23話 蠢く陰謀
リーナ・リディース・アレネメスはメビウス帝国の東方に存在するアレネメス国に父である国王、もうすぐ成人の3人の兄達とそして3つ上の姉に見守られながら第二王女として生を受けた。
アレネメス王国は規模こそ、かの三大国に及ばぬものの西にメビウス帝国、さらに東には十魔王が一柱、獣王が収まる国がありその周囲にもアレネメス王国よりも小規模な国々が点々とある。
アレネメス王国はそんな立地を生かして商業国家として三大国にも引けを取らないレベルで栄えている。
そんな国に生まれた第二王女は幼少期からその才を発揮した、国民や母、父である国王はそんな彼女を天才だと、褒め称え愛情を注いで育てる。
父や国民の寵愛を惜しみなく受けたリーナはすくすくと育った。
しかし父や国民の寵愛がリーナに向くのをよく思わないものもまた存在した。
それは一部の大臣や貴族そして何よりも以前は自らに集中していた寵愛をリーナが生まれて以来、彼女に奪われたリーナの姉、第一王女であるリズ・アルフォール・アレネメスである。
本来なら大臣や貴族が国王の実子であるリーナに寵愛が注がれるのは喜ばしい事だとするはずだ、何せリーナは6歳にしてその才を認められ天才とまで呼ばれているのだから。
しかし、リーナの母親はアレネメス王の正妻では無かったのだ、側室の元女冒険者との間に生まれたのが第二王女であるリーナであり、正妻との間に生まれたのが第一王女であるリズだった。
また、リーナにはリズの他に3人の兄がおり、彼等もまたリーナに惜しみない寵愛を捧げ、そこにリーナが側室の子であったとしても隔たりは無く、家族として迎えられていた。
しかし、そんな様子を見たリズはまたしてもリーナに兄達の寵愛を奪われたように感じそして恐ろしく感じた。
このままでは全てを妹に奪われてしまう、そうなれば私はもうこの国に必要ない存在になってしまうのではないか、と。
実際には国王や王子さらには国民も第一王女であるリズも第二王女であるリーナにも同じように深い愛情を注いでいたのだが、リズにはそれがわからない。
今まで自分にだけ父や兄、国民は注がれていた愛のこもった視線が今では妹の方に向く、今まで自分に微笑みかけてくれていた笑みが妹の方に向く。
全ての人が今まで自分を見てくれていたのに何処からか湧いた妹に全てを持って行かれたようにしかリズには感じられなかったのだ。
そしていつしか仲の良かったはずの妹を敵視するようになりリーナが8歳になった時にはリズはリーナを無視するようになっていた。
そんなある日、とある大臣がリズにある話を持ちかける、そして大臣とリズ二人の密談が行われ、会議室から出てきたリズの目には既に光はなく、薄暗く濁っていた、共に出てきた大臣と共に…
リズと大臣の密談から三年の月日が流れリーナは11歳になっていた。
いつの頃からか姉であるリズに無視されるようになったが、なぜか理由は思いつかない、そして今日こそは姉と昔のように楽しくお喋りをしようと決意を胸に自室で寝間着から着替えて家族の元にむかう、その裏で張り巡らされてきた策略に気づくことなく。
その日はいつもと違ったいつもは父や家族がいるはずの部屋までにメイドや警備や兵士なんかとすれ違うものだが今日は違った。
そればかりか、何処と無く空気が重い気がするのだしかし、それを気のせいだろうといつもと同じ家族で食事をとる部屋に入ってリーナが目にしたのは、家族達と、こちらに武器を向けている数名の兵士だった。
「リーナよ、姉であり第一王女であるリズを殺害しその地位を我が物としようとした罪がお前にかかっている」
中央の椅子に座りそう言い放った父、国王の目は光なく濁っていた、いや父だけではない、その場にいた全てのものがそんな父と同じ目をしていたのだ。
「お父様!それにお兄様達もお姉様一体どうしてしまったのですか!?」
リーナの叫びも虚しく父が兵士に命令を下す、リーナを捕らえよと。
いくら天才と言われそう言われるだけの才能を持っていようともリーナは所詮は11歳の子供であり、しかもここにいる兵士は王の護衛も務める精鋭だった。
リーナは武器も持たず相手はフル装備しかも一対多そんな状況でリーナに勝機はなく僅かながらの抵抗も虚しく簡単に拘束されてしまう。
