第5話「巫花」
「あなた、友達いないの?」
唐突に何の脈絡もなく、僕の心を破壊するような質問をしてきやがった。
本当に失礼なやつだ。
「自分で言うのもなんだが……これでもそこそこ優秀なんだぞ? 成績も国語だったら、学年一位になったことがあるんだぞ!? 彼女と友達がいないこと除けば高スペックなんだぞ!?」
「最後にとても悲しいことが聞こえたけれど……。そんなことを自信満々に言えるなんてどうかしてるわ。もはや気持ち悪い」
「うるっせ。お前に言われたくないわ。ドS女」
本当にドSだ。
少なくとも僕が見る彼女は。
「失礼ね。私、あなたが嫌いだわ」
「失礼なのはどっちだよ」
「私だって昔は建前や周りを見ながら行動していたのよ」
周りの目ね。あーやだやだ。ほんとやだ。
僕が誰とも話さず読書ばかりしている時に話しかけてくる女子とか、その読書面白いよねとか言ってきて関わろうとする。でも、それは委員長という立場があったからだ。もしも、そいつが委員長でなければ僕に話しかけてくることも、僕と関わろうとするこはない。
——絶対に。
ましてや、罰ゲームなどと言って話しかけてくる奴もいた。
またまた、一人で寂しそうと思い話しかけてくる奴もいた。
同情するぐらいなら金をくれ。一人が寂しいのではなく、一人になりたいから一人でいるだけで、逆に迷惑なんだよ。もうほんと、どうしてそんなに一人でいることが悪いことになるのだろう。
「小学生の頃の話よ。休み時間はいつも親友と話していたわ。会話はどうでもいいことだったけれど、ほんとに楽しかった。でもね、それは薄っぺらい友情に過ぎないのよ。親友の人の好きな人は私を好きだったの。ほら、私って綺麗だし、可愛いから」
「お前、相当のナルシスだな」
「それを知った親友は私を排除しようと私を避けるようになったわ。話しかけても無視をする。ましてや物を隠されたこともあったわ」
あ。
こいつは僕と同じだ。友情なんてないと思ってる。
友情なんて、存在しない。ただの幻想だと思ってる。
こいつは僕と同じ境遇者なんだ。
「その後、親友はどうなったんだ」
巫は窓から見える空を見ながら口を開く。
「転校したわ。親の転勤が理由。でも、お別れ会の最後の一秒まで私と話すことも、目を合わすこともなかったわ」
「まぁ、確かに友情なんて存在しない。そんな物はそんじゃそこらに落ちてるゴミと同じだ」
「あら、意見が同じなんて私的には不幸だわ」
「そこは、嬉しいと言えよ」
プイッと目をそらす。思い出したかのように、あっと巫は声を漏らす。僕をもう一度みる。
「まだ、自己紹介してなかったわね」
「ぁ、いや別にいいよ。僕お前のことを知ってるから」
「え?」
まさかストーカー? みたいな顔をするな。お前は有名人だからだ。それ以外に何もない。こいつは自分が有名人であることを自覚していないのか? 本当に何を考えてるかわからないやつだ。
「友達がいないあなたみたいな人でも知っているなんて最悪だわ。まぁ、一様自己紹介でもしてあげましょう」
そう言って、巫は膝に手を置き、まっすぐ僕の目を見て自己紹介をし始めた。
「私は、巫花。あなたと同じ一年生よ」
「ってか、お前僕が1年ってなぜ知ってたんだ? 夜来先生も僕も話してないのに1年って知ってただろ」
「それは、あなたの顔を見ればわかるわ。一年生ですっていう顔をしているもの」
「どんな顔なんだよ」
ちょうどチャイムがなる。別にこのチャイムは下校時間をしているわけでもなくただなるだけの無意味なチャイム音である。僕と同じように。
僕はスピーカーと時計をみる。巫は読書をし始めていた。
おい、待て。話の途中だぞ。
なんだその本は——『僕とあの子とあの子』って。完全に三角関係のやつだろ!?
それをニヤニヤしながら読む巫もどうかと思うがな。そういうドロドロしたのが巫は好みなのか? でも、第一印象と合致する。人の不幸を笑い、相手を見下す。それが巫だ。俺の知る限り。
「……おい」
僕は小さめに声をかけた。だが、何も反応をしてくれない。コンコンっとノック音がした。
「失礼するよ?」
夜来先生であった。相変わらず清楚系の夜来先生は美しい。眼鏡をとったら…………やめよう。考えない考えない。
「なんでしょ?」
「いや、入部届を渡し忘れていたから私に来たのよ」
僕は夜来先生から入部届をもらい、その場で書く。入部届を書きたくないと思ったのは初めてだ。
ぁ。僕、入部届書いたことなかった。てへ。
中学時は帰宅部。高校の時も帰宅部でいようと思ったのに、なんで、強制入部なんてさせられないといけないんだ!? 人権というものはなんのためにあるんだ!?
夜来先生に入部届を書いて渡す。先生が開けたまんまのドアから、不自然なことに人影が見えた。そして、夜来先生が口を開けた。
「さぁ、恥らずに入ったらどうなの?」
ドアの方向に声をかける。そこから、出てきたのは僕の幼馴染である、桃瀬春であった。ぴょんっと出てきた春は僕を見て驚いた。
「え!? どうして! 風ちゃ……沢良木君がいるの!?」
——僕は答えなかった。
「友達?」
巫は首を傾げて僕をみる。友達いたの? みたいな不思議そうに僕をみる。
「友達じゃない——知り合い」
友達じゃない——友達だった。
昔の話。
今は違う。
「そう。あなた誰なのかしら」
僕を見ていた巫が春の方をみる。
先生は用事があるから後は任せましたと行って部屋を後にした。本当に適当な先生だ。
「えっと……そこにいる沢良木君と同じクラスの桃瀬春です。あなたは——巫花さんだよね?」
「そうよ。それで、なんのご用かしら」
「先生に最初は相談したんだけど——生徒の方がいいかもしれないって言われたからここに来たんだけど」
押しつけただけだろ。まぁ、あながち間違いではない。先生に相談しても昔と違うところもあるから、意味がない時だってある。第三者が入ることによってごちゃごちゃしてしまうこともある。
目には目を。
歯には歯を。
生徒には生徒を。