ようこそ異世界《イベリス》へ!
授与された固有能力は、いったいどんな能力なんだっ⁉ 的な展開です。
しかしながらルチアよ。タイトルでオチがついてるんだ……
冷たく固い地面のごつごつとした感触と植物の爽やかな青臭さを感じ取り、ルチアは目を醒ました。
「うぅ……。酷い目にあった」
どうやら魔方陣による転移の影響なのかしばらくの間、気を失っていたらしい。
地面の上に大の字に寝そべり、全身を大地に預けた状態であった。
早速、頭を上げて辺りを見渡してみる。
すると視界に飛び込んできたのは、見渡す限り無数の木々と植物たちに囲まれている風景だった。
「えーと……。ここはどこかの森林かな?」
ついそんな言葉が口から出てしまう。
だって自分が飛ばされるのは、もっと安全な草原とかそのあたりかと思っていたんだもの。
だが周囲には人工物はおろか人影すら確認できないほどの自然が広がっていたのだ。
これが現実。運命とは非情である。
このまま嘆いていても仕方ないので、とりあえず動き出すか。
あんまり無駄に時間を費やしていたら、いつの間にか日が暮れて、ここで野宿とか勘弁だしな。
せめて雨風がしのげて屋根のある所で眠りたい。そのためには、まずこの森林から脱出しなければ。
「そうとなったら、定番のステータス確認だ!」
誰も居ないことを良い事に、恥ずかしげもなく叫んでみる。実は結構心が躍っているのだ。憧れの異世界に来れたのだから。
頭の中でステータス画面を表示したいと考えると。その思考に呼応したのか、空中にMMORPGとかでよく見るアイコンが現れる。
それを見た瞬間。本当に自分が日々妄想していた世界に来れたのだと内心感動した。
感慨にひたりながらも『MAP』『ステータス』『装備』『インベントリ』『スキル一覧』の項目から『ステータス』を選んでアイコンに触れる。
そうすると問題なくステータスが表示された。
さぁ、お待ちかねの能力確認といこうじゃないか!
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Lv1
HP1578
MP120
攻撃力275
防御力136
魔法攻撃力53
魔法耐性0
年齢 17歳
固有能力《見習い鍛冶師》
職業 無職
職業特性 無職なのでありません
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「えっ、これだけ?」
またしても驚きの声が漏れてしまう。
だってMMORPG系のステータスを考えていたから、もっとこうDex,Str,Int,Luckとかの数値があるだろうなと思う訳ですよ。
それなのに出てきたのが、結構素朴なステータス欄だったからちょっとビックリした。
まぁ、あんまり複雑な数値があるとややこしいから、これはこれでいいけど。
そんな数値のことよりもアビリティだ、アビリティ!
女神曰く優秀な能力が授与されたのだ、きっと自分に相応しい超チート系アビリティに違いない。
逸る気持ちを抑えながら、アビリティ欄を確認する。
――するとそこにはっ⁉
《見習い鍛冶師》
ん? 見間違いかな?
眼が疲れているのだと思い目蓋を良く揉む。
何だかんだでこっちに転移する前は、深夜だったからな。寝不足が関係していたに違いない。
そして再び見やる。
《《《見習い鍛冶師》》》
「なん……だと……?」
そこにはでかでかと、明らかに貧弱そうな固有能力名が表示されていた。それが意味するものとは!
