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僕の知ってるハーレムはこんなんじゃない。  作者: 途虎
第1章 僕の知ってる部活はこんなんじゃない
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第6話「依頼」

 ここで昔の話をしよう。僕と桃瀬春との昔の話を。

 僕が小さい時——と言っても小学生のころなんだけど、僕は泣き虫だった。

 何か嫌がらせされるのたびに泣いていた。

 ペットが死んだ時も泣いていた。

 数少ない友達が転校する時も泣いていた。

 ——それほどまでに、僕は泣き虫。そんな僕という泣き虫の横で満面の笑みを浮かべて、笑っていた少女がいた。その少女こそがまさに桃瀬春である。

 僕が嫌がらせされて時もいじっめ子を懲らしめるわけでもなく、慰めるわけでもなく、僕の隣に座って僕を大声で指をさして笑っていた。ペットが死んだ時だって僕が大声をあげながら泣いているにもかかわらず、死んだ死体を木の棒でつついて、『なんだ、死んでるじゃん。つまんないの』とか言ってまた僕を見て笑う。

 僕は彼女の思考回路はいつもどうなっているのだろうと思っていた。もしかして、こいつは喜怒哀楽の哀がないのではないか!? と思うぐらいだ。

 でも、そんな彼女は僕が泣いている時はいつも僕の隣にいた。いつも僕の隣にいて、僕を笑っていた。

 ——ただ、中学校3年からそれは無くなった。



「それで、相談というのは何かしら」

 巫がどストレートに聞く。なんの前触れもなく。

「その……えっと……」

 春の目が上へ下へ右へ左へとキョロキョロ動き、明らかに戸惑っている。その上、ショートヘヤーの髪を右手の親指と人指し指で挟み、動揺を隠せていない。その後、助けてと言わんばかりに僕の方をみる。

 そんな……僕に助けを求めること自体間違えだ。だがしかし、仕方ない。ここは僕、沢良木風屋はお前を助けてやる。別に後でありがと〜みたいな絶対自分のこと可愛いと思ってる女子みたいにお礼を言わなくていいからな!?

「まずは桃瀬さん座ったら?」

「ぁ。うん!!!」

 口の時に机が置いてあるこの部屋に、僕と、その前に巫花が座っている。どこに座ろうか迷っているのだろう。えっと、とか言いながら僕の右斜め前の椅子に座る。巫からすれば左な斜め前だけど。

 できるだけことを早く済ませたい。心壁部って言ったかな? 憐れな人間を救う手伝いをする部活言ってたけど具体的には生徒の相談を聞いて、その解決する手伝いをするということだろうか。

なら、今現在、桃瀬春は依頼人。

「あのね、なんていうか、その……えっと……」

 完全に戸惑っているな。

「早くしてくれない? 沢良木君はともかく私は暇ではないのよ?」

「おい、僕を暇人と決めつけるな」

 本当に暇人ではない。いつも学校が休み日は昼に起きて、ゲームをして、ゲームをして、ゲームをして、休んで。ゲームをして、ゲームをして、ゲームをするという完璧な休日を過ごしている。

「その、簡単なんだけど好きな人と仲良くなりたいんだけど、何かきっかけを作りたいというか——でも、こういう話題って友達とかに話しずらくて」

 友達がいない僕らにとってそういう話題以前に普通の話題でも自分で気になって自己処理をして、終わらせる。これが正しいぼっち生活というものだ。

 巫がため息をつく。呆れたように。

 彼女なら経験も豊富そうだし、可愛いし、そういう話題は得意教科みたいなものではないのか? 絶対モテるだろう。ここがあえてなにも言わずに巫に任せよう。男子が出しゃばる場面ではない。

「それで?」

「え?」

「それで、私達にどうしろと?」

「だから……きっかけを…………作って欲しいなって……」

 完全に俯いてしまった。最後の方は小さくてよく聞こえなかった。巫様よ。そりゃーないぜ。

「きっかけね。相手は一体誰なの?」

「相手って……」

 春は僕をみる。うわ、ここで助けを求めてくるか。

 こういう話題は苦手なんだよな。一度苦い経験をしてるから。

「はぁ」

 僕は大きくため息を吐いた後、次に言葉を発する。

「ちょっと待て。相手の名は言わなくていい。」

「あら、それはなぜ? 相手がわからないと私達はどうしようもないわ」

「それも一理ある。だがな、好意を寄せている人の名前をいうことはとても恥ずかしいことなんだぞ」

「そうね。じゃ、どういう人か教えてくれる?」

 ストーレートだな。見事に綺麗な三振ができそうだ。

 いや、できちゃいけないんだけど。

 春の目がまだキョロキョロしている。キョロキョロするのはまだいい——だが、目を見開いてするのどうかと思う。もう、目の運動をしてるのではないかと勘違いするほどに見開いている。

 巫はそんなことも気にせず早く答えてくれない? と言わんばかりのオーロをとことなく放っている。

「ぁ、うん。えっと…………その、わかんない!!!!」

 沈黙が続く。わかんないのがわかんない!

