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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

焼け跡の幽霊屋敷は異世界への入り口

作者: 輝海
掲載日:2026/10/15

 2026年秋のテーマ旅に因んで、旅する側で無く、受け入れる側を、少し捻った感じで書いてみました。


 ここは、人口二万五千人程の狭間境(はざまさかい)町と言う何処にでもある様な田舎町。

 主な産業は農業で、米や畜産がメインの静かな町だった。


 一カ月程、前の事だった。

 この町には珍しく、和洋折衷の洋館風の家があったのだが、原因不明の火事で全焼してしまった。

 ここの住人だった老夫婦は、焼け跡からは発見されず、今も行方不明のままとなっている。

 老夫婦の評判は大変良く、物腰も柔らかい夫婦で、近所の人たちからも慕われていたと聞いている。


「笹坂さんの家だけど、焼け跡に幽霊が出るらしいよ」

 つい先日まで、全焼家屋老夫婦失踪事件とテレビ、ネットを騒がせ、様々な考察で溢れていたが、今度は幽霊騒ぎと、話題に事欠か無い事件に、狭間境町は静かな田舎町から一転、全国から注目を浴びる様になっていた。


「うん、聞いた聞いた。パートの高野さんと田中さんも見たって」


 俺は荷下ろしの作業をしながら、スーパーの男性従業員の話に耳を傾けていたが、つい口を挟んでしまった。

「本当に出たんですか?幽霊」

「あ、大木場食品さん聞こえてた。どうやらそうらしいよ。笹坂さん夫婦の幽霊じゃないかって、みんな噂しているって」

「確か、ここの住人…笹坂さんですが、行方不明って聞いてましたが」


 未だ行方不明の夫婦が幽霊となれば、何処かで死んでいると言う事になるのか?発見されたとの正式発表はない。

「まぁ、噂だしね。本当のところは分かってないみたい」


 家は全焼し、そこの住人だった老夫婦は行方不明…。

 当初は、旅行にでも行ったのでは…と思われていたが、警察が捜索した結果、旅行に行った形跡も無く、情報提供を求めているとの事だった。


 そんな事もあり土日ともなれば、ちょっとしたオーバーツーリズムが発生する様になっていた。

 物好き達が、わざわざ焼け落ちた和洋折衷の洋館、幽霊屋敷を見に来る訳だ。

 それまでは、地元の農産物を細々と販売する程度の、閑散としていた近くの道の駅は、収容数500台の駐車場が満車寸前になり、国道沿いにある5軒のコンビニにファミレス、ラーメン店も、人で溢れ返っている。


 人混みの中、何処ぞのテレビ局が、笹坂邸の近くでインタビューをしているのが見えた。

「面倒くさいな。別の通り行くか」


 俺は地元では無いが、笹坂邸の近くは配送の仕事で通る事が多く、何度かインタビューされていた。

 この周辺に住んでいる人は、最低一回はインタビューされていると思う。

 混雑を避ける為、手前の路地を左へ曲がった先にも、人集りが出来ていた。

「駄目だ。今日はどの通りも似た様なもんだ」


 止まっていると、車のガラスを叩く音がした。

「すみません。ウサギTVと申します。宜しかったら、お話をお聞かせ出来ませんか?」

 聞かないテレビ局だったが、少し窓を開けると名刺を差し出してきた。

「勤務中なので」

「そうですか。失礼しました」

 きっと、地方のテレビ局なのだろうと思いながら、配送の遅れを取り戻そうと、トラックを発進させた。

 


