42話 話し合い
「ア、アリス様!!」
決着を持って舞い降りた静寂を破ったのはアリス第2王女の金魚のフンとかしていた、うちの1人で見ただけでわかる爽やか優男で、そう声を上げながら崩れ落ち未だに涙を流しながら虚空を見つめて心ここに在らずの彼女に駆け寄る。
「何をやっている!すぐにアリス様を医務室に!!」
そう言って彼女をお姫様抱っこで抱え上げ、何人かの人たちと医務室があるであろう方面へと走り去って行った。
ちなみにそいつが俺の前を通った時凄い目で睨まれたのだけど、全くこれだから貴族は嫌いなんだよ。
「さてと、ではお話が無いのなら我々は失礼させていただきますがよろしいでしょうか」
いまだに静寂が支配する、コロッセオ内に俺の声が大きく響いた、そこまで大きい声出していないんですけどね、ビックリしたよまったく。
それにしても皆さん何をそんなに驚いているのか?
「ま、待って下さい!」
お子様3人を引き連れてアビスへ帰ろうとしている俺を呼び止めたのは国王と一緒に椅子に座って俺の事や特に後ろの3人を探る様な視線で見ていた青年だな、まぁ王族なのは間違い無いとしてミラ達3人を興味深そうに見ていた事は減点ポイントだな。
「何ですか?」
「我が妹が大変失礼をした、是非貴方方と有意義なお話合いがしたい」
「そうですとも、是非お茶でも飲みならが話そうではないですか」
妹、と言うことはアリス王女の兄である優男がそう提案し、国王がそれ幸いと言ってくる、まぁ実質暇だから話し合いをすることは別にいい、けどその前にこの茶番について謝るべきではないだろうか?
「別に構いませんよ、しかしその前に我々に謝罪をするのがスジでは?
あの王女に俺に突っかかる様に指示を出したのは貴方なのでしょう?
まぁ、一冒険者である俺なんかに謝罪が出来ないと言うのであれば話は別ですけど」
俺の言葉に国王と優男の顔が少し歪む、すぐに笑顔に切り替えた様だが、それの動体視力をあまり舐めないで頂きたい。
「ソータ殿は、一体何の話をしていらっしゃるのですかな?」
国王は誤魔化そうとしている様だがそうは問屋が卸さない、そもそもアリス王女の言動にはおかしな所がいくつかあった。
冒険者を下世話な連中というかと思えば、俺以外のSSSランク冒険者を尊敬している様な言動もとっている。
その事を考慮し、さらにその時のアリス王女の心拍数やら何やらをリエルに解析させて計算した結果、国王がアリス王女に俺の事をたきつけたという結論が出た。
恐らくだが、あの王女は真に俺以外のSSSランク冒険者を尊敬しているのだろう、だからこそ国王に俺が不正な手を使ってSSSランクに昇格したとけしかけられて俺に突っかかって来たのだろう。
まぁ、それはいい、俺たちの見た目は子供3人に少年1人だ、俺たちの実力が信じられないのも無理はない、しかしだ問題はそれをけしかけたのが国王だという事だ。
つまりは国王は冒険者ギルドからの報告を見て俺たちが本当にそれだけの力があるのかどうか確かめたのだろう。
まぁ、今さっきのあのアリス王女を見てもわかる通り、この世界の戦闘レベルは俺たちに比べるとかなり低いと言っていい、恐らく単体で魔王達とやりあえる存在は人間にはいないんじゃないだろうか?
だからこそ国王は俺たちの実力を確かめる必要があったのだろう、どうやらこの世界の一般常識では古竜は全て魔王に匹敵すると思われてるらしいしな。
まぁ今はそんな事はどうでもいい、結局何が言いたいのかと言えば国王は俺たちの実力を疑っていたという事だ、そしてもし本当ならば他国との政治やら何やらに上手く利用しようとでも考えいたのだろう。
まぁそれが為政者と言うものだし、そう考えるのもわかる、けどそれは俺たちをいいように利用して面倒ごとの種にしようとしている事に他ならない、それは到底許容できないし何より試された事がムカつく。
そもそも今回ここに来たのも暇だからであって大した理由も何もない、権力的立場がなかったこの前までなら多少の意味もあったが、今となってはそれもない。
気分を害されまでここにいる必要性はないし、謝る程度の事もプライドがどうこうで出来ないのならもうこの国王と話す事もない。
「いえいえ、そちらがそのように対処するおつもりなのであれば、私から言う事は何もありません」
「お、お待ちください!
