見習い鍛冶師の隠された能力!
スキル説明の回が続きます。
新しくプレイするゲームのスキル確認とか、結構好きな人間です。
アイコンに触れると知りたかった《見習い鍛冶師》の詳細が表示され始める。
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《見習い鍛冶師》
生産と技術の複合固有能力。素材を用いて武具を製作することが可能である。
また製作の際は、魔力(MP)を消費することで本来の工程を省略することができる。
ただし、アビリティレベルに合った武具しか製作することができない。
既存の武具にスキルや魔法などを付与できる。
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そこにはきちんとした情報が載っていた。
あっ、意外にこういう所はしっかりしてるのね。
そんな事を思いながらある文章に目が引かれた。
既存の武具にスキルや魔法を付与できる。これって地味に結構凄いのでは?
例えばよくあるRPGものだと、剣とかに炎や雷を付与できたりして魔物に大ダメージを与えるとかあるし。
実は当たりの部類のアビリティなのかもしれない。そう信じたい。
となるとその能力とやらを試してみたいな。どうすれば武具に付与できるのだろう?
ショートソードを握りながら、空いた片方の手を剣に翳し鍛冶師のアビリティが発動するように念じてみる。
けれど、それらしい効果は一切現れなかった。
何か発動するためのトリガーが必要なのか?
そのヒントを求めて、もう一度詳細を確認する。
意識を集中し眺めていると、アビリティ名である《見習い鍛冶師》の文字だけ青くなっていることに気付く。
すかさずにそこに触れると、さらなる情報の開示がなされた。
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◇ヴァルカンの槌派生
主に攻撃系に特化した能力を武具に付与できる。
また自身が製作した刀剣類、槍類、槌類などの性能を向上させることが可能。
自身の武器に対する修理技術が上昇。
その代わり防具類の製作・修理技術が減少する。
◇ゴヴニュの槌派生
主に防御系に特化した能力を武具に付与できる。
また自身が製作した防具類などの性能を向上させることが可能。
自身の防具に対する修理技術が上昇。
その代わり武器類の製作・修理技術が減少する。
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空中に突如として二つの文章が現れた。
しかもどちらの説明の先には、進化派生後の欄らしきものが存在し、まだその能力の大半が隠されている感じだ。
よくあるスキルツリーみたいなものなのだろうか。現状ではそこまでは分からなかった。
だがこれもアビリティを使い込んでいれば、そのうち時間が解決してくれるだろう。
そして大きな問題が生じる。
『どちらを選びますか?』という選択画面が出てきたのだ。
これはどちらか一つしか選べないということなのか? だとしたら真剣に選ばないと不味いのかもしれないぞ……。
攻撃を取るか、防御を取るか。実に悩ましい選択肢だ。せめてお試しでどちらも使った後に選ばせてもらえないものだろうか。
うんうんと唸りながら考えてみる。だが元々優柔不断な性格のために中々踏ん切りがつきそうになかった。
やがて一つの結論に辿り着く。攻撃は最大の防御だ! という安易な考えに。
いや、別にゲームの主人公みたいに格好良く剣に炎とか宿して無双したい願望があるとかじゃないですよ?
ただ、それを使用している姿がちょっと主人公っぽいとかも決して思ってないですよ、ハイ。
そんな言い訳じみたことを自分に言い聞かせながら、ヴァルカンの槌の方が欲しいと願う。
そうすると選択画面が消え、何も持っていない左手がいきなり輝き始める。
そして数秒も経たずにその手には槌が握られていた。
《鍛冶師の魔法槌》を入手しました。
おぉ、やっとそれらしいアイテムが出て来たぞっ! 今まで虐げられた状況にあったから、こんな普通のことでも感動して泣きそうだ。
早速利き手である右手に鍛冶師の魔法槌に持ち替える。それから左手に握っているショートソードの刀身に槌を打ち込んでみた。
カンッ! と金属同士がぶつかり合った特有の音が周囲に響き渡る。
《武具にスキルを付与しました》
打ち込まれたショートソードが一瞬輝くと同時に、スキルが付与されたことを報せるアイコンが空中に浮かぶ。
たったの一発叩きこむだけで済むとか、さすが名前に違わぬ《魔法槌》だなとしみじみ思った。
だが、何のスキルが付与されたのかまでは教えてくれなかった。そこまでは範囲外なのかな?
