45話 縦ロールは別の人に期待しよう
3人が淑女の礼をとっている光景を見て俺は未だかつてない程に感動に打ち震えいた。
リーナとミラはまだ良い、リーナは王族として幼い頃より礼節を叩き込まれて来たのだからこの程度のことは出来て当然だし、ミラは前世の記憶がありその精神年齢は大人さらには前世の礼儀作法の弁えがあるのだから。
しかし!!!何とあのヘルさえも、しっかりと勲章の定型文を述べて礼をとっているのだ、全く礼儀を弁える事を知らなかったあのヘルがだ。
ヘルに礼節の何たるかを教え、礼儀を教え、教育して来た、教育者として保護者としてこれが感動せずにいられるだろうか?
それにしても、あのヘルをこの短期間でここまでに育て上げるとは流石は俺だな、うん。
「では、これにて此度の勲章式典を終了す」
どうやら俺が感動に打ち震えている間に勲章式が終わってしまった様だな、それにしてもアウレーニス公爵の声はよく響くな。
《拡声魔法が使われています》
…ま、まぁ知ってたけどね。
「ご主人様そんな顔してどうかしたの?」
式典が終わり俺の隣に座っていたミラがそう聞いて来た、しかし、まさか拡声魔法に気付かなかったなどと言えるはずもない。
「別に何もないが」
もし、そんな事を言ったなら最後、俺の威厳海の底に沈む事になるからな、ここはしらを切らせてもらう事にしよう。
「皆様どうぞこちらへ」
入った時と同じように舞台から降りると、そこにはメイド服に身を包んだ、と言ってもまぁ当たり前なのだが、メイドが馬車の前に立っていた。
その馬車は、俺たちがパレードで乗ったようなものとは違いあからさまに金が使われているいい馬車だと容易に想像出来るものだ、まぁその馬車に刻まれている紋章、王紋を見ればそれも一目瞭然なのだけどね。
勿論、こんな事は一切事前に連絡は入っていない、しかも、舞台から降りているとはいえ、ここは舞台横すぐの場所だ、それなりに人目はある。
もしそんな場所でさっき爵位を賜ったばかりの者が王家の馬車に乗る事を拒否でもしたら大事だ、それこそ王族の信頼が大きく揺らぐ事になり、他の有力貴族の台頭を許す事になるかもしれない。
しかしだ、だから何だ?残酷な事を言うがそんな事は俺には関係ない、俺が大切なのはこの国ではなく、俺の仲間達だけだ。
確かに俺は今この世界においてかなりの強さを持っているだろう、しかし俺1人では守れる範囲にも限りがある、全ての人を守れるなんて自惚れてはいない。
それに、この後はみんなで屋台を回ると、パレード前にヘルと約束してしまった。
まぁヘルの目当ては屋台の食べ物だろうけど、もしそれが無理となるとヘルの機嫌が悪くなる事は目に見えているし、癇癪でも起こされたらたまらない。
俺ならば被害を出さないうちに止める事は確かに可能だろう、しかしその場合はヘルを殺す事になる、この国とヘルでは少なくとも俺はヘルをとる、つまりこの誘いにはなる事は不可能なのだ。
フッフッフ、どうだこの完敗な布陣は、パレード前にヘルに保険をかけておいてよかった、これなら面倒な話し合いをする必要はなくなるからな。
「勿論、希少な物からオーソドックスな物まで各国の様々なお菓子や御料理をご用意させて頂いております」
なん、だと!?
そんな俺の完璧な布陣はサラッと言ってのけたメイドの言葉によっていとも容易く打ち砕かれた。
そ、そんな事を言ったらヘルが…
「ん?そうなのか?では早く行くのだ!」
速攻で陥落。
「世界各国の珍味!?それは行かないわけにはいきませんね」
続いてミラまでも容易く陥落してしまった。
終わりだ……フッ、何が完璧な布陣だ…こうなったらその希少なお菓子と食材を徹底的に食い尽くしてやる、俺たちを招いた事を後悔させてやる!
