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サンタさんは居る?

Xmasということで、中編ぐらいのを投稿です。

完結は年越しになるかも?


子供がサンタさんを信じるのは大体いつぐらいまでだろうか?



ませている子供なら、そもそもサンタクロースなんて迷信めいたもの瞬時に見抜いて、調子に乗ってコスプレをしている大人を冷たい目線で見詰めそうなものである。

しかし、大方の純粋無垢で可愛らしい子供は、夜寝ている間にプレゼントをくれるサンタクロースを信じ、神の如く崇めて、プレゼントに狂喜乱舞する。


だが、純粋に存在を信じるのは幼稚園卒業が限界だろう。

殆どの子供は、小学校のウチにませた友達から「そんなの親に決まってんじゃん」と冷静に突っ込まれるか、自分で「全世界の子供に一夜でプレゼントを配るのは不可能だ」と悟るかのどちらかだ。


その悟りは、小学生高学年までには全員が済ませ、それから中学校に入学するまでは、「サンタさんが親なのは知っているけど、プレゼントは欲しいので、気付いてないフリをしてクリスマスを過ごす」など矛盾した状況に陥る。

または、「親と子供が開き直って、プレゼントを手渡し」という潔い状況に持ち込む親子も居るだろう。


まぁ、結局の所最終的には、子供はサンタクロースは居ないと納得し、大人はサンタクロースは居ないと同意する。







しかし、我が家の場合はどうだろう、と穂波将人ほなみまさとは考える。

何故こんな議題を提示した上で一般的な傾向を分析し、発表するのかといえば、それなりに理由がある。


まぁ、その上で分かりやすく一言で言うのならば、

穂波家が例外だからだ。



「フム。将人ももう18歳か…」


我が家の大黒柱にして稼ぎ口、それなりに仕事が出来る男、穂波明人ほなみあきひとは神妙そうに眼を閉じ、両腕を組んだ状態で何度もウムウムと頷いていた。

そして、しばらく将人が黙って成り行きを見守っていると、明人は唐突に口を開いた。


「実はな、お父さん。まさちゃんに言ってなかったことがあるんだ」


明人の顔立ちは、他人から見れば大分鋭く見えるのだろう。

身内の将人から見ても明人の眼光は鋭く、吊りあがった目元と日本人には珍しい高い鼻で、かなり精悍かつダンディと言う言葉が似合う。

神妙にしている顔は働く日本人サラリーマンどころか、戦を前にした侍の風格さえ感じられるほど威圧感に満ちていると言っても決して過言ではない。

閉じていた眼を開いて、ゆっくりと将人を見据える眼光には畏怖の念すら感じる。

現代日本において、ここまで厳格な容姿を持った父親は珍しく、そしておそらく、息子である将人からしっかり尊敬されている恵まれた父親だろう。

が、しかしだ。




「………お父さん、実はサンタさんと知り合いなんだ」



ギンッ!と鋭い眼光が将人を貫く。



「特別にまさちゃんの欲しいもの伝えてあげるから、お父さんにコッソリ教えなさい」



………

……

拝啓、父方の祖父母夫婦様へ。

アンタ達の息子さん、そして、お孫さんの父親は馬鹿です。




◇◇◇◇



ドゴス!と、鈍い打撃音が冬の夜に響き渡る。



「い、痛いじゃないかまさちゃん! 何で辞書の角で頭を叩くんだよ!」



「アンタは馬鹿ですか!? 俺今年で何歳だと思ってるんだ!? もう突っ込む箇所が多すぎて俺の能力じゃ裁ききれないんだけど、とりあえずアンタは馬鹿ですかぁあ!?」


「お、親に向かって馬鹿とは何だまさちゃん!! 流石にお父さん怒るぞ!」


「いい年こいて息子を「ちゃん」付けで呼ぶんじゃねぇぇぇぇえええ!!!」



十二月二十日、午後十九時二十二分。穂波家のリビングで長男の絶叫が木霊する。

もはや近所迷惑など明後日の方向に投げ飛ばして、将人は力の限り絶叫する。

どこからともなく取り出した国語辞典の角から摩擦熱のような煙がたちこめ、同じように明人の頭部におおきなタンコブと共に煙がたちこめる。

ダンディな男の頭にマンガのようなタンコブがあるのは激しくシュールだ。


「何だまさちゃん。恥ずかしいのか! ダメだぞ、恥ずかしがってちゃサンタさんはプレゼントくれないぞ。サンタさんは素直な子にしかプレゼントくれないんだぞ!」


「そこじゃねぇぇええ!! 恥ずかしいのも大部分を占めてるけど、そこじゃねぇぇええ!!」


「大丈夫だ。アイツとお父さん友達だから。飲み友達だから」


「お前は何者だ!? 何で全世界の子供の夢と飲み友達なんだよ!!」


