魔導師の謀略
暗闇に染まった路地裏で人ならざる者の断末魔が響く。何度聴いてもたまらないその叫びに私は口もとを歪ませる。とどめをさした少女の苦悶の表情も私にとっては蜜の味だ。大声をあげて笑いたくなる自分を制止して、私はローブのフードを目元まで被った。
「霊たちを統べる総大将とは聞いてあきれる。出会ってみれば背をむけるだけで何の能力も持ち得ないとは」
息絶え、だらしなく地面に転がるぬらりひょんに近づく。少女は、自ら手を下した総大将の顔を視ていた。
「これならば、先に狩とってしまっても問題なかったな、Kよ」
少女は答えず、私の持つ鎖の先に繋がれた毛布に視線を移した。少女の細い首を花の茎であるかのごとく折り、そのままの表情で家にでも飾っておきたくなる。
まだその時ではない。私は込み上げる衝動をおさえるために少女に背をむけた。
「この辺の霊はあらかた狩り終えたな」
「で、では妹を」
「たわけっ! この程度の働きで褒美をねだるとは片腹痛い」
私は持っている鎖を鞭のようにしならせた。毛布の中からうめき声が漏れてくる。
「も、申し訳ありません。どうか今の失言をお許しください」
少女の声はパイプオルガンの音色のように美しい。その悲しみと悔しさの入り混じる表情をもっと見せておくれ。
「靴が汚れた。磨くことを許可する」
私の前にやってきた少女が足元に跪く。
「綺麗に磨けよ」
返事などない。少女は自らの舌で私の靴をなめている。表情が視えないことは残念だが、その顔を想像することもまた私の優越感を刺激する。
「そういえば、鴉がまた一匹死んでしまったな」
変わらずに靴を舐め続ける少女。私は次なる目的地を見据えた。
霊山――そんな山が存在していること事態不愉快だ。山頂に月を背にした鳥居が視える。
「Kよ。次はあの山だ」
鳥居だけを残し、社を失った山が、私にはこれからの世界を象徴しているように感じられた。
私はレイヴ・フランケンシュタイン。霊を駆逐し、人間を救済するものなり――