29話 スタンピード
新作あげました。
なかなかの出来だと思いますので是非、読んでみてください!!
「ソータさん、ミラちゃん、リーナちゃんおめでとうございます!」
笑顔でそう伝えてくるのは冒険者ギルドの受付嬢さんでここに初めて来た日から何故かいつも俺達の担当をしてくれている、確か名前は…エリナさんだったはずだ。
エリナさんは受付嬢だけあってその容姿は金髪碧眼であり、セミロングの美しい金髪にその青い碧眼が良く映えており、俺の周りにいるミラとリーナとはまた違った印象の美しさを持っている。
「Eランク昇格おめでとうございます!
一週間でEランクまで昇格したのは冒険者ギルド始まって以来の快挙ですよ!!」
そう今日でちょうどこの街に来て一週間が経つ、その間、低級の魔物を討伐したり薬草を採るなど新人冒険者のテンプレをこなした。
もちろん受ける依頼はGランク冒険者が受けることが出来る依頼の中で最高位のFランクの依頼のみ、それもゴブリン10匹の討伐の様に大した難易度でも無い、と言うかショボい以来なので日に複数受けるのは当たり前、多い日には確か7つぐらいは同時に受けたっけ、今となってはいい思い出だ。
兎も角そうやって依頼をこなして来て一週間俺たち3人は見事Eランクに昇格したのだ。
「ありがとうございます」
俺は笑顔で拍手をしてくる受付嬢エリナさんに同じ様に柔らかい笑顔でそう答えた。
しかしこの冒険者稼業も今日でおしまいだ、正確にはもっと上のランクでするかもしれないが新人冒険者の受けるレベルでの活動は恐らく今日が最後になるだらう、もし古竜を討伐してもランクが上がらないのならそれはもう仕方ないその時は最終手段としてギルドマスターを物理的に脅したり、もうこの国を裏から乗っ取ってもいい。
ついに明日この国の王都で過去例を見ない規模の災禍が巻き起こる、それもそのはず、この世界最大規模、最大難易度のダンジョンのスタンピードがこの王都を襲う事になるのだから。
その準備があるので今日は何も依頼を受けずに早々に帰るとしよう、帰ると言っても宿屋ではなくアビスだけどね。
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ソータ一行がアビスへと転移しスタンピードの下準備に当たっている時、エラムセス王国王都に存在する冒険者ギルド本部の一室でギルドの重鎮達を集めた定例会議が行われていた。
年に2回半年毎に開かれるこの定例会議には冒険者ギルドが各国と協力し作り上げた、国家機密である擬似転移魔法が使われている。
世界各国にある冒険者ギルドの数は3桁後半にも及ぶ、そんな数の支部長がが一斉に集まれるはずもなくここに集まっているのは各地にある冒険者ギルドの中でも規模が大きい街の支部長であり、彼らはその街を中心としたいくつかの街の支部長たちの纏め役だ。
そしてここに集まったのが50名に加えて全ても冒険者ギルドを統括する総帥とその補佐役、秘書を含めた53名だ。
「それにしても彼は一体何者なのでしょうね」
そう言うのはいい総帥の秘書である金髪碧眼の美女だ。
「彼と言うのはあのソータと言う若者かな?エリナさん」
補佐役の男が聞き返す、それにソータ達の受付嬢をやっていたエリナ、いや冒険者ギルド総帥秘書のエリナが答える。
「そうです、史上最高速度の僅か一週間でのEランク昇格、しかもあの若さです。
さらには恐らく彼らの実力はAランクに匹敵する程です、にも関わらず今まで全くの無名そんな事があるでしょうか?」
そのエリナの言葉に集まった支部長達が騒つく、冒険者ギルドのランクでは上から4つ目とパッとしないが、Sランク以上の冒険者の数は全体の1%にも満たないのだ、そしてAランク冒険者と言うと一国の主力にも当たる戦力を保有している、そんな存在が無名のはずが無いのだ。
「確かにエリナ殿の言う通り、彼は我がアストラル王都支部にて、Bランク冒険者を軽くあしらう程の実力を示しています。
そしてAランク程度ならすぐになれるとも言っておりましたな、まあ、あの少女2人はいませんでしたが」
そう言うのはアストラル王国王都支部のギルドマスターであるヒューズだ。
ちなみにギルド支部長のギルドマスターよりも総帥秘書のエリナの方が地位が高い。
そして周囲の支部長達はヒューズの言葉を聞いてさらに騒めきを大きくした。
「鎮まれい」
その一言で今までざわついていた全員が押し黙る。
「その少年の事よりも今はかの者達のことの方が重要じゃ」
一言で各支部長を黙らせ、落ち着いた様子でそう言ったのは冒険者ギルドを統べる総帥のジークラス、元SSSランク冒険者で戦争になった魔王を一体屠っている。
今は見事な白いヒゲを生やし、温厚そうな顔をしているがその眼光は未だ衰えることはなく鋭く光っている。
「そうですね今はかの者達、勇者達のことの方が重要です」
補佐役の男がそう言うのも無理はない、勇者はまさに一騎当千であり過去のでしょうでも全員がSランク冒険者以上の実力を備えていると言う、そんな存在とAランクに届くかどうか程度の新人とだったら勇者の方が優先度が高いのは必然だ。
「そうですな」
「その通りです」
などと支部長達もその発言に同意する、彼が、その新人冒険者が勇者など遥かに凌駕する存在だと知るはずも無く、彼らの会議は無事に進んでいく。
この裏で今まさにその新人冒険者がこのエラムセス王都に災禍を運ぼうとしていることも知らずに…
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昨日の定例会議も問題なく終わった、儂もそろそろ歳だし早く隠居したいのだが、そうもいかない。
なぜならアストラル王国が異世界から勇者を召喚したと言う、それも1人や2人ではなく30人もだ、全く勘弁してほしいモノだ。
「儂が魔王を倒したのは遥か昔、全盛期だと言うのに、そもそも儂が倒した魔王は新たに生まれた新米まだまだ未熟で真の魔王達には到底及ばない程度のヤツだったのだがな」
にも関わらず未だに隠居できないこの現状、儂なぞよりもっと強い者も適任な者もいるだろうに、閃光の大魔導師などと呼ばれていたが、それは過去のものだと言うのに。
朝目が覚めてはじめに考えるのがこれとは…いかんいかん、最近は老化が進んだからか自虐的な考えをすぐにしてしまう。
これからは勇者達に対する対応などで忙しくなるのに、しっかりしなければならん。
「それにしても新人冒険者か」
秘書であるエリナが言っていた新人冒険者とは一体どのような子なのか、聞く話によるとまだ若いと言うし将来有望なのは確かじゃな、一度会ってみるとしようかの。
「ジークラス様!!」
そんなことを考えている時だった、慌ただしく足音が聞こえ、ノックもなしに部屋の扉が押し上げられた。
本来なら無礼を咎めるべきなのだろうが、儂はそんな事は特に気にしない、それにやってきたギルド職員の焦燥した表情を見るに何か問題が発生したのだろう。
「何事じゃ?」
まさか勇者達が何かやらかしてくれたのだろうか?
