異世界転移者説明会!
転移までの説明パートが続きます。
さっさと転移したい所存。
「月見里ルチアさん。貴方は異世界転移者として選ばれたんです。これはとても名誉あることなのですよ?」
「えっ……。まぁ普通に考えれば、そうそうある機会ではないですよね」
「そうですね。それで少し急ではあるのですが。この場で転移先の世界について軽く説明を受けたあとに早速転移する訳のですが、よろしいでしょうか?」
「ちょっと待ってください! 質問いいですか?」
「えぇ、どうぞ構いませんよ」
女神は持ち前の笑顔を向けてルチアの質問に答えようとする。
そしてルチアの方はというと、異世界転移に際しての鉄則ともいえる事項をどうしても訊かずにはいられなかった。
「まず最初に。現実世界……いや元居た世界か。そこで俺は死んでしまったということなんですか?」
「いえ、死んではいません。ごく普通に私がこの場所、《世界の始まり》に貴方を召喚したのです」
「となると、元居た世界で俺は神隠しに遭っているみたいなものなのですね」
「それも違います。私が貴方の肉体と精神情報を読み取り完全なルチアさんを複製してあります。つまり、全く同じルチアさんが元居た世界に代わりとして存在しています」
なんだその今までに訊いたことのないパターンは⁉
最近だと日帰りで異世界から帰ってくる話とかよくあるけど、主人公の居場所まで奪われるとかありなのか? 地味に酷い。
「それじゃ俺がここで帰してくれって言っても、帰る場所にはもう一人の自分が居て帰れないってことじゃないですか?」
「そうなりますね。あっ、因みにクーリングオフはやっていないので、駄々をこねてもルチアさんは帰れませんよ?」
何がクーリングオフなんだ……。人をさらっといて通販商品扱いとか、いい加減たまげるぞこの女神!
でも、元居た世界にもう一人の自分を創ってくれたのは正直有難い。家族とか友人とか少なからず悲しむ人間が居るからな。
そういった人たちが自分のせいで、悲しまずに普段通り笑っていられるのは良い事だ。
そこら辺は女神が配慮してくれたと思おう。思いたい。
「えー、じゃぁ次に。俺が選ばれた理由と異世界に転移する理由を教えてください」
「それはですね……。何というかですね、その……」
急に女神はルチアから視線を外し、ソワソワし始める。何か裏がありそうだ。軽く問い詰めなくては。
「……まさか、大した理由がないんですか?」
「そんな訳はありませんよ? ただ選んだ理由は運命としか言いようがありません。それだけはどうか信じてください!」
そういうのなら何故こちらと目を頑なに合わせない。絶対何かあるだろ!
だがルチアはそう思っても深くは追及はしなかった。だって逆らって、また手とか切られたら嫌なんだもの。
「じゃぁいいですよ。転移する理由は話せるんですよね?」
「それは勿論です。何せ本題ですからね」
先ほどまでの態度とは打って変わって、女神は凛々しい姿勢になる。本当に調子がいい人だ。
美人じゃなかったら嘲笑で返事するところだぞ。
「実はですね。ルチアさんに転移してもらう《イベリス》という世界は、非常に危険が多い世界なんです」
「もしかしてアレですか? 剣と魔法が主流の欧州中世並みの文明で魔王や魔物が跋扈している的な?」
「さすがは私に選ばれし勇者ですね! 理解が早くて助かります。あ、でも魔王は居ませんよ? そんな存在がいたら私が見つけて排除しますから。……魔物はいますけど」
誰が勇者だ、誰が。それと何小声でサラッと魔物は居ます宣言をしているのか、これが分からない。
「だったら俺が行く必要性ないじゃないですか? 剣とか魔法があるなら現地の人でどうともなるでしょ? それに女神様が統治すればいいでしょ⁉」
「それがそうも言ってられないんですよ。《イベリス》を創った際の世界安定化プログラムが原因不明で壊れてしまって、魔物の大量発生や他種族間の不仲を引き起こしてしまっているんです。あと私はこう見えても忙しいので無理です」
えぇ……。とうとうプログラムがどうだとか言い出しちゃったよこの人。ゲームの世界じゃないんだから。
それとさり気なく私は無理宣言とか、本当にこの女神は大丈夫なのだろうか。
「えー、つまりですね。ルチアさんには《イベリス》に転移してもらって、その世界の治安向上と維持に励んで欲しいのですよ!」
「それって何か決まり事とかあるんですか? 例えば王様や皇帝に成りあがって、内政チートとかして多くの人々を助ける的な」
「いえ、具体的にはこうあるべきだとか決まっていません。ただ人々を助けるという点は当てはまりますが」
なんだその要領をえない漠然とした答えは。
100億お前にやるから自由に日本を良くしてみろ、みたいな発想。嫌いじゃないけどねっ!
「まぁ向こうに行ったら、物は試しでルチアさんなりに現地の人を助けてあげてください。それで多くの人たちを助けて貰えれば、こちらとしては嬉しいですから」
「でもそれって、裏を返せば自分なりにサボることも充分可能ですよね? 現地の人の肩を揉んだり、畑仕事を手伝うとか人助けの部類に入りますし」
「えっ? 何を言っているんですか。最低でも毎日魔物を殺しまくるとかしないと駄目に決まってるじゃないですか?」
だからそっちとこっちの基準が曖昧ぃー! あと真顔になって声のトーン落として喋るの止めてください。怖いです。
「わ、分かりましたよ。女神様の意向に沿えるようには努力はしますよ」
「それは良かった。あっ、因みに定期的にルチアさんと交信するつもりなので、本当にサボったら駄目ですよ?」
今度は満面の笑みで念入りに釘を刺してくる。その笑顔の下はきっとしっかりやれよ的な意味合いを含んでいるのだろう。
それに定期連絡ありとか監視システムもバッチリとは恐れ入るわ! 自由にやらせてくれるんじゃないのかよっ!
一先ずこの話はここで切り上げた方が賢明だな。
それにどのみち異世界に転移しなきゃいけないなら、さっさと能力でも何でも貰って転移したい。
だって、ずっと憧れていた《世界》なのだから。
「じゃあ最後に。転移する際に女神様から特殊な能力とか貰えたりするんですか⁉」
ルチアは一番訊きたかった事を質問する。