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18/31

森の影と割れた水時計

属性統合に続き、森の伝承を深めていくお話になります。

こちらは小説の設計書、出来事、登場人物、フック、セリフ、流れ、と動き情景を明確に分けて、映像情報をまず起こしてから、小説化を行っています。

# TID:C01_P01_T0610_I00__07O__森の影と割れた水時計

# EID:07O

# タイトル:森の影と割れた水時計


---


## ■ 季節

・夏


## ■ 舞台

・ベイルスレイブ

・冒険者協会立冒険者養成校


## ■ 登場人物

・ミナト(15)

・ニーコス(森の人・15)

・カナリア(森の人・教官・158)

・ジン

・黒い影(正体不明)

・宿直職員

・一般生徒たち


---


## ■ 目的(必ず“増えるのはOK/減らすのはNG”)


1. 森の民の幽霊騒動の正体を明らかにする

2. 水時計の遺物による異変を描く

3. ミナトとニーコスを事件へ巻き込む

4. カナリアの視点からタイムループの仕組みを見せる

5. 黒い影の存在と目的不明性を強調する

6. 宿直襲撃事件と触媒盗難事件を一つの流れとして結び付ける

7. リュミエール由来の遺物の危険性を示す

8. 今後の事件へ繋がる新たな謎(亀甲遺物)を配置する


---


## ■ テーマ


「過去と現在の因果」


「理解できない現象への恐怖」


「見えないところで繋がる行動」


---


## ■ 物語構造(Dual Structure / Multi Structure)


Aパート:カナリアのタイムループと幽体体験


Bパート:ミナトとニーコスによる異変の追跡


---


## ■ beats(物語の流れ)


① **Scene1:夜の宿直と森の影**

 ・宿直中のカナリアが自分そっくりの森の民を見る

 ・影を追跡する

 ・物語の違和感が始まる


② **Scene2:遺物保管庫への追跡**

 ・影が遺物保管庫へ消える

 ・鍵が開いていることを発見する

 ・カナリアは施錠だけ行い戻る


③ **Scene3:宿直記録**

 ・影の目撃と保管庫施錠を記録する

 ・異変の存在を記録として残す

 ・本当に重要なのは別の遺物だったと示唆する


④ **Scene4:森の幽霊騒動**

 ・ミナトとニーコスが森の民の影を目撃する

 ・影はカナリアによく似ている

 ・触れた瞬間に消える


⑤ **Scene5:痕跡追跡**

 ・ミナトが解析魔法を使用する

 ・痕跡が何も残っていない

 ・違和感を頼りに遺物保管庫へ向かう


⑥ **Scene6:水時計の起動**

 ・カナリアが保管庫で水時計へ触れる

 ・遺物が本起動する

 ・ミナトとニーコスも巻き込まれる


⑦ **Scene7:過去への転移**

 ・幽体となったカナリアが目を覚ます

 ・過去の自分を目撃する

 ・保管庫施錠忘れの真相を知る


⑧ **Scene8:黒い影の侵入**

 ・正体不明の侵入者が遺物を調査する

 ・強力な認識阻害を使用している

 ・光る別の遺物を目撃する


⑨ **Scene9:ミナトとニーコスの異常空間**

 ・二日前の世界へ飛ばされる

 ・音のない異常な世界を体験する

 ・外へ出られないことに気付く


⑩ **Scene10:黒い影との遭遇**

 ・触媒汚染の現場を目撃する

 ・影を追跡する

 ・謎の紫光線で移動させられる


⑪ **Scene11:宿直襲撃の真相**

 ・カナリアが宿直襲撃事件を目撃する

 ・犯人が黒い影である可能性が強まる

 ・影への恐怖を深める


⑫ **Scene12:幽霊騒動の正体**

 ・朝になるとカナリアの姿が見えるようになる

 ・生徒たちから幽霊として認識される

 ・噂の発端となる


⑬ **Scene13:因果の輪**

 ・幽体カナリアが過去のカナリアを誘導する

 ・Scene1で見た影の正体が回収される

 ・因果が閉じる


⑭ **Scene14:起動当日**

 ・カナリアが全ての因果関係を理解する

 ・幽体組が起動阻止を試みる

 ・結果的に起動が成立する


⑮ **Scene15:状況整理**

 ・ジンへ経緯を説明する

 ・森の影の正体がカナリア本人だと判明する

 ・黒い影の存在が正式に共有される


⑯ **Scene16:触媒盗難の再検討**

 ・触媒盗難の価値を検討する

 ・遺物との関連を議論する

 ・亀の甲羅の遺物が新たな謎として浮上する


---


## ■ 物語の意義


・幽霊騒動と宿直事件の因果を回収する


・ミナトとニーコスの関係性を深める


・カナリアというキャラクターの掘り下げを行う


・黒い影という長期ミステリーを本格始動させる


・リュミエールの遺物群という大きな伏線を強化する


---


## ■ 次回へのフック


・亀の甲羅を模した遺物の正体は何か


・黒い影は何を探していたのか


・触媒盗難事件の真の目的は何か


・リュミエールの置き忘れた遺物は他にも存在するのか


---


## ■ 固定ルール


- この台帳は “増えるのはOK/減らすのはNG”

- beatsは 最低3以上(短縮禁止)

