40話 縦ロールでさえあれば…
予定通り、エラムセス王国王都の散策した、勿論リエルさんが俺にはついていてくれているので変な店に入ってしまったり、見た目はいいのに味はダメな残念な料理屋に入ることも無いと言う裏技を使わせてもらったけどね。
リエルの権能をフルに使ってこの広い王都を1日で出来る限り満喫したが、残念ながらミラの料理を超える味の店は無かった。
しかしながら、その他の事ではそこそこ楽しむことができたと言える、特に絶景スポットは素晴らしかった、現代の地球ではなかなか見ることのできない光景だったと言えるだろう。
だって地平線の際まで続く緑に雄大な川、そしてその奥に聳え立つ雲の上まで突き抜けている巨大な木、神樹があり、はるか遠くの空にはドラゴンらしき生き物が空を飛んでいる。
一体、地球のどこへ行けばこんな景色を見ることができると言うのだろうか?断言しようそんな景色を見ることができる場所は地球には存在しないと。
ちなみにこの景色は外壁の上から入場料さえ払えば誰でも見ることができる光景だ。
そんな昨日見た地球では絶対に見ることができないリアルなファンタジーを思い出しながら俺は今馬車に揺られている。
どこに向かっているのかと言うと勿論この国の国王がいる場所つまりは王城だ、王城に入るのはアストラル王国以来だな、まぁどうでもいいけど。
そして何故俺たちが馬車なんかに乗っているのかと言うと冒険者ギルド総師のジークラスさんとエリナさんが俺たちが取っている宿屋から出たらこの馬車二台とともに待っていたからに他ならない。
そもそも、こんな馬車なんかには乗らずに空を飛行魔法で飛んで行くなり、転移魔法で直接、王城正面まで転移したりした方が確実に早いのだが、折角ジークラスさん達が馬車を用意してくれたのに断るのは忍びない。
俺をそう思わせるほどには2人の格好に気合が入っていたのが見て取れたしね。
そして何より、それらを2人の前で見せるとまた面倒な事になりそうだしな。
そんな訳で今、俺、ミラ、リーナ、ヘルの4人は馬車に乗ってコトコトと揺られているのだ、確かにこの馬車はいい素材を使って作られたのだろうが、アビスの設備に比べると、主にクッションの柔らかさと体に負担をかけないデザイン性においてどうしても数段落ちる。
ちなみにエリナさんとジークラスさんはもう一台のばしゃにのっているのでこの馬車の中にいるのは俺たち4人だけだ。
「なんだかこうしていると眠たくなってくるな」
「そうだね」
「私もそう思います」
「妾も眠たいのじゃ」
俺の呟きに皆が同意を示す、このエラムセス王国王都は人の行き来がそこそこ多いのでこの馬車の速度も遅い、そして舗装されているとはいえまだ多少は揺れる地面だ。
そんなのに揺られ続けたら眠たくなってくるのも無理はないと思う、しかも昨日の王都散策でかなりはしゃいでいたヘル達お子様3人は元よりその3人を引率していた俺の疲労もそこそこ溜まっている。
その事がこの眠気にさらなる追い討ちをかけている事はまず間違い無いと言える、この何とも抗い難い眠気だ、誰かこの前の黒古竜が震え上がるほどの殺気でも向けてくれないものだろうか。
そうすればこんな眠気も綺麗に覚めると思うのだが、そんな都合のいい事は早々起こるはずもない、それにもしそんな殺気を放つ奴がいたら今頃この王都は激しい混乱に包まれ地獄とかしている事だろうしな。
そう、この眠気を例えるならばアレだ学生ならば一度は誰もが体験した事があるだろう、授業中に突如として襲い掛かってくるアレと同じだな、うん。
あぁ〜、もう無理…そうだ睡眠不足は何とやらと言うしここは寝たほうがいい、ここには俺たちしかいないし、謁見のときに国王や王侯貴族達の前で居眠りをかますよりよほど良い筈だしな。
「よし、まだ暫くは城に着きそうもないし少し寝るとするか」
「さんせい!」
「すみません、そうさせてもらいます」
「妾も寝るとするのじゃ」
そう言うと早速、寝息をたて始める、さてとじゃあ俺も少し寝るとするかな、まぁ俺にはリエル先生という最強のスケットがいるからな何かあったらすぐにわかるだろう。
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「どうかなさいましたか!?」
そんなエリナさんの言葉とともに開け放たれた馬車の扉から差し込んでくる日の光を受けて目が覚めた。
どうやらもう着いてしまったようだな、やっぱり座った状態で寝ると多少肩がこるな、たまにはこう言うのもいいとは思うけどやっぱり次はベッドで寝たいな。
それにしてもエリナさんはどうしてこんなにも焦ったような顔をしているのだろうか?
