37話 手紙
本編37話です。
本日は番外編と2話同時更新です!!
ミラの古竜ように料理は絶品でそれはもう忘れられない味だった、是非また食べたいものだ。
ヘルなんて美味い美味いとはしゃぎ過ぎて今はベッドで寝息を立てているほどだ、ミラは食事の後片付けをしていて、リーナはアビスの魔物で修行中だ。
俺?俺はリビングのソファーで寛いでますが何か?
さてと、今日は早くミラの古竜料理を食いたいばかりに1つ失敗をしてしまった。
その失敗はとても大きな失敗だ、普段の俺なら絶対にありえないほどの大きな失敗、それは今回のスタンピード作戦において最も為さねばならない事だった。
思い出して欲しい、俺たちはあの冒険者ギルドに入って直ぐにあの会議室に行き、そのまま冒険者ギルドを後にしてアビスに戻って来たわけだが、ここで1つ大きな欠落があった事にお気づきだろうか?
そもそも今回の作戦は古竜を討伐して冒険者ランクをSランク以上に上がる事にあった。
さてここまで言えばもうわかっての通り。
俺たちは冒険者ランクを上げていない、そうこれが今回、俺がやらかしてしまった大きなミスだ。
そして、それ程までに俺を激しく誘惑したミラの古竜料理に軽く恐怖を抱いた。
料理とはあそこまで人を意のままに出来るのかと、もしかするとミラは料理だけで世界征服ができるかもしれない。
まぁ、冗談はさておき今日、冒険者ランクを更新することが出来なかったので、また明日行く羽目になってしまった。
果てしなく面倒だが、まぁミラの古竜料理が美味かったから良しとしよう。
「あら、ご主人様寝ないんですか?」
エプロンを巻いて台所から出てきたミラはまさしく給食係の小学生にしか見えない。
「そうだな、明日また冒険者ギルドに行かないとダメだしな、俺もそろそろ寝るとするか」
ちなみにこのアビスにはベッドは1つしかなかった、しかし人数が増えたため新しく買い足して今では人数分のベッドを揃えている。
部屋のサイズなどはこの迷宮の創造者であり、ダンジョンマスターでもあるので、ハッキリ言って好きに造り替える事ができるので間取りの問題はアッサリと解決した。
「クリーン」
ベッドに入る前に無属性魔法で生活魔法に分類されるクリーンを自身と既に寝息を立てているヘルにかける。
このクリーンは身体の汚れを落としてくれるだけでなく、衣服の汚れなども分解して取り除けるし、歯磨きの代わりにもなる、使いようによっては様々な事が可能になる万能魔法だ。
AWOでは何の役にも立たないゴミ魔法だなハズレだのと散々な言われようだったが、現実となるとこれほど使い勝手のいい魔法はない、まさに一家に一台ならぬ、一人に一魔法とさえ讃えたくなる素晴らしい魔法だ。
自身の身体が綺麗になったことを確認すると更に次の魔法を発動する。
「メイクチェンジ」
そして、俺の今まで身につけていた計画のために選び抜いた黒づくしの装備から動きやすいスウェットのようなデザインの服に変わる。
このメイクチェンジもクリーンと同様、無属性魔法、生活魔法の1つで好きな装備に瞬時に着替える事ができる魔法だ。
この魔法のクリーンと唯一違う相違点はAWOでもかなり重宝されていた魔法だと言うことだ。
流石に戦闘中は発動不能となるがそれ以外の時では普通に使う事が出来、消費魔力も少ない。
意外と、一々装備を決めるのは面倒なものなのだ、この魔法は事前に一度登録したパターンならばいつでも選択して着替える事ができるので人気が出たのだ、まぁ現実となった今と違って登録できる数には制限があったけどね。
こうして、全く動かず華麗に就寝準備を終えた俺は自分のベッドに入った、子供のミラやリーナより早く寝るのもどうかと思うが、まぁ俺の方針は自由なので別に気にしない事にしよう。
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翌朝、俺が眼を覚ますと何故か俺のベッドにヘルがいた。
これは一体どう言う事なのだろうか?
ミラとリーナを見たら2人は自分のベッドで寝ていた、何故俺のベッドにヘルがいるのか、わからないな。
「ん、ソータ起きたか!妾が共に寝てやったのじゃ!」
無い胸を張ってそう言うヘル。
「うん、別に頼んで無いよね」
別に頼んでもいないのにそんなに自信満々に言われてもなぁ、まぁベッドのサイズは全てキングサイズなので別にいいのだけれどね、うん、昨日のうちに記憶を消してやった諸君には悪いが、むしろ役得だと考えよう。
「でも体調が良くなったじゃろ?」
「ん?そう言われてみれば、確かにそうだな」
「そうじゃろう、そうじゃろう、眷属との魔力循環は魔力の流れを良くし更には身体能力などにも影響を出すからその結果、体調が良くなるのじゃ!」
楽しそうにそう説明するヘルだが、今こいつ聞き捨てならないことを言ったぞ、眷属だと?
