27話 冒険者登録
約一ヶ月の旅の末やっと到着した三大国エラムセス王国王都、その外壁は高くアストラル王国王都を思い出す。
因みに三大国である、アストラル王国、エラムセス王国、メイビス帝国はAWOでは始まりの三カ国として誰もが訪れる事がある国だ、その為国土も他の国よりも広く軍事力も大きい。
その三大国にはそれぞれ特色があり、力のメイビス帝国、金のアストラル王国、そして和のエラムセス王国として周知されていた。
その名の通りメイビス帝国では力をつけるためのイベントが多数あり、同様に金を稼ぐにはアストラル王国が最も向いている、そして和のエラムセス王国は平和を重んじ、自然が楽しめるいわゆるリゾート、休憩の地とされていた、そしてそれは現実となった今でも変わってはいない。
そしてアストラルと言えば外壁で絡まれると言う鬱陶しい出来事を思い出す。
しかしそんなイベントが早々あるわけがなく何事もなく門を潜ることが出来た、まぁそれが普通なのだが。
「へぇ〜」
「ふぁあ〜」
とミラとリーナがそれぞれ広がる街並みに対する感嘆の言葉を漏らす。
「ここは変わってないな」
そう、門を潜って直ぐに目に飛び込んで来たのは462年前と何ら変わらぬ平和な景色だ、馬車が4台は並べて通れる広さの大通り、その脇に生えてある色彩のある木、そして行き交う人々も何も変わっていなかった。
「和むな」
「そうですね」
「綺麗な街ですね!」
精神年齢の差か、見た目が少女であるミラが落ち着いた様にそう返し、ミラより少し小さいがとても落ち着いている様に見えるリーナが子供の様にはしゃいでいる、まぁ子供なのだが。
そしてリーナの言う通り今の街並みはとても美しい、
視界に映る紅葉の様な葉が背景となるレンガ造りの建物が良く映えている。
実際にはレンガ造りの建物はそんなに多くは存在しないが、こうして見るとレンガの色と紅葉の色が見事にマッチしている。
そうして、その美しい街並みを眺めている間に俺たちがこの王都にいる間に使う宿屋に着いた。
何故来たばかりなのに宿の場所を知っているかと言うと勿論リエルに検索してもらった結果だ、そして、今回の宿屋の条件は広い、警備、風呂の3つにこだわって選んだ。
前回までの宿屋選びでの最優先事項は料理の美味さだったが、ミラが仲間になったことでその問題は解決している、調理場は転移してアビスの拠点…面倒なのでアビスと呼ぶ事にするが、あそこに戻れば事足りるし必要なら亜空間に調理場を作ってもいい。
そして俺、ミラ、リーナの三人で過ごすには部屋の広さがある程度は必要になる、まぁこれも亜空間の部屋と繋げたりアビスに戻ればいいので優先順位は低い。
次に大切なのは警備機能の高さだ、その理由は勿論転移魔法にある、そもそもこの時代では転移魔法を使える者など殆どいない、もし転移魔法を使える事が露見すれば面倒な事になりかねないのだ。
そして最も重要なのは風呂だ、日本で暮らしていた俺にとって風呂は生きていく上で大切なポイントになる、そしてこればかりはどうにもならないのだ。
実は、アビスには風呂がないゲーム自体には勿論必要無かったものだし、増築しようにも地下200階には運良くお湯が沸く事なんてそんなに都合のいい事なんてあるはずがない。
魔法でどうにかできるだろって?何をおっしゃるやらそんなまやかしで満足出来るほど俺は妥協しません。
と、まぁそんな理由で俺たちの旅にはにわか風呂しか無かったのだ、なので最も重要なのは風呂、それも温泉がある宿屋に限定して検索をかけてこの宿屋に行き着いた。
ちなみに俺たちは今その宿屋の部屋の中にいる、参考までに言うとここは宿屋というより旅館です、はい。
宿屋と言うには規模がかなり大きい、数百人の客をさばける宿屋何て俺は認めません、それは宿屋ではなく旅館と言います。
まぁハッキリ言って宿屋でも旅館でもどっちでもいい、重要なのは風呂だ、ここを選んだ理由がそれなのだからそれ以外はどうでもいい。
「よし、風呂に入るか」
「そうですね」
「本場のお風呂楽しみです!」
地球で慣れているからか又もや落ち着いている様子のミラと、地熱で熱されたお湯、つまりは温泉は初めてではしゃいでいるリーナ。
部屋を出て廊下を進み、湯と書かれた暖簾が掛けられている入口の前まで到着する、そしてその暖簾を潜り脱衣所に入る、今の時間帯は昼間だからかそこに人の気配2つしか存在しない。
そう、2つである。
「キミたち此処は男湯だけど、何してるのかな?」
部屋を出てから此処までミラとリーナがずっと付いて来ていた、生命感知で解っていたのだ、この風呂の周辺に誰もいない事は。
そして、女湯の前を通り過ぎてもミラとリーナが俺の後ろをついて来ていた事に、しかし!それに反応しては負けだと、決して反応してなるものかと無視していたが、まさか脱衣所にまで何の躊躇もなく入ってくるとは思っていなかった。
「お風呂に入ろうかと思いまして」
さも当然と言う様にミラがそう言った、その後ろではリーナがうんうん、と頷いている。
「ここは男湯だけど?」