お子様3人も疑問に思っている事がよくわかるような表情をしているので、多分俺が寝ている間に何かイタズラをしていた訳ではない筈だ…ないと信じたいけどヘルならやりかねないところが怖いな。
「えっと、どうしたんですかそんなに慌てて?」
「そ、その外から王城に到着したとお声掛けしたのですが、返事がなかったもので何かあったのかと」
どうやら俺たちが寝ていて返事が出来なかったことを、俺たちの身に何かあだったのではないかと心配してくれていたようだな。
まぁ現在この王国内に俺たちをどうこうできる存在はいないのでまずそんな事は起きないのだが、じゃないと流石にこんな所で寝たりなんてしない。
「すいません、馬車に揺られていたら少し眠くなってしまったものでして、少し仮眠を取らせていただいていました」
「そ、そうでしたか」
俺の返答を聞いて驚いた様な顔をするエリナさん、今の返答の何処に驚くような要素があったのだろうか?
「すみません、まさか国王陛下との謁見を控えて眠る事ができる方がいるとは思いもしていなかったものでして」
「そうですか?たかが、国王との謁見ですよそんなに気負うことでもないと思うのですけど」
AWOの時には国を建国したプレイヤー達と会う事が多々あったので今更特に一国の王と会う事ぐらいでは何とも思わない、俺を緊張させたいのであれば魔王を10体と龍王を連れて来い。
「そんな事よりソータよ着いたのか?」
「あぁそうだったどうやら着いたみたいだぞ」
「では早く行くのじゃ!」
ヘルにそう急かされて俺たちは馬車から降りる、その際エリナさんはずっと呆けたような表情で馬車の扉の横に立っていた。
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さて俺たちは今、豪華な待合室に通されている。
まぁ別にいいのだけどね、待たされるのはちょっとムカつくな、まぁわかってはいるんだよだってむこうは王様な訳だしさ。
「これも美味いのじゃ!」
でも、これくらいならやってもいいよね?だって待たされてるわけだし。
今、ヘルは凄まじい速度でこの待合室に供えられていたお茶菓子を消費している。
「メイドさん、コレとコレにコレまた新しく持ってきてやってくれませんか?」
「か、畏まりました」
そう言って部屋から走り去って行くメイドさん、王城勤めのメイドがたじろぐ程ヘルの食べる勢いは凄まじい。
フッフッフ!もっと食え!
それから、暫くして執事らしき人が国王陛下の準備が出来ました、と言って部屋に俺たちを呼びにきた。
その時の執事の顔は傑作だった、ちなみにヘルは執事が呼びにくるまでにリエルの計算で約20キログラム程度のお菓子を平らげた。
これでヘルからしたらちょっとしたお菓子感覚なのだから事の凄まじさがよくわかるだろう、そしてそのヘルを養っている俺のすごさも。
先行する執事の後をついて行くと見えてきたのは巨大な扉だ、まぁアレだなハッキリ言ってアストラル王国のものと大差無いので特に感想もない。
ここでもアストラルと同じ手順でその扉が開かれる、中に入るとそこには中央に数段の階段がありその上に王座に座っている国王がいる、その周りでは恐らくは王族だろうと思われる人物が数人豪華な椅子に腰掛けていた。
その階段の下にいる幾人かの貴族達が俺たちを品定めするかの様な視線を向けている。
ちなみに謁見の手順などがアストラルと同じなのはこの国は運営が作った国であって設定されていたプログラムが同一だからだ、帝国であるメイビスは少し違うがまぁ今はどうでもいい話だ。
「よくぞ来てくれた冒険者ソータ殿よ」
「ご招待頂きありがとうございます」
ちなみに俺が国王の前で跪く必要はない、何せ以前にも言った通り冒険者はこの国の住民ではないしな、それでも大抵のやつは跪く必要があったりするが、俺はSSSランク冒険者だある意味国王よりも位が高いと言ってもいい存在だからな。
けど、それをよく思ってないのか、国王の周りにいるうちの何人かは俺たちを威圧するようにこちらを睨んでいる。
「陛下、下賤な冒険者風情に何故あの様な無礼を許すのですか!?」
そのうちの1人赤の髪を長く伸ばした目の鋭い気の強そうな少女が騒ぎ出した、それにつられて俺を睨んでいた何人かも同意するように声を上げる。