- 目的は 2項目を基本とし、削除不可

- 物語構造(A/Bパート)は必ず記述

- テーマは 最低3行


────────────────────────

【Scene 1:夜・教練棟(宿直開始)】

────────────────────────

【ト書き】

夜。

ベイルスレイブ冒険者協会育成校。

昼の熱はまだ石造りの建物に残っているが、

谷を抜けてくる夜風は少し冷たい。

教練棟。

静まり返った廊下を、

宿直担当となったカナリアが歩いている。

長く艶やかな金髪。

流れる髪の隙間から覗く長い耳。

白い肌。

森の人らしいしなやかさが感じられる足運び。

夏の夜気を受けて、

髪がふわりと揺れる。

先日の事件を受けて、

教練棟の警備は強化されていた。


・触媒盗難。

・宿直襲撃。

・森の民の影。

噂だけが先に広がっている。


カナリア

「うーん……」


【ト書き】

手元の記録板を見る。

異常なし。

異常なし。

異常なし。

そこまで書いて、

小さくため息をつく。


カナリア

「異常がないのが一番なんだけどね」

「こういう時は、なぞって見落としを探すしかないかぁ」


【ト書き】

角を曲がる。

その時だった。

廊下の先。

月光の届かない場所。

誰かが立っている。


【ト書き】

細い身体。

長い耳。

金色の髪。


カナリア

「……え?」


【ト書き】

視線が止まる。

相手も止まる。

鏡でも見ているようだった。


カナリア

「私?」


【ト書き】

影は、にんまりと笑った後手招きして、踵を返した。

音もなく走っていく。


────────────────────────

【Scene 2:夜・教練棟→遺物保管庫(追跡)】

────────────────────────

【ト書き】

カナリアが追う。

教練棟の廊下。

階段。

渡り廊下。

月明かり。

夏の夜風。

影は振り返らない。

ただ先へ進む。


カナリア

「ちょっと待ちなさい!」


【ト書き】

もちろん返事はない。

距離が縮まりそうで縮まらない。

まるで、

追われることが分かっているようだった。


【ト書き】

やがて影は、

校舎の奥へ消える。

遺物保管庫。

普段は近づく学生も少ない場所。


カナリア

「こんなところに……?」


【ト書き】

息を整える。

保管庫を見回す。

誰もいない。

影もいない。

痕跡もない。


カナリア

「消えた……?」


【ト書き】

その時。

視線が扉へ向く。


カナリア

「……あれ?」


【ト書き】

鍵が、開いている。

昨日来た時は閉まっていた。


【ト書き】

僅かな沈黙。

夜風が通り抜ける。


カナリア(内心)

(ジンに言う?)

(いや、今から起こすほど?)

(でも遺物保管庫だし)

(うーん……)


【ト書き】

迷う。

少しだけ考え。

結局、

先に戸締まりだけ行う。


カナリア

「とりあえず閉めよ」


【ト書き】

鍵をかける。

念のため確認。

もう一回確認。

問題なし。


【ト書き】

カナリアは振り返り、

宿直へ戻っていった。


────────────────────────

【Scene 3:夜・宿直室(記録)】

────────────────────────

【ト書き】

宿直室。

机。

記録帳。

油灯。

窓の外では虫が鳴いている。

夏の夜。

静かだった。


【ト書き】

カナリアは椅子へ腰掛ける。

羽根筆を手に取る。

少し迷い。

そのまま記録を書く。


カナリア(書きながら)

「遺物保管庫の鍵が開いていた」

「自分に酷似した森の民の影を確認」

「追跡したが見失う」

「保管庫施錠済み」


【ト書き】

書き終えて、

筆を置く。


カナリア

「……これでいいかな」


【ト書き】

窓の外を見る。

夜は変わらない。

風が吹く。


【ト書き】

だが。

カナリアは知らない。

本当に重要だったのは、

開いていた保管庫でも、

自分に似た影でもなく。


その中に眠っていた、

ひとつの遺物だった。


【ト書き】

夏の夜は静かに過ぎていく。

そして二日後の朝。

その静けさは終わる。



────────────────────────

【Scene 4:朝・教練棟(森の影)】

────────────────────────

【ト書き】

翌日の朝。

ベイルスレイブ冒険者協会育成校。

夏。

朝の日差しは強いが、

谷沿いの建物にはまだ長い影が残っている。

教練棟。

誰もいない演習場の一角で、

ミナトは杖を構えていた。

六属性統合。

あの日から毎朝少しずつ試している。

上手くいく。

上手くいかない。

その繰り返しだった。


【ト書き/ミナト内心】

(止め方が分からない)

(作れる)

(でも制御できるとは違う)

(あれを外で使ったら本当に危ないかもしれない)


【ト書き】

小さく息を吐く。

その時。

視界の端で誰かが動いた。


ミナト

「ん?」


【ト書き】

教練棟の廊下。

ニーコスがいる。

その向こう。

金色の髪を揺らした森の民の女性が立っている。


ミナト

(小さく)

「……カナリアさん?」


【ト書き】

カナリア・樹。

発動系講義の担当教官。

ミナトは基礎講義以外ほとんど取っていない。

冒険者としては上級位階者。

超級に近いとも言われている。


【ト書き】

違う。

輪郭が薄い。

朝日に溶けそうなほど薄い。


【ト書き】

ニーコスは何か話している。

相手はにこやかに手を振っている。


ニーコス

「んー?」


【ト書き】

首を傾げる。

影も首を傾げる。


ニーコス

「カナリアさん?」


【ト書き】

返事はない。


ニーコス

「違うかー」


【ト書き】

そう言いながら、

影へ手を伸ばす。


ミナト

「あっ」


【ト書き】

触れた。

次の瞬間。

影は弾けるように消える。


ニーコス

「消えた」


ミナト

「消えたな……」


【ト書き】

二人とも少しだけ黙る。

周りで他の一般生徒たちがざわざわと話す

「幽霊?」

「カナリアさんの幽霊?」

「だれか、あの人のお菓子隠したりしたんじゃない?」

「それで恨んで?」

くすくす笑い声も聞こえる


ニーコス

「触ったら消えた」


ミナト

「見れば分かる」


ニーコス

「うん」


【ト書き】

ニーコスは頷く。

少し楽しそうだった。


────────────────────────

【Scene 5:朝・教練棟(痕跡追跡)】

────────────────────────

【ト書き】

影が立っていた場所。

朝の光。

石畳。

何もない。


ミナトはしゃがみ込む。

杖の先を地面へ向ける。


ミナト

「解析」


【ト書き】

淡い光が広がる。

魔法痕。

残留魔力。

異常反応。

丁寧に探る。


【ト書き/ミナト内心】

(何かあるはずだ)

