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僕の知ってるハーレムはこんなんじゃない。  作者: 途虎
第2章 僕の知ってる友達とはこんなんである。
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第12話「自覚」

「桃瀬さん、早くしてくれないかしら? 待っていても来る気配がなかったから迎えに来たのよ」

 巫は鋭い目つきで春を見ていた。まるで、ドアの前に立つ、獲物を狩る虎のような目。

「は。なんなの」

 と山梨。こちらも巫を鋭い目つき。それはまるで獲物を狩る狼のようだった。

 二人に挟まれた春は目がキョキョロと右や左、上下と泳いでいる。確実に焦っている。喧嘩が始まるのではないかと思っているだろうか。だが、殴り合いの喧嘩はない。むしろ、殴り合いより酷い口喧嘩が始まりそうだ。相手の悪い点を皮肉を含めながら相手に言う。それと同時に相手も言う。言い合いになり、いつの間にか死ねやバカと言った小学生みたいなことを言い出す。——子供ように。

「二人とも……ちょっと……」

 春は二人を止めようとする。だがしかし、そんなことはどうでもいいかのごとくに巫は言う。

「昼食の約束をしていたのだけれども、それがどうかしたかしら?」

「私達が今、話し合ってるでしょ」

「話し合ってる? それが話し合うっていうのかしら。私には一方に意見を押し付けてるようにしか見えなかったわ」

 確かにそれは納得だ。一方的にジュースを買ってくるように押し付けていた。

「だからって話に入ってくる必要性はないでしょ」

「事情はしらないけれど、こっちも迷惑しているのよ」

 口喧嘩が始まった。もう誰も止められないよ。僕もお手上げだ。

「あなたがしていくことはいじめよ。パシリなんかそんなものではないわ、れっきとした苛めよ?」

 ——いじめ。

 それは、強者が弱者を痛みつけること。肉体的に、精神的に、立場的に、暴力や差別や嫌がらせなどによって、人間は同じ人間に苦しめられる。苛められることによって自殺をするものも多いと言う。

 物を隠す。パシる。悪口を書く。

 これらは全て苛めにあたる。苛めの原因は多く面白半分である。

「人間は自分より弱い物を苦しめることで幸福感などを得られるのよ。でも、苛められる側のこと考えたことある? 大変なのよ」

 その言い方は巫は苛められたことがあるのか?

「ちっ、違う! 苛めなんかしてない! だって春と私は友達だし」

 それは友達とは言わない。偽りだ。

「苛める側は苛めと自覚していない場合だってあるわ」

「苛めなんて……春、苛めなんてしてないわよね?」

 焦っている山梨の顔には汗をかいている。自分が苛めていたことに仰天しているのだろう。

 自覚はなかったようだ。悪役っぽかったけど。他の男子三人は唖然としている。

「……ぇ…………ぅん」

「春!?」

 春は苦笑いする。その返事に山梨は驚きを隠せいない。

「はぁ。あなたがいじめていたことは確かよ。もういいわ。桃瀬さん、部室で待っているから用事が済んだら来て頂戴」

「ぁ……うん、わかった」

 巫は光の速さで消えていった。

 僕も逃げよう。この空気は居ずらいから。ゆっくりとドアの方へと歩いていると春から声をかけられた。

「風ちゃん、ありがとう。あの時立ってくれて」

 立ったのはいいけれど、本当に無意味だったよな。春にと目を合わせ教室を出る。

 友達とは何か再確認できたように気がする。

 友達とはクズ。

 友達とは薄い友情。

 友達とはいらない存在。

 そんな言葉が今、僕の頭上には浮かんでいる。あれが友達というならば、やっぱり僕は友達なんていらないし、必要ともしない。教室を出て、廊下にいたのは巫であった。

「あら、あなた逃げて来たの?」

「それはお前もだろう」

「私は逃げて来てないわよ。あなたと一緒にしないで虫酸むしずが走るわ」

 ってか、部室に帰ったんじゃないのかよ。

 ドア越しから聴こえてくる。春と山梨の声。

「ごめんなさい。私苛めてるつもりなんて」

 そんな言葉が聞こえてくる。だが、僕はここで疑問に思った。本当に気づいていなかったのだろうか。誰がどう見ても苛めにしか見えない。他人のお金で自分のジュースを買って来させるなんて嫌がらせの度を超えている。

「いや、大丈夫だよ。南ちゃんだって気づいていなかったんでしょ?」

「……うん」

「それだったら仕方ないよ。だって私達、友達・・でしょ?」

 友達。

 その言葉が僕の胸に響いた。そして、一つの仮説が出てきた。

 山梨南は自分が苛めていたことに気づいていたのかもしれない。気づいたのが、最初か途中かはわからないけれど、苛めていると責められるのが嫌だから知らなかったと嘘をついているのかもしれない。苛めと聞くと学校側からどんな処罰を受けるかわからない。もし、これが全て山梨の作戦ならば僕の立場として止めなければならないのかな。わからない。

「私、南ちゃんも友達だと思うよ。でも、南ちゃんを友達に思うように花っちも友達だと思うからさ」

 春は山梨に語りかけていた。

 友達と言われて巫は少し照れているようにも見える。

「なにかしら、見ないでくれる? 死んだ魚のような目がうつるわ」

「そんなことでうつったら、世界中のみんな死んだ魚のような目をしているはずだ」

 うん。照れているように見えたのは僕の勘違いだったようだ。

 死んだ魚って魚に迷惑だろうが! 僕は魚より下なのかよ。

「うん、いいじゃない?」

 そっけなく聞こえた山梨の声。やはり、僕の仮説はあっているのだうか。声からして、言葉からして、いじめていた側の態度ではない。声だけしか聞こえないが、そんなことまでわかる。

 教室から出て来たのは春であった。少し嬉しそうな顔をしながら廊下に立つ。

「花っちごめんね。行こーって風ちゃん聞いてたの!?」

「まぁ、聞きたくなくても聞こえてた」

「風ちゃんのバカ、バカ、バーーカーー」

 子供かよ。

 照れているようにも見えるがこれも気のせいかな?

「さ、そこの魚はほっといていきましょ」

「うん。行こー。……バカ」

 巫と春はどこへ行ってしまった。

 巫と春は部員であり、友達なのだろうか。僕には理解できない。一度友達を捨て、独り身になった人間には理解のしようがない。大人になったらいずれ会うこともなくなり、思い出さえも忘れていく。

 そうならば、最初から作らなければいいはずなのに……。どうして、僕等は友達を作るのだろうか。

 僕には、もう本当に理解できない。

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