存在達の宴が始まる。
「それでは、まずはあの事について語りましょうか」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺は今、見慣れない天井を見ている、とは言ったもののここが何処かわからないわけでもなければ、危険があるわけでもない。
ここは、昨日から俺の家となった屋敷の一室で、もともと備え付けられていたベットで起きただけだ。
窓から入る陽光が暖かい、やっぱり人間には太陽が必要だな、うん。
これからは、ここを本拠地として使う事にしよう、まぁアビスは俺の本当の拠点なので、大々的に使うならこっちの方がいいと言うのもある。
因みに俺のベットには何故かお子様3人がいるが、もうこれはいつもの事なので気にしないようにしている。
今はもう、昼前だと言うのに、まったくいつまで寝ているつもりなのか?
まぁ、昨日は忙しかったから仕方ないかな…
昨日は、国王に直々にこの屋敷の中を案内されて、そのあとこの屋敷でお茶をして国王が王城に戻ったのはもう夕方だった。
国王なのに執務はいいのか?と疑問に思わなくもないが、まぁ国王はまだ若いから問題ないのだろう。
そして国王が帰ったあと、この屋敷全体に侵入者に反応する結界魔法をかけて、屋敷の防備を整え、さらには屋敷とアビスを空間魔法で繋ぎ、この屋敷の敷地をアビスの一部とすると言う、大事業をこの4人のみで行った。
ヘルは見ていただけなので、実質3人…いやミラは料理を作っていたので実際には俺とリーナの2人でやり遂げたのだ。
……あれ?ミラとヘルが未だに寝ているのは何故だろうか?
まぁ、いいか今日ぐらいゆっくりしてもバチは当たらない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
と、思っていた時期が俺にもあったよ。
魔力を込めた縄で縛られた存在を見て俺がそう思うのも無理はない。
事件が起きたのはお子様3人が目を覚まして、いつもよりかなり軽めのレベリングと言う名の訓練を終わらせて、屋敷のリビングとして使う事に決めた部屋で寛いでいた時に起きた。
日が沈み、今日の晩ご飯は何だろうか?と思考を巡らせていた時、俺の感知結界に反応があった、それもほぼ同じタイミングで2つだ。
勿論、正規の門を通ってこの屋敷に入ってこなかった侵入者を捉えるための為の罠を用意しておいたのだが、昨日は時間がなくて軽くしか罠を設置できなかったからか2人のうち片方に罠を突破され、屋敷に侵入を許してしまったのだ。
まぁ、その侵入者は屋敷に入ってすぐのエントランスで俺が捕縛したけど、それでも俺の屋敷にこうも容易く侵入を許すなんてちょっとした屈辱だ。
その侵入者が、龍王や妖精王といった連中ならばあの程度の罠を突破出来るのは当然だと納得できるが、今回の侵入者はそうじゃない。
「これは、やっぱり手抜きはダメだな」
「そうですね」
「別にいいではないか、この程度の奴ら妾がすぐに捕まえてやるのじゃ!」
まぁ、ヘルの言う通りなのだが、こうして一々対応するのも面倒だし、防備設備の強化は必須だ。
「……」
それに、仲間のこんな表情は見たくない。
リーナはその侵入者のうち片方を見つめて青い顔をして、立ち尽くしている。
「リーナ、大丈夫か?」
「は、はい。
私のせいで申し訳ありません」
「いや、コイツがリーナの祖国から来たとは限らないし、もしそうであってもお前のせいじゃない」
コイツとは、白い肌に赤の瞳が爛々と輝き、リーナの祖国の裏で暗躍している可能性がかなり高い存在、吸血鬼のことだ。
「おい、お前ここは何をしに来た?」
俺の事を睨みつけている、吸血鬼の男だが、まぁコイツ程度じゃあこの縄は解けない。
ちなみにもう1人の侵入者は何処ぞの暗殺者だった、恐らくはいきなり侯爵という高位の爵位を持った俺の事をよく思わない連中が雇った雇われだろう、まあコイツのことはどうでもいい。
今は吸血鬼の方が先決だ。
「……」
吸血鬼は話すつもりは無いようで黙秘を貫いている、まぁそうなるわな、もし俺に話せばコイツは自身の主に殺されるだろうしな。
「見たところ従属種の様だな、と言うことはお前の主は貴族種かな」
原始種が直接、従属種を使役する事は殆ど無い、原始種が使役する貴族種に使役されている場合が殆どだ。
まぁ、例外がないわけでは無いけど。
「リースナル」
「っ!」
吸血鬼の肩がビクリと、揺れる。
「な、何故、お前が何故その名を知っている!?」
「なんだ、ちゃんと話せるじゃ無いか」
「くっ、下等な人間の分際で…」
「ふん、その下等な人間に簡単に捕らえられているお前は何なんだろうな?」
まぁコイツの主人の名前がわかっただけでもよしとするか、それにしても今の今まで全く干渉してこなかった吸血鬼どもが何故ここに来て干渉して来たのか?