縄で手足を縛られて地に伏せられたリーナにアレネメス国王は言った。
「我が娘リーナよお前は姉への嫉妬から姉を暗殺しようとした。
本来ならば即刻打ち首だが、お前は我が娘でもある。
そんなお前を殺すのは儂も忍びない、よってこれから先アレネメス家の名を語ることを一切禁ずる、そして犯罪奴隷として生き延びるがいい」
その日のうちにリーナは裏のルートを通って犯罪奴隷となった。
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リーナが連れていかれた後アレネメス王城の謁見の間で王座に座る王とその周りには完全に光を失っている目をしている王子達と王女そしていつかの大臣が並びその前には妖艶に嗤う青年が一人立っていた。
その青年は優雅な立ち振る舞いで静かに嗤う。
「フハッハッハ、やってくれましたね、アレネメス王よ。
まさかあの様に娘を逃すとは思いませんでしたよ」
「だ、誰がお前らの、、言い成りに、なぞ、なるものか」
途切れ途切れに言葉を返したアレネメス王の目には少しばかりながらも強い意志がこもった光が宿っていた。
青年はその様子に少し眉をひそめたがまたすぐに妖艶に微笑み言う。
「あの小娘を始末できなかったのは誤算でしが…まぁいいでしょう。
あなた方を手中に収めた時点で我等の目的は半ば達成されたも同然なのですから」
「我が、子供達は、、け、決して、殺されは、せぬぞ、吸血鬼め」
「殺す?なぜそんな事を私がする必要があるのですか?
あなた方は私いえ、あのお方に操られる駒となるのですから」
そう言って楽しげに嗤う青年の姿をした吸血鬼に対しアレネメス国王は悔しげに顔をしかめるしか出来なかった。
「さてこれからあなた方はどの様に愉快に踊ってくれるのでしょうか」
その後にはその吸血鬼の嗤う声しか響いてこなかった。
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商業都市マティカルを後にし、馬車の中でリーナから聞いた話をまとめるとこういう事らしい。
俺が新しく買ったリーナはアレネメス王国の元王女らしいが、ある日突然、父や家族が変貌し光のない濁った目でリーナを冤罪にかけて犯罪奴隷に落としたらしい。
…あの時はリーナの持ってる称号とかで反射的に彼女の事を買ったが、間違いだったかもしれないな。
俺の記憶が間違っていなければ…まぁ確実に間違ってはいないが、アレネメス国王や、リーナの家族の状態は俺の知っているある状態と一致する。
「ミラ、リーナ面倒なことになるかもしれないぞ」
「どういう事ですかご主人様?」
「もしかして何かご迷惑をお掛けしましたかソータ様?」
因みに俺の事をご主人様と呼ぶのがミラでソータ様と呼ぶのがリーナだ、俺としては元王女であるリーナに様付けで呼ばれるのは変な感じがするのだが、言っても頑なに辞めてくれないので既に諦めの極地にある。
「いや、俺の知ってるある状況と今のリーナの話に出てきたアレネメス王達の状況が酷似している、多分今回の一件には奴らが裏にいる」
「奴ら…奴らとは一体」
「何者なんですか?」
当事者であるリーナは表情を強張らせ、ミラは相変わらずのテンションで聞いてくる。
「他者の血を吸い生まれながらに人間よりも遥かに強者」
「ま、まさか」
「そう、吸血鬼だ」
「で、でもなぜ吸血鬼がそんな事を、魔王の策略ですか?」
驚愕のあまり固まっているリーナに変わりミラが疑問を口にする。
「いや、あいつはそんな面倒なことはしない奴だった、何かあれば力でねじ伏せる奴だったからな。
まぁ魔王が関与している可能性よりは野良の吸血鬼が裏で糸を引いている可能性の方が高いかな」
「ご主人様って一体何人の魔王と知り合いなんですか…」
小さい声で呆れた様に呟くミラを軽く無視しながら呟く。
「面倒なことにならなければいいが…」
とは言ってもこちらにリーナがいる時点で今回の騒動に必ず巻き込まれることになる、そう思い至り内心溜息を吐く。
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