秋葉語り古事記 その2
嗚呼!!!!遅かっただと!!!?
思いもしなかった事実に、愕然とするも、相変わらず
に眉目秀麗なイザナギ様。
イザナミ様にしてみれば相変わらずの、どストライク
顏なうえに泣きそうな顏でつい……心動かされた(汗)
今スグにでも、飛び付きたいくらいだが、そうも、
いかない。
離れるのは、断腸の思いなれど、ここはひとまず、
引き延ばし、時を稼ぎ、策を練ることとした。
「で…………、でも!?でも
あ!?兄様。
いと愛しきあなた様が、このような昏くて穢れ繁き
処まで、わさわざお越し下さったのです。
ただ、しきたりにより、無断では黄泉帰れませぬ。
そんなわけでこれより、わらわは、この黄泉世を、
取り仕切る神々と、ちと…めんどいお話をいたして
きますゆえに、
そ・の・あ・い・だ!!!?
なにがあろうとも、わらわのことを……視てはなり
ませんよ?
ほんとーに視ちゃダーメなんだからねっ/////←」
大切な事なので、わざわざ二度言ったイザナミ様。
最後を、ツンデレで締めたのも、ただただ愛しい兄神
への切なる願い。
兄イザナギ神は、ただ一度うなずくと、イザナミ様も
微笑み返し、宮へと戻っていった。
しかし、いつまでたってもイザナミ様は戻ってこない
辺りは、ほの昏く、もやがかかったように、見通しが
効かない。
ここは神の瞳でさえ惑わす死の穢れと瘴癘
の気に充ち充ちた世界。
恐ろしき、幽世。
生ある神が、いつまでも…いるべき処ではない!!
イザナギ神は、幾度も惑い迷い、途方にくれ…………
ようやく、おずおずと手探りで宮の扉の前まで来た。
そしてつい!
さびしさといとしさに負け、イザナギ様は髪に挿して
いた、くしの歯を一本
ポキリっ…
と折り、一つ火をその先に灯し、扉を少し開けすべり
込むように、中に入った。
だが、一つ火によって陰燐と映し出されたる、宮中の
光景たるや……
腐った血肉と臓物と骨によって、床は敷きつめられ、
壁には……へばりつき、天井はそれで出来ていた。
余りのことに、流石の兄神も度胆を抜かれたが愛しい
妹視たさに、室の中央まで行き、臥せる妹イザナミ神
のまことに今の姿を視た。
全身は腐れ爛れ、無数の蛆が這い回り、かつては長く
美しかった髪は、無惨にも抜け落ちて、まばらにしか
残らず、そこを大小の百足が蠢き、2つの空の眼窩に
巣食っていた。
「視たな!」
生あたたかい、濃い腐風とともに、耳の後ろより声が
する。
イザナギ神は、振り返り…視なかった。
ただ、目の下の臥せる妹を視、涙した。
これが……。
これこそが、正しき真の姿なのだと……
闇に一つ火が、縁起の悪い由縁はここより来る。
だから、妹は……
つねに深くうつ向き、吾から目をそらせていたのだ。
本当の姿を視せぬために。
「視たな!!」
また、声がした。
一つであり無数の、怨瑳に満ち満ちた声音。
だが、妹の声。
それまで、決して聞く事のなかった妻の声音。
暗く昏い…………
深い哀しみの声音……。