31話 VS古竜2
「と言うわけで、衣装選びをしたいと思います」
宿屋に一度帰り人目のないことを確認してからアビスへと戻ってきた俺はミラとリーナの2人に向けてそう言った。
そもそも、スタンピードの準備といってもこれといってすることは無い。
通常…まぁ普通はこんなことする奴はそう滅多にいないと思うが、スタンピードを人為的に起こそうと思えば、ダンジョンの下層から殺気をバラまきながら表に出るだけで事足りる、しかもそれが自身が管理するダンジョンともなるとそれすら必要としない、ただそうなる様に操作すればいいだけだ。
では何の準備をするのかと言うと、それは勿論コスチュームだ。
謂わば明日は俺たち3人のデビューを飾る晴れ舞台と言っていい、ここでもし舐められるものならば、それはそれは面倒な事や鬱陶しい事になることは火を見るより明らかだ。
つまり!俺たちは明日のデビューを何としてでも成功させなければならないのだ!!
「意味がわからないわよ!?」
「と言うわけでってどういう事ですか!?」
にも関わらず、ミラとリーナは怪訝そうな視線を俺に向けながらそう叫んだ。
「ふぅ〜、そんなこともわからないのか…」
「いや、普通はわからないかと」
「私もそう思います」
「む、仕方ないな説明してやる」
ジト目でそう言う2人に理由を教えてやる事にした、うん、やっぱりちゃんと教えてあげる俺は心が広いなうん。
「まず前提として明日スタンピードを起こす事は把握しているな?」
「えっ?」
「勿論です」
「ふ、ふふ勿論私も覚えてますよ!」
今ミラの奴、えっ?って言ったよね、リーナに同意して誤魔化そうとしているけどそうはいかない、結構バッチリ聞こえたしね、ほらリーナもジト目でミラの事見てるし。
「…でもこれと言って」
「この雰囲気でスルー!?」
せっかく善意で見逃してやったと言うのに、自らツッコミを入れるとはな。
「ミラ、うるさいぞ」
「そうですよ、私は何も聞いていませんから」
「その優しさが逆にツライ!!」
ミラが本来の目的を忘れていた事に1人悶えているがコントにしか見えないのは何故だろう?それにこのままじゃ話が進まないな。
「ミラのコントは置いといてだな、明日のスタンピードは俺たちにとって世間的に始めて実力を見せる舞台になる訳だ、でも見た目がしっかりしてないと侮られるだろ?」
「まぁ、そうですね」
「だからしっかりとした装備でやらなければならない、つまりは衣装選びという訳だ」
「成る程」
リーナが納得した様に頷く、ミラ?ミラならさっきからしゃがんでブツブツ独り言を言っているけど…
よし見なかった事にしてあげよう。
「それに、古竜を討伐して高位冒険者になったとしても、見た目がだらし無いとちょっかいを出してくる奴はいるからな」
「流石にそれは無いと思いますよご主人様」
「普通は古竜を倒す様な人にちょっかいなんて出せませんよね」
いきなり復活を遂げたミラとリーナが俺の言葉を否定するが何故だろう?
