104話 告白
「ふぅ……久々に学校に行ったせいか、眠いな」
もしかすれば、先程の謎のミラ特性ドリンクの効果かもしれないけど。
『状態異常無効により、某液体の効果は無効化されています』
あっ、はい、だそうです。
まぁ、リエルが断言するんだから間違いないだろうけど。
任意で解除しない限り、害ある効果を無効化するパッシブスキルである状態異常無効が発動するって……ミラの奴、俺に何を飲ませたんだ?
「うーん、俺の知らぬ間に俺の身体を使って人体実験されたそうで怖いな……」
まぁ、ミラはそんなことを簡単にはしないだろうけど。
うちには、それを容易く許可してミラにやらせかねないヤツがいるからな。
『……自動シャットダウンを開始、翌朝7時に再起動します。
では、良き夜を我が主人』
「…えっ?」
いやいや、冗談のつもりだったんですけど…え、何?
もしかして、マジなの?マジなんですかっ!?
「おい!リエルさんっ!?」
俺の叫びも虚しく、外の喧騒が一切ない静寂が訪れる。
そして、俺はソファーに深く座り直し足を組み、頬杖をつくと。
湧き出る不安をかき消す様に余裕の笑みを浮かべた。
「フッ、俺とした事がこの程度の事で取り乱すは。
仮に俺に害があるようならリエルが許しはしないだろうに」
俺でも管理しきれていない節がある。
膨大な量のスキルの管理を完璧に行なっている俺の守護神とも言えるリエル大先生が許諾しているのだ。
一体何を恐れる必要があるというのかね?
フッフッフ…。
と多少わざとらしく余裕の笑いをもらしていると、再び部屋のドアがノックされ、服に手をかけて……停止した。
危ないところだった。
よくよく考えてみれば、あのネルヴィアが行儀正しくノックなんてするか?
もし俺が誰かにそんな質問をされれば、鼻で笑った答えてやろう!
冗談は顔だけにしてくれと!!
アイツなら確実に、ノックなんてせずにドアを開ける。
もし仮にしたとしても、それはノックなんて呼ぶのも烏滸がましい、蹴破る・ぶち破ると言った行為だろう。
つまり!この扉の外にいるのはネルヴィアではないということになる!!
そして、今この状況で俺のは部屋を訪れる可能性が最も高いのは…ミラだ。
ふっ、我ながら完璧な推理だな。
「はいはい、何か忘れ物でもしたのか?」
はたして扉の先、そこに居たのは……
銀色の長髪を左右に纏めたツインテール、飲み込まれそうな錯覚を覚える深紅の瞳。
僅かに上気し赤らんだ頬で、遠慮がちに上目遣いで見上げてくる潤んだ目。
「ミ…ラ?」
可愛い…。
そこに居た少女を見て、真っ先にそんな安直な感想が浮かんだ。
「ど、どうかしたのか?ソータよ」
「ん、いや、何でもない。ネルヴィア」
いかん、いかん!
俺とした事が数巡の間、思わず見惚れてしまっていた。
この俺が、ネルヴィアに見惚れる?
……ないないない!だって、ネルヴィアは妹みたいなもんだし!?
「まぁ、取り敢えず入れよ」
努めて、内心の動揺を悟られぬように言った。
こんな場面でも完璧なポーカーフェイス…
「?わかった」
不思議そうに首をコテンと傾げながらも、俺の横を通り過ぎて部屋に入ってくるネルヴィアさん。
俺ってポーカーフェイス上手いよな?
でも、最近何かとポーカーフェイスを看破されてるような気が……
「さてと早速、飲むか?」
「む、どこへ行くのだ?」
ソファーに向かって歩きながらそう提案すると、ネルヴィアから予想外の問いが帰ってきた。
「どこに行くも何も、ソファーに……何でベッドにいるの君?」
振り向くと、そこには当たり前のように俺のベットに腰かけたネルヴィアの姿が目に入る。
「そ、それは…その、だって首筋から血を吸わせてくれるって」
普段のネルヴィアからからは想像もできない消え入りそうなこの態度。
恥ずかしそうに、顔を伏せてしまったんですけど…
そして脳裏に蘇るミラがとった謎の言動。
いや、まさかな……
俺から見てネルヴィアが妹みたいな存在なのだから、ネルヴィアから見て俺は兄貴的存在のはず!
けど、よく見れば。
ネルヴィアの服装は、膝下丈ではあるものの、薄く透けてしまいそうな純白のネグリジェのみ。
いやいや、流石に考えすぎ…
『首から血を吸うことの意味をネルヴィア様に聞いた方がいいですよ!』
まさかね。
だってその行為に特別な意味なんてないでしょ?
もし仮に、万が一、億が一の確率で何らかの意味があったとしても。
それを、世界トップランカーたちの頂点に立ったこの俺が知らないはずがない!
