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異世界オタクライフ  作者: 謙虚なサークル
1/11

オタクと平和

「暇だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……

 叫び声は山々に響き、遥か遠くで驚いた飛竜(ワイバーン)が、何事かとばかりにこちらを振り向いた。

 そして俺に気づくと、凄まじいスピードで逃げていく。


「あら、驚かせちゃったか……」


 驚かせたくなかったから、誰もいなさそうな辺境の山にまで空間転移で来ていたのだが……俺は反省の意を込め、スマンと片手を上げた。

 返ってきた山彦に耳を傾けながら、俺はため息を吐く。


「……しかし、暇だ」


 二度目の暇人宣言をした俺は、どこにでもいるごく普通のオタク高校生。

 名は的場海斗。わけあってここ、異世界に飛ばされたのである。

 魔王を倒せとかどうとか、わけのわからんことを言われて最初は戸惑ったが、いわゆるチート能力のおかげで紆余曲折を経て何とか目的を達したのだ。


 俺もオタクの端くれ。異世界ファンタジーで無双するのは憧れの一つだったので、それはいい。そこまではよかった。

 問題はここからだ。

 魔王を倒して世界は平和になったのだが、俺は元いた世界に帰ることが出来なかったのである。

 これには参った。


 何せこの世界ときたら、まともな娯楽というものがないのだ。

 せいぜい演劇や合奏、チェス、狩り……まぁこの辺である。いや別にそれなりには楽しいのだが、純度の濃いヲタクの俺には全然物足りない。

 これらはいわば前菜的なもので、メインはあくまでオタクコンテンツ。

 俺は漫画やアニメ、ゲーム、ネットがなければ生きていけないのである。


 今までは魔王を倒すという目的があったし、戦って自身が強くなるというのも楽しかった。

 だが、すでに俺は世界最強クラスの力を得ている。

 まともに戦える相手などいないし、別にそこまでして戦いたいほど戦闘狂ってわけでもない。


 暇を持て余した俺は、かつて読み漁った漫画やラノベ、擦り切れるまで再生したアニメやアニソンが、とても――――狂おしいほどとても、欲していた。

 思い出し、深い溜息を吐く。


「はー……やることねぇし、城にでも戻るかぁ」


 俺は空間転移術式を念じ、城へと帰還した。

 一瞬、暗転する感覚と同時に俺の眼前に馬鹿でかい城が現れる。

 兵士さんたちにあいさつしながら、城門をくぐる。


「くぁ……あふぅ」


 少々遠くまで飛んだからか、若干の眠気が俺を襲う。

 転移の術式は結構負担が大きいからな。走って帰っても良かったか。どうせ暇だったし。

 ベッドに寝転がってゴロゴロすべく部屋へと向かう俺だったが、背後から何かが駆けてくる音が聞こえてきた。


「カイトさまぁ~っ!」


 聞き覚えのある声……俺は後ろを振り向くことなく、ひょいと横に躱した。

 後ろから走ってきた声の主は、それに対応できず壁に激突してしまう。

 あ、痛そう。

 目の前でヤモリのように壁に張り付いていた少女は、マンガであればぎぎぎと擬音でも立てそうな勢いで、俺を振り返る。


 純白のドレスに眩く輝かくプラチナブロンドの髪。

 何重にも束ねたネックレス、宝石をちりばめたティアラ。

 そして装飾にも負けぬ、整った容姿にすらりとした肢体。

 彼女はこの、ゴルンハルテ国の若き女王。レティシア=フォン=ゴルンハルテである。


「もう! ひどいですわカイトさまったら!」

「あーごめんレティシア、ハチがいたからつい」


 適当な嘘をついて、俺はレティシアから視線を外す。

 控えめに言ってレティシアは美少女だ。

 しかも一国の女王。

 普通の男であればレティシアに言い寄られれば、鼻の一つも伸びようというものである。

 だが、彼女の本性を知る俺は、こんな風に迫られても怖いだけだ。


「レティシア様」


 いつの間にいたのか、白髪の紳士がレティシアの傍に立っていた。

 彼はレティシアの執事さん、その最古参である。

 名乗らないし教えてくれないので、俺は爺やさんと呼んでいる。


「あら、爺や。今忙しいのだけれど」

「申し訳ありません。火急の用がありまして」

「もう、仕方ないわね……少し待っててね、カイトさま」


 俺にウインクを飛ばすと、レティシアは真剣な顔つきで爺やと向かい合う。


「レティシア様。ではあちらで……」

「ここで構わないわ。カイトさまはこの国の重要人物ですから」

「は……実は隣国ダルニアの漁船が、また領海へ入ってきまして。何度も警告、威嚇をしておりますが、それ無視して漁を行っております」

「ふぅ、以前釘を刺しておいたのに、聞く気はさらさら無いというわけね」

「如何致しますか」


 爺やさんの問いに、レティシアは先刻の表情が嘘のような冷たい目になる。

 そして抑揚のない口調で続けた。


「――――わかりました。では船を半分沈めてしまいましょう。抵抗するようでしたら、更にもう半分を。あぁ一隻は残してあげて下さいね。我が国の恐ろしさ、帰って伝えてもらわねばなりませんので。ふふっ」