その件に関しては誠に申し訳なかった、どうか許して頂きたい」
俺の言葉から、謝るつもりもないのなら話す事もないという俺の考えが読めたのか、1人のおっさんがそう言って頭を下げた。
「貴方は?」
「私は、宰相を務めております、アウレーニス公爵と申します」
アウレーニスと言うと、どこかで……まぁ今はそんな事はどうでもいいか。
「そうですか、私が話しているのは国王陛下であって貴方ではありませんし、貴方に謝罪を求めてもいません」
俺がそう言うと押し黙る、まぁ言いたい事はあるのだろうが、俺が言っているのは一国の王に言う事ではないが正論で、しかも報告の件の信憑性が増した今、下手な対応は取れないのだろう。
あぁ、思い出したそう言えば俺たちが服を買いに行った店、確かあの店の名前がアウレーニスだった気がする。
公爵と言っていたし、流石に高位貴族家の名を豪商とは言え平民が語るはずもないのでほぼ間違いなくこの人の家が経営でもしているのだろう。
今、リエルに確認を取ったところ間違いないそうだ、まぁあの店には世話になったし、そもそも本来の目的を達しないまま帰るのも嫌なので今回の事は水に流すことにするかな。
「しかし、まぁ今回はいいでしょう、国王として我々の実力を計らないとならない事も理解できますからね、それに貴方の店にはお世話になりましたから」
俺がそう言うと、国王が安堵したように息を吐き、アウレーニス公爵は深く頭を下げた。
「では、話もまとまった事ですし、こんなところでは何ですから会議室の方で是非お茶でもしながら如何ですか?」
「ではお言葉に甘えさせていただくとしましょう」
俺はそう提案してきた優男こと王子に了承の意思を伝えると、皆で揃って移動を始めた、まさかこの場にいる騎士など以外の貴族達が全員付いてくるとは思ってもいなかったが、聞かれて困る事は話さないので別にいい。
まぁもし口を滑らしても彼らが俺たちにできる事は何一つないと言っていい。
俺の返事に気を良くしたのか、いい笑顔を浮かべる王子と国王だが、精々今の内に笑っておくといい、どうせ数十分後にはその顔をひきつらせる事になるのだから。
何故ならば!彼はまだヘルの食欲という脅威を知らないのだから…
案内されて通されたのはそこそこ広い部屋だった、部屋の中心に中央が円形に穴が空いた丸い机とその机の形にあるように10の椅子が並べられている。
そこそこ良い部屋じゃないか、取り揃えられている調度品も品があって尚且つ派手さを弁えているしな。
通された部屋で俺とヘル、ミラ、リーナは当たり前のように席に着く、勿論、国王とこの場にいる国王以外の唯一の王族である王子、さらには冒険者ギルド総師のジークラスさんとその秘書のエリナさんが席に着いた。
これで計8つの席が埋まったわけだが残りの席は2つだ、そしてこの部屋についてきた貴族達の数は10人以上は確実いる、さて誰が席に座るのだろう?
そんな事を考えていると、その先の1つには当たり前のようにアウレーニス公が座った。
その事に対して周囲から特に声が上がることがなかった事を考えると、アウレーニス公爵は思ったより偉い人なのかもしれない、まぁ公爵だし宰相って言ってたしね。
(アウレーニス公爵家は代々エラムセス王国宰相の地位に就いている大貴族であり、その地位と権力は絶大です)
リエル先生の説明も入ったのでこれで確定だ、さてとあと1つの席には一体誰が座るのか?
「ではソータ殿達には改めて先ほどの謝罪を受け取って欲しい」
アウレーニス公が席に着き一息置いて国王がそう口を開く。
え…誰も座らないの?
「いえ、その件については構いませんよ」
こうして、席を1つ開け、周囲に貴族達が立って話を聞いている状態で今日、この王城にきた本来の目的が開始された、まさかこんなに人の目がある場所で話し合う事になるとは思ってもいなかったけどな。
まぁ話し合いには応じると言ってしまったからな、こんな事で帰るとは流石に言えない、俺の立場的には問題ない、いや、俺以外の本来の立場なら問題あるよそりゃ、けど俺には正直言ってあんまりない。
重要なのはこんな事で意見を変える事は何か癇に触る、まぁ言ってしまえば俺のプライドの問題だな。
「それで私達にお話とは?」
そう、いきなり本題を切り出す俺の発言に国王やこの場にいる貴族達が少し顔をしかめたが、気にしない。
本来ならば、挨拶や世間話などといった事から回りくどいやり取りをするものなのだろうが俺がその貴族社会のルールを守る必要はないし、何より話し合いはするが、俺だっていつまでもこんな状況にいるのはゴメンだからな。
「では、ソータ殿に提案があるのだが、そなた我が娘、アリスを嫁に取る気はないか?」
国王はそんな俺の気持ちを察したのか、早速そう本題を切り出してきた、その国王の発言に周囲の貴族達が騒めき立つ。
「アリスは自分よりも強い者しか認めんと言っておってな、少し気が強いところもあるがああ見えて面倒見が良いし、国内のみならず他国でも美姫と噂される程の容貌も備えておる。
本人もどうやったのかは判らぬがソータ殿に直接敗れた故、文句は無いだろうし、どうです?ソータ殿にとっても悪い話では無いでしょう?」
どうやったかは、という所に棘があったがまぁ仕方ない事だろうな、この国王程度の実力では何があったのか悟ることも容易では無いからな。
しかしまぁ、こうやって嫁をすすめられる事は想定していたけど、それでも有力貴族の令嬢とかだと思っていたから驚きだな、まさか自身の娘、王族を嫁にすすめて来るとは思ってもいなかった。
けどまぁ、国王からしてみれば誰でも良かったのだろう、今回は偶々、彼女が俺とさっきの決闘で面識があるというだけで。
まぁ、それでも王女を出して来るとは思わなかったけど、彼女がこの国で一番強いと言っていたしそれを倒した俺をそれだけどうしても手中に納めておきたいのだろう。
「折角ですが、お断りさせていただきます」
俺がそう言うと国王のみならず周囲の者も驚いた様に見えた、何をそう驚いているのだろうか?