なので視線をショートソードに移し、凝視してみる。
◇ショートソード スキル付与状態
《斬り付け》《突き刺し》
《回転切り》
すると自分の思いが通じたのか、ショートソードの少し上に武器の状態を表すアイコンが出てきた。
あの工程だけでスキルが3つ付くとは、なかなかお得なアビリティだな。《見習い鍛冶師》は便利能力であると認識を改めよう。
それじゃ早速。スキルが付与されたこれを使って、いっちょ試し切りしてみますか。
実はもう体が試したくて試したくてウズウズしていたのだ。飽くなき好奇心は抑えられないものなのだ。
周囲にある木々を見渡し、丁度剣で斬りやすいくらいの高さにある枝が伸びている木を発見する。
それからその木に近づくと攻撃が届くほどの距離を取り、剣を構えた。
「ハアァァッ!」
剣の柄を力強く握り、勢いよく刃を振り下ろし枝を斬り付ける。
バキッ! という音を立てて直径10cmほどの枝が幹から切断された。
「マジか! こんな素人並みの剣術で切れるとか凄いな!」
まさかの斬撃の威力に興奮する。
経験がある人になら分かる話なのだが、それなりの厚さがある木を切るのには相当な労力を要する。
特に生木なんかは乾燥した木とは違い、水分を多量に含んでいるのでその分斬り辛い。
しかも、木を切るために特化した工夫がショートソードに施されている訳ではない。
それにも関わらず、一回の斬撃でこうもあっさりいくとは思ってもみなかったのだ。
「いいところ、枝の半分まで剣の刃が通れば良いなぐらいにしか考えてなかったのだが。素晴らしいね!」
自分の中で《見習い鍛冶師》の評価が急上昇する。
戦闘スキルが何一つ無い状態でこっちに転移させられたけど、これならば辛うじてこの世界でも生きていけそうだ。
俄然やる気が湧いてきたな。
ついでに他のスキルもどれ程の威力なのか、目の前にある木で確かめてみるか。
再び剣を前に構えなおして、意識を集中する。
そして動かない木を目掛けて突きを繰り出した。
剣には自分が込めた以上の力が乗り、気付けば素早い刺突が繰り出されていた。それはスキルである《突き刺し》が発動したためだろう。
風を切る音を出しながら、刃が木の幹を易々と貫通していく。
やがて刃の半分が飲み込まれたところで、威力を失ったのかそこで剣が止まってしまった。
やっぱり剣の根元までは貫通しないかと思いながら引き抜こうとする。
けれど、がっちりと木の中に埋まってしまっているようでビクともしなかった。
「あ、これちょっとやばいかも」
少し焦りつつも本腰を入れて引っ張てみる。しかし結果は同じで全く抜ける気配がない。
まいったな、このままじゃ貴重な武器をこんなマヌケなことで失っちゃうぞ。
そう思っていた矢先、ある考えが頭の中に浮かんでくる。
またスキルを使えば簡単に抜けるのでは? と。
そこで剣を握ったまま《回転切り》が発動するように念じる。
それに応えるかのように突然身体の奥底から力が溢れ出し、刺さったままの剣を右側に振りぬこうとする。
力が最大限まで高まると身体が一気に回転し始め、埋まった状態から見事に木の半分を切断した。
切断された木はバランスを失い、隙間が空いた右側に傾いたが倒伏せずにその場で留まる。
「あぶなっ、倒れてこなくて良かった。下手したら下敷きだったな、これは」
内心安堵しながら引き抜いた剣を見やる。
一連の流れで《突き刺し》《回転切り》を試すことが出来たが、どちらも《斬り付け》と同等に使えることが判明した。
堅い木を相手にここまで威力を発揮したのだ。これなら道中、魔物と遭遇しても何とかなるだろう。
身体が岩で構成されたり鉄の鎧で覆われていなければの話だが。まぁ、序盤でそんなヤベー奴に遭うことはないだろう。
他愛の無いことを考えながら、剣を『インベントリ』に戻そうとした時ふと思い出す。
そういえば、持っていない戦闘スキルを2つ使ったのに獲得しましたってアナウンスが出なかったな。
剣を手にしただけで《斬り付け》は簡単に入手できたのに、使用した《突き刺し》《回転切り》が身に着かなかったのは何故なのか。
もしかしたら、戦闘スキルの獲得はあくまでも武器に依存しているのかも知れないな。
いずれにせよ、機会があれば槍とか戦斧でも握って確かめれば分かるだろう。
今は《見習い鍛冶師》の能力が理解できただけでも良しとするか!
やり切った表情を浮かべながら次にすべきことを考えるのであった。
前回に引き続きスキル解説コーナー
《突き刺し》
刀剣類を装備した状態で特定のモーションを行うと素早い刺突を繰り出すことができる。
威力は武器に依存する。因みに発動する際に、一々集中して念じなくて良い。
《回転切り》
刀剣類を所持したまま自分を中心に回転し、周囲に斬撃ダメージを与えるスキル。
威力は武器+自身の攻撃力。尚、こちらも念じる必要性などは一切ない。