「まぁ、そう言うわけで、明日の衣装を決めるとしようか」
あの後、俺たち3人はああでも無いこうでも無いと、試行錯誤しそれだけでもこの日1日が潰れることとなり、レベリングもせずに寝る事になった。
目がさめ上半身を起こすと俺の左右にミラとリーナが寝ている、俺の名誉の為に言っておくが、これはミラとリーナからの打診でこうなったのであって決して俺の意思でこうしているわけでは無い。
何でも、2人曰くこうして寝ると落ち着くのだとか、リーナはまだまだ子供だしわからなくも無いが、ミラは見た目が子供でも中身、精神年齢で言えば俺たち3人の中で最も年上なのにと思うが、まぁ美少女2人に挟まれて寝るのは悪く無いでよしとしている。
「ん、、うぅん、おはようございます、ご主人様」
「ふうぁぁ、んん、もう朝ですか?」
そうこうしていると2人も起きた様だ、まだ眠たそうにしているが仕方がない、何せ昨日は深夜過ぎまで衣装選びに時間を費やした、子供の2人にとってはまだ睡眠が足りないと言うものだ。
「おはよう2人とも、まだ眠いのはわかるから朝飯の準備をするからまだ寝とくといい」
因みに今日の朝飯は前日にミラが作った物をアイテムボックスに入れてある、アイテムボックスは中に入れたものの時間が止まるので皿に乗せるだけで済む、つまり俺でもできる。
その後、ミラ謹製のサンドイッチを堪能し、昨日のうちに決めておいた装備を付けて早速作戦に取り掛かる。
まず、マスターキーを使ってダンジョン内の魔物達を一部暴走状態にし、それをエラムセス王都近郊のダンジョンに繋ぐように空間魔法で扉を開く、はい終わりっと。
冗談を言っているわけじゃなくこれで本当に終わりだ、あとは巻き起こったスタンピードが王都に到達する頃までコーヒーでも飲んで優雅に時間を潰すだけだ。
「ミラ、コーヒーを淹れてくれ」
ミラに頼むと直ぐにコーヒーを淹れたカップを3つ持ってキッチンの方から出てくる。
ちなみに俺が以前コーヒーを淹れたらそれはそれは酷い味になった、最早呪いとも思える俺の料理はコーヒーや紅茶にまで及ぶらしい…
それから約一時間俺たちは優雅にティータイムを楽しみ、エラムセス王都上空に転移した。
エラムセス王都では、冒険者たちを総動員して事に当たってる様で、かなりの数の冒険者たちが外壁の外に集結している。
何故、上空に転移したのかと言うと、昨日の衣装選びの際に登場するタイミングもあったほうがいいと言う話になり、ならばと一度やってみたいテンプレシリーズであるピンチに空から突然登場をやると言う事になったから。
と言うのは冗談で、まぁ多少は、本当に少しだけそう言う事情もあるが、本命は窮地を救った方が印象に強く残るし、イメージもよくなるからと言うものだ。
ゲスい考え方だが世の中そんなものだ、以前も言ったが金、権力、力があればほとんどの事がどうにかなるのが世界だからな。
とまぁそんなどうでもいいことを考えているといよいよ魔物たちが近づいて来た、遂に戦いが始まるかと思ったが予想外な事が3つ起こった。
1つ目は勢いよく迫ってきていた魔物たちの群れが急に止まり統率された様に動き出した事。
2つ目は何故か古竜が2匹いると言う事、本来の計画ではアビスから出す古竜は一体のみだったので何故2体いるのかは不明だ。
「なんて事だ…」
あまりの事態に俺がそう呟いてしまったのは仕方の無い事だった、それ程までに予想外、いや、あってはならぬ事が起こっている。
「こんな事って」
「マズイですね」
ミラとリーナも事態の深刻さに表情に影がさす。
「色がかぶってるなんて」
「流石に予想外でしたねご主人様」
「えっ、そっちですか?」
俺とミラが言っている様に何と古竜のうちの片方が漆黒、つまり俺たちが選んだ装備の色と同じと言う深刻すぎる事態に陥っていた。
リーナ1人が困惑した様に言うが他に何が問題だと言うのか?