 わかなんないのかよ。好きな人なら知ってるはずだろ。

「それは、困ったわね」

 おかしなところがまるで何一つないかのように巫は普通にかしこまる。

 そこはなにか疑問があってもいいだろ。なに、普通に答えてるんだよ。巫になれば——

 巫にもなれば相手がどっかの誰かわからなくても、できるというのか。恋愛関係については僕よりもこいつの方が豊富そうだし、それに、僕なんて、ネジの一本抜けた未来のロボットみたいなに使えないんだよ。そういうのに対しては、焦げた料理のように僕は失敗作だ。失敗しかしていない。一度も成功したことなんてない。——1度も。

「わかんないってことはないだろ。どういうのが好みとか、こういう人は苦手とかないのか?」

「……ぇ、あ、うん。知ってはいるんだけど…………ごめん」

 春は俯く。そこまで攻めたつもりはないが……

「まぁ、いいわ。解決方法ならあるから」

 巫花。

 完璧美少女。

 そんな彼女はあっけなく答える。この短時間で解決方を思いついたというのか。なんてやつだ。

 さぁ〜聞かせてもらおうか。その解決方法とやらを——

「早いな。では、その方法とは?」

「簡単よ。クッキーを作ってあげたら?」

「クッキー????」

 可愛い回答であった。まぁ、可愛いというか、普通というか、通常というか。いかにも、普通の生活を送る高校生が答えそうな回答だった。

 だが、クッキーを作るのはいい。そこまでの料理スキルが桃瀬春には——ない。僕の知る限りでは。

 小学生の頃、バレンタインデーに手作りのチョコレートをもらったことがあるが、見た目はおろか、味さえも衝撃的でとても食べられるものではなかった。まぁ、必死で全部食べたけど……

「お菓子か〜……」

 目をそらすな。いかにもできないって顔じゃねーか。

「お菓子なんて簡単よ。作るだけなのだから」

「世間一般の人達の中にはそれを苦手にするやつもいるんだよ」

 こいつは料理スキルもすごいのか。なんでもできそうだな。

「あ、あははは、えーっと。やっぱいいよー。私なんて料理って柄じゃないから……ごめんねー」

「あなたがそう言うならいいのだけれど、もしかして、できないの?」

 冷たい空気が部屋中に広がる。決して、温度が低いわけではない。巫は地雷を踏んだ。

 言ってはいけないことを言った。そう、その通り、春にはできない。

「ぇ、いやいや。できるよ? できるけど、なんか、キャラじゃないから」

 だんだんと声が小さくっていき、僕の方をちらりと見た。それに続くかのように巫は追い打ちをかける。

「そうね。あなたみたいな人はそういう人柄ではないものね」

「そ、そうだよねー。えへへへ」

 はぁー。ため息がでる。

 なんだこの空気は。

 もう完全に春のやる気は0%と言ってもいい。ほぼない。むしろ、ない。

「いや、やってみろよ」

 僕は目を逸らしながら言う。

「やらないより、やってみたらいいと思う。別にそういうのいやがるやつとかいないだろ」

「そうかしら、嫌いな人にもらったら普通に引かない?」

「おい、フォローしたのに崩壊させんなよ」

 お前は、ベルリンの壁を一瞬で破壊しそうだな!

「私やってみるよ!」

 両手を胸の前で拳を握る。

 おぉ。

 やる気0%だったのが一気に100%まで上がっている。

 まさに、僕、素晴らしい。僕のおかげ。

「そう、わかったわ。やるからには真剣にするつもりよ。ぁ、そうだ。ひょろ良木君だっけ? 君も参加するの?」

「人をひょろひょろみたいに言うな。僕の名前は沢良木だ。そして、パクるな。完全に西◯維◯のパクリじゃないか」

「いいえ。コピーよ」

 完璧にパクっるじゃねーか。それを世の中ではパクリって言うんだよ。

 コピーぐらいの英語は僕にだってわかる。僕じゃなくてもわかるだろうけれど、まぁ、でも、参加はするつもりでいる。巫だけだど少し不安というか心配というか、嫌な予感しかしないんだよな。教えるの下手そうだし。

 はぁ。

 大きくため息をし、僕、沢良木風屋は巫花と桃瀬春に言う。

「一様、僕も参加するよ……」

 二人は少しだけほんの少しだけれど、にっこりと笑い、うなずいてくれた。



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