第9話「後日」
今回は短めです。
放課後。ガラガラと部室のドアを開ける。部室というよりか、物置みたいなかんじだけれども。机は口の字に並べられ、椅子がある。教室の隅っこには段ボールの山が積まれている。これがなんなのか僕が知るはずもない。
椅子に座っているのは巫花である。
成績優秀、完璧美少女。
そんな名士をを持つ彼女だが、初対面の僕にナイフを突き刺してきた。正確にはナイフで脅してきた。
「あら、来たのね。もう来ないと思っていたわ」
読書をしていた彼女は、本から僕に目線をやる。
「強制的ではあったけど、部員だしな。来ないというわけには行かなかった」
嘘だ。そのまま帰ろうとしたら、生徒玄関で待っていたのは他でもない、夜来京香先生であった。担任であり、生徒指導も兼ねている先生にはかなわない。そのまま、目も合わせず帰ろうとしたら睨まれて、そのまま帰るなんてことはないよね? と脅された。
椅子に腰を下ろす。よっこらしょと伯父さんみたいな声を上げながら、座った。
部活にきたのはいいけれど、依頼がないとすることがないな。巫は読書をしているけれど、僕は何をすればいいのだろう。僕も読書をするべきなのだろうか。
——いや、読書じゃなく、掃除をしよう。
腰を上げ、隅っこにある段ボールを手に取った。
「これって一体なんなんだ?」
「私も詳しくは知らないけれど、別に必要のないものと聞いているわ」
そっかと呆気ない返事をして、段ボールを開けてみる。
そこには、本があった。
小説とかライトノベルとか、漫画本とか。一様言うけれど、エロ本はなかった。別に期待してないからな。逆にあったら学校がやばいだろう。エロ本がある学校に通っているとなると、恐縮する。
他の段ボールも開けるとやはり、本だった。やっぱりエロ本はない。どうしてだ! ぁ、いや別にないほうがいい。個室、美少女異性と二人っきりでエロ本ができたら、雰囲気的に男子的にはいいだろう。だが、世間一般的に地獄だ。
本なら処分してしまえばいいのに、どうしてここに。っと伏線を張っておく。
多分、図書室の古本だろう。処分はしたいけれど、まとめてするほうが得だし、ちょこちょこ捨てていたらその時間が勿体ないからな。出した本を段ボールに直し、何もなかった用に椅子に座る。結局、掃除はしていない。無駄にとりだして、片付けただけ。
その時、ガラガラとドアが開く音がした。
「こんにちはー。巫さん、沢良木君」
部室に入ってきたのはカバンを持った桃瀬春だった。
昔、幼馴染みで仲がよかった。
「あら、桃瀬さん。ちゃんと渡せたのかしら?」
本を閉じて、右手で右耳に髪をかけながら彼女はそう言った。
「多分だけど渡せたよ。机の中に入れておいたから」
机の中? それは、僕と同じように机の中に入れて渡したというのか、それは渡すというより置くに近い。直接、渡せてないのかよ。きっかけ作れてないじゃん。
「これで依頼は解決ってことでいいのか?」
「うん! きっかけなんて、いつでも作れるから」
春は笑顔でそう言った。すると、まるで部員となっているかのように平然と椅子に座る。それを見て巫の口が開く。
「どうして、あなたがここに座るのかしら。部員でもないのに」
「ぁ。………………」
それは言いすぎた。
数秒の沈黙。
——冷たい空気が淡々と流れていく。沈黙の部室のて鳴るのが、時計のカチカチとなる音だった。
時計の旋律が、妙に大きく聞こえる。
巫に単刀直入に言われ、開いた口が塞がっていない春であった。
「そうだね……それなら、えっとー。帰ろっかな」
と言いながらカバンを持ちながら、部室を出ようとする。ドアを開けようと手をやると同時に巫が春に話しかけた。
「部員にならない? 嫌ならいいのよ。別に私が部員になろうがならまいが私には関係ないわ」
いや、関係あるだろ。ツンデレかよ。
部員が増える、イコール、仕事が減る。
——うん。よし、部員に入れよう。
「あれ、巫花さん、右手になにをもってるものはなにかね?」
彼女の右手に持っていたのは白い紙。——入部届である。
巫は目を反らす。