「い、いえ、その古竜が2体いる事に対してだと」
俺と頭にはてなマークを付けたミラにそう説明するリーナ、だがしかし。
「それの何処が問題なの?」
そう、ミラが言った通り俺もその事が大した問題とは思えない。
「えっ?だって2体ですよ!あの古竜が2体!!」
確かに古竜が2体いた事は想定外だがだからと言って特段問題かと言うと首をかしげるしかない。
「リーナちゃん、別に1体だろうと2体だろうと、ご主人様にかかればどっちでも一緒じゃないですか」
そう、ミラの言う通り、別に1体でも2体でも大して変わらない、変わるのは素材と肉が倍になると言うことだけだ。
そしてそう言われたリーナはと言うとハッとした表情になり
「た、確かにそうでした。
まだ、常識が抜けきれてなかったみたいです」
「リーナちゃん、仕方ないわ。
本来ならご主人様が異常なだけだもの」
ミラとそんな会話をしている。
その様子を半ば死んだ魚の様な目で見ていると地上の方で動きがあった。
「白い方は何故か参加しないみたいだな」
白い古竜がその翼で羽ばたいて近くの小丘に、移動した。
「どういう事ですかね?」
「まぁ取り敢えずこれで本来の予定通り古竜は一体になりましたねソータ様」
「そうだな、まぁ白い方も横槍を入れてくる様なら殺せばいいさ」
そして、白い古竜が小さな火球を打ち上げそれが爆発するとともに戦闘が始まった。
冒険者達の先頭に立っていた爺さんがかなりのスピードで加速し、黒い古竜の背後に回り込みそのまま火属性最高位魔法の炎天を放つ、それと同時に前方の冒険者達の攻撃魔法も古竜を中心とした周囲の魔物達に襲いかかる。
爺さんはまた加速して元の位置に戻ったみたいだが、残念あの古竜が展開した障壁に全て打ち消されたな。
「ミラ、リーナ今のをみたか?」
「はい」
「ですがあれは一体どういう事でしょうか?」
リーナが疑問に思うのも無理はない、普通の魔力障壁ならあの炎天は受け止められないからな。
「あれは、竜結界と言って古竜の中でも上位個体のみが持つ固有能力で、あらゆる魔法を打ち消す効果がある」
「ちょっとチートすぎません!?」
「それは厄介な能力ですね」
「因みに龍種は大抵が同じ効果の龍結界を備えてるぞ」
「ご主人様、それってどうやって倒すんですか?」
「物理的に倒せばいいだけだが」
「「……」」
2人の視線が突き刺さるが意味が全くわからない。
「そんな事よりも早くそろそろ出番の様だな」
「そうですね」
「では、ソータ様私たちの分も残しておいてくださいね」
「ああ、じゃ行くか」
そうして冒険者達に向かって行く魔物達と冒険者達の間に華麗に着地を決める。
因みにミラとリーナはまだ上空に待機中だ、あの2人の出番は俺が雑魚どもを掃除してからだからな。
「さてと、よくも色を揃えてくれたなクソ古龍」
俺が指を鳴らすと龍が現れる、古竜みたいな西洋のドラゴンではなく蛇の様に長い東洋のドラゴンだ以前は火と水属性の2体だけだったが…
「蹂躙の時間だ」
詠唱破棄で現れたのは五色を彩る五体の龍その正体は、五大性質である火、水、風、土、雷の各属性魔法の最高位魔法である、炎天・蒼天・風天・地天・雷天を凝縮、維持された天龍達だ。
「行け」
俺のその声は闘いの中にあってよく響いた。
それぞれ五体の龍が動き出し、数多くの魔物達を蹂躙する、天龍達が通り過ぎた場所には雑魚の小物達は残らないそうして全ての龍が消えた時、俺より前方残っているのは突然の事に驚き固まっている黒い古龍と天龍達に耐えることができた強者のみだ。
俺の背後にいる冒険者達に負傷者はいない、そしてこれから先の闘いでも出ることもないだろう。
「「お疲れ様ですご主人様(ソータ様)」」
上空で様子を見ていたミラとリーナの2人が天龍が消えた事で俺の両隣へと降りてくる。
さて、これで役者は揃った。
「おい古龍」
唖然としていた古龍に話しかける、こんな隙を狙わないのは悪手だが、不意打ちで仕留めても意味がない正面から叩き潰さないとな。
「何が、何が起こったというのだ」
古龍はかなり動揺している様だが、そんなことは決まっている。
「何がってそんなこと決まってるじゃないか、蹂躙だよ」
俺の言葉にこの場にいる全てのものが耳を傾ける。
空間魔法でアイテムボックスから刀を手に出現させ、魔力を放つ。
「蹂躙される様な弱者はここから先は立つことさえ許されない。
じゃあそろそろ始めるとしようか闘いを」
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新作です!!
異世界暗躍〜最強の勇者様?ただの商人です〜
そこそこ読める作品だと思うので是非読んでみてください。
*ちなみに題名は仮名なので変更するかもしれなれません。