(ただの幻じゃない)

(ニーコスもほかの生徒も見た)


【ト書き】

しかし。

解析結果は綺麗だった。


ミナト

「……ない」


ニーコス

「なかった?」


ミナト

「異常なし」


ニーコス

「なら異常だね」


ミナト

「そうなるな」


【ト書き】

二人は顔を見合わせる。


ニーコス

「追ってみる?」


ミナト

「痕跡あるのか?」


ニーコス

「なんとなく」


ミナト

「なんとなくか……」


【ト書き】

そう言いつつ立ち上がる。


【ト書き】

しばらく歩く。

廊下。

階段。

渡り廊下。

朝の空気。


【ト書き/ミナト内心】

(なんで追ってるんだろうな)

(異常はない)

(でも気になる)

(気になるなら追うしかない)


ニーコス

「あ」


ミナト

「何かあった?」


ニーコス

「こっち」


【ト書き】

ニーコスが指差す。

校舎の奥。

普段ほとんど来ない場所。


遺物保管庫。


【ト書き】

二人は思わず立ち止まる。


ニーコス

「こんなところ来たことないなぁ」


ミナト

「僕もだ」


【ト書き】

そして。

扉を見る。


ニーコス

「あれ?」


ミナト

「ん?」


ニーコス

「開いてる……」


────────────────────────

【Scene 6:朝・遺物保管庫(起動)】

────────────────────────

【ト書き】

ミナトとニーコスが来る数分前。

遺物保管庫の前。

カナリアは静かに扉を開ける。


【ト書き】

二日前。

鍵を閉めたはずの保管庫。

だが今朝確認すると、

内部の空気が僅かに変質していた。


カナリア

「やっぱり起動してる……」


【ト書き】

棚の中央。

一つの水時計。

見覚えのある刻印。


カナリア

「師匠……」


【ト書き】

水時計へ近づく。


カナリア

「なんでこんな所にあるのよ」


【ト書き】

指先が触れる。

ほんの少し。

魔力が流れる。


【ト書き】

その瞬間。

水時計の水が逆流を始める。


カナリア

「え?」


【ト書き】

空気が圧縮される。

光。

沈黙。

世界が一拍遅れる。

耳の奥で割れる音と、水が飛び散る音が聞こえた気がした。


同時刻。

保管庫の外。


ニーコスが扉へ手を掛ける。


ニーコス

「入るよー?」


【ト書き】

扉が開く。


【ト書き】

その瞬間。

保管庫の中から光が溢れた。


ミナト

「ニーコス!」


【ト書き】

景色が歪む。

夏の朝が引き伸ばされる。

光が線になる。


【ト書き/ミナト内心】

(まずい、魔法?……でも――知らない)

(何だこれ、遺物?)


ニーコス

「わぁ」


【ト書き】

呑気な声。

ミナトは反射的にニーコスの腕を掴む。


景色が砕ける。

音が消える。

光だけが残る。


そして――

世界は二日前へ沈んだ。


────────────────────────

【Scene 7:Day0朝・遺物保管庫(カナリア)】

────────────────────────

【ト書き】

暗い。

光がない。

音もない。


【ト書き】

カナリアはゆっくり目を開く。

遺物保管庫だった。

棚。

箱。

封印布。

見慣れた光景。

だが何かがおかしい。


カナリア

「……?」


【ト書き】

立ち上がる。

足音が聞こえない。

声も聞こえない。


【ト書き】

自分の髪を指で摘まむ。

感覚は薄い。

身体も少し透けている。

スカートを掴もうとするが掴めない。

上着もつかめない。


カナリア

「え?」


【ト書き】

扉へ向かう。

取っ手を握る。


握れる。

だが。

開かない。


カナリア

「えぇ……」


【ト書き】

困惑する。

時間も分からない。

外の様子も分からない。


【ト書き】

しばらく保管庫の中をうろうろする。

すると。


扉が開いた。


カナリア

「!」


【ト書き】

反射的に棚の陰へ身を隠す。


入ってきた人物を見て。

固まる。


カナリア

「え?私?」


【ト書き】

そこにいたのはカナリアだった。

いつもの自分。

いつもの服。

いつもの歩き方。


カナリア(内心)

(え?)

(私?)

(なんで?今、着てる服と同じ……)


【ト書き】

入ってきたカナリアは森の石板へ向かう。

何かを確認する。

そして。

森の石板を手に取り。

そのまま保管庫を出て行った。


【ト書き】

扉が閉まる。

しかし。

鍵を閉める様子はない。


カナリア

「……」


【ト書き】

沈黙。


カナリア

「うわぁ」

「遺物保管庫の鍵の閉め忘れてたんだ、私」


【ト書き】

片手で額を押さえる。


カナリア

「はぁ……」


【ト書き】

そこまで考え。

ふと止まる。


カナリア

「待って」


【ト書き】

肩がぴたりと止まる。


カナリア

「今の私だったよね」

「私より昔の私」

「これ……」


【ト書き】

長い耳がぴくりと動く。


カナリア

「タイムリープしてる?」


【ト書き】

口元が引き攣る。

視線が水時計へ向く。


カナリア

「これ、師匠の魔道具だ……」

「なんでここにあるのよ」

「あの人、もうここに忘れ物は無いって言ってたよね」


【ト書き】

返事はない。

当然だ。


カナリアは天井を見上げる。


カナリア

「絶対忘れてないでしょ」


────────────────────────

【Scene 8:Day0朝・遺物保管庫(黒い影)】

────────────────────────

【ト書き】

どれくらい経ったのか分からない。

音がない世界。

時計もない。


【ト書き】

だが。

再び扉が開いた。


カナリア

「!」


【ト書き】

今度は知らない人物。

黒い影。

輪郭だけが人型。

顔が見えない。


【ト書き】

影は慎重に保管庫へ入る。

遺物へ近付く。

何かを探している。


カナリア(内心)

(誰?)