「そ、それが大規模なスタンピードが確認されました!!」
「何!?スタンピードじゃと!」
ギルド職員の予期せぬ解答に驚愕の声をあげる。
スタンピードと言えば魔物達が大挙して押し寄せるまさに天災。そんな天災が今まさにここで起きたというのか!?
「して規模は?」
「はっ、確認できる災害級が数百体、災厄級が約100体、災禍級が30体」
そして帰ってきたギルド職員の言葉に絶望がよぎる。
「まさかそれほどの規模のスタンピードがおきたというのか!!」
そんな規模のスタンピードが起きた事は歴史上確認された事は一度もない、そしてこの周囲のダンジョンにそれほどの規模のダンジョンは存在しないというのに何故!?
しかしギルド職員の報告はそれで終わりではなかった。
「い、いえ、さらに天災級が一体恐らく古竜と思われます」
その言葉で絶望が明確なものになる、
「それは間違いでは無いのだな?」
「…」
無言で視線を伏せるギルド職員のそれが真実だと言うことを物語っていた。
「スタンピード到達までの猶予は?」
「恐らく一時間程度かと…」
それだけしか無いのなら住民を避難されることすらままならない。
「今すぐBランク以上の冒険者と各地のギルドマスター達を招集せよ」
「はっ!」
そう言って走り出すギルド職員の背中を眺めながら覚悟を決める。
今回の戦いで恐らく儂は死ぬだろう、老後の隠居生活を送れない事は心残りだが、それでも多くの命があるこの王都をやられる訳にはいかん。
そして恐らく儂は古竜と対峙する事になる、その勝率は五分、いや3割と言ったところか…
それでも諦めるわけにはいかない、多少の被害は出るだろうが、それでも古竜さえどうにか出来たら助かる道はあるこのエラムセス王都支部に在籍するBランク以上の全冒険者達がいれば災禍級までならどうにかなるはずじゃ。
「さて、準備をするとしようかの」
久しく使っていなかった愛杖を引っ張り出し、現役時代の装備を身に待とう。漆黒のローブはあの迷宮アビスから持ち帰った世界に二つと無い最高性能の逸品だ。
そんな逸品を失うかもしれないのは人類にとって大きな損失だ。しかし死地に持って行く事を許して貰いたいモノじゃな。
ギルドに備え付けられている訓練用の広場に出ると儂の姿を見て大勢の冒険者達と各地のギルドマスター達が悟ったような表情や驚いたような表情、そして覚悟を決めたような表情をした者達が整列して待っていた。
元来、気性の荒い冒険者達が誰一人無駄口を叩く事なく整列している姿は壮観だ、彼らは理解しているのだろう、今から赴くところが己の死地となると言う事に。
儂はそんな彼らの前にある壇上に立つ。
「諸君よく集まってくれた、スタンピードが発生した事、そしてその規模は既に聞いていると思う。
その上で言おう、辞退したい者はそれもよかろうこの場を去ってくれて構わん」
そう言うと、幾人かの冒険者達が驚いたような顔をしたが出て行こうとする者は一人たりともいなかった。
「皆、よく覚悟決めてくれた。
恐らく今回の戦いで儂は古竜と対峙しそして死ぬだろう」
そう言うと今まで黙っていた冒険者達が少し騒めく。
「しかし、タダでやられるわけにはいかぬ、今回の戦闘での勝機は儂が古竜と対峙している間にどれだけ他の魔物を減らせるかにかかっているのじゃ。
皆の腕にこのエラムセス王都住民の命がかかっておる、必ずや我らが勝利するのじゃ!!」
そう言って軽く杖を掲げる、そして場は割れんばかりの歓声に包まれた。
「さて死地に向かうとしようかの」
そうしてスタンピードがやってくる方向の門に構える、どのレベルの古竜かは知らんがタダでは死んでやらん、最低でも道連れにしてやろう。
雄叫びをあげる若い冒険者達を見て改めてそう決意する、若い芽を摘ませてなるものかと。
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新作です!!
最強商人の異世界暗躍〜最強の勇者様?ただの商人です〜
そこそこ読める作品だと思うので是非読んでみてください。
*ちなみに題名は仮名なので変更するかもしれなれません。