【おとぎ話】竜の姫と剣の勇者
準人類ついての知識量を減らしました。
【おとぎ話】竜の姫と剣の勇者
「ねえ、お母さん。どうしてもう、この世界には竜人族の人はいないの?」
「それはね、とっても遠い昔に、ある一人の強くて優しい人間の勇者様と、竜の国の最後のお姫様が、悲しい壁にぶつかってしまったからなのよ。……少し、お話を聞いてみる?」
――むかしむかし、遥か南のあたたかい大陸で、象の姿をした毛象族と、誇り高き竜人族が、長くて苦しい戦争をしていました。
あるとき、悪い人間たちが毛象族に強い武器を貸したせいで、戦いのバランスは崩れ、竜人族は滅びる寸前まで追い詰められてしまったのです。
そこに現れたのが、当時『世界最強』と呼ばれていた人間の勇者、剣原誠也でした。
誠也は、ずるいことをした人間たちをその大いなる力でこらしめ、毛象族の味方をした勢力をまたたく間に追い払いました。そして、焼け跡に取り残されていた竜人族の最後の生き残り、デイリア姫を救い出したのです。
誠也とデイリアは、それから二人で世界中を旅しました。
荒れ狂う魔物を鎮め、滅びかけていた街をいくつも救ううちに、二人の心には、いつしか深くて強い愛が芽生えていきました。
旅の終わりに、二人は世界の果てにある『南極接大陸ヴァルナティア』という、白銀の氷の世界へ移り住みました。
そこは、恐ろしい魔物が次々と襲ってくる危険な場所でしたが、二人は力を合わせて、何年もの間、世界を護り続けたのです。
そしてある日、きらめくオーロラの下で、二人は結婚式を挙げました。
人間と準人類という、種族の垣根を越えた、世界で一番美しいお祝いでした。
けれどね。
神様は、二人にあまりにも残酷な壁を与えられました。
どれほど深く愛し合い、どれほど心と身体を寄せ合っても、二人の間に子どもが生まれることはありませんでした。
今、この手にある温もりは本物なのに、二人の血を引く『未来』だけは、どこを探しても存在しない。
二人は互いを抱きしめ合いながら、その閉ざされた未来の寂しさを、静かに分け合うしかありませんでした。
やがて時は流れ、人間である誠也は老い、静かにその生涯を終えました。
最愛の夫を失ったデイリアは、深い悲しみの中、思い出の氷原を離れ、静かな緑の大陸へと移り住みました。
デイリアの晩年、彼女の小さなお家には、たくさんの人間が訪ねてきました。
それは、かつて誠也とデイリアに命を救われた、人間たちの子どもや、そのまた孫たちでした。
みんな、幸せそうに新しい世代を紡いでいたのです。
デイリアは、次々とやってくる賑やかな子どもたちを優しい目で見つめながら、誠也と歩いた旅の記憶を、懐かしそうに語って聞かせました。
自分のあとには、誰も残らない。その静かなお家で、彼女だけが、誠也のいない時間をぽつりと生き続けていたのです。
そして、誠也が旅立ってから八十年。
デイリアもまた、ゆっくりと眠るように息を引き取りました。
お姫様が亡くなったその日、この世界から、竜人族の姿は完全に消えてしまいました。
「……だからね、このお話は今でも、人間と準人類が手を取り合えた『理想』と、決して越えられない『限界』を伝えるおとぎ話として、みんなの心に残り続けているのよ」