 冗談めかして笑うが、その目は全く笑っていない。

 俺と向かい合っていた時とはまるで別人。

 目的実行のためなら情け容赦なく、効率的に手段を躊躇いなく実行する。

 氷の女王。それがレティシアの通り名だ。

 おーこわ。


「わかりました。しかし後で何か言ってくるかと思われますが……」

「どうせこちらの方が国力は圧倒的に上なのです。国際法があるから手は出せないと思っているのでしょうが、いい機会です、徹底的にやってしまいなさい。どうせ何もできませんよ……それで、もういいわね?」

「はっ」

「ふぅ……あ~ん、カイトさまぁ~ん!」


 先刻とは180度違う猫なで声で俺の名を呼ぶレティシアだが、時すでに遅し。

 俺は空間転移術式で城の上に姿を眩ませていた。

 ふぅ、危ない危ない。助かったぜ爺やさん。


 歯向かうものは容赦なく、欲しいものは躊躇なくが信条のレティシアの、今最大の目的は俺を手に入れる事らしい。

 もし俺がレティシアのモノになったら、あの忙しいレティシアの護衛やら何やらやらされてほとんど自由がなくなるだろう。

 ただでさえ退屈なのに、その上自由までなくなるのは勘弁だ。

 だからあいつの求めに応じるわけにはいかない。


「カイトさま~っ! どこですか~っ!」


 うーん、それさえなければ可愛いんだけどな。もったいない。

 いやいや、あれも演技。そう考えると本当に怖い女である。

 まぁそれくらいでなければ女王なんて務まらないだろうな。

 俺はため息を吐いて、空間転移術式を念じるのだった。


 辿り着いた先は、城から少し離れた草原。

 本日三度の空間転移術式を使った俺は軽い眠気に襲われる。

 特にそれに逆らう理由もなく、俺は草むらに寝そべった。

 心地よい眠気がすぐに俺を夢の世界へといざなっていく……




「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ! カオシックドライバぁああああああああ!!」

「ぬぅ!? こしゃくなああああああああああああああああッ!!」


 黒衣の少女と白衣の魔導師が激突し、それを中心に凄まじい渦が発生している。

 稲光がいくつも走り、衝撃波が大地を、海を割る。

 黒衣の少女が形状変化した杖をかざし、白衣の魔導師が大気から魔力を集め、同時に光弾を放つ。

 眩い閃光が視界を包み込んだ――――ところで、俺の意識は戻った。


「……やっぱり、ここか」


 ぽつりと呟いた俺は、ボリボリと頭を掻く。

 今の夢は、俺が元いた世界にいたとき放映していたアニメ『魔法少女、異世界で無双する』のワンシーンである。

 異世界に飛ばされた魔法少女、カノンが現代の洗練された魔法で異世界の悪い魔法使いを倒していくという物語で、魔法少女モノらしからぬ敵の外道さが俺の琴線に特に触れたのだ。


 戦っていたのは魔導師シロエル。表向きは教会の神官なのだが、孤児院の子供を生贄にして自身の魔力の糧にしていた外道である。

 丁度戦いが始まり、さぁ来週というところで俺は異世界に飛ばされたのだ。

 今までさんざん貯められたヘイトを全力で解消するカタルシスが熱い回である。

 その日を俺は放送日を指折り数えて待っていた程だ。

 なのに……はぁ、思い出したらまた見たくなってきた。

 今まで何度夢に見た事か。


「あー……アニメ見てぇ。マンガでも可」


 叶わぬ願いを口にする俺の目に、絵を描いている黒髪の少女が映った。

 町娘だろうか、あまり身なりはよろしくないようだ。

 このご時世、のんきに絵を描いていられるってことは、そこそこいい暮らしをしているのかもしれないな。

 そんなことを考えながら、何の気なしに目線をキャンパスへと移した俺は、目を疑った。

 何せそこに描かれていたのは夢にまで見た魔法少女、カノンだったからである。

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