 翌日の朝、テレビから狭間境町で、新たな行方不明者のニュースが聞こえて来た。

「へぇ、また行方不明者かぁ。続く時は立て続けだな」

 この時は、そんな感想だった。


 会社に到着すると、何となくザワついているのが分かった。

「何かあったの?」

「牧原さんの息子さんが、一昨日から帰って来ないんだって」

 朝のニュースで聞いた行方不明者は、同僚の息子さんだった様だ。

「それは大変だな。もしかして牧原さんは休み?」

「そうみたい。明日も休むだろうって」


 牧原さんの息子を含め、三人の高校生が行方不明と言う。

 彼らの原付バイクが見つかったのが、例の笹坂邸の前だった。

「じゃあ、中に入ったって事?」

「それが、はっきりしないらしくて…中には誰もいなかったらしいとだけ」

 笹坂夫妻と同じく行方不明だが、関連の有無は警察の捜査に委ねるしかなかった。



 「声が聞こえる」


 牧原さんの息子達が消えてから、笹坂邸から人の声がすると言われる様になった。

 これによって、幽霊騒ぎが更に加熱し始めた。

 そして、日本のメディアだけで無く、海外のメディアまでもが、注目し始めたのだった。


「ここ笹坂邸の消えた住人、その後、消えた高校生3人は何処へ行ったのでしょうか?地元の住民にインタビューしました」


『もう、ウンザリだ』

『五月蝿い』

『早く終わりにして欲しい』


 大半の狭間境町住民は、そう思っているだろう。

 しかし、敢えてこの風潮を煽る輩も少数だが、いるのは事実。

 面白がって、率先してインタビューを受ける者、ネット、SNSで考察し持論を展開する者、動画撮影で笹坂邸に不法侵入するYouTuber等、静かだった過疎の町は一変した。

 何時になったら、この騒動は終わるのか…先が見えない。



 そんな時だった。

俺は、取引先の量販店に荷物を届ける為、早朝たまたま笹坂邸の前をトラックで走っていた。

 突然、辺りが大きく揺れ始め、道路に亀裂が入る。


「地震だ!」


 私はトラックをその場に停止し揺れが収まるのを待っていると、亀裂から壁の様な物が突き出していく。

 そして、あっという間に周囲は塞がれ身動きが取れなくなった。

 仕方なくトラックを降りて周囲を見渡すと、まるで迷路の様に入り組んだ壁が、幾重にも重なっていた。


「一体、何が起きたんだ?」

 トラックは、全く動かせない程に壁に挟まれ使い物にならない。


「あ、そうだ!」

 ズボンのポケットからスマホを取り出し画面を見たが圏外の文字。


「スマホも駄目か…」

 辺りは少し薄暗く、赤味掛かった色をしているが、見えない事はない。

 仕方なく出口を探す為に、俺はトラックを降りて歩く事にした。


 しばらく壁沿いに歩いて行くと、撮影用のカメラとマイクを持った二人に出会う。

「大丈夫ですか」

 声を掛けると、俺に気付いたらしく、こっちに小走りで走って来た。

「はい、大丈夫です。私達だけじゃ無かったんですね…閉じ込められたの」

 見覚えがあると思ったら、数日前に声を掛けてきたウサギTVの女性と、そのカメラマンだった。


「私は深月純(みづきじゅん)、それとカメラマンの」

「大木戸正也(おおきどまさや)です」

 「射能鷹羽(いのうたかば)です。俺も配達の途中で閉じ込められてトラックが動けなくなったので、出口を探して歩いているところです」


 ウサギTVのリポーター深月純とカメラマンの大木戸正也は、車で到着したところで、地震に遭い壁に閉じ込められたと言う事だった。


「一体、何なんでしょうね。ここ?」

「さぁ、俺にもさっぱりです。笹坂邸の前を走っていたはず何ですが…。兎に角、ここから早く抜け出さないと…」


 しかし、この中は迷路の様に入り組んでいて、どっちに進んで良いのかさえ分からない。

 まるでゲームの中のダンジョンの様だった。

「あれ…ここ、さっきも通りませんでした?」 

 無限回廊を思わせる様な、同じ場所が延々に続いている。


「喉渇きましたね。もしこのまま、ここ出られないと私達飢え死にしちゃいますよ」

 縁起でも無いが、ここから出られなければ、深月が言う様に確実にそうなる未来が待っている。

「そうならない様に、早く出口を見つけましょう」


 しばらく進むと人一人が、やっと通れる様な場所に辿り着いた。

「あそこを行ってみましょう」


 僕達三人は、ゆっくりと左右斜めから突き出す壁を避ける様に進んで行く。

「ここは狭すぎて通れそうにないですね。あっちに行きましょう」

 