(教官じゃない)

(職員でもない)

(小さい?)

(女性?)


【ト書き】

目を凝らす。

だが分からない。

輪郭だけが揺れている。


カナリア(内心)

(違う、これ認識阻害だ、しかも強い)

(変身に近い……)


【ト書き】

影は迷うことなく遺物へ触れる。

刻印。

石板。

水時計。

順に調べていく。


【ト書き】

その時だった。

保管庫の隅。

黒い影の向こう側。

何かが光った。


カナリア

「……?」


【ト書き】

うっすら。

本当にうっすらと。

別の遺物が輝いている。


カナリア(内心)

(あれ?)

(あんなのあった?)


【ト書き】

身を乗り出す。

もっと見ようとする。

だが。

黒い影が動く。

視界を塞ぐ。


【ト書き】

次の瞬間。

世界が暗転した。


────────────────────────

【Scene 9:Day0夜・教練棟(ミナトとニーコス)】

────────────────────────

【ト書き】

夜。

月が出ている。

教練棟。

人気はない。


【ト書き】

ミナトは演習場の中央に立っていた。

すぐ隣にはニーコス。


【ト書き】

二人とも薄い。

輪郭が少し透けている。


ミナト

「……」


ニーコス

「わぁ」


【ト書き】

ニーコスは自分の手を見ている。

夜空へかざす。

月光が抜ける。


ニーコス

「綺麗」


ミナト

「綺麗じゃない」


【ト書き】

壁を押す。

押せる。

地面を踏む。

踏める。

重力もある。

だが。

耳がおかしい。

音がない。


【ト書き/ミナト内心】

(聞こえない)

(風も)

(足音も)

(何もない)


【ト書き】

しかし。

ニーコスの言葉だけは分かる。


ニーコス

「不思議だね」


ミナト

「どうなってるんだ」


【ト書き】

教練棟の時計を見る。


針。

日付。

曜日。


それを見た瞬間。

ミナトの喉が一度だけ上下する。

肩がわずかに強張る。


ミナト

「……は?」


【ト書き】

二日前。


時計はそう示していた。


ニーコス

「水曜日の夜だね〜。一日ズレたよ」


【ト書き】

ミナトの視線が定まらない。

次の瞬間。

不意にニーコスの手を掴む。

距離を詰める。


ミナト

「朝だった」

「俺たち朝だっただろ」


ニーコス

「うん」


ミナト

「なんで夜なんだよ」


ニーコス

「分からない」


【ト書き】

ニーコスは本当に困っていない。

それが逆に不安だった。


【ト書き/ミナト内心】

(おかしい)

(おかしいだろ)

(遺物だ)

(時間が飛んだ)

(二日前?)

(戻れるのか?)


【ト書き】

二人は外へ向かう。

門を抜ける。

だが。

気づけば門の内側へ戻っている。


ニーコス

「あれ?」


ミナト

「……」


【ト書き】

もう一度やる。

同じ。

三回。

同じ。


【ト書き】

夏の夜風は吹いているはずだった。

だが聞こえない。

世界だけが静まり返っていた。

ミナトは初めて。

本気で嫌な予感を覚えた。


────────────────────────

【Scene 10:Day0夜・教練棟(黒い影)】

────────────────────────

【ト書き】

夜。

教練棟。

月光だけが床を照らしている。

音はない。

風もない。

世界は薄い膜を一枚挟んだようだった。


【ト書き】

門から出られないことを確認したあと。

ミナトとニーコスは再び教練棟へ戻っていた。


ミナト

「……」


ニーコス

「困ったね」


【ト書き】

困ったと言っているわりに、

ニーコスの顔はあまり変わらない。

いつも通りの穏やかな表情。


【ト書き/ミナト内心】

(なんでそんなに普通なんだ)

(いや、普通じゃないか)

(でも平気そうだ)


(俺だけか?)


【ト書き】

その時だった。


ニーコス

「あ」


【ト書き】

演習場の奥。

誰かがいた。

黒い影。

輪郭だけが揺らいでいる。


ミナト

「……またか」


【ト書き】

二人は顔を見合わせる。

そして追う。


【ト書き】

黒い影は演習場に並ぶ触媒棚の前で立ち止まった。

何かを確認するように手を動かしている。


ミナト

「なにしてる」


【ト書き】

声は届かない。

ミナトは影の前へ回り込む。


【ト書き/ミナト内心】

(何をしているかはわからない)

(でも夜の教練場で演習触媒を触っている)

(普通じゃない)


【ト書き】

影は振り返る。

顔は見えない。


【ト書き】

次の瞬間。

小瓶のようなものを投げた。


ミナト

「っ!」


【ト書き】

反射的に身構える。

だが。

液体はミナトの身体を通り抜けた。

抵抗がない。

感触もない。

そのまま後ろの触媒へ降り注ぐ。


【ト書き】

触媒がどろりと黒く汚染される。


ミナト

「……え?」


【ト書き】

思考が止まる。


ミナト

「液体はすり抜けるのに壁はすり抜けない??」


【ト書き】

一瞬。

本当に一瞬だった。

だが。

その停止で十分だった。

黒い影は走る。


ニーコス

「逃げた」


ミナト

「追う!」


【ト書き】

二人が駆ける。


【ト書き】

廊下。

階段。

曲がり角。

影は振り返らない。

だが。

教練棟中央付近で。

突然。

立ち止まった。


【ト書き】

影の手が上がる。

紫色の線が走る。

細い。

だが異様に明るい。


ミナト

「!」


ニーコス

「わっ」


【ト書き】

紫の光線が二人を貫いた。

痛みはない。

衝撃もない。

ただ。

世界が揺れる。


【ト書き/ミナト内心】

(まずい)