そうして渋々馬車に乗り込んだ、そして俺たちは今、盛大な拍手を送られらがら何故か民衆の中を馬車で進んでいる。
ハッキリ言って何故王城前なのに馬車なんかで迎えに来るのか、とても不思議に思ったよ。
でも、やっぱりこう言った裏があったらしい、どうやら国王は本当に大々的に俺の事を宣伝したいらしい。
まぁそんな訳で無駄に王都を徘徊してやっと王城に辿り着いたわけだが、流石にこれはタチが悪いと思う。
だから、俺もそれ相応の仕返しをしてやろうと思う、存分に貴重なお菓子と食材を食ってやろうと思っていたが、それだけでは無く、俺のアイテムボックスにも詰め込んで帰ってやる。
精々、掻き集めた食料が無くなって泣きをみるといいさ。
そう、軽く笑みを浮かべながら先導するメイドと執事の後を続いて王城の廊下を歩く、因みに言うと俺のこの微笑ましい復讐計画に気づいているのはお子様三人衆だけだな。
まぁ、コイツらには頑張ってもらうとしよう、特にヘルにだけどな。
「お待ちしておったぞソータ殿よ」
案内された場所は前回とは打って変わって城の中にある庭園だった、品のある美しさに整えられた庭園は荒んだ心を癒してくれるな。
まぁ、国王達には泣きを見てもらうけどね。
俺たちに出迎えの言葉を述べる国王と、その周囲には以前決闘?をした第二王女であるアリスと彼女の兄である優男王子、さらに国王の妃だろうと思われる女性が1人そして唯一王族ではないアウレーニス公爵が俺たちを席から立って出迎えた。
まぁ、本来なら俺より爵位が高いアウレーニス公爵は元より王族である皆様が立って出迎えるなんて事はない、それだけ俺たちの事を重要視していると言う事だな。
「これは皆様お揃いでお出迎え頂き、光栄に存じます」
取り敢えず社交辞令を述べておく、俺の言葉に従って礼をとったのはリーナだけだ、ミラとヘラの2人はお菓子と食材の事で頭がいっぱいのようで、心ここにあらずと言った様子だ。
「では、改めまして。
この度は国王陛下より侯爵位を賜りました、SSSランク冒険者のソータと申します。
どうぞ以外御見知り下さい」
「同じくSランク冒険者のリーナと申します」
俺の行った自己紹介に続いたのはリーナのみ、全くちょっとはしっかりして欲しいものだ、あの時の俺の感動をどうしてくれるのやら。
「では、ソータ殿達はそこにかけてくれ」
「では、お言葉に甘えてそうさせて頂きます」
国王の勧めに従って席に座る、それと同時に王族のみなさんも席に座った。
「またお話ししましょう、とは言いましたがまさかこんなに早く実現するとは思ってもいませんでしたよ」
「何、貴殿が気にする事はない」
言外にもっと間隔を開けろと文句を言ったのだが、流石は国王笑っていなされてしまった。
「それしても、まさか侯爵位を賜れるとは驚きました」
「それは良かった、まぁそれ程我らが貴殿達のことを重要視していると言うことだと思って欲しい」
本当にくえない王様だ事だ。
「あ、あの」
俺が国王の言葉に苦笑いを浮かべていると、アリス王女がいきなり席を立って声を上げた。
「どうなさったのですか?」
「その、先日は誠に申し訳ありませんでした」
そしてそう頭を下げた、その事に何より驚いたのは俺だろう、あれだけ高圧的だったあの王女がまさか高位貴族とはいえ成り立ての俺に頭を下げるとは思いもしなかった。
「いえ、お気になさらないで下さい。
私は未だ17ですし、見た目も年相応なのでよくある事ですので。
それよりも、私と対峙しどう感じになられましたか?」
「は、はい、貴方様のお言葉に嘘偽りがなかったと言う事だけは何とか…
それ以上となると私程度ではとても測れませんでした、申し訳ありません」
「いえいえ、そこまで言える貴方であれば、まだまだお強くなることができるでしょう」
因みにアリス王女は今日も縦ロールでは無かった……まぁいいどっかの貴族令嬢に期待するとしよう。
それから、暫く雑談をし、本日のお茶会は解散という事になったので今はアビスに帰ってきている。
あの後取り敢えず俺が爵位を持ったと言うことで苗字が必要だと言う話になった。
まぁそれは俺も思っていたのでちょうど良かった、国王から苗字も与えられるのかと思ったら、なんと決まったらまた申し出てくるようにと言われてしまった、まぁ、苗字なんて適当でいいんだけどね。
後は、今後に開催される社交界、所謂パーティーに出来る限り参加して欲しいと言う事を頼まれたぐらいか、特に王家が主催するものについては出るようにと頼まれた。
まぁ貴族となった以上は、これからは貴族としての嗜みもまた一興として楽しむつもりなので勿論参加するつもりだ、新たな美味しい料理に巡り会いたいわけでは決してない。
因みに、王城にあったお菓子類と食料の中で特に高価なもの希少性の高いものをリエル先生が選別し全てヘルの胃袋と俺のアイテムボックスに収めてやった。
勿論、俺のアイテムボックスにある分は盗んだわけではなく、俺が食べるふりをしてしまったものだ、今頃はさぞかし嘆いている事だろう。
ヘルとミラはとっても満足そうな表情なので今回はこれぐらいで勘弁しておいてやる事にするかな。
さてと、じゃあ必要事項を終わらせるとするか。
「はい、皆さん注目!
これから我が侯爵家の家名を決める事にします!」
次話は土曜日か日曜日に更新予定です!!
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これからもよろしくお願いします!!
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題名変更しました!
「吸血商人は怠惰スローライフをお望みです」
そこそこ読める作品だと思うので是非読んでみてください。
*ちなみに題名は仮名なので変更するかもしれなれません。