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鴉天狗Kは入山を受け入れるか  作者: 姫林もやし
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プロローグ

初めての投稿になります。

はじめは書きたいものを書こうと思いつらつらと書いてみました。

少しでもこの世界に共感等してくれるかたがいれば幸いです。

よろしくお願いします。

 11月になったばかりの夜、下卑た民衆たちが外で騒いでいる。軍事政権の不平をわめいたところで何が変わるというのか? 私は外部の音を遮断するかのように布団を頭まで被った。

「……イヴ……レイヴ! 聴いているのか、レイヴ」

 被っていた布団が取り除かれ、父上の難しげな表情が目に飛び込んできた。怒っているわけではないのはわかるが、息子の私が見ても威圧的な形相である。世間からは鬼瓦なんて言われているほどで、常にこの表情なのだ。図鑑でしか見た事はないが、鬼の顔は父上の顔と相違ない。ああ、なるほど。世間からのレッテルは十分に的を射ているではないか。

「どうしたんです? 父上」

「外の様子がおかしい。ちょっと様子を見てくる」

 民衆の暴動なんてほっとけばいいものの、父上は持ち前の正義感からか外へ出て行ってしまった。私は再び布団をかぶり外界から隔絶される。この状況で私ができることなど何もないのだから――



 どれくらいの時間布団をかぶっていたのだろう。私は11月にしては暑い気温に布団を投げ出した。部屋の空気が熱気で揺らめいている。それが火事だとわかるのに数分を要した。

 部屋を出ると家のところどころが炎にのまれていた。この家はきっと全焼するだろう。明日からの生活はどうなるのか? そんなことを考えてる私はおおよそ危機感なんてものは持ち合わせていないのだろう。

 何とか外へでた私を迎えたのは紅い世界だった。

 大地は燃え盛る炎。

 頭上に輝く月は鮮血。

 足元には赤い川が流れ、無数の死体が堤防を築いている。それは人の死体というよりはマリオネットと言ったほうが適当なほど、四肢がおかしな方向にねじれていた。

 ビシャッという音が耳に届く。音の方向をみやる私の目に飛び込んできたのは、2mはゆうに越える怪物と、その怪物に頭を鷲摑みにされる父上の姿だった。

 真っ赤な怪物――私にはそれがもともとの色なのか、それとも返り血によるものなのか判断がつかない。

 ただ、私はその光景に、こんな地にも“鬼”というものは存在するのかという感想しか抱かなかった。鬼なんてものが存在するのは遥か遠い東方の地だけだと思っていたからだ。

 遥か東方の地で“霊”というものに分類されるこの怪物を私は挿絵を眺めるように見ていた。

「逃げろ、レイヴ!」なんて父上が叫んだ気がした。しかし、それは私のわずかばかりの妄想にすぎない。だってこの時、父上の顎から下は存在していなかったのだから――

 鬼が私の方を視る。卑しく口もとが歪み、鋭い牙がのぞく。両手の爪からはだらしなく赤い滴をたらし、父上の顔でさも可笑しそうにケタケタと笑った。

 私は神に何かを祈ろうとでもしたのだろうか? 鬼の姿から目を離し丘の上の神殿を見上げた。肉片によって固められたアクロポリスは、そこに祈る神などいないと告げるようだった。

 ああ、人間は救われない――こんな怪物がいる地に私たちの居場所などなかったのだ。民衆の反対を押し切った軍事政権もこのとおり、たった1匹の鬼が暴れただけで崩壊してしまう。なんて、無力――

 人間は順序を誤った。人は人を支配する前に、支配するべきものがあったのだ。なんて、無知――

 私の目から熱いものが流れていく。気持ち悪くぬめるそれは、足元を流れる川と同じ色をしていた。

 鬼がこちらへ向かって来る。たぶん私は殺される。享年5歳、年齢の割に早熟だとよく言われたものだ。

 弱肉強食、こうして人間は駆逐されるのだろう。1973年、この時をもって居場所のない弱い人間は――


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