第3話「ランキング」
自己紹介が全員が終わると、丁度チャイムがなった。これで地獄の自己紹介も終わり、僕の気分的にはテンションMAXなんだけれども、まぁ、表情に出すわけにはいかない。ここはぎゅっとこらえて読書でもしよう。
「次の授業はアンケートに答えてもらうから、筆記用具を準備していてくだいね」
アンケート? 多分だけど進路のことだろうな。僕の進路なんて何も考えていない、ここの高校に入ったのも気まぐれというか、私立高校である佐世保西高校の理事長と僕の父さんが知り合いで簡単にいうと、コネってやつだ。授業料も半分にしてもらっている。でも、その理事長は小学校のときぐらい以降会っていないしもう顔も覚えていないってか、まぁ、優しそうな感じの人だったみたいな感じには覚えている。
……うるおぼえだけど。
鞄から筆箱を取り出す。そして、消しゴムとシャープペンシルを取り出す。
——読書開始。
そのとき、僕の背中にポンポンっと叩く感覚を感じだ。推測だけれども、後ろの席のやつだろうな。なんだろう。話しかけてくるなよ。僕は今、読書という名の現実逃避をしている途中なのに。
叩くと同時に後ろから男性の声が聞こえてきた。
「ねぇーそこの君ー」
男性の声だった。俺はあえて振り向かずに無視をすることに決めた。理由は簡単、めんどくさいから。
「おいおい、無視するなよ。ねぇーってば、そこの少年君? 聞こえてるよね?」
うるせーな。聞こえてますよ。
はいはい、もう察しろよ。あえて無視してんだよ。ここで応じたら絶対これからも声をかけられるに決まっている。最初はポンポン優しく叩いていたのにだんだんと強くなっている。だんだん痛くなる。やべ、ちょー痛い。耐えろ、耐えるんだ、俺。ここで振り向いたら僕の高校生活がまた中学同様に壊れてしまうぞ。
——痛みに耐えつつ読書をしていたら、ポンポンというよりかボォンボォン! って感じになってるけれど、その痛みが消えた。というか止まった。
そして、あたかも何もなかったかのように本の文字を読んでいるとふと視界の制服が目に入った。目の前に誰かが僕の方を見ながら立っている。誰だろう。
「無視はもういいんじゃないかな?沢良木君」
その声はさっきまで僕の肩を強く叩いきながら僕に声をかけていた声と同じだった。はぁ、こいつめんどくさいな。もうここまでされては無視できない。仕方ない、応答してやろう。
「……あ……いや、別に……」
僕のコミュニティー不足がここで発揮された。僕は読んでいた本にしおりを挟み、声の主の顔を見上げる。
「やっと返事をしてくれたね。さっきから無視ばっかりしているから嫌われたのかと思ったよ」
大丈夫安心しろ。僕はお前のこと大っ嫌いだ。むしろ、はなしかけてくるな!
「あ。いや、別にただめんどくさかったから……。それより、なんですか?」
「あー。そうそう、えっとー……なんだったけ?」
おいおい、それないだろ。そこ一番大事だろ? そこ思い出してくれないと僕は君に何を話せばいいの? なにこれ、なんかの罰ゲーム? あー怖い怖い。
「そうだ! 思い出した! シャーペンの芯一本くれない?」
「あぁ。別いいけど…」
「ありがとう! いやー助かるよ。こんな時に芯がなくなってて替えの芯もないなんて俺ついてないなー」
僕はお前に話しかけられたことの方ががついてない。シャーペンの芯を一本だけ取りだし、彼に渡した。
「そういえば、名前言ってなかったよね? 俺は東西颯斗よろしく」
「どうも……」
あれ、まさかこれ僕も言わないといけないパターンですか? ねぇ。言わなくていいよね?
「んで、君は?」
「沢良木風屋……です。沢良木じゃなくて沢良木です」
「あーごめんごめん。じゃ、沢良木君。一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
そういって東西はポケットからメモ帳を取りだし、僕がさっきあげたシャーペンの芯を少しばかりか出して、僕のほうを見上げた。
「このクラスで一番可愛いと思う女子は誰?」
「え?」
「このクラスで一番可愛いと思う女子は誰? このクラスで一番可愛いと思う女子は誰?」
大事なことので二回言ったのか。可愛いと思う女子? なぜそんなことを聞くのだ。こいつは。
「急にどうしたですか?」
ここでコミュニケーション不足がまた発揮され、敬語になってしまう僕。
「俺らのクラスって結構女子のレベル高いと思うだよね。だから、ランキングを作ってるんだよ。あと、投票していないの俺と沢良木君だけだよ。」
まさか、こいつ体育館から教室までの移動時間と十分の休み時間で僕以外の男子全員に聞いて回っというんか!? なんてやつだ。
しかも、他の俺らのクラスってまさか、他のクラスまでも把握済みとはなんという男子の中の男子だ。
「えっと……今のランキング順位は?」
「えーっとね。三位は山梨南。二位は桃瀬春。一位は深山愛。」
僕は二位を言われた時ビクッとしてしまった。なぜなら、桃瀬春という女子は僕の幼馴染みであるからだ。小学生からの知り合いでよく、家に遊びに来てよく二人であそんでいた。
遊んだというより、遊ばされた。
——でも、それも昔のこと。
——でも、いまは何もない。
なんの関わりもない。家に来るけど、僕の一個下の妹とあそぶくらい。俺とは話すことも目を合わすこともない。あの告白の時から、彼女は僕とかかわることをやめた。
当然のように桃瀬春は僕を避けた。
当然のように消えていった。
「おーい。生きてるかー?」
ボーッとしていると東西が僕の手を振る。そのおかげでハッと意識を戻す。失神していたわけじゃなけど。
「桃瀬春って人気なの?」
「そりゃーもちろん。胸もそこそこあるし、モデル体型であのかわいい笑顔でお願いされたらなんでもいう事聞いちゃうかも。あんな子が彼女だったら人生幸せだろうな」
「お前の人生は単純だな。でも、可能性はあるんじゃないの?」
「それが、俺の情報だと彼氏はいるって聞いたけど」
頭をかかえる東西。あいつ、彼氏いたんだ。
現代語で言うとリア充ってわけか。あいつのリアルは充実しているだろうが、僕のリアルはもう崩壊寸前だ。いや、もう崩壊している。
「んで、結局誰なの?」
「あ、そうだった。」
忘れてたなんて言えない。
「そうだな。んー。深山愛でいいや」
「おいおい。適当だな」
「別に誰でもいいよ。そういうの興味ないし」
興味を持ったところで僕には何の利益もない。むしろ損失ばっか。
「じゃー。俺は桃瀬春で!」
東西は桃瀬春を選んだ。嫌がらせなのか? いやでも、こいつは僕が彼女と幼馴染みだと知らない。偶然か。東西を少しばかりか睨んでしまった。でも、東西はびくりともせず笑顔でこっちを見ている。こいつも根はいいやつだろうけど、裏切られる可能性だってないことはない。
裏切られるくらいなら友達という関係なんていらない。
チャイムがなる。全員が席に着くと同時に夜来先生が教室に入ってきた。
そして、右手に持ったプリントを配りだす。全員に行き渡ると「アンケートに答えてくだいねー」と先生は笑顔で生徒にいう。
アンケートは5問ほどの質問がある。最初の質問はなんだろう? と思い一つ目の質問を見る。
『友達は好きですか』
嫌がらせか? 嫌みなのか? だが、僕はシャーペンをとり、その質問に答える。
——友達とは悪魔である。