ミッションクリアの報告
「エージェント・ダーン。只今を持って帰還しました」
彼は、カメラの前で敬礼をした。
「識別認証完了しました。おかえりなさいませ。ミスター・ダーン」
合成音声で入り口の警備システムの承諾を受け、核にもびくともしない厚さ45センチメートルの重厚な扉がゴゴゴと音を出しながらゆっくりと開く。
ここは、エージェント・ダーンの所属する組織の本部である。その所在地は完全に隠蔽されていて、部外者が入り込む余地はない。ただひとつだけ言えるとすれば、ここは、レンタル倉庫の地下に隠されていると言うことだけだ。
ダーンは施設内に入り、まずある人物に報告をする事になっているので、急ぎとある部屋に向かった。
コンコン
ダーンは扉をノックする。
「入っていいわ」
女性の声が聞こえてたので、部屋に入る。
「エージェント・ダーン。ミッションクリアの報告をここにします」
後ろをみていた女性は椅子を回転させ彼の方を見た。
「ありがとうダーン。あなたっていつも仕事をしっかりしてくれて助かるわ」
この女性のコードネームはプロフェッサー・ローズ。ダーンの上司にして組織のリーダーである。年齢は不明だ。
「仮面をとっても宜しいでしょうか?」
「構わないわ。私は、あなたの素顔のほうが好きだもの」
ローズは、ネットリとした声で彼に武装解除の許可を出した。
「分かりました」
ダーンは、初めにマント。次にジャケット、ホルスター、最後に仮面を外した。
「相変わらず、いい顔してるじゃない。私の部下じゃなかったら、ベットにお誘いしたいぐらいだわ」
ローズは彼に近づき、巧みな手さばきでいろんな箇所をボディタッチする。
「冗談はよしてください」
弱点を触られて微弱な身震いをしながら、彼女の手を払った。
「あら、半分位は本気のつもりだったのに。
いいわ、下がってちょうだい」
彼は、本部長室を後にしようと扉まで歩く。
「そういえば、ラボの開発主任があなたに渡した発明品の使用感を知りたがっていたわ」
「了解しました。ラボに向かいます」
※
ラボ。正式名称『特殊武装開発センター』は主にエージェント用の武装の研究開発及び、製造をすることを目的として設立された施設だ。所在は、本部長室から5階層にある。
「エージェント・ダーンだ。扉を開けてくれるか?」
彼の声を聞いた1人の人物が扉を開けた。
「やあ、ミスター・ダーン。君を待っていたんだ。さあさあ遠慮せずにラボに入ってくれたまえ」
この人物はここの主任で、コードネームはドクター・アキラ。組織内では珍しく、アキラは本名である。年齢はダーンよりも3つ程下である。
彼は、10歳前後の時、酷いいじめを受けていた。そんなか弱い彼は、自衛の為に肉体を瞬時に焼き骨が露出するほどの熱線銃を作りだした。それを使い、自分が暴力を受けた時に使用した。いじめ子は片腕を失う重症を負い、引き金を引いた当人は逮捕された。当初は矯正収容所で人格矯正プログラムを受けていたが、幾人もの精神科医が失敗した。
この事は度々ニュースで報じられて、服役を終えて社会に戻ってくるのはあまりにも危険と判断されて、彼の処刑が決まった。当然未成年者の処刑に反発する者も現れたが、政治家が支配するこの国では有象無象のように扱われて彼を守るものが誰も居なかった。
だが、ローズは彼を見捨てなかった。言い方は酷いが、その発明家としての才能は捨てるに惜しいと判断して彼の救出ミッションは行われて無事に保護されて今ここにいる。
そのミッションの詳細は別の機会に話そう。
「どうだい? 僕の発明の小型原子爆弾内蔵網膜識別弾は?」
ダーンの感想を子供のように待ちかねて言い寄っている。実際に子供だが。
「我々の目的のより強い恐怖心を周囲に与える事で、裏組織の活動の抑制することだ。そのことに対しては十分な働きをしてくれた。
だが、使い勝手が悪すぎる。
ターゲットの懐に隠し持っている拳銃を証拠を残さぬように拝借したうえで弾丸を一発装填して再び戻す必要があるのはあまりに現実的じゃないミッションだった」
「でも、君はそれをやってのけた。君以外では不可能な事だけど、僕は信じているんだ。君の腕をね」
「次回はもう少し使い勝手の良いものを頼む」
「任せてくれ。でも、忘れないでくれ。僕が難解なものしか作らないのは、もし君が奴らの策に落ちてこの世を去った時、発明品を悪用されない為でもあるんだ」
「十分に承知している。発明品が悪用されると、アキラを狙う輩が現れて危険にさらしてしまう。アキラの安全は私達組織が命に変えても守り抜く」
「随分頼もしい事を言ってくれるじゃないですか。僕も君にふさわしい武装を開発させてみせるよ。
君はミッションの疲れがあるだろうから、睡眠を取ることを推奨するよ」
「了解。只今を持って休息に入ります」