102話 格好をつけてみた
城からの使者って普通、帝国の貴族でも無い俺の所に来るものなのかな?
まぁ、あの皇帝なら特に理由もなく使者をよこしそうだけど。
理由が何にしても、面倒そうな事この上ない。
厄介ごとは勘弁してほしいものだ。
「それってさ、やっぱり行かないとダメだよな?」
「私個人としては何とも言えませんが。
旦那様の執事として言わせて頂くとすれば……その方がよろしいかと」
「やっぱ、そうだよね。
そんな訳でちょっと向こうに行ってくるけど、先に飯でも食っといてくれ……って誰も聞いてないか」
改めて部屋を見渡すと、未だに呆けているネルヴィアに、ニヤニヤしながらそんなネルヴィアを連れて部屋を出て行く女性組。
面白そうに、それを見てるヴァイスロギア。
「私はしっかりと聞いていますよ?」
しっかりしてるのはアヴァロスだけのようだ。
まぁ、ミラが夜ご飯を作っていてキッチンにいるからミラを省いてだけどさ。
「……はぁ、悪いけどアイツらの世話を頼む。
とは言っても、そこまで遅くなるつもりはないけどな」
「そうですね。
遅くなれば、ネルヴィアに嫌われてしまうかもしれませんよ?」
アヴァロスのやつ、なんて恐ろしいことを言うんだ!
もしだ、もし仮にネルヴィアに血を吸わせてやる約束をすっぽかしたりしたら……
「晩飯までには絶対に戻ってくることにする」
それだけ言うと、何処と無く楽しそうなアヴァロスから視線を切って、部屋を出る。
けどまた、何であの皇帝もこんな時間に使者なんてよこすかな?
いくら皇帝と言えども、よろどの事以外でこんな時間帯に使者を送ってくるなんて非常識にもほどがある。
まぁ、あの編入試験からしてあの皇帝は非常識だったけど。
「それで、門は?」
「既に開いております」
流石だね。
アヴァロスといい、ノワールといい、出来る男は一味違うわ。
「それにしても、使者が来るんなら、わざわざエラムセスの家に戻ってこなくても良かったな」
二度手間になったことに対して軽くため息をつきつつ、たどり着いた両手開きの旅を開ける。
すると、あら不思議。
ついさっきまでエラムセス王国のユーピルウス侯爵邸にいたはずなのに、今はもうメビウス帝国の別荘にいるなんて!
とまぁ、冗談はさておき。
いやー、やっぱ転移魔法って便利だわ。
今みたいに転移門を作って設置することもできるしね。
「じゃ、打ち合わせどうりに頼む」
「承知いたしました」
ノワールはそう言うと、一礼すると共にスゥッと消えた。
消えたと言っても見えなくなってるだけで実際にはここにいるんだけどね。
それなりに広い、別荘の廊下を歩いて応接室に入る。
もちろん、ノックはしたよ。
「お待たせした」
「いえ、非常識な時間に来たのはこちらですし、お気になさらないでください」
あっ、非常識って認識はあったのね。
それなら、明日にでもしてくれれば良かったのに。
「それで、城から私にどの様な御用でしょうか?」
「皇帝陛下より、こちらを預かっております」
そう言って差し出されたのは上品な封蝋がなされた手紙。
よく見なくても、この封蝋は帝国のものだ。
封を切って手紙を読むと、季節の挨拶から始まり、長々と書いているが……
「要約すると、今から城に来いと」
「はい。
晩餐のお誘いとおっしゃっておりました」
晩餐ねえ。
まぁ、皇帝陛下から直接、晩餐に誘われるのは名誉な事なんだろうが……はっきり言って興味ないんだよね。
そんな事よりも、ネルヴィアが怖い。
怒り狂ってエラムセスの王都が消え去りそうでかなり怖い。
「ノワール」
俺が名前を呼ぶと、俺が座っていた椅子の隣に音も無くノワールが姿をあらわす。
チラッと使者を見ると、やっぱり予想通りビックリしてるな。
ポーカーフェイスを気取っているけど、この俺の目はごまかせない!
一度でいいからこういうの、やってみたかったんだよな!
いやぁー、もう満足だわ。
ノワールに皇帝からの手紙を渡し、代わりにティーカップを受け取る。
因みに、使者殿は俺がこの応接室に入った時には既にお茶が用意されていた。
ノワールにもらったお茶でも喉を潤して、使者に向き直る。
こんな時間に来たんだ、ちょっとくらい格好をつけてもいいと思う。
「嬉しい申し出ですが、残念ながら今夜は先客がいると皇帝陛下にお伝え下さい」
有無を言わせないために、ちょっと圧をかけてそう言うと。
使者殿は何も言う事なく静かに頷いた。
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「伝説の吸血鬼となった商人は怠惰スローライフをお望みです」
そこそこ読める作品だと思うので是非読んでみてください!!