(これ――)


【ト書き】

光。

暗転。

月光が消える。

視界が沈む。


【ト書き】

そして。

二人の姿もまた、

夜の教練棟から消えた。

────────────────────────

【Scene 11:Day0夜・教練棟(カナリアの幽体)】

────────────────────────

【ト書き】

暗い。

夜。

月光だけが教練棟の窓から差し込んでいる。


【ト書き】

カナリアは床に座り込んでいた。

どれだけ時間が経ったのか分からない。

時計は読めても、

今が何日なのかが分からない。

音もない。

人の気配もない。


カナリア

「……どうしよう」


【ト書き】

返事はない。

当然だ。


【ト書き】

長い耳が少しだけ垂れる。


カナリア

「師匠の魔道具だとしたら帰れるはずなんだけど」

「いや、帰れないの?」

「どういう仕様?」


【ト書き】

眉を寄せる。


カナリア

「あとで絶対文句言うからね」


【ト書き】

その時だった。

廊下の向こうから誰かが歩いてくる。

制服ではない。

教職員。

宿直の職員だった。


【ト書き】

カナリアの目が輝く。


カナリア

「あっ!」


【ト書き】

声は届かない。

だが構わず走る。


カナリア

「ねえ!」

「私!」

「私なんだけど!」


【ト書き】

両手を大きく振る。

説明しようとする。


【ト書き】

しかし。

宿直の職員の反応は違った。


【ト書き】

月明かりの中。

薄く透けた森の民が。

無言で。

こちらへ走ってくる。


【ト書き】

職員の顔が強張る。

武器を抜く。


カナリア

「え?」


【ト書き】

職員が何か叫ぶ。

聞こえない。


でも。

何を言ったかは分かった。


【ト書き/カナリア内心】

(あっ)


(これ、怖い方だ)


【ト書き】

武器が振り上げられる。


カナリア

「危なっ」


【ト書き】

反射的に逃げる。

廊下を曲がる。

階段を駆ける。


【ト書き】

その時。

後方。

別の影。

黒い影。


【ト書き】

カナリアの視界に一瞬だけ映る。

黒い影が何かを投げた。

白い靄。


【ト書き】

宿直職員へ降りかかる。


【ト書き】

職員の身体が揺れる。

武器が落ちる。

そして。

その場に崩れ落ちた。


【ト書き】

気絶。


【ト書き】

カナリアは足を止める。

振り返る。


【ト書き】

黒い影。

宿直。

気絶した身体。


【ト書き】

何が起きたのか理解しきれない。


カナリア

「……」


【ト書き】

影は動かない。

いや。

こちらを見た気がした。


【ト書き】

カナリアの背筋が冷える。

夏の夜。

音のない世界。


【ト書き/カナリア内心】

(まずい)

(あれだけはまずい)

(私じゃない)

(森の影じゃない)

(あれがいる)


【ト書き】

カナリアは再び走った。


教練棟。

廊下。

演習場。

保管庫前。


ただ逃げる。


【ト書き】

行き先もない。

誰にも話せない。

助けも呼べない。


【ト書き】

夜は長かった。


ただ。

黒い影だけは。

確かに存在していた。



────────────────────────

【Scene 12:Day1朝・教練棟(幽霊騒動の正体)】

────────────────────────

【ト書き】

朝。

夏。

ベイルスレイブの谷へ朝日が差し込む。

夜の冷気が少しずつ押し返され、

石造りの校舎がゆっくり温まり始める時間。


【ト書き】

カナリアは教練棟の廊下を歩いていた。

正確には歩いているつもりだった。


身体は薄い。

軽い。

足裏の感触も曖昧。

それでも前へ進める。


【ト書き/カナリア内心】

(朝……?)

(夜じゃなかった?)

(また飛んだ?)


【ト書き】

窓から差し込む光が、

カナリアの身体へ当たる。

その瞬間。


【ト書き】

輪郭が少し薄くなる。


カナリア

「ん?」


【ト書き】

さらに歩く。

さらに日差しを浴びる。

薄くなる。


カナリア

「え?」


【ト書き】

立ち止まる。

自分の腕を見る。

明らかだった。

朝日を浴びるほど、

存在そのものが薄くなっていく。


カナリア

「いやいやいや」

「待って待って」


【ト書き】

慌てて日陰へ入る。

少しだけ戻る。

戻るが完全ではない。


【ト書き/カナリア内心】

(日光で消えるの!?)

(そんな幽霊みたいな!)

(いや幽霊みたいだけど!)


