14話 冒険者ギルド
冒険者ギルド
それはこの世界の様々な国に存在しながらもどの国にも属さない独立した組織であり世界最大の組織でもある。
そんな冒険者ギルドはここアストラル王国の王都にももちろん存在しており、俺は今その建物の前までやってきたいた。
この世界では珍しい石造りの二階建てで構築されたその構築は、冒険者ギルドの威容を雄弁に語ってくれている。
入口の扉は普通に木製で出来てはいるが、横に数名が連なっても十分なほどの幅があり高さもまたそれに準ずるサイズになっている。
扉を開けると、鈴のような音が鳴り、周囲に来訪者の存在を周知されるようになっており、その音につられてギルド内にいた冒険者達の視線が一斉に注がれる。
(リエル、この中に出来そうな奴はいるか?)
《いえ、この中にソータ様を傷つけられるようなものは存在しておりません》
「ふむ」
そう呟き未だに注がれる数多の視線を無視して空いているカウンターに向かう。
そうしてそこのカウンターにいる人物を見て軽く驚いた、何故ならその頭には猫のような耳が付いていたのだ。
(リエル、この人は獣人種か?それともこう言った趣味の人なのか?)
《この人物は獣人種だと推測されます》
(この世界に来てから驚いてばかりだな…)
そう、過去に俺がいた時、つまりはゲームとしてこの世界に干渉していた時は、人種領に獣人はほぼ存在していなかったのだ。
「あ、あの、お客様どうかなされましたか?」
「ん?ああ、すまない。
別に大した事じゃない、気にしないでくれ」
「そうですか…
それでお客様、本日はどう言った御用でしょうか?」
「取り敢えず、冒険者登録したくてな、ここで出来るか?」
「はい、それは可能なのですが」
そう言って、受付嬢の猫ミミが訝しむ目を俺に向けてくる。
「ん?どうかしたのか?」
「いえ、どうかした事は無いのですが、お客様は冒険者になる事の意味を本当に理解なさっておいででしょうか?」
「ああ、一応理解しているつもりだが」
「お客様はどう見ても16、7歳にしか見えないのですが…」
「それがどうした別に成人してなくたって冒険者登録は出来るはずだが」
「そ、それはその通りなのですが…その何と言いますか…」
「はっきり言ってやればいいんだよ、弱い奴が冒険者になって死んで依頼が失敗になったら困るってな」
受付嬢が言い淀んでいると、横から声が聞こえて来た。
そちらに目を向けるとそこにはスキンヘッドの如何にもな奴が片手に酒瓶を携えてこちらを見ていた。
(リエルあいつの解析を頼む、情報量が多いから必要ないところは表示しなくていい)
《了解しました》
そうしてスキンヘッドのステータスが表示される。
姓名:ガッド
種族:人族
レベル:41
その結果こいつが大した事がないことが判明した、確かに一般的に見てはそこそこ強い方だろうが俺にとっては大した問題はない。
「それで、さっさと登録してくれ」
「テメェ!俺のことを無視したんじゃねぇよ!」
「はぁ、俺に突っかかってくるな、それと早くしてくれ…」
俺が呆れたように言うと慌てて受付嬢が説明を始める。
「す、すみません。
まず冒険者ギルドの事を説明します。
冒険者ギルドはどの国にも属さない独立組織であり、冒険者達に仕事の斡旋をしております。
しかし、冒険者ギルドは国に属していないとはいえ管理上の都合で登録した都市の所属となりますので、祖国で登録したいと言う事でしたらご注意下さい。
また、冒険者にはランクがあり上から順にSSS、SS、S、A、B、C、D、E、F、G、と言った具合にランク分けされており、ランクが上がるにつれ高難易度な依頼の受注が可能にになって行きます。
なお、もし依頼受注中に亡くなられた場合事前に納金されていた罰金額が依頼者に支払われます。
と、これが一応の説明になりますが、本当によろしいのですか?
冒険者になって成功するものはほんの一握りの者のみです、そればかりか実力が無ければ死に直結する事になりますよ」
「そうだ、お前みたいな実力もねぇ雑魚が足を踏み入れるべき所じゃねぇんだよ!」
「ふむ、そうだな構わない、早速登録してくれ」
「おいおい、俺の忠告を無視するたぁ痛い目見なきゃわかんねぇのか?」
「ガッドさんやめて下さい!」
この場で暴れられては困るのか受付嬢が割って入るが…
「ミールちゃん、こう言ったつけ上がったガキには現実を見せてやらねぇとわかんねぇのさ」
「し、しかしですね…」
「ミールちゃんも無駄に死人が出るのは嫌だろ?」
「…わかりましよガッドさん。
ではこの方にこの世界の厳しさを教えてあげて下さい」
おいおい!!