従属でなく眷属?そんな機能はAWOでは無かった、魔物を従えて従魔とすると従属状態は存在した、けど眷属なんてワードが出てきた事は一度もなかった。
「今、なんて言った?」
「じゃから体調が良くなると」
「その前は?」
「その前?眷属との魔りょ」
「そう!その眷属ってワードだ!」
俺が突然大きな声を出したせいかヘルがビクッと震えた。
「どうしたの!?」
「何かあったのですか?」
俺の声に反応してミラとリーナも目覚めてしまったようだ、思わず大きな声を出してしまったが、それも仕方がない、何せこの世界に来て初めての未知だ。
この世界はAWOだった世界でこの世界のことの大抵のことは既に知っていることばかりだ、それでは探究心も何も無い、けど眷属、これは俺の知識にない未知の情報だテンションが上がるのも無理もないだろう。
「ご、ごめんなさいなのじゃ」
顔を伏せながら目頭に涙をためてヘルが呟くように言った。
「えっと、別に怒ってるわけじゃないぞ」
これは凄まじく気まずい、ミラとリーナの視線も痛い、その視線はクラスの女の子を泣かしてしまった男子に送られるそれだ、まぁ実際そうなっているのだから、何も言えないわけだが。
「そ、そうなのか?」
「そうだ」
「本当に怒ってないのじゃな?」
「本当に怒ってない」
「よかったのじゃぁ、妾安心したのじゃ」
それから事の次第をミラとリーナに説明してなんとか痛い視線を止めさせることに成功した。
「じゃあヘル、眷属について話してくれ」
「眷属とは言葉のままの意味なのだ、従属はただ従っているだけだから、得られるものも少ない。
けど眷属は其の者との繋がりを大きく持つと言うわけで、まぁ言ってしまえば其の者本当の配下になると言うわけじゃな。
簡単に言えば、雇った傭兵が従属だとするのならば、眷属は長年連れ添った仲間という事じゃ」
最後のわかりやすい例えありがとう、まぁ言葉からなんとなくの意味はわかるけどさ、ヘルの話を聞く限りまぁよくある異世界テンプレと変わらないと見てまず間違いない。
こんなちょっとしたイベントが朝食前にあったものの、その後は特に何事もなく朝食を済ませた。
ちなみに本日の朝食は昨日の古竜肉を使ったカツサンドで、とても美味しく頂きました、はい。
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再び転移魔法で宿屋に戻って来た俺たちはそのまま冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドの扉を開くとそこには、昨日の1人として冒険者がいなかった光景とは打って変わって大勢の冒険者たちで溢れかえっていた。
俺たちに向けられる視線は驚きや畏怖、尊敬と言ったものが約3割、残りの7割は俺たちを品定めする視線と、俺たちを嘲る視線が半々と言ったところかな。
前者の視線は恐らく昨日のあの場にいたや 奴だろう、後者は昨日のあの場にいることを許されなかった低位から中位の冒険者たちでだろうな。
「はっはっはっは!こんなガキどもが来るとは冒険者稼業もえらく舐められたもんだぜ」
後者の視線を送っていた奴らの中の1人がそう言って俺らの方に近づいて来た。
よく見てみると、褐色肌をしたスキンヘッドで大きなバトルアックスを背負っている、確か、アストラル王国で俺に絡んで来たやつもスキンヘッドだった気がするが、スキンヘッドは誰かに絡まないと気が治らないのだろうか?
俺の前に仁王立ちして腕を組んでいるスキンヘッドさん、もう面倒なのでステータスを見ることすらしない。
《…》
あれ、今リエルの反応がおかしかったような…
もしかしてこいつかなり強いんじゃないだろうか?とてもそうは見えないけど。
(どうかしたのか?)