「え~~……飲み屋でバッタリ。意気投合」


「お前は何者だッ!!」


日本でサンタクロースとバッタリ会って意気投合する飲み屋なんかあってたまるか。

石原軍団の中に居ても違和感の無いダンディ男が、息子に国語辞典で頭を殴られて涙目という状況に息子は頭が痛くなる。

そうなのだ。この父親、実はあまりダンディでない。

いや、仕事の面では確実にシビアかつハードボイルドな男なのは、明人の偶に連れてくる部下の方々から聞いている。

しかしだ、家族の前では部下方々の証言は影を潜め、むしろ明人の容姿と激しい違和感を起こすベタ甘親バカキャラに成り下がる。

将人がもっと小さな頃はとても良い父親だった。しかし、将人は今年で高校三年生だ。


「十八歳だ。分かるか親父。俺は今年で十八歳だぞ?」


「そうだなぁ…大きくなったな」


「そう。つまり、まだ子供とは言え簡単な社会の仕組みも知ってるし、反抗期も思春期も大体終わってるんだよ。…なにが言いたいか分かる?」


「ウム。成長したんだなぁ…」


「そうそう。だから―――」


「分かってるぞまさちゃん。そんな十八歳のクリスマスプレゼントは豪華な奴がいいんだろ。ワガママな奴め。大丈夫だ。お父さんからアイツに言っといてあげるから」


「分かってねぇッ!!?」


遠まわしからの説明に失敗する。

遠まわしと言うが、殆ど直球だったのを見事に無に還されるともはや清々しくすらある。

ガックリと膝をついてフローリングに突っ伏す将人を明人は不思議そうな顔で見ている。

そして、その横を二人の母親兼配偶者である穂波香織ほなみかおりは洗濯物を抱えて通り過ぎてゆく。

どうやらこの件に関してはノータッチらしい。

どちらにしても基本的に母親は父親に味方するので将人は始めからアテにしてない。


「どうしたんだまさちゃん。機嫌悪いのか?」


「………」


この親父。タチが悪い。

まだ中学生の頃なら恥ずかしくも受け取れるが、高校生にもなってそんなものを受け取るのは、将人としては何となく絶対避けたい。

それ以前に、ここで辞めさせなければ将人が成人してからもクリスマスごとにこんなイベントが発生する。

外国ではクリスマスとは家族で過ごすイベントらしいが、日本ではキリスト教もお構いなしにTHEカップルイベントだ。

将人としても、わざわざ外国オリジナルの文化に合わせなくても、普通にカップルイベントとして過ごしたい。

一応、世間一般的な勝ち組に部類される「彼女持ち」に該当される男の子なのである。


つまり、クリスマスイブにはしっかり予定スケジュールが入っている。



「わかった親父殿よ。ハッキリ言おう」


「ん? なんぞな我が息子よ」


デン。と肌寒いリビングに男二人が腕を組んで仁王立ちする。

その若い方がゆっくり口を開く。




「サンタクロースなんて実在しません!!」




しばしの沈黙。そして




「ガビーーーン!!」



若干のジェネレーションギャップを感じる絶叫が響き渡る。




◇◇◇◇




「な、ななななななななななななな何を言っているんだマサちゃん!」


焦りに焦った、いい大人が必死に息子にすがりついていた。

当然のことを言ったまでなはずの将人は、遠い目をするしかない。


「い、居るよ!? サンタさんは居るよ!? なんてことを言うんだまさちゃん! そんな意地悪なことを言う子に育てた覚えはないんだぞ!? お父さん怒っちゃうぞ!??」


「いい歳こいた成人男性が「怒っちゃうぞ」とか言うな」


「め、目を覚ませ! きっと近所の馬鹿餓鬼共に変なこと吹き込まれたんだろう! その子の名前を言いなさい! その子の親御さん共々直接家に乗り込んで説教してやるから!!」


「アンタの中で俺は何歳なんだ…」


「齢18の息子にサンタは居ないなんてふさげたこと言ったのはお前か」と将人の友達の家に乗り込んでいく父親の姿を想像して、将人は「その時は父親を殺して俺も死ぬ」と心の中で誓う。

もはや文章に起こすことでもないが、そんなことをすれば町内中の笑い物だ。村八分だ。

意外とリアルにその状況が想像できる自分に嫌悪し、同時に凄まじい恐怖が湧き上がる。

一瞬この父親を本気で埋めた方がいいのではないか、と猟奇的な思想が生まれたが、流石にその思想は将人の脳内から水に流す。


「よし、まず一つ。俺は友達にそそのかされてこんなことを言ったわけではない。成長の過程で自然と「サンタは存在しない」と悟っただけだ。よって、アンタが乗り込む家はない」