【ト書き】

長い耳がぺたりと下がる。


カナリア

「最悪……」


【ト書き】

途方に暮れる。

だが。

時間だけは進む。


【ト書き】

やがて登校してくる生徒たちの姿が見え始める。

朝の教練棟。

まだ講義前。

雑談する者。

走る者。

眠そうな者。

誰もカナリアへ気付かない。


【ト書き】

カナリアは少し考える。

そして。

にこりと笑う。


カナリア

「おーい」


【ト書き】

聞こえない。

それでも手を振る。

大きく。

愛想よく。


【ト書き】

通りかかった生徒が、

ふとこちらを見る。

目が合う。

その瞬間。


生徒は目を丸くする。


【ト書き】

森の民。

金髪。

薄い影。

そして笑顔。


【ト書き】

カナリアは条件反射で、

さらに手を振る。


カナリア

「気付いた?」


【ト書き】

もちろん聞こえない。


【ト書き】

生徒は恐る恐る近付く。

周囲の生徒も集まり始める。

ざわつく。

だが。

カナリアには聞こえない。


【ト書き】

生徒の一人が手を伸ばした。


カナリア

「たぶん触れないよー」


【ト書き】

指先が触れる。

その瞬間。

世界が崩れた。


【ト書き】

光。

暗転。


カナリア

「あっ」


【ト書き】

身体が消える。

教練棟の廊下から。

完全に。


【ト書き】

残された生徒たちは顔を見合わせる。


「消えた」


そう言ったはずだった。

聞こえない世界の外で。


【ト書き】

その日から。


教練棟で目撃される

“森の民の幽霊”の噂は、

さらに広がっていく。

人を見ると愛想よく笑う。

手を振る。

近付くと消える。


【ト書き】

誰も知らない。

その正体が。

ただ帰れなくなったカナリア本人だということを。


────────────────────────

【Scene 13:Day1夜・教練棟(カナリアとカナリア)】

────────────────────────

【ト書き】

夜。

夏。

昼の熱はすでに消え、

教練棟の石壁には夜の冷気が戻っている。


【ト書き】

カナリアは再び夜へ飛ばされていた。


教練棟。

廊下。

演習場。

渡り廊下。


歩く。

考える。

どうにもならない。


【ト書き/カナリア内心】

(帰れない)

(誰とも話せない)

(師匠の道具だから、たぶん戻れる)

(たぶん)


【ト書き】

長い耳が少しだけ伏せられる。


カナリア

「たぶんって嫌なんだけどなぁ」


【ト書き】

返事はない。

見上げれば月。

聞こえない夜。

静かすぎる。


【ト書き】

しばらく歩き続けて。

ふと足が止まる。


カナリア

「あ」


【ト書き】

思いつく。


カナリア

「私に会えばいいんだ」


【ト書き】

両手を打つ。

もちろん音は聞こえない。


カナリア

「そうじゃん」

「私なら話聞いてくれるじゃん」


【ト書き】

勢いよく立ち上がる。

そして宿直巡回の経路へ向かう。


────────────────────

【ト書き】

それからしばらくして。

廊下の先。

カナリアがいた。

今のカナリアではない。

二日前のカナリア。

宿直中のカナリア。


【ト書き】

幽体カナリアが立ち止まる。


カナリア

「いた」


【ト書き】

少しだけ嬉しそうに笑う。

そして。

手を振る。

大きく。

必死に。


【ト書き】

宿直中のカナリアが足を止める。

眉を寄せる。

当然だ。

そこにいるのは自分そっくりの森の民なのだから。


カナリア

(ぶんぶん手を振る)


【ト書き】

宿直カナリアは警戒しながら近付く。

幽体カナリアは嬉しそうに頷く。


【ト書き/カナリア内心】

(よし)

(きた)

(そのまま)

(そのまま付いてきて)


【ト書き】

今度は歩く。

止まる。

また歩く。

振り返る。

手を振る。


【ト書き】

完全に誘導だった。


【ト書き】

宿直カナリアも気付いている。

それでも追ってくる。

興味が勝った。


【ト書き】

二人のカナリアが向かった先は。

遺物保管庫。


────────────────────

【ト書き】

少し離れた廊下の影。

ミナトとニーコスが見ていた。

二人とも半透明。

月光が身体を通り抜ける。


ニーコス

「カナリアさんだ」


ミナト

「どっちがだ」


ニーコス

「両方」


【ト書き】

ミナトは額を押さえる。

たしかにその通りだった。


【ト書き】

片方は本物。

片方は影。

だが。

どちらもカナリアだった。


ニーコス

「追いかけてるね」


ミナト

「誘導してるように見える」


ニーコス

「うん」


【ト書き】

少しだけ沈黙。


【ト書き/ミナト内心】

(止めるか?)

(いや)

(止めていいのか?)

(これは過去だ)

(もし変わったら)


【ト書き】

足が動かない。

ニーコスも動かない。


ニーコス

「やめとこう」


ミナト

「理由は?」


ニーコス

「分からないから」


【ト書き】

ニーコスは月を見上げる。


ニーコス

「今は状況が分からないし」

「私たちは二人だし」

「何もしなくても安全そうだから」


【ト書き】

ミナトは小さく息を吐く。

それは正しい。

正しいはずだった。


けれど。


【ト書き/ミナト内心】

(戻れなかったらどうする?)

(いや、そもそも、もう死んでたりしないか?)

(ここが死後か?)

(いやいや、ニーコスがいるから死んでない、たぶん)

(なんでニーコスはこんなに落ち着いていられるんだ?)

(俺、いら立っている?)


【ト書き】

喉が渇く。

だが空腹もない。

疲労もほとんどない。

それが余計に現実感を失わせる。


ニーコス

「お腹減らないね。便利だね」


ミナト

「便利なのか、それ」


ニーコス

「良く感じてみたら痛みとか触れてる感触も弱いよね?」

「多分ながく続かないよ」


【ト書き】

ニーコスは本当にそう思っていた。

不安がないわけではない。

だが恐れてもいない。


ミナトは少し疲れていた。

この何があっても緩く受け止めるのが

ニーコスらしさだと思うことにした。


────────────────────

【ト書き】

しばらくして。

ニーコスが自分の服を見る。

首を傾げる。


ニーコス

「服脱げるかな……あ、無理だった」


【ト書き】

服の裾を引っ張る。

何も起きない。

ニーコスは少し残念そうな顔をした。


ミナト

「……」


【ト書き】


ミナトも服へ触れようとする。

指先が震える。


【ト書き/ミナト内心】

(法則が分からない……)


【ト書き】

この世界には法則がある。

だが見えない。

それが怖かった。

見えない規則ほど怖いものはない。


────────────────────

【ト書き】

さらに時間が経つ。

月が少し傾く。


ニーコス

「ミナト眠たい?」

「私ちょっと眠い……」


【ト書き】

そう言って。

ニーコスはその場に座る。

そして。

そのまま目を閉じた。


ミナト

「……は?」


【ト書き】

ニーコスは寝ていた。

薄いまま。

半透明のまま。

夜の教練棟で。

ミナトは息を詰める。


【ト書き/ミナト内心】

(……寝るのか)


【ト書き】

しばらく立ったまま見ている。

やがて。

諦めたようにニーコスの隣へ座る。


【ト書き】

月光が差し込む。

ニーコスの肩が静かに揺れている。


【ト書き/ミナト内心】

(穏やかな寝息を立てている気がする)

(いや、まったく寝息は聞こえないけれど……)

(……それより、戻れなかったらどうする)

(本当に戻れなかったら、リーンは怒るかな)

(泣くかな、探すかな)

(凛姉さん……)

(母さん……)

(どうすれば戻れる?)