「入部届よ、なにかしら。私は入部届をいつも持ち歩いているのよ」
携帯かよ。確かに、どんな時、どんな場所、どんな状況においても、入部できるように入部届を持っているのはいいけれど、別に日常的に持ってなくてもいいじゃないのかな。逃げるわけでもないのに。
はい、桃瀬さん。入部届よと巫は春に言いながら、入部届を渡した。
颯爽と入部届を書き始める桃瀬春。
「風ちゃ……沢良木君はいいの?私が入部しても……」
後は桃瀬春と名前を書くだけなのに、手を止め、聞いてくる。
なぜそんなことを聞く必要性があるのだろうか。部員の許可が必要な部活動は世界中、探せばあると思うが、心壁部はそんなんではない。寧ろ部員が少ないくらいだ。
「別にどっちでも」
素っ気なかった気はするけれど、まぁ、こんな感じでいい。
そう。と彼女は返事をした。
——罪悪感。
そんなものはないけれど、心なしか自分の言動に少し後悔ある。少しだけ。
入部届を書き終えると後は先生に渡すだけである。書き終えた後、そのまま椅子に座る。口の字に置いてある机に対して椅子が各三つずつ置いてある。入って左に僕、右に巫が座っている。向かい合わせになっているけれどそこはどうでもいい。
春は僕の右側、巫の左側、の椅子に座った。——微妙な距離感。
「部員になるに従って、一つお願いしたいところあるのだけれどもいいかしら?」
ん? お願い? なにを願うのだろうか。活動内容についてかな。春は具体的になにをする部活動なのか、知らされてないだろうし、それに部活の名前すら知らないだろう。
心壁部何て名前、心に壁ってそのままだよな。心の中に壁ができた者言わば、相談しに来た人の悩みを種を我々が解決する。そんな部活不思議で仕方がない。
僕が通っている佐世保西高校にはカウセリング室があるし、先生もいる。夜来先生曰く、『目には目を。歯には歯を。生徒には生徒を』っということらしい。生徒の悩みを先生が解決することは難しい。それに高校生とは言っても子供だし、先生という大人に相談しずらいこともある。でも、友達とかならまだしも、見ず知らずの人に相談するっていうのは、逆に壁を作られそうだけれども。
そんなことはさておき、巫の願い事をやらを聞こうか。
「桃瀬さん、そして、沢良木君。呼び方は別になんでもいいのよ?」
ぇ。
と僕と春は言った。急なことだったから驚いただけだ。
巫は続けて話す。
「別にあなた達がどのような関係かは知らないけれど、風ちゃんかしら? 別に訂正して沢良木君に訂正しなくてもいいのよ。それに桃瀬さんじゃんくて春って言ってもいいのよ。別に呼び方なんて人それぞれなんだから」
「…………っ!」
なにも反論できなかった。
大きくため息をして全てを巫に話そうと決めた。隠してもしょうがない。このままずっと引きずるわけにもいかないし。
「仕方ないな。巫、僕と桃瀬——いや、僕と春は小学校からの幼馴染みたったんだよ」
「……だったっていうことは今は違うのかしら」
彼女は不思議そうに聞いた。幼馴染みを過去の話にするのは無理があったのだろうけれど、仕方ない。
「まぁーそんな感じだ。昔、ちょっとしたトラブルがあってな」
「それならいいのだけれど、名前の呼び方くらい統一してくれないかしら、不愉快だわ」
気持ちはわからなくもない。
風ちゃ——沢良木君。っていちいち面倒くさいだろうに。それに沢良木君っていう呼び方は巫と被る。
「巫、すまないけど二人だけにしてくれないか? 話がしたいんだよ」
「いいわよ。丁度、図書室に本を返さないといけないから」
巫はカバンから本を取り出す。『僕とあの子とあの子』という題名の本を取り出す。
その本って図書室にあるやつなのかよ。彼女は部室を後にした。
巫がいなくなった部室には今現在、僕と桃瀬春の二人だけの空間である。何か話さなければならないという思いが湧き出てくる。僕から二人だけにしてもらったんだから何か話さなければならない。
誰も喋っていない部室にはやはり時計の音しか流れていない。
冷たくて、重たい。
そんな空気が流れながら、桃瀬春に声をかけた。