あの日常の日々たちは戻らない!
前々から書きたいと思っていた異世界ファンタジーものです。
こちらは、読みやすさ楽しさ重視で書いてくつもりなのでお気軽にどうぞ!
「おめでとうございます! 貴方はこの度、世界を統べる女神である私のお眼鏡に適い、名誉ある異世界転移者第1号に見事選ばれました!」
「ハァ⁉」
目の前でパチパチと手を叩きながら、自らを『世界を統べる女神』と名乗った女性。その顔はとても嬉しそうにはにかんでいた。
自分が置かれている状況を全く理解できずにいる月見里ルチアは困惑した。
や、正確には相手のテンションについて行けてないと言った方が正しいのだろう。
何故、女神様とやらに大歓迎される理由も分からないのだから。
――ことの発端はおよそ数分前にまで遡る。
日本の何処にでも居るごく平凡な男子高校生である月見里ルチアは、寝る前に日課としているライトノベルを読み終えベッドに入っていた。
(あー。今日読んだ『悪魔召喚士は眠らない』は面白かったな! だいぶ前に買って積んでいたけど大正解だったわ!)
先ほどまで読んでいたラノベの事を考えながら、ルチアは眠る前のいつもの妄想に耽っていた。
(やー。それにしてもヒロインのラピスちゃんは滅茶苦茶可愛かったな。なんていっても、金髪ツインテールのエルフってだけでも高得点なのに、主人公にベタ惚れって所もまたグッド!)
そのラノベの中のヒロインが自分の好みにドストライクであったため、思考は自然とヒロインのことばかりを考えていた。
(にしてもなぁ、ラノベの世界はいいよなぁ。現実世界と違ってややこしくないし、剣と魔法もあるしでワクワクするよな。それになんと言っても『エルフ』がいるし! まじで異世界に行けたら行ってみたいなぁ)
妄想は次第にいつものお決まりパターンである『異世界に行けたら』にシフトしていく。
もし、自分が異世界に転生もしくは転移できたらどんな冒険を繰り広げるか。
そんな思春期真っ盛りで漫画もアニメも好きな学生ならば、誰しも一度は漠然と考えることを思っていた。
実際の所、素人考えだと神様からこれでもかという特殊なチートスキルの数々を貰い。幼馴染や旅先であった女性冒険者と楽しく異世界生活を送りながら、一国のお姫様や奴隷で虐げられている美少女たちを次々に救い出す!
最後には世界で最強と謳われる実力や魔王たち相手に、自身が磨き上げてきたスキルと戦闘技術で打ち負かす。
みたいな所まで考えて終わっちゃうのよね。
いかんせん普段から本腰で物語を構想していないから、内容が薄かったりそれ以上物語を進展できないのは、仕方ないと言えば仕方ないのだけれど。
だけど、多感なお年頃である自分にとってはそんな些細な妄想でも楽しいのだ。こんな事を考えながら代り映えのしない日常生活に変化を求めないよりはマシだ。だって楽しめなきゃ損じゃん。
別に誰に話すわけでも、ましてや世界観を共感してもらって存分に語り合いたいのでもない。ふとした時に考えて、こうだったら良いなと思って楽しむものなのだから。
そう思いながら、今日は1分でも長く妄想する物語の内容の幅を広げようと力を入れた。
(今日は嗜好を変えて、何か特殊なチートスキルを自分で作る所から始めるかな。それでもって、そのスキルを神様から貰った後にどう異世界に行くかだ……)
第一に異世界に行くとしてもまずその方法だ。転生なのか転移なのか。これは異世界物を一から考える上でとても重要なことだ!
もし異世界に転生するのであれば、現実世界での自分の生い立ちや現在の生活環境を事細かに説明しなければならない。
背景を語りつつも現在の生活に何か不満があったり自分を変えたいなど願望もあるとなおさら良い。
そして、そんなことを思いつつ突発的な原因とかで地球での人生に幕を閉ざすのだ。
やがて目を醒ますと世界の何処にも属さない、神だけが許される領域に自分が居て。
神様から直々に異世界での新たに人生をやり直さないかと持ち掛けられるのだ。
その後に、転生者としての餞別に特殊な能力を授かることになるのである――。
ってな感じが転生の王道なところかな。
人によってはここから、神様から貰った能力に甘んじずに幼少期から。それこそ赤ん坊の時から血の滲むような努力に励む猛者までいるとのことだ。
それが自分が今までに異世界物のラノベを読み漁り、培ってきた知識の数々がテンプレートであると告げている。
だがそこまで妄想して一つの結論に至る。自分は極力めんどくさいことは避けたい、と。
(だって転生の原因となるほとんどが絶対に人間を殺すことで定評のあるトラックだったり、癌とか不治の病や何かしらの事故死だからなぁ。俺痛いの苦手だし……)
その理由から鑑みるに、努力も痛いのも嫌いな自分にとって都合がいいのは、転移の方がお手軽で向いているのではと思う。
情けなくも痛いことはお断りな人間には、安易な理由ながらも異世界に向かうとしたら、いきなり何の前振りもなく転移するほうが良いと考えるのであった。
(でも、こんな苦手意識持ってる奴が突然神様から選ばれて、高待遇で異世界に転移させてくれる訳ないよな。まぁ、そんな人間でも選んでくれるのなら、俺は喜んでいつでも二つ返事で転移するけどね!)
心の中で若干自分の願望と美化を入れつつ、妄想を転移先の異世界の設定へと広げようとした矢先――異変が起こる。
『それは良かったです! なら貴方をこちらも喜んで選びますねっ!』
「へっ?」
突然、頭の中から鮮明な女性の声が響いたかと思うと意識が途切れるのであった。