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すれ違い

作者: 南瀬りか

北へ向かう新幹線の車窓を、どんよりと重く暗い雲がかかったような気持ちで私は見ていた。

窓の外は真っ青な空と白い雲。

私の気持ちとなんて正反対なんだろう。

頭の中には、数年前の言葉がリフレインしている。

「これが逆行きなら、途中まで一緒に行けたのにな。また会いにくるから」

東京駅から新幹線に乗り込み際に聞いた言葉だった。

私は、その日が来るとは思いもせずに、作り笑顔で「待ってるわ」と言った。

そんなことが、まるで昨日のことのように思いだされる。

そんな私の隣には、婚約者が私の気持ちなど気づかずに座っている。

もっとも気づかれても困るが。

これから二人で向かう地方都市へ、まさか自分が住むことになるとは思わなかった。

医師を勤める彼と出会ったのは、東京だった。

実家がその地方都市だと聞いたのは、付き合って間もない頃だった。

けれど、その頃アメリカと東京の病院を掛け持ちしていた彼がアメリカへ行くことはあっても、実家へ帰るとは正直思わなかった。

まして、長男でもなく一人っ子でもない彼が。


付き合って、一年少し過ぎた頃プロポーズされた。

友達には「玉の輿」と言って冷やかされたものだった。

確かに、玉の輿と言えるんだろう。

実家が医者で、彼も彼の兄弟も医師と言う一族。

しかも、彼はアメリカの大学で医師免許を取った人だ。

もし、私が狙っていたなら、玉の輿大成功といったところだ。

でも、実際私は、彼が医者でなければいいのに、と何度思ったことか。

しかもアメリカと行き来していた時は、会う時間どころか、メールさえままならなかった。

何度このまま切れてしまうんだろう、と思ったことか。

それが、なんとか繋がり、彼の少ない時間をさいて会うのを繰り返しているうちに、一年ちょっとなんてあっと言う間に過ぎた。

だから、正直、プロポーズされても、すぐに返事はできなかった。

嫌いだからじゃない。好きだった。

もし、彼がそんな医者でなければすぐに「Yes」と言っていただろう。

けれど、結婚した方が一緒にいられるかもしれない、という思い、プロポーズを受けた。


彼のご両親への挨拶、結納…。

否応無く、私はその地方都市へ行った。

けれど、結婚式までの間だけだから…と自分に言い聞かせていた。

別にその土地へ行って、どうなるわけじゃない。

けれど、思い出したくない思い出があったから、出来るだけ近づきたくはなかった。

それが、結婚が決まって間もなく、彼のお父さんが倒れ、彼が病院を手伝うということになり、新婚当初は東京に住むという予定が急遽変わった。

その為に、何度この新幹線に乗り、その地方都市へ向かっていることか。

実家にほど近い所、という条件で彼のお母さんが新居を探してくれて、何度か足を運んでいる。

彼の仕事の都合がつかなくて、一人で行ったこともある。

正直、一人で行く方が気楽だ。

もし、万が一あの人とすれ違うことがあっても、彼と一緒のところは見られたくなかった。

別にやましいことなど何もないのに。

わけのわからない女の気持ちだ。

会うのなら、お互い一人が良かった。


義母が探し、私たちも気に入ったその新居は、新幹線の駅から地下鉄で3駅。

時間にしてもそんなにかからない場所でありながら、閑静な住宅地だった。

今日は新居に入れる家具を決めるために来た。

二人で使う家具だから、一緒に選びたいとずっと思っていたのだが、彼の仕事が忙しく、結婚式まで後1週間という今日になってやっと時間が取れたのだが、今日の夜には東京に戻らなければいけない為、家具屋、新居、彼の実家とバタバタと回った。


そして、新幹線に乗る前に食事をしようと、新幹線の駅近くの立体交差点を歩く。

辺りがすっかり暗くなった今は、東京と変わらないほどのネオンが街を照らしている。

そのネオンの下、多くの人が足早に歩いている。

通りすぎる人の顔なんて目に入らないくらいに。

ただすれ違うだけ。

その中、目の止まった人がいた。

そして、その人も驚いたような目で私を見ていた。

それは、まるであの東京駅での時間に戻ったかのように。

だけど、流れる人ごみの中、歩みは変えず、流され見えなくなって行く。


二人の目があったのは、ほんの一瞬だった。

ほんの一瞬時間が戻り、そしてまたすれ違った二人。

そう、まるであの時のように。

二人は永遠に一緒に歩くことはなかったという象徴のように。

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― 新着の感想 ―
[一言] 数年前の言葉・・・この辺がラストシーンの伏線になっているはずですが、その彼と主人公の女性との関係が分かりにくいので、ラストがぼやけてしまったように思えます。 最初のその部分だけ、段落を付ける…
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