 壁と壁の隙間から、何か動いているのが見えた。

「あれは…」 

 壁の向こうに見えたのは、大型犬程の大きさだが、見た事の無い奇妙な獣だった。

「見た目は、犬っぽいけど…」

 しかし、犬では無いと分かるのは、体が硬そうな鱗の様な物に覆われているからだ。

 そして、その犬の様な獣の足元に、ぼろ雑巾の様になった人の死体があった。

 何かの見間違いではと思い壁の隙間に顔を近づけた時だった。

 犬の様な獣が、こっちに気付き向かって来た。


「ガゥギャゥ」


 俺は咄嗟に後ろに飛び退き、壁に背中と後頭部を強く打ち付けた。

「痛っ」

 犬の様な獣の爪が、壁の隙間から突き出して、今にも届きそうな距離まで近づいてきたが、壁に阻まれ届く事はなかった。

 俺達は、元来た道を必死に戻った。

「何なんですか。あれは!何処かの動物園から逃げ出した猛獣ですか?」

 この辺りに、動物園は無い。

 もし、飼われていた猛獣が逃げ出したとしても、あんな動物は見た事が無い。

 赤茶色の皮膚に、大きく鋭い3本の鉤爪と額の中央にあった角の様な突起、明らかに地球上の生命体では無いと思われるフォルムに、頭が着いて行けてない。

「兎に角、ここを離れましょう。話はそれからです」


 数分後、俺達を絶望が襲って来た。

 先ほどの獣が目の前に立っていた。

 それと、もう一匹の熊の様な獣と対峙して睨みあっている。

 黒く長い毛に覆われ、頭は細いが2本の大きな角が突き出ている。

「ここは危険です。今のうちに」


 別な通路に入った時だった。

「わぁ、助、助けて」

「大木戸さん」

 カメラマンの大木戸は、天井から這い出して来た何かに引き摺られて、天井の穴の中へと消えた。


「大木戸さんが、大木戸さんが」

 深月純は、その場に座り込み動けなくなっていた。

 連れ去られた大木戸には悪いが、このままここに居たら次は我々の番だ。

 逃げなければと思い深月純に声を掛ける。

「さぁ、行きましょう。深月さん立って、そうじゃ無いと…」

 『奴がまた来る』と言おうとしたが、彼女の言葉に遮られ言えなかった。


「もう私はいいです。一人で逃げて下さい」


「えっ?」


 仕事のパートナーもしかしたら、付き合っていたのかもしれない大木戸正也が居なくなった事で、絶望が頂点に達した深月純の瞳は、既に光を失っていた。

「そんな事言わずに、さぁ行きましょう」

 生きる気力を失った彼女は、立ち上がろうとしない。


『ここで諦めたら…』とか『彼は、きっとまだ大丈夫』とか、そんな無責任な事は言えない…。

 ここはドラマでもアニメでも映画でも無い、現実の出来事、助かる可能性は1%も残されいないであろう迷路と謎の獣が跋扈している世界。


 上を見上げると、さっき大木戸を連れ去った獣が、こちらに顔を向けた。

 白い体に鰐の様な口、首の長い蜥蜴に似た獣の姿が見えた。


「終わった…」


 そう呟き、その場にへたり込んだ時だった。

 右手にチクリと冷たい感触が伝わってきた。

 そこに有ったのは一般的なスマホより、少し小さめのサイズで、緑色のボディに赤と青の線が重なる様に、幾つか描かれている金属の板らしき物だった。


「エネルギー供給機関確認、使用権限自由使用、起動準備完了、目標対象体確認、自動照準構築完了、目標に照準」

 頭の中を一気に駆け巡る聞き慣れない声…どちらかと言えば電子音に近い。

 右腕は既に、白い鰐口の獣に向けられている。

「対象消滅使用エネルギー20%、使用者生存率低下、使用エネルギー10%に修正、生存率上昇、使用可能条件クリア、対象体消滅遂行」


 発射機能を有した形に変形した右手から、白く輝く発光体が発射されると、同時に俺の右手は弾け飛んだ。

 そして、周囲の壁を破壊しながら、鰐口の獣の上半分が消し飛んだ。

 その下にいた深月純は巻き込まれて、瓦礫の下敷きとなるのが見えた。


「深月さん、返事をして下さい。深月さん」

 いくら名前を呼び続けても返事はなかった。


 気付けば目の前に、焼けた和洋折衷の笹坂邸が、月に照らされて静かに佇んでいた。

 そして、そのまま気を失って倒れる寸前、弾け飛んだ筈の俺の右腕が、緑色に輝きながら存在するのが見えた。




 

「彼が唯一、狭間境町失踪事件での生存者、射能鷹羽(いのうたかば)か」

「はい、発見当初から意識は戻りませんが、射能鷹羽で間違いないです」



 あの日、射能鷹羽含む157人が一瞬にして消えた。

 笹坂邸を中心に、半径約300mは立入禁止区域となり、高さ10mのバリケードが張り巡らされている。


 のちに異世界獣と呼ばれる未知の生物との《最初(ファースト)の接触者(コンタクト)》それが射能鷹羽だった。



 鷹羽は、1年経過した今でも、目覚めていない。


 そして、生命維持装置を装着していないにも関わらず、今現在も生き続けている。


 

 エピソード0的な話です。

 何時かは、この続きの話も書いてみたいとは思っていますが、方向性も決まっていないので未定です。

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