そもそも、王女なんかを嫁にでも取った暁には身分やら立場やらで身動きが取りづらくなるだけであって何のメリットも俺には無い、そんな提案をなぜ俺が飲むと思っていたのだろか?
「で、ではそこの3人のお嬢さん達を有力貴族の嫁に出してはどうか?もし何なら我が息子達に嫁いでも構わんのだが」
次いで国王が口にした事はそんな事だった、それこそあり得ない、この国王が言っている事はつまりはこの3人を寄越せと言っている事に他ならない。
「それもお断りします、まぁこの子達がそれを望むのであれば考えますが、そうで無いのであれば結構です」
「そうか、ではお嬢さん方どうだ?この国の貴族になるつもりはないか?」
貴族の場所を強調してそう3人に語りかける国王。
「そうですね、ご主人様よりお強い殿方がいらっしゃるのでしたら考えますよ」
「結構です」
「ソータよ、これも美味いのじゃ!」
しかし帰ってきたのは3人の辛辣な言葉だった、ミラは俺より強い存在というがあのアリス王女がこの国で一番強い、つまりは俺より強い者はこの国にはいないという事だ。
次にリーナは簡潔に断っているし、ヘルに至ってはメイドさんが持ってきたお菓子を美味しそうに食べており全く話を聞いていない。
「…そ、そうか」
国王は唖然とそう答えた、周囲の貴族達も本来なら責め立てるこの3人の態度に唖然と立ち尽くす、まぁそれだけこの3人の返答が予想外だったという事だ。
「で、では1つお尋ねしたいのだが、いいでしょうか?」
その微妙な空気を崩そうと意を決して声を挙げたのは宰相であるアウレーニス公爵だ。
「ええ、結構ですよ」
「では、貴方は先ほどのどの様な手段でアリス様に勝利なされたのですか?」
まぁ、冒険者ギルドでも言った様に本来、冒険者にそう言ったことを書く事はタブーなのだが、まぁ言ったところで特に何があるわけでもないので別いいだろ。
それに他にも気になっている者がいたのか周囲の貴族達が俺の言葉を聞き逃さない様に意識をこちらに向けているのがわかる、さっきまでとはまた違った静寂が部屋を満たす。
「特に何もしていません。
まぁ強いて言えば、殺気と魔力をぶつけた事ですね」
「ま、まさかそんな事が…」
俺の言葉をしっかりと聞き届けた者達が唖然となっているなか、そう驚愕の声を出したのは仕立てのいい騎士団の正装を身につけている男だ。
「貴方は?」
「こ、これは失礼しました。
私は近衛騎士団副団長を務めております、オークス・アウレーニスと申します」
「成る程、騎士の方ですか、まぁ貴方が信じられないのはわかります。
しかし、アリス王女にご確認いただければ私の言葉に偽りがない事がわかると思いますよ」
俺がそう言うと、彼は一礼してから身を引いた、本当にアウレーニス公爵家の人には今のところ良いイメージしかないな。
「さてと、では他にもお話はありますか?」
「で、ではソータ殿、我が国の貴族になるつもりはないか?」
貴族ね、勿論そんな面倒な存在になるつもりはない、けど、貴族位を持っていたら色々と面白い事ができそうだしな。
「基本的に貴族になるつもりはありません、しかし、私が言う条件を呑んで頂けるのであれば吝かではありませんね」
まぁ、俺の提示する条件なんて早々に通らないだろうけどな、まぁそれでも俺をこの国の貴族とする事ができるだけでもこの国が得る利益は相当に大きなものになるだろうから、ここからは国王とリエル先生の勝負だな。
え、俺?何度も言うけどリエルは俺の権能なのだから、結果、俺と国王の勝負と言えるでしょ?
次話43話は、土曜日更新予定!
ちなみに新作の方も同日更新予定です!!
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これからもよろしくお願いします!!
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題名変更しました!
「吸血商人は怠惰スローライフをお望みです」
そこそこ読める作品だと思うので是非読んでみてください。
*ちなみに題名は仮名なので変更するかもしれなれません。