……けどまぁ一応、聞くだけ聞いてみるとしよう。
「な、なぁ」
情けない事に、ネルヴィアに話しかける声が僅かに震える。
「俺の首筋から血を吸うってどんな意味があるんだっけ?」
「っ!」
すると、息を飲んでネルヴィアの顔が真っ赤に染まる。
けど、別に怒ってるわけじゃないな、これは恥ずかしがってる感じだ。
そして、数秒の恥じらいの後、ネルヴィアが覚悟を決めたように俺の目を真っ直ぐに見つめた。
「わ、我ら吸血鬼の女子にとって。
同族、他種族の異性の血をその首筋から吸う事は所謂、求愛の意味合いを持つのじゃ」
ネルヴィアのその言葉に思わず目を見開く。
「ソータのその様子……やはり、知らなかったようじゃな」
そして、そんな俺を見てか、ネルヴィアが自嘲気味に笑みを漏らす。
「私は、私は昔からソータのことを好いておった。
昔、あれほど毎夜のように血をせがんだのも。
まだ幼く番いを持てぬ吸血鬼が、その者を他者に取られぬようにする為のマーキングみたいなものじゃ」
「なるほど、だからいつも俺だけにか」
「む、余裕じゃなソータよ、私は結構恥ずかしいのだぞ!」
俺の冷静な声音にネルヴィアがムキになった風に声を上げる。
けど、それは言われなくてもわかる。
だって、ネルヴィアの顔真っ赤だし。
「ソータが昔も今も私にそのような気を持っていない事は知っておる。
それでも、未練たらしくマーキングまでしていた私を笑いたければ笑うがいい!!」
今にも泣きそうな程目に涙を溜めながらも、ギュとネグリジェを握りしめ、気丈に堪えるネルヴィアに対し……
「ふん」
俺はそう軽く鼻で笑った。
「勘違いするなよ、ネルヴィア。
俺は、何事においても真剣な奴を嘲るほど落ちぶれちゃいない」
そう、だからこそ真剣な思いを抱いているお前に対して、俺も真剣に向き合う。
「っ!?」
そんな俺の言い知れぬ覇気を感じとり、ネルヴィアが息を飲む。
「確かに、俺はお前の行動の意味を知らなかった」
ネルヴィアの腰掛けるベッドに向かって歩きながら、上着を脱ぎ。
困惑する様子のネルヴィアに対してさらに一歩ふみだすと、すぐ目の前には今にも泣きそうなネルヴィアがいる。
「だが、そこまで真剣な思いを向けられておいて無視するようなグズでもない。
それに……」
高さを合わせるために片膝をつくのはちょっと恥ずかしいので。
ヒョイっと軽いネルヴィアを持ち上げてベットに座りその膝の上にネルヴィアを座らせる。
そして、こっちの方が恥ずかしくね?
と、思わなくもないが、この際そんな事はどうでもいい。
「お前が泣くのはもう見たくない」
真っ直ぐ真剣に顔を真っ赤に染めたネルヴィアと目を合わせ、首筋を差し出した。
「よ、良いのか?私で…
私がわがままを言っているせいで、無理をしているのではないか?」
不安そうに、そんな事を聞いてくるネルヴィアに対し、自然と不敵な笑みが浮かんだ。
「この俺が、好きでもない女にこんな事すると思うか?」
「っ!!」
再びネルヴィアが息を飲むが、そこにはさっきまでの辛く泣きそうな顔じゃなく。
目尻に涙を浮かべながらも嬉しそうに笑った顔があった。
「本当に、良いのだな?」
「当然だ」
目尻に浮かんだ涙を拭き取ると、目元を少し赤くしながらも、ネルヴィアもまたニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「ふむ、吸血鬼を統べる夜の女王たる私にどこまで対抗できるか、楽しみじゃな」
「言ってくれるな。
なら、そんなお前にいいハンデを教えてやる」
「ハンデじゃと?」
「そうだ。
俺は、この肉体に転生してからはこれが初体験だ」
えぇ、そうですよ、見栄を張りましたけど何か?
何が、この肉体に転生してからはこれが初体験だ、だよ!
前世って言うか、向こうの世界ではAWOの事を黙って陰キャに徹していた俺に彼女なんていた筈もなく。
世界ランク1位だったゲーム内ではそもそも色街など一部の場所を省いて禁止されていた。
もちろん、世界1位に立ち続けるために全ての時間を費やしていた俺がそんな所に行った事があるはずもない。
つまり!この肉体もクソも、生まれてこれまで彼女さえも一度も使ったことのない生粋の童貞ですがっ!!
こんな雰囲気でそんなこと言えるはずねぇよ!?
ここで見栄を張らなかったら男じゃないな、うんうん!
内心、荒れまくっているが、そんな事は噯にも出さ無い。
「ほう、つまりは今のソータは童貞という事か。
面白い、さっきの言葉がどこまで持つか試してやろう」
……え?もしかしてバレてますか?
けど、いつのまにかネルヴィアの様子もいつも通りに戻った事だし、まぁいいかな。
「クックック……ソータよ」
「ん、どうした?」
「ありがとう」
一通り不敵に笑い合い、ネルヴィアが俺の首筋に牙を立てる直前。
そう言って、嬉しそうにはにかんだ。
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「伝説の吸血鬼となった商人は怠惰スローライフをお望みです」
そこそこ読める作品だと思うので是非読んでみてください!!