第11話「パシリ」
僕が心壁部に入部して、一ヶ月が経とうとしていた。春以外に相談に来るものはいなかった。あんまり表に出て活動していない我が部活動に来るものはいないだろう。存在していること自体知らないものだっている。相談に来ると言っても、夜来先生が経由で来るだろう。それに、赤の他人に相談するっていうことは自分の弱みを握られるということでもある。僕だったら相談しないな。
——昼休み。
一人で寂しく昼食をとっている。教室ではなく、外だけど。
学校と青春。と聞くと、屋上で告白されたり、部活動の部員とマネージャーが付き合ったりとそんなことを想像するだろう。でも、実際は屋上なんてだいだいは行けないし、部員とマネージャーが付き合うこともあるけど、別れた時、気まずすぎて空気が重いのが現実だ。
現実は残酷なんだ。
「風ちゃん? ここで何してるの?」
声をかけてきたのは、春であった。クラスの男子からは人気が高く、以外にもモテる。そんなこと本人は気づいていないし、気づこうともしていない。僕が最も嫌いとするクラスのグループ、イキっているグループにもいる。本人は別にそういうのは気にしていないみたいだろうけれども、僕からしたら苦手なタイプのグループに所属していることになる。
「いや、ただの昼ご飯だ」
「寂しいね」
「同情するなら金をくれ。一人で食べる方が落ち着くんだよ」
風を感じながら、パンを食べる。お茶を飲む。
今の子供は、栄養バランスが悪いからな。サラダも食べたいところなんだけども、それができない。パンしか売ってないから。
「今日って部活いくよね?」
「あぁ、行きたくはないがな。ってかお前こそ何してんだよ」
「いや、ジュース買ってきてって言われたから……」
「パシリかよ」
パシリ。
それは友達にジュースなどを買ってきてもらうこと。でも、自分でいけばいいのになぜ友達に行かせるのかというと、めんどくさいからだ。ただそれだけだ。
「パシリじゃないよ。私もジュース飲みたいなって思ってたから」
春はそういうけど、パシリをされているのには変わりない。そんな友達が本当に友達と呼べるのだろうか。もしもこれが何回も続いたら、もうそれは奴隷みたいなもんじゃないか。
僕の中で友達とは要らない存在だけれども、必要だっていう奴もいる。
そいつは本当の友達に出会っているからだろう。僕は出会わなかった。そんな友達これかもいるはずかないと信じている。
「そう、早く行ってやれよ。友達待ってるんだろ?」
「うん……それじゃーまたね。バイバイ」
と彼女はそう言いながら手を振ってきた。
これで終わりかと思ったていた。けど、違った。
桃瀬春のパシリは毎日のように続いていた。
昼休み、毎日のように春はジュースを買っていた。しかも、自分のお金で。
そんなの間違っている。
この事実を知ったところで僕が何かするわけでもない。そして、周りの奴も注意するわけでもない。自分も標的にされたくないから自分には関係ないと思い込み、弱者を見捨てる。それが友達や親友であってもだ。友達と言っても赤の他人だ。そして、僕も何もすることはない。
できない。
——そういう人じゃないから。
昼休み、僕が同じように外で昼食を取ろうと、思い込み始めていた時だった。またあのグループがしゃべっている。なんだこいつら。
「わたしーなんか最近、チョー髪やばいんだけど」
「南ちゃん、髪さらさらだよなー」
「そんなことないって!」
露骨に大声で聞こえてくるどうでもいい話。
桃瀬春、山梨南、森竜司、田崎絢斗、 相川裕太の五人で形成されている。女子二人に男子三人。
事実、山梨南は男子がつける可愛い子ランキングで三位になった女だ。だが、見るからに性格が悪そう。世の中可愛いければなんでもいいという考えがあるみたいだが、性格も含めたほうがいいのでは?
「あーそうだ。春さージュース買ってきてくんない?いつもやつでいいからさ」
「ぁ……ごめん。今日はちょっと無理かも」
「は?なんで?」
「いや、その……お金がなくて……それにほらだって、あんまりこういうのいやだなーって……思って……たりとかも…………」
俯いてしまった春。男子三人はなにも言わない。止めようともしない。
これが彼女ら、彼らの友達というやつなのか。いや、友達なんかじゃない。
友達と偽って、ただいじめていると同じだ。教室にはほぼクラス全員がいる中で無音が続いた。何かを察知したのか、一人が俺、トイレ行こうかなーと言い出しとたんにみんなが教室にいなくなった。友達であったはずのクラスが俺を抜いてほぼ全員が逃げていく。後ろの席の東西颯斗もまたどこかへいく。僕を虚ろな目で見ながら。五人と僕しかいない教室。静かだ。
僕は立ち上がった。
別に何かを変えようとしたわけでもない。
逃げた彼と同じ。僕はそんなことできない。無力な自分。
「そこらへんでやめたらどうなんだ」
と僕は言った。だが、その言葉を消すかのごとくドアの音がなる。
ドアの先に立つのは又しても巫花であった。彼女の姿は女神のようであった。救いの手を差し伸べるのは僕ではなくて巫である。