「いや、これ単純に大外れじゃん⁉」
くそ、女神の野郎。何が優秀なアビリティですよ、だ。完全に専門の技術系アビリティじゃないか。
これは転移早々、無理ゲー状態ですわ。見習い鍛冶師君がこの世界でどう人助けをしろと? 寧ろこっちを救ってくれ。
一気にやる気を削がれ、頭を抱えて地面に座り込む。
マジでどうしようか。
その時、まだ一縷の望みがあることを思い出す。
「そうだ、アビリティがダメでも通常スキルがあるじゃないか!」
アイコンを表示すると、すぐさま『スキル一覧』に手を触れた。
そして、手持ちの戦闘スキルの欄が現れる。
《使用できるスキルが何一つありません》
あ、今度こそ完璧に終わりましたね。
さようなら異世界、こんにちは死後の世界。
戦闘スキルも無しで送り出すとか、完全に女神の奴に舐められてたな。間違いなく断言できる。
あー、苦痛なく死ねる方法はないかなぁ。
半ば放心しながらスキル一覧を見ていると、生産と技術スキルの表示バーがあることに気付く。
どうせこっちにも何も無いんだろうと思いながら手を触れた。
――だが。
《インゴット精錬》《スキル付与数増加》《属性開放》
《武具鍛錬》《武具作成》《武具修理》《武具耐久強化》
《逆境》《鉱物学》《強肩》《研ぎ師》
何かいっぱいある、その数11個も⁉
「えっ、マジで?」
まさかの事態に少し気力が回復する。
使用できるスキルが存在するだけで、こんなにも嬉しいとは。
ただ所持しているスキルを眺めていると、名前だけでは判断できないものがチラホラとある。
精錬とか武具なんかは直感的に判断できるのだが。スキル付与とか属性開放といったものはサッパリだ。
どこかにスキルの詳細情報を教えてくれるアイコンはないかと探してみたが見つからない。不親切設計だ。
けれど分からないなら使用して確かめればいい。スキルが存在しない訳ではないのだから。
そう考えると女神から『駆け出し冒険者パック』なる物を貰っていたことを思い出す。
それらが収納してある『インベントリ』を呼び出し確認する。
きっとインベントリの中には、冒険の際に役立つ強力な武具やアビリティに対応した何かが入っているはずだ。
そこには鍛冶師に合わせたアイテムも、パック内容のとして含まれているに違いない。例えば鍛冶師の槌とかね。
いざ表示されたインベントリの中身を確認する!
《冒険者の服上下》《冒険者の靴》
《冒険者の心得(本)》
《下級回復薬×10》《乾パン(3日分)》
《ショートソード》《所持金1500G》
うん、知ってた。安心と信頼の舐めプ女神クオリティだもの。
せっかく取り戻した気力を再び失わないよう、心を閉ざす。
期待するから悪いのだ。
若干、心を殺しながら(?)アイコンに触れて《ショートソード》を取り出してみる。
するとショートソードは瞬時に現れ、利き手である右手に装備された。
それと同時にアイコンが表示される。
戦闘スキルを獲得しました。
《斬り付け》《武器捌き》
手に持つといきなり戦闘スキルを獲得できた。
あー、そーゆーことね。完全に理解した。
異世界ものを読んだ知識から憶測ではあるが、スキルの入手方法を大体把握することができる。
おそらくだが戦闘や生産、技術系の通常スキルを入手するには、それに関連する物を使用すればいいのだろう。
先ほどのように、刀剣類を握れば《斬り付け》が得られたのだから、裁縫とかのスキルが欲しければマチ針や裁ちバサミなんかを手にすればいいはずだ。
スキルの仕組みが分かれば簡単だ。そうなると俄然やる気が出てきた!
戦闘スキルさえあれば、まだこの世界で生き抜くことができる。
当面の目標は手当たり次第武具に触れることだな。
すっかり調子が戻って来るとアビリティのことが気になってくる。
心に余裕ができたからだろうか。外れアビリティだけれど、数少ない使用できる能力だから少し愛着が生まれたに違いない。
ステータス画面を呼び出し表示させる。
そこには変わらずに《見習い鍛冶師》のアビリティ名があった。
新たに戦闘スキルを入手しても変化は何もないか。そりゃ、そう簡単にはいかないよなぁ。
苦笑しながらそんなことを呟いていると。ステータス欄の隅にある項目を発見する。
ん? 固有能力詳細だと。
先ほどはステータス値と見習い鍛冶師に気を取られていて気づけなかったが、凄い便利な機能がちゃんとあるじゃないか。
今後の異世界生活に必要になるかも知れないから、きちんと詳細を見とくか。
そう思いアイコンに触れるのであった。
折角のスペースなので少しずつ所持スキルの説明をしていきます。
《斬り付け》
剣を扱う者ならば誰でも手にすることができるスキル。剣を振れば自動に発動し、対象物に弱い斬撃を与える。
《強肩》
このスキルがあるだけで所持者の肩への負担が軽減される。剣や槌を振り回しても疲れにくくなる。因みに四十肩にもならない。