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勇者と王女の結婚はテンプレ

学生服に身を包み、リュックサックを背負い、通学する高校生たちの輪。


そこからなぜか逆方向の村役場に向かう影がある。


俺だ。


俺はもうただの高校生じゃない。手に職のついたハイパー高校生、その名も勇者だ!





馬鹿か!!!!勇者って職なのか!?!?

勇ましい者=略して『勇者』だろ!?

なら世界で初めてナマコ食ったやつの方が俺よりずっと勇者だよ!!!つーか俺、勇者じゃねぇよただの学生だよ!



自問自答をひたすら繰り返す俺。

愉快すぎて涙が出る。そんな俺の姿を見つけたのか、土手の下から声が上がる。


「勇者様!!!」

「見て!!!勇者様だよ!!!」


農作業の途中だったおじいさんとおばあさんが鎌を置いてこっちに駆け寄ってくる。



えぇー…

高校の同級生たちの反応は

「勇者とかないわー………」って感じだったのに!


なんでじーちゃんばーちゃんって中途半端に順応性高いの!?



「拝んどけ拝んどけ!!!!」

「いい米ができますように!!!!」



米が!?

順応性っていうか勇者がなんなのか分かってない感じ!?いや俺もわかってないけど!!!



おじいさんとおばあさんに曖昧な笑顔で手を振って見送られながら、俺は進む。


目指す先は町役場だ!!!!!


なぜ町役場に向かっているかというと、まず今回の勇者騒動について詳細をしっかりと町長から聞くこと。

そして断ること。


政府からの通達ってのがどんなもんなのかよくわからないけど、どう考えても俺には務まらない。





深妙な面持ちで向かった町役場だったが、

俺はそこで、更に深妙な面持ちにされることになる。



「よく来たね勇者!政府からの支援金を預かっているよ。どうぞ」

「いや…どうぞって言われても…」


いきなり金を渡された。なにこれヤバい金じゃねーだろうな。政府からの裏金的な。


「魔王からの刺客を恐れて、今回の勇者選抜は秘密裏に行われているんだ。だから支援金もあまり出せなくてね…勇者。君はこれから、くれぐれも目立つ動きは避けてくれよ」

なんか裏金っぽかった。



「なんで俺なんですか」


かねてからの疑問をぶつけてみる。



「……RPGの主人公ってのは、大体田舎。それも離島の、なんの変哲もない少年や青年がなるよね」


「ええまあ、テンプレですね」


「…」

「…」

「…」

「えっ?理由それだけ!!!?」


「本州から選抜するのはリスクが高い。あっちは魔物が多いからな。だから島からの選抜は意味のあることだよ」

「だとしてもやり方あるだろ!つーか1人じゃなくてもいいだろ!数の暴力で抗えよ!!10万人くらい選抜しろよ!!!」

「…仲間を作ろう?勇者はいつもそうやってきた」

「なんでそこ一任してくるの!?政府から斡旋してくれよ」

「急造メンバーで世界を救えると?」

「そんなこと言ったら主軸の初期メンバーである勇者自体が急造だろうが!」

「そんなこと言わないで…町長泣いちゃうよ」



本気で泣き出しそうだから困る。

この人はこんなんで町長やってたのか。大丈夫かこの町。




ガッガッガッ。


乱暴に廊下を走る音がする。


町長がひえぇ、何か来るよぉ〜と頭を抱えた。どうやら彼にも心当たりはないようだ。



ドアが弾け飛び、やけに派手な女の子が現れた。


「RPGの勇者と言えば、魔王を倒した暁には王様から褒美が与えられるわよね?」

「桐花!?」


現れたのは同級生の棚橋桐花。町長の娘だ。

同級生というか1クラスしかないから、近隣に住んでる限り、強制的に同級生なんだけどね。


「与えられるわよね!?」

俺に話しかけてたのか。

「与えられる…かなあ」

「そう、与えられるわ!!どんな褒美が与えられる!?」

「んんー…王女様との結婚とか?」

「んんんんん!!!」


こほんこほんと呼吸を整える。

なんか顔も赤いような。

「王女様との結婚が褒美になるわよね」

「うん、まあ…テンプレだよね」

「そこまで言うなら仕方ないわね!!!魔王を倒した暁には、私がお嫁さんになってあげるわ。」

「んんんんんんんんん!?」


あまりの申し出にびっくりどころじゃなかった。

町長なんか目が点になってるぞ。


「キリカ!!!お前にそんな覚悟があったなんて…。すまない、私に力が足りないばかりにお前に辛い使命を」


いや人を人さらいみたいに言うなよ



「あの、それはちょっと遠慮します」


俺にしては丁寧な言い回しで断る。

断ろうとした。だけど。

「紳士ね。さすが勇者よ。こういうとき、1度は断るのが勇者ってものよね。だって、『ありがとうございます結婚しますハアハア!!!!』って速攻で食いついてきたらないわーコイツってなるもの!」


いや、なるけどさ。ほんとに断ってる可能性も考えて?


「いやほんとに結構で」


「わかってる。結婚はまだ先のこととして、私は勇者、あなたを助けたい。」


「え!?」

「え!?!?!?」


なんか俺より町長のほうが驚いてる。


「あなたの旅について行くわ!」

「えええええええぇええええ」

「あばばびばばばばばばばばぁあああばぁああ」





町長の制止を振り切ってついてきた同級生。

ちょっと迷惑。だけど反面、嬉しかっただなんて

まだ彼女には言えそうにない。



支援金の封筒を開いたら、3000円入ってた。

たしかに最初の村で大金を手にしてる勇者っていないな。最低限の装備とアイテムを買える金額って意味ではこの金額は妥当なのかもしれない。ゲームならな!


ひたすら頭を悩ます。RPGの主人公は俺が考えていた以上の苦難を背負っていたんだなあ…。

もっと大金くれよ着の身着のまま魔王倒すのかよ、ってRPGの王様をボコりたくなったことある人はたくさんいるはず

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