《いえ、ただせっかく調べたステータスが無駄になってしまったと思っただけです》
(……)
リエルってこんなキャラだったっけ?いやいや、もしかしてリエルのやつ出会った全ても人のステータスを記録しているなんて事はないだろうな。
《勿論、記録しております》
あ、そうなの、なんかそのごめんね。苦労かけて。
これからは出来る限りリエルにステータスを確認するようにしようと思う、まさかリエルが拗ねたような反応をするとは。
俺がリエルの思わぬ一面に絶句していると、それを自分を見て怯えているとでも思ったのかスキンヘッドが調子に乗り出して好き勝手言っているが、リエルの衝撃が強すぎて全く頭に入ってこない。
しかしそんな穏便な俺の琴線に触れる言葉がスキンヘッドから飛び出した。
「おっ、後ろの嬢ちゃんたちはえらい良いとこゾロいじゃねえか。
その嬢ちゃん達はオレが遊んでやるから嬢ちゃん達を置いてさっさと家に帰りな」
欲情したような視線を俺の後ろにいる3人に向けながらそう言ったのだ。
ちょっと調子に乗りすぎだと思いませんか?
「うるせぇんだよ、木偶の坊が」
「あぁ?お前何調子に乗ってやがる」
もう、やっちゃって良いだろうか?ここでコイツをボコしたらかなり目立つ事になるが、昨日の作戦をやった時点で目立たない事は既に諦めているから関係ないし。
「何をやっているのですか!?」
どうやらスキンヘッドにとって命の女神様が現れたようだな、カウンターの奥から現れたのはお馴染みエリナさんだ。
彼女がもう少し声をかけるのが遅かったらスキンヘッドは今頃床に転がっていただろう、俺の手によってではなく後ろの3人の手によって。
え?俺がコイツを殴るとでも思った?そんなことするわけないじゃないですか、こんな小物に何を言われようともなんとも思わない、大きな器の持ち主なんですよ俺。
「昨日ぶりですねエリナさん」
「ソータさん、問題を起こさないでくださいよ」
呆れたようにそう言われてしまったが、俺にそれを言われても困る、今回の問題に関してはスキンヘッドが勝手に言いがかりをつけて来たのだから。
「ソータは悪くないのじゃ、そこのハゲいきなりが妾達に絡んで来おったのじゃ」
「それは本当ですか?」
ヘルの言葉を聞きスキンヘッドの方に向き直るエリナさん、昨日まではヘルにビビりまくってたくせにもう普通に話せるとは、流石はプロといったところか。
ちなみにスキンヘッドはエリナさんの登場から唖然と立ち尽くしている、何故こんなことになっているのだろうか?
《総帥秘書としてエリナの名は広く知られており、実力もSランク以上なので彼はエリナの突然の登場に戸惑っているようです》
はい、説明ありがとうございました。それにしてもエリナさんのSランク以上だったのか。
「貴方に聞いているのです、なんとか答えてください」
「は、はい!身の程を知らない子供が来たので怪我をしないうちに家に帰るように注意していました」
よくもまぁスラスラと嘘が出るもんだ。
「そこの貴方、この方が言っている言葉に嘘偽りはありませんか?」
「いや、そいつの言っている事は嘘でそっちの嬢ちゃんの言ってることが正しい」
エリナさんが近くにいた他の冒険者に確認をとった際に即座に嘘が発覚した。
冒険者仲間に売られるとはコイツよっぽど嫌われていたのかな?
《後々に嘘が発覚した場合、確認を取られた者も嘘を言った場合重い処罰を受けることが原因だと思われます》
成る程、リエルの説明で理由がわかったよ。
「という事ですので、貴方は冒険者ランク2階級降格処分とし、昇格権を一年間剥奪します」
「そ、そんな…」
有無を言わさないエリナさんの断言にスキンヘッドは嘆くしかなかった。
「ではソータさん方は奥で総帥がお呼びですのでこちらに」
エリナさんの言葉に周囲の冒険者達が騒つくが気にしせずに、エリナさんの後をついて行った。
昨日と同じように転移魔法陣に入り転移した先は直接の総帥室だった。
「よく来てくれたの、ソータ殿にミラ殿、リーナ殿そしてヘルティア殿。
まぁ、まずはそこにかけて下され」
俺たちはジークラスさんの勧めるがままソファーに腰掛ける。
「では、早速で悪いのじゃが、本題を言わせて頂きたい」
そんな事いちいち俺に許可を取る必要があるのか?それにいきなり本題という事は恐らく…
「どうぞ」
「うむ、ではこれを」
そう言って差し出されたのは1つの手紙だ、手紙の封には派手な金の刻印が使われている。
「国王陛下がソータ殿達に宛てた物ですじゃ」
やはり国王、王族がらみの要件か、そうして俺は手紙の封を切った。
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新作です!!
異世界暗躍〜最強の勇者様?ただの商人です〜
そこそこ読める作品だと思うので是非読んでみてください。
*ちなみに題名は仮名なので変更するかもしれなれません。