「アッチョンブリケ!!」


「凄まじく時代の差を感じる!!」


アッチャンブリケとは、漫画ブラックジャックの天才医師の助手、ピノコが驚きを表す時に言うセリフである。

丁度明人の世代の漫画だ…最近アニメ化した事があってギリギリ将人にも理解できた。


「そして、もう一つ。俺はもう18歳、家族とクリスマスを過ごすのはやぶさかではないが、流石に親にサンタを演じられるのは限界を感じる」


「そ、そんなバナナ」


「今そのセリフを言ってるのは恐らく地球上でアンタ一人だ」



流石に突っ込むのにも疲れてきた。




◇◇◇◇






「と、言うワケで家族会議だ」


「なんでやねん」


思わず関西弁になってしまう。

リビングの中央に置かれているテーブル。そこには明人の蒐集命令により家族が全員集まっていた。

四人掛けのテーブルには、それぞれのイスにそれぞれ一人ずつ家族が座っている。


「これほど重大な問題を前に家族全員で話し合わないなんて、そんなもの家族じゃない。そんなのは俺は許さない」


「格好良さが無駄すぎる」


「議題が「サンタは居るか居ないか」だもんね」


穂波家家族会議、開始早々子供達からの突っ込みが入る。

テーブルには、将人、明人の他に二名の女性が座っている。

この家の母親香織とこの家の長女、そして将人の妹である穂波音羽ほなみおとはである。


「で? 何でいまさらこんな議題で女子高生の貴重な時間を浪費させてくれちゃってんの?」


「まさちゃんがね、お父さんをいじめるんだよ」


「私もお父さんを虐めたい気分だよ」


音羽の突っ込みは将人よりも鋭く尖っている。

一応自分の親だということを考慮して突っ込んでいる将人と違って、丁度気難しい年頃の音羽は優しさというものが無いので明人の心にザクザクと刺さる突っ込みをするのだ。

その横では、優しいほほ笑みを浮かべながら緑茶をすする香織が居るが、無言で「我関せず」といったオーラを放出している。

仕方なく将人が音羽にこれまでの経緯を掻い摘んで説明する。


「…メンドクサイなぁ。別にいいじゃん、居るってことで」


「いや、流石にこの歳だぞ?」


「欲しいもの貰えるんだよ? それでいいじゃん」


「合理的だなぁ…」


妹の判断の方が良い気もする。

がしかし、男と女では多少認識も違うだろう。将人の感覚では、女性はいくら成長・加齢しようとクリスマスプレゼントをもらうということに抵抗を覚えるようなことはあまりない。と思う。

それは何故なんだろうか。と将人も少し疑問に思うのだが、その疑問はこの際置いておいて。

男性の場合、ある一定の年齢を過ぎるとプレゼントを貰う側から渡す側へと移り変わってくのだ。

と言っても、これは完全に将人の感覚であって、世間一般的にこうであるのかは謎だが、丁度十八歳と言えば、貰う側から渡す側に変わる頃と将人は考えていた。


合理的な妹とヒソヒソと会話をしていると、一家の大黒柱はダンッ!!とテーブルを強くたたいて立ち上がった。

そして、年齢を重ね渋みが増した真剣な表情で一喝する。


「サンタさんは居ます!!」


「あ~はいはいそうだね」


音羽の相槌は大分おざなりだ。


「信じてないだろ音羽ちゃん!! サンタさんはいるんだぞ!!」


「いい年こいたおっさんが娘をちゃん付けで呼ばないで」


「テレビでも言ってたもん!! フィンランドに居るって言ってたもん!!」


「一家の大黒柱が語尾に「もん」とか付けるな」


「あと、それはサンタクロースを国の文化と観光の目玉にすることで観光客を呼び込み、外貨を獲得するっていう政治的な側面も見え隠れしてるんだよ」


穂波家の子供達は冷静であった。

そして、母親が静かに緑茶をすする横で、父親が子供に諭されるという奇妙な光景がそこにはあった。



「そ、それでも居るもんはいるんだい!!」


「五十後半の大人とは思えない開き直り方だなぁオイ」


呆れたというよりはもはや慈しみさえ含んだ子供たちの視線をものともせずに、明人は声高らかに宣言する。近所迷惑とかはもうどうでもいいらしい。


「そこまで言うのなら、分かったぞまさちゃん!! 俺がサンタさんに頼んで、まさちゃんの本当に欲しいものをプレゼントするよう頼んでやろう!!」


「アレ? 今までの苦労が全て水の泡になった気がする」


「もう諦めたら? お兄ちゃん」


最終的には子供たちが折れる方向へと行っていた。

しかし、将人は最後の抵抗にと、食い下がって提案する。

ここで食い下がってる時点で、もう負けているということもうっすら自覚している。



「よし、分かったよ親父。そのアンタの友達のサンタさんとやらが、本当に俺の今一番欲しいものを持ってこれたら、俺はサンタさんが実在すると信じよう。その代わり、もし俺が本当に欲しいもの以外が、朝起きて枕元に吊るした靴下に入っていたら、俺はサンタさんは実在しないんだと解釈して、以後のクリスマスは俺の勝手に過ごさせてもらう。…いいな?」


横では妹が呆れている。

そして、将人自身も呆れている。

しかし、正面に居る父親だけは、歳に似合わない少年のような満面の笑顔を浮かべていた。



「よ、よ~し、その勝負受けてやる!! 今に見ていろよまさちゃん!! 必ずギャフンと言わせてやるからな!!」






ちなみに、将人が今一番欲しいものは『父親からの解放』である。






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