全く、自分の子供くらいしっかりと制御しておけよな、そっちから読んでおいてこれかだから王国家族ってのは嫌いなんだよな。
「よすのだ、彼はこの世界中で3人しかいなかったSSSランク冒険者の4人めなのだ。
それに報告では冒険者ギルド総師のジークラス殿が全く叶わなかった古竜を圧倒したのだぞ」
「その報告というのも所詮は冒険者ギルドがよこしたものでしょう、何処までが本当の事か分かったものではありませんわ」
エライ好き勝手言ってくれるな、まぁ別にいいけどさ。
「お話の途中すみませんが、今日我々を呼ばれたご用件は何でしょうか?」
おっとあの子、目つき悪すぎないかな。
俺が口を挟んだ事でさらに機嫌が悪くなったのか凄いこっちを睨んで来ている。
「冒険者風情が、王族に向かって失礼ではなくて?」
「そうですかね?呼び出しておいて当事者を無視しているそちらの方が失礼なのでは?」
俺のこと言葉に周囲の者が青ざめる、まぁ俺たちと王族の奴ら意外はだが。
「ふん、私達は王族、私達がすること全てが正しい行為なのです」
何ともまぁ、まるで戦前の日本の天皇に対する考え方みたいなことを言うなコイツ。
「そうですか、それは失礼しました。
では、我々に用件がないのなら我々は帰らせて頂いても?」
すると王が多少顔をしかめるのが見て取れた、しかし、自分の娘が発端で起こったことなので特に何かを言ってくることはなかった。
どうしてこんなにも融通がきく王からあんな娘が産まれるのか?不思議でしょうがないな。
「そんな訳ないでしょう、此度の我ら王族に対する数々の無礼、それだけで死罪に値します。
ですが今回は特別に貴方の助かる道を用意してあげましょう」
「と、言うと?」
「そうですね、貴方にはこれから私と勝負でもしてもらいましょうか、そして貴方が私に勝つことが出来たのなら特別に今回の件は不問にして差し上げましょう」
「まぁ別に構いませんけど、それをする事による貴方のメリットはあるのですか?」
「はぁ、全くだから冒険者など下賤だと言うのです。
私が貴方に勝つ事でこの国の強さを知らしめるだけでは無く、いかに冒険者が思い上がっているのかわかると言うものです」
成る程それならば確かにメリットはあるのだろう、俺からしたらどうでもいい事だけどな。
「だが、いかにお前であろうともソータ殿は古竜を圧倒する様な方だ」
国王がそう助言を挟むが。
「陛下まだそんな世迷言を仰っているのですか、それは冒険者ギルドが言っているだけであって、人間が古竜を無傷で圧倒など出来るはずもないでしょう。
確かに3人のSSSランク冒険者の方々は可能かもしれませんが、それでも無傷とはいかないでしょう。
それにあんな子供がそんな大それた事を出来るはずもありません。
恐らくは冒険者ギルドが何やらあの子供を使って企んでいるのでしょう」
そう力説する答えが返って来ただけだった、ここまで言っておいて何も出来ずにこの子が負けたらこの国の王族は酷い恥を書く事になるけどいいのかな?
「では早速、訓練場の方は移動するとしましょう。
あぁ、言い忘れていましたけど私この国で一番強いのですよ。
そうですね冒険者のランクで言うとSSからSSSランクと言ったところでしょうね」
そう、笑みを浮かべて言う、余程自分の力に自信を持っているのだろう、確かにSSからSSSランクと言うと世界全体で見ても人間ならトップ10くらいには入るんじゃないだろうか?
「では行きましょうか、この下らない茶番劇を終わらせに」
そう言って彼女は他の俺を睨んでいた王族数名と貴族を連れて歩き出した俺たちもその後について行く。
そして強く思う事が一つ、あの子が縦ロールでさえあれば!そうしたらテンプレだったのに!!非常に残念でならない。
まぁいいか、まだチャンスはある彼女の他にも沢山、プライドの高い公爵や侯爵令嬢の縦ロールはあるはずだしな。
…それにしても茶番劇、ね。
確かに彼女の言う通りだな、とっととこんな茶番劇を終わらせる事にしようか。
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題名変更しました!
「吸血商人は怠惰スローライフをお望みです」
そこそこ読める作品だと思うので是非読んでみてください。
*ちなみに題名は仮名なので変更するかもしれなれません。