それでいいのか受付嬢!普通止めなければならない立場の筈だろうに、しかしこんなんじゃあここで登録していいのか不安になって来たぞ…
「おい、ガキ表に出な、現実の厳しさってやつを教えてやるよ」
そう言って豪快に笑いながら入口とは違う扉に向かって歩いていくスキンヘッド、俺はため息をつきながらもそのあとをついて行く。
そこは訓練場のようでそこそこな広さがあり、さっきまで俺たちの事を面白がって見ていた奴らが野次馬になって来ているがまだ十分な広さがあった。
そして俺の正面でバトルアックスを余裕の表情で構えているスキンヘッドが立っていた。
「さあ、何処からでもかかって来な」
隙だらけの構えで何故そんなに余裕があるのか不思議なほどスキンヘッドは余裕を見せている。
「はぁ」
なぜこんなことになったのだろうとため息とともに地を蹴りスキンヘッドに肉迫すると慌てふためくスキンヘッドの足を払ってやる。
そうすると突然のことに何の反応もできなかったスキンヘッドは重力に引かれるままに尻餅をついた、唖然としていた表情が次第に険しくなっていき…
「て、テメェ何をした!?」
「はぁ、もういいよ、お前の言う通りここではもう冒険者登録はしない事にするよ」
わざと周囲にも聞こえるように声を上げる、と、その時
「おい、これは何の騒ぎだ!?」
そんな怒鳴り声が訓練場に響き渡った、そちらに目を向けると40歳ぐらいに見える男がこちらに向かって来ていた。
「あんたはここのギルドマスターか?」
「ああ、その通りだそれでこれは何の騒ぎなんだ、お前が原因に見えるが?」
「おいおい、俺は巻き込まれただけ、被害者だ」
「おいミール!今日、受付の総監を任されていたのはお前だな?
何があった?」
ギルドマスターがそう叫ぶと、野次馬の中にから、さっきの受付嬢が出てくる。
「はい、実はですね…」
そうしてミールの口から語られる話を聞いてギルドマスターは呆れたような表情になる。
「…と言う事でして、勿論お客様の実力は把握できましたので登録に異議はありません」
と、説明を締めくくったミールだが、あの程度で俺の実力を把握したと言ってしまうとは…
「大体の事情はわかった、次からはこんな事で騒ぎを起こすな、それとそこのお前冒険者登録は問題ない、Bランクのガッドを一蹴できるぐらいだからなAランクにはすぐに上がれるだろう、だが、その程度で慢心せずにこれからもこの支部で精進する事だな」
「ん?それはもしかして俺に言っているのか?」
「は?お前以外に誰がいる?」
「さっきも言っただろ、ここでは登録しないってな、聞いていなかったのか?」
「何を言っているんだ?」
「だから、ここじゃあ登録しないって言ったんだよ」
その瞬間受付嬢とギルマスの顔はは困惑と焦燥が浮かぶ。
「何そんな驚いたような顔してんだよ、大体、絡んでくるベテラン冒険者、さらには痛めつけてやるって言われているのにそれを止めようともしないどころか賛成する受付嬢を見て、その事を咎めないギルドマスター、そんなのを見てここで冒険者をやろうってなる奴がいるわけ無いだろ」
「ま、待ってくれ私の権利ですぐにAランクとして登録してやるぞ、Aランクと言えばギルドの主力となる存在でそこそこの地位でもあるし名誉もある、考え直さんか?」
「はっきり言ってやるよ、やろうと思えばここじゃなくてもAランク程度すぐになれるんだよ、不愉快な思いをしたようなところで登録することはないな」
その言葉を聞いて受付嬢の顔色が青くなっていく、今になって自分のした事の重大さに気づいたのだろう。
冒険者ギルドは治外法権が認められている代わりに戦時などの時に戦力の提供をしなければならない、つまりその支部で登録している冒険者がその支部の評価に直結するのだ。
そして、Aランク以上の冒険者は全体の一割にも満たないのだからそれ程の存在が自らのせいで逃してしまったと考えるとその責任の重さもよくわかる。
「じゃあな」
そう言って青ざめている受付嬢と唖然としているギルドマスターの隣を通り過ぎその場を後にした。
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