「大丈夫です、女将さんに言って貸切にしてもらいました」
ニヤリと笑みを浮かべるミラ、こいつはまだ諦めていないのだ、この一ヶ月事あるごとに何らかの手を使ってくるが残念ながらその成果はいまだに出ていない。
まぁ成果が出ていてはマズイのだが、何と言ってもミラはまだ12歳だしな、リーナは言うまでもないだろう。
ちなみにミラが貸しきるために使った金は盗賊さんのお財布から拝借している、少年、少女に幼女三人での旅だ盗賊にして見ればカモにしか見えない事だろう。
「まぁいいか」
というわけで俺は今いつものメンバーで風呂に入っている、隣には落ち着いた様子でミラが湯に浸かっており、リーナは泳いだりしてはしゃぎまわっている。
やっぱり風呂は癒される、風呂には汚れを落とす以外に精神的に満たされる何かがあるのだ、一ヶ月の旅で染み付いた疲れが一気に溶けて出て行く感じがする。
そんな素晴らしい風呂を堪能し俺たちは冒険者ギルドの前に来ている、ちなみにミラの努力はまだ成果を出していない。
「やっとか」
「やっとですね」
「私ギルドと言う所は初めてなので緊張します」
このエラムセス王国王都に到着したのでやっと冒険者ギルドに登録しに来たのだ、今まで寄った街にも冒険者ギルドは存在した、しかし寄った街は殆どが本当に通っただけだし、冒険者ギルドは登録した場所の所属となってしまうので王都に着くまで冒険者になっていなかった。
しかし、これでやっと冒険者になることが出来る、これでまた異世界転移テンプレを1つ体験出来る訳だ、これで絡まれるテンプレはアストラル王国で体験済みなので発生したら鬱陶しいだけだが。
「行くか」
チリンチリンと鈴の様な音が鳴り冒険者ギルドの扉が開く、そして中に居た冒険者たちの視線が俺たちに殺到する。
ある者は訝しむ様に、ある者は面白そうに、ある者は笑みを浮かべて、俺たちを見てくる、その中には不愉快な視線もあるがこれがテンプレなので仕方がない。
視線が集まるのも当たり前か、こんな子供の集団が来る場所ではないのだから、しかしその視線を全て無視し受付まで進む、昼間であるからか利用している者は少なく、並ぶ必要もなく受付嬢に用件を伝える。
ちなみに受付嬢は獣人ではないらしく獣ミミはなかった。
「俺たち三人、冒険者登録をしたいんだが出来るか?」
その言葉を周りで聞いていた冒険者達が騒つく。
「可能でございます。
では、こちらの用紙に必要事項を記入して下さい。
代筆も可能ですが必要ですか?」
アストラル王国の受付嬢とは違い、ごく普通に対応してくる受付嬢、その動作の所々に動揺があるのは仕方ないか。
「いや、必要ない」
そう言って受付嬢から紙を受け取り、そこに名前などを記入していく。
「この職業は必ず書かないとダメなのか?」
「いえ、職業はその人の生命線でもあるので記入なさらずとも結構です。
お名前と性別、年齢を最低限記入下されば結構です」
「なるほど、ではこれでいいですか?」
そう言って、俺はミラ、リーナの分を含めて3枚の紙を受付嬢に渡す、それを流れる様な速さで確認する受付嬢。
「これで大丈夫です、ではこのカードに血液を一滴垂らしてください」
そう言って渡されたのは黒いカードだ、これはアストラルの王城で渡されたステータスプレートと同じで名前と年齢ギルドのランクなどが表示される物で冒険者カードと、呼ばれている。
「ではこれで冒険者登録は完了です。
こちらがあなた方の冒険者カードになります、無くされると再発行に料金が発生するのでお気を付け下さい。
ようこそ冒険者ギルドへ!」
さあニッコリ微笑む受付嬢。
「ありがとうございます」
そう言って冒険者カードを受け取る、カードにはそれぞれの名前と年齢そしてGランクと記されていた。
何はともあれこれでやっと冒険者になることが出来た、しかし俺は冒険者で名を成すつもりは無い、遊び半分に冒険者をして金を稼ぎテンプレを体験したり旅行をしたりしたい事をして、せっかく現実となったこの世界をゲーム時代は出来なかった楽しみ方で堪能する事が俺の今の目的なのだから。
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ソータ達が去った後のギルド職員の間ではソータたちの話で持ちきりだった。
「あの子がアストラル王国王都支部でBランク冒険者を一蹴したって言う子なの!?」
「多分ね、回って来た情報と一致するし。
まぁあの女の子2人の情報はなかったけど」
「それにしても、3人とも整った顔立ちをしていたな」
などと言う話がされていた事をソータは知る由もなかった。
実を言うと、ソータがアストラル王国王都支部でBランク冒険者ガッドを一蹴したと言う情報は直ぐに各国の冒険者支部に伝えられた。
その為、受付嬢は明らかに少年の見た目をしているソータやその仲間を見ても動揺するだけで、あの猫ミミ受付嬢のような対応は取らなかったのである。
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