第14話「球技」
球技大会。
中学校にはなかった行事の一つである。ドッチボールやら卓球やらをクラスで戦い、クラスで勝つという。卓球は個人競技かもしれないけれど。だが、大体はわかる。ドッチボールをしても僕は端っこにいて、影の薄い存在となり当たる確率が小さい。あれ、いたの? みたいに見られ、誰こいつとも言われる。悲しくとも切ない。卓球に限っては毎年二人チームで組み、戦うみたいだけれど、僕にそんな相手はいない。体育の時だって、二人一組になってと先生に言われるたびに、すいません相手がいないんですけど。と言っていた。その時は先生が相手をしてくれていた。
ともかく、球技大会はぼっちに取って、残酷な仕打ちであり、恐怖である。
朝、登校して教室にある自分の席に座ると後ろの黒板に白チョークで、何かしら書かれている。
『球技大会。したい競技がある人はこの下に書いて下さい』
と。その下に色々な競技が書かれている。
——ドッチボール。
王道だな。この競技には参加したくないな。
——キャッチボール。
遊びかよ! 流石にキャッチボールは小学生でも書かないよ。寧ろ、書いた人に頑張った賞をあげたいね。
——みんなで出来ればなんでもいい!
うん。完全にもう投げやりだよな。それに誰が書いたかが予測できるのが僕としては恐縮です。(多分、春)
他にも無難に、サッカーだとか、野球だとか様々な競技が書かれているのだが、全くと言っていいほどに乗る気じゃない。気分が上がらない。寧ろ、したくない。
朝のホームルームが終わり、一時限目に入ろうするが、なんと一時限目は球技大会の競技決めだそうだ。いや、授業がつぶれる分にはいいんだけれども、僕としては勝手に決めてくれると嬉しい。どの競技にも対して変わらない。端っこにいる陰キャラだから。
「それでは、何か意見はないですか?」
と委員長の人が言っているのが聞こえる。意見はある。
球技大会をなくしてしまうという意見。そうすれば、ぼっち感は出なくて済む。
誰かがサッカーというと、女子達がえー焼けるーとか言って反発している。それに、男子もあまり乗る気じゃない。
そして、また誰かがドッチボールというと、女子も含めていいとか言い出した。結局、みんなはなんでもいいのだろうか。誰かが意見を出せばいいのだろうか。別になんでもかまいはしないのだろう。
僕を抜いて、みんなが意見を合わせ、ほぼ確立したかのように見えたがそれは偽りである。
その直後、僕が苦手とするグループの森竜司が意見を出してきた。
「ドッチボールなんて子供じゃん? やっぱサッカーでしょ。サッカー」
彼はチャラめの男性である。クラスのみんなが声をトーンを落とした。
雰囲気はみんなドッチボールで決定していたのだが、森がサッカーというからみんなが騒ぎ始めた。
小声で話しているつもりだろうが、僕には聞こえて来る。なぜなら、僕が誰ともしゃべっていないから。
えーサッカー、嫌だなー。
でも、ここでなんか言ったら睨まれそうだしーもうサッカーでいいかな。
俺、元からサッカーしたかったし、別にドッチボールじゃなくてもいいし。
とか、様々な意見が聞こえてくる。
完全に嫌そうだ。
だが、クラスの一人が言った。
「サッカーで……いいかな」
と。するとそれにならうかのようにサッカーと言い始めた。ドッチボールをしたかったんじゃないのか。
周りを見て行動することは悪いことじゃない。しかし、これはいいこととは言えない。
球技大会の競技をサッカーという案で出すみたいだ。あとは他のクラスがサッカーが多ければサッカーになる。
さて、どうなるやら。
結局、球技大会はサッカーになった。ドッチボールと一票の差らしい。
球技大会前日の日。
帰りのショートホームルームも終わり、いつも通り一人で部室に行こうと廊下を歩いていると後ろから衝撃を感じた。咄嗟に後ろ振り向くと春がそこに立っていた。
「先に行かないでよ」
そう彼女は僕に言う。
「別に一緒に行くなんて一言も聞いてないし」
屁理屈だけど、筋は通っている。
春は、少し不機嫌そうだ。さっきまで例のあのグループと仲良く、楽しそうに話していたのにもかかわらず。
「球技大会頑張ろうね!」
不機嫌だった顔が一変、笑顔に変わった。
なんだこいつ、顔が変わりすぎだろ。
「あぁ。多分、僕は出ないと思うから頑張るも何もないんだよ。それにこういうのは苦手だから」
苦手というか嫌い。そんな馴れ合いはいらない。
必要ない。
よく公園で小学生がだろうか、そのくらいの男の子達がサッカーをして公園で遊んでいるの風景をよく目にするが、その反面、公園でひとりぼっちでゲームをしている男の子の風景も目にする。どっちが正しいかなんて、そんなものはわからない。でも、ただ一つ言えるのは、小学校、中学校の友達は現在進行形以外は全て過去形になるということだけだ。
昔の友達は忘れ、今の友達を思う。
昔、あんなに仲が良かった友達も今では連絡一つない。
——友情というものはそんあものである。
すぐに消え、すぐに生まれる。
単純で簡単なもの。
「出ないって、でも見学ぐらいはしないと」
そうじゃないと怒られるよ。と春はそういう。
「見学ぐらいはする。見てるだけだがな」
そういうともう、その時には部室の前に来た。
ドアを開ける。
普通の日ならば、いつも通りならば、巫花しかいないはずの部室には。
巫と——一人の女性がいた。その女性は我が高校の生徒会長。
簏崎沙織である。