(そうだ、そもそもこうなったのはなんでだ?)

(ニーコスが……ニーコスのせいだ……くそっ)

(……いや違う、誰かのせいじゃない)

(でも、寝るか?良く寝れるな……ホントに実はそんな奴なのか?)

(もしかして、そっちなのか?)


(いや、思い出せ、

 「ミナト!」と叫んで、水を汲んできてくれたのはニーコスだ

 そうだよ、

 森林で寄生虫にやられた二人を助けるために、歯を食いしばったニーコスだ)


(……ニーコスだって不安なんだ。だけど、俺がいるから……だから、いつもと同じようにできるんだ。)

(情けないぞ、ミナト!俺はニーコスを信じられる……いや、信じる)


(だが、どうすれば……これが本当に過去なら、自分がいるはず)

(自分に会う?そして、止める?止められる?止めてみるしかない)


【ト書き】

視線が落ちる。

そして。

ゆっくり目を閉じた。

夏の夜は続いていた。


────────────────────────

【Scene 14:Day2朝(起動当日)】

────────────────────────

【ト書き】

朝。

夏。

ベイルスレイブの谷へ日差しが差し込み始める。

夜の冷気はまだ残っているが、

石畳の上には少しずつ熱が戻り始めていた。


【ト書き】

カナリアは遺物保管庫の扉の前に立っていた。

半透明の身体。

薄い輪郭。

音のない世界。


【ト書き】

もう何度目になるのか分からない朝だった。


カナリア

「……うっそ、さっきまで私と一緒にいたはず……」


【ト書き】

そのまま教練棟へ歩き窓から外を見る。

そして。

足が止まる。


教練棟の入口。ニーコスがいた。

その横にはミナト。自分を見て、まっすぐこっちに来る。


その少し向う側に影の薄い二人。

ニーコスとミナト。


【ト書き】

普通の二人と透けた二人。


カナリア

「え?」


【ト書き】

心臓が跳ねる。


【ト書き/カナリア内心】

(だめ)

(待って)

(これって、巻き込まれてるってこと?)

(薄い二人、何かしようとしている。止められると、まずいことが起きる)


【ト書き】

視線が後ろの遺物保管庫へ向く。


今日。

このあと。


自分が保管庫へ入る。


そして。

遺物が起動する。


【ト書き】

そこまで理解した瞬間。

カナリアの顔色が変わる。


カナリア

「だめだって!」


【ト書き】

もちろん聞こえない。

カナリアは慌てて手を振る

実体のある二人が怪訝な顔をしてこちらを見る。

何か言っているが聞こえない。


カナリア

「止めちゃダメ!」

「発動させないとまずい!」


【ト書き】

薄いミナトが足を止める。

薄いニーコスも首を傾げる。


【ト書き】

薄いミナトと薄いニーコスの二人には、

カナリアの影が見える、が声が聞こえない。音もしない。


幽体ニーコス

「またいる」


幽体ミナト

「昨日と同じ影か」


【ト書き】

幽体カナリアはさらに大きく手を振る。

遺物保管庫を指差す。

首を横に振る。

繰り返す。


【ト書き/カナリア内心】

(伝われ)

(お願いだから)

(今日だけは森の人の勘が働いて)


【ト書き】

幽体ニーコスがとまる。

そして目の前の実ニーコスが触れようとする


カナリア

「そう!」

「自分たちの本体に近付かなくていい!」

「あっ!!!」


【ト書き】

幽体カナリアを見る幽体の二人。いや実体のある方を含めると4人だが、

全員口を動かしているのが分かる。が聞こえない。


【ト書き】

実ニーコスが幽体カナリアに触れた瞬間、世界が揺れた。


カナリア

「ああああっ」


【ト書き】

輪郭が崩れる。

薄かった身体が光へ変わる。


そして。

遺物保管庫の方に吸い寄せられた。


────────────────────

【ト書き】

同時刻。

遺物保管庫。

カナリアが石板へ触れる。

刻印が輝く。

魔力が流れる。


【ト書き】

遺物が本起動した。


一瞬。

保管庫の空気が歪む。


時間。

記録。

意識。


すべてが巻き取られる。


【ト書き】

そして。

教練棟の床に倒れていたカナリアへ、

薄い影が吸い込まれていく。


【ト書き】

重なる。


一つになる。


【ト書き】

カナリアの指が動いた。


睫毛が震える。


そして。

ゆっくり目を開く。


カナリア

「……うわ」


【ト書き】

額を押さえる。


頭痛。

眩暈。

情報の洪水。


数日分の出来事が一気に流れ込む。


カナリア

「最悪……」


【ト書き】

しばらくしかめ面を続ける。

割れた水時計を見て、それから。

大きくため息を吐いた。


そういえばと、あの時光ってた遺物に目を向ける。

カナリア(内心)

(光ってない。見間違え?)