「まぁ、今は取り敢えずコイツをどうするかだな」
さて、どうしたものか、コイツを殺してもいいけど屋敷内で殺すのは汚れるし嫌だ。
何より、今はリーナにあまり負担をかけさせたく無い。
「よし」
「あぁ、ご主人様がまた悪い事を思いついた顔をしてる」
全く、なんて失礼な事を言うのでしょうかミラさんは。
パチンと、俺が指を鳴らすとそこには漆黒の扉が現れる、まぁ扉といっても、ただの丸い穴みたいなものなんだけどね。
「じゃあ、バイバイ。
頑張ったら外に出られると思うから精々頑張って」
拘束されている吸血鬼の襟を持ってその穴に放り込む、それと同時に拘束している縄の魔力をきる。
これはアビスの転移門で、この屋敷がアビスの一部だから俺が好きな階層に指定して扉を開けることができる、まぁ殺すのも可哀想だから、死ぬほど頑張れば何とか脱出できる程度の階層に放り込んでやった。
あ、そう言えば流れであの暗殺者も一緒に投げ込んじゃったけど……まぁいっか。
そもそも人の家に勝手に入って殺そうとした時点でもう完全に犯罪だからな。
「うわぁご主人様、結構えげつない事しますね」
「そんな事はないだろ、この場で殺さないだけまだ優しいと思うんだが」
「う〜ん、確かに言われてみればそうかも知れませんね」
ただ、あの2人にとってはここで殺された方が楽だったかも知れないけど。
とミラは誰にも聞こえない程度の声で呟いた、まぁ俺には聞こえてるんだけどな。
確かにミラの言う通りかも知れないな、うん、そっちの方が罰にもなるし、これから侵入者はアビス流しの刑にしよう。
「取り敢えず、お茶でも飲もうか」
「じゃあ、入れ直しますね」
ミラがエントランスから、左右にある階段を登って走り去っていく、その背を見ながら俺たちもリビングに戻る。
因みに、お茶を入れたり、朝・昼・晩のご飯を作るのはミラの役目だ。
ミラが好きでやっていると言う面もあるが、王族なのに実は家事全般を卒なくこなすリーナだが、意外とそう言った料理などに面する家事だけはダメだったりするのだ。
まぁ俺とヘルよりは確実に上手いがそれでもミラには大きく劣るので俺たちの食事事情はミラに一任されている。
まぁ尤も、俺とヘルは料理に関しては論外なのでカウントさえされていないのだけどね。
ミラの入れたお茶を飲み一息つく。
それにしても吸血鬼か、そろそろ終わらせるのも良いかもしれないな。
そもそも、ミラとリーナのレベリングは吸血鬼と戦うためだったし、向こうからこっちに手を出して来たのだから、まぁ、時が来たと言うわけだな。
「よし、取り敢えず吸血鬼の件をそろそろ終わりにしようか」
少しでも『面白かった』『続きが気になる』と思ってくれましたら、
ブックマーク登録及び、下記の評価ボタンを押して頂けますと嬉しいです。
これからもよろしくお願いします!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
題名変更しました!
明日更新予定!!
「吸血商人は怠惰スローライフをお望みです」
そこそこ読める作品だと思うので是非読んでみてください。
*ちなみに題名は仮名なので変更するかもしれなれません。