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僕の知ってるハーレムはこんなんじゃない。  作者: 途虎
第2章 僕の知ってる友達とはこんなんである。
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第10話「呼び名」

 二人だけの空間。

 現在、二人だけの心壁部の部室は僕と春しかいなかった。巫は図書室に行っている。

「久しぶり」

 と二人だけで話すのは中学校以来で久しぶりと言えば久しぶりだが、少しだけ惜しい気持ちが心の隅っこ似ある気がする。そういえば、あの告白の話をして以来、なにも話したことがなかった。妹とはよく遊んでる。

「うん。久しぶり」

 会話が終わった瞬間であった。

 初対面でこんにちはと挨拶して、こんにちはと返されられた時、僕の場合は会話が終わる。大きくため息をする。すーはー。

 何かを捨てたあの日、でも捨てたのは一つだけはなかった。

「あのさ、別に何もきにしてないし、これからも気にする必要はない。別にあの時誰かに助けてほしかったわけでもない。もう過去は忘れた」

 人は忘れることで生きていける。僕は恋人ができたことがないからわからないけれど、何人もの恋人ができていずれ別れ、付き合ってた自体過去の話にする。それが現実だ。

「でも」

 そう切り出しながら、春は話し出す。

「それでも、私は風ちゃんを助けたかった。んーん。何か声をかけるだけでもしたかった。私は……私は……あの時何も……」

「別に僕が春に助けられることを望んだわけでもない。それにあの時春に声をかけれていても、状況は変わらなかったと思う」

 あの時、何もしなかったのは僕の方だ。僕が気付いてれば少しでも友達を疑っていれば、諦めて終了という物語だったはずなのに僕達はいつ進むべき方向を間違えたのだろうか。誰かが幸せの相対に誰かが不幸担っている。それが、この世界の決まり事であり、変わらないものである。例えば、宝くじに当たった人もいれば、当たらなかった人だっているに違いない。

 春は思ったのだろう。あの時、あの瞬間、僕に何か言えば何かが変わると、でもそれは、未来に話にすぎない。もしもの話だ。絶対にそうなったという保証はどこにもない。

「それに、あの時、僕は一人で良かったと思っている」

 ——そして、今もそう思っている。人がいいと。

「どうして?」

「友達なんて薄いものだとわかったから。もう必要ないものとわかったから。これからも必要とすることはない——絶対に」

「…………」

 春は何も言わなかった。言えなかった。

 何か言う必要なんてない。僕はそんなこと望んでいない。

「呼び方は昔のようにするけどいいかな。そっちの方がいい慣れてたから、嫌なら別に変えるけど……」

「うん。私もそうする……」

 昔のようになりたいわけでも、関係を一から作り直そうとしているわけでもない。ただ、僕は巫が部員であるように、春も部員の一人として接したいだけだ。友達とかではない。

「あと、巫が戻ったら部活のこと説明してくれると思う。僕もあんまり部活のこと知らないから」

「ありがと。風ちゃんは昔と同じで優しいね」

「昔ののことなんて忘れとよ」

「そっか……」

 春は俯いてしまった。

 微妙な空気の中、巫は帰ってきた。良いタイミングと言えばそうなる。ドア越しに巫は言う。

「あら、終わったかしら? まだなら、待つわ」

「いや、ちょうど今、終わったところだ」

 巫はそうと返事をして、椅子に腰を下ろした。

「部活のことについて、春に話してくれないか? こいつ、あんまり知らないから」

 ——知らなすぎる。

「それは沢良木君が話してくれたのだと思っていたわ。やっぱり使えないわね。猿以下だわ」

 お前は悪魔以上だよ! 僕もあんまり知らないんだよって言おうとしたけどやめた。

 そんなことも知らないの? やっぱり猿以下だわと言われそうだったから。

「お前の方が知ってそうだったからだよ」

「気安くお前なんて呼ばないで頂戴。猿がうつるわ」

「僕は細菌かよ! はぁ。……巫よろしく頼む」

「あら、様が抜けてるわよ」

「…………………」

 流石に笑えない。

 自分に様をつけろなんて言われたのは人生で始めてだ。

「巫様ー。お願いいたしますー」

「良く言えたわね。にしては上出来じゃないかしら? 褒めてあげるわ。

「あーもう。猿です。僕はお猿さんですよ」

 最悪だ。人に猿と言うことも人生で始めてだ。

 ふと、春を見ると笑っていた。——笑顔で。

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