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鴉天狗Kは入山を受け入れるか  作者: 姫林もやし
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魔法使いの追憶

 外部からの来客は予期せぬ者を連れてくる。2人が去った後だというのに、この屋敷にはまだ人の気配が消えていない。

「いつまでそうしてるつもりかしら? レイヴ・フランケンシュタイン」

 誰もいなくなった広間に声をかけると空間を裂くようにレイヴが姿を現した。

「久しいな、柴崎」

 レイヴは見つかることが予定調和であったかのように呟いた。

「10年ぶりぐらいかしら? できれば会いたくはなかったものね」

「いつから気づいていた?」

「愚問ね。最初からに決まっているわ。悪いけどあの人間につけたポイントは取らせてもらったわ」

「問題はない。彼はすでに役目を終えている」

 フードの中からする落ち着いた声は、強がりなんかではなく本当に役目を終えていることを物語っていた。

「なるほど。なら用があるのは私って事ね。魔導師の責務か、それとも個人的な恨みかしら? いずれにせよここで殺り合おうってことでいいかしら?」

「それは穿ちすぎだ。あの人間がここを訪れたのは単なる偶然にすぎない。それにここはお前の城だろ? 私が勝てる道理がない」

「ずいぶんと偉くなったものね。まるでこの場所じゃなければ勝てるような口ぶりだわ。永遠の2番手さん。敬意がたりないわ、いい加減フードをはずしたらどうかしら? ましてやここは私の屋敷よ」

 私は挑発するように言ったが、この男にはそんなことをしても意味がないことを思い出した。

「永遠ではない。私が主席の座を受け渡したのはお前が学園にいた10年間の話。お前が転入してくる前の2年は私が1番であった」

 過去の栄光にしがみつくことのなんて哀れなことか。

「フードを外せと言ったか? それはかなわぬ願いだ。よもや、私がお前の魔法に気づいてないとでも思ってはいまいな」

 自分のことが調べられてるのはいい気がしない。レイヴの着ているローブにはおそらく魔術的措置がとられているのだろう。おかげで考えがまったく読めない。私は追われている身、この件に関しては致し方なしと割り切るしかない。

「そうね。仮にも私を殺そうとしている集団。私の能力1つ見抜けないようでは無能にもほどがある。いいわ、話を変えましょう。此度の霊狩りの主催者はあなたで間違いないわね?」

「いかにも」

「つまらない幕ね」

「そう言うな柴崎。此度の幕はお前向けではない。客席にいたこと自体、予想外だ。ああ、間違ってもキャストになろうだなんて考えないでくれよ」

 あまく見られたものだ。この程度の舞台に私が上がるとでも思っているのだろうか。

「私からも質問させてもらおう。柴崎、どうして《魔導クラスタ》を抜けた?」

 お腹をかかえて笑いたくなる。こいつは10年もの間、そんな簡単な答えがだせずにいたのか。

「本気でそんなことを訊いているのかい? これが幕に入ってないことがおしいぐらいだよ」

「お前ほどの腕の持ち主だ。そのまま所属していれば、さぞ優秀な魔導師になっただろう」

 私の小馬鹿にするような言葉など意に介さず、レイヴはいらぬ賞賛を送ってくる。奴らの手からこそこそ逃げ回っていた自分が情けなくなる。こんな無能な集団になら自分の能力全てを打ち明けても仕留められる心配がないぐらいだ。いいだろう。そんなに知りたいのなら教えることはやぶさかではない。私の魔法もろとも暴露してやろうではないか。

「私の精神感応(テレパス)の魔法は先天的でね、どこにいたって常に他人の考えが頭に入ってきてしまう。そのままでは自分の頭はパンクしてしまうから、それに対する魔法の習得が必要だった。それが私が魔導学校に転入した理由。学校にいる間は嫌でも《魔導クラスタ》に所属しなければならなかったからね。ああ、心底そっちの活動はどうでもよかったよ。

 周りが必死になって魔術を習得しようとしている間、私は必死に自分の魔法を打ち消す術を探していたよ。私の求める魔術なんて確立されていなかったからね。自分で編み出すしかなかったわけだ。魔法1つ開発するのに10年もかかってしまったよ。そんな奴が学園で主席を張っていたなんておかしな話だな」

「何もおかしくはない。既存の魔術はほとんど習得していたからな。それでいて自ら魔法を開発。私が主席の座を明け渡したのも納得がいく」

 なんてつまらない反応。そんな不純な動機で転入してきたやつに負けていて、納得がいくとは……。

「つまり、お前は目的を達したがために組織を抜けたということか?」

「そういうことね。入らなければならないこと自体、私にとってはイレギュラーだったわけだから」

 しばしの沈黙が流れた。レイヴは私の言葉を聴いて何を思ったのだろう。

「把握した。お前にとって組織は心底どうでもいいものだったということか。それではお前は、あの学園にいながら霊についてどう考えていたというのだ?」

「共存など存在しない」

 レイヴの困惑が伝わってくる。ああ、当然だ。共存など存在しない――これは魔導学校の校訓といっても過言ではないものだったのだから。

「……ならば」

「ああ、勘違いするなよ。確かにこれだけ聴いたら私とお前たちの考えは一緒だ。だが、あとに続く言葉で意味が真逆になる。そうだな。お前たちの考えはこうだ。

 共存など存在しない、故に奪いつくす――

 対して私の考えは、

 共存など存在しない、故に関与しない――

 お前たちは霊を下位とみるが、私は霊を上位とみる。はなっから相容れぬ存在なんだよ。“この国には触らぬ神に祟りなし”なんて言葉もある」

「なるほど。全てにおいて合点がいった」

 レイヴが扉へとむかっていく。

「こうして話すことは最後になるだろう。次に会うときは殺し、殺される関係だ。魔導師同士、魔術戦でも演じてやろう」

 自分の目元がピクリと動くのを感じる。レイヴは扉の前で立ち止まった。

「ああ、そういえば、鬼を発見したよ。私にとってこれほどの幸福はないかもしれない」

 レイヴは文字通り消えるようにいなくなった。今日ほどこの屋敷に来客があることは2度とないだろう――

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