(いえ、こういうときほどちゃんと調べないと)


【ト書き】

ガタッと音が外から聞こえてくる。

視線を外へ向ける。

教練棟の壁際。

ミナトとニーコスが座り込んでいた。

ぼんやりしている。

意識はある。

だが現実感が薄そうだった。


ミナト

「……」


ニーコス

「んー」


【ト書き】

カナリアは二人を見て、

再びため息を吐く。


カナリア

「やっぱり巻き込まれてる」


【ト書き】

額を押さえる。

少しだけ悩む。

答えはすぐ出た。


カナリア

「待ってれば戻ると思うけど、確保優先、調査は後回しね」


【ト書き】

ミナトの片腕を肩へ回す。

続いてニーコスも抱き起こす。


ニーコス

「あ、カナリアさん」


カナリア

「あとで説明する」


ニーコス

「はーい」


【ト書き】

ミナトはまだ少し呆けている。


【ト書き/ミナト内心】

(戻った?)

(戻ったのか?)

(朝だ)

(音がある)

(風が聞こえる)


【ト書き】

喉が一度だけ鳴る。

肩から力が抜ける。


【ト書き】

カナリアは二人を支えながら歩き出す。

向かう先は一つ。

ジンの部屋。

説明と謝罪が待っていた。


────────────────────────

【Scene 15:ジンの部屋(謝罪と状況整理)】

────────────────────────

【ト書き】

朝。

ベイルスレイブ冒険者協会育成校。

夏。

日差しはすでに強い。

窓から差し込む光が部屋の床へ四角く落ちている。


【ト書き】

ジンの部屋。

応接用の机。

書類の山。

壁際の棚。


【ト書き】

ジンは椅子に腰掛けていた。

腕を組み。

珍しく黙っている。


【ト書き】

対面。

カナリア。

ミナト。

ニーコス。


【ト書き】

ミナトは椅子に座っている。

意識は完全に戻っていた。

音も聞こえる。

風も感じる。

喉の渇きもある。


【ト書き/ミナト内心】

(戻った)

(本当に戻った)

(夢じゃなかった)


【ト書き】

ニーコスは落ち着いた様子でお茶を飲んでいる。


カナリアは机へ額が付きそうなほど頭を下げた。


カナリア

「ごめん」

「ほんとにごめん」

「私が鍵閉め忘れたせいで……」


【ト書き】

沈黙。


ジン

「顔を上げろ」


カナリア

「でも」


ジン

「まず説明しろ」


【ト書き】

カナリアはゆっくり顔を上げる。

長い金髪が肩から流れ落ちる。


カナリア

「うん」

「まず、森の民の影の正体だけど」

「私」


【ト書き】

あっさり言う。


ミナト

「本人だったのか」


ニーコス

「本人だったね」


カナリア

「本人だった」


【ト書き】

三人とも頷く。


【ト書き】

ジンだけ眉間を押さえている。


ジン

「続けろ」


カナリア

「遺物保管庫にあった水時計」

「あれ、多分、師匠の魔道具」

「それが起動して」

「私だけ巻き込まれた」

「……と思ったら、この二人も巻き込まれた」


【ト書き】

ミナトとニーコスが揃って会釈する。


ジン

「真犯人は」


カナリア

「分からない」


【ト書き】

部屋が少し静かになる。


カナリア

「小柄だった」

「でも少女とも違う」

「黒い影みたいな感じで」

「顔も見えなかった」

「あれは、すごく強い認識阻害を使ってた。変身に近い」


【ト書き】

ジンは黙って聞いている。


カナリア

「遺物を触ってた」

「あと夜に宿直さんが襲われた時も居た」

「同じだと思う」


【ト書き】

ジンがゆっくり頷く。


ジン

「なるほどな」


【ト書き】

机を指で叩く。


数秒。

考える。


ジン

「少なくとも」

「盗難と気絶事件の証言にはなる」

「収穫ゼロじゃねぇ」


【ト書き】

カナリアの肩から少し力が抜ける。


────────────────────

【ト書き】

そこで。

ニーコスが手を上げた。


ニーコス

「カナリアさん、相変わらずですね」


カナリア

「なによそれ」


ニーコス

「どうやったら遺物を勝手に起動できるですか?」

「魔力まき散らし過ぎなんじゃ?」


【ト書き】

カナリアの肩がぴたりと止まる。


カナリア

「……返す言葉もないわ」


【ト書き】

長い耳が少しだけ伏せられる。


カナリア

「気になることがあるとついつい出ちゃうのよ」

「また、師匠に怒られるから、黙っててね」


ニーコス

「了解です!」


【ト書き】

元気よく返事をする。


ニーコス

「会うんですか?近いうちに?」


カナリア

「うん、近々」


【ト書き/ミナト内心】

(近々……いつぐらいなんだろう)

(もし、この夏に会うなら、俺も……会えないかな)

(カナリアさんの師匠ってことは、凄い人にきまっている)

(よし!聞いてみよう)


ミナト

「あの、その近々ってどれくらいですか?」

「あと師匠って?」


ニーコス

「ん?ミナト、あー……そっか、草原の……」


【ト書き】

ニーコスが困った顔をする。

釣られてミナトが聞いちゃいけなかったか?という顔をする。


【ト書き】

ミナトの視線が止まる。


【ト書き】

カナリアが急に胸を張る。


カナリア

「いい!?ミナトって言ったかしら?」

「森の人同士での会話で出てくる近いうちにっていうと大体10年よ」


ミナト

「十年?」


カナリア(頷く)

「草原の人の近いうちの感覚で使う言葉は、具体的に7日後とかいうのよ!」


【ト書き】

自信満々だった。

ミナトは何も言わない。

言えない。

ニーコスは普通に頷いている。


ニーコス

「10年かぁ……あっという間ですね。」


カナリア

「近いわよ?」


【ト書き/ミナト内心】

(価値観が違う)

(かなり違う)


カナリア

「ちなみに師匠は、森の人の魔法使い達の師匠で、その時その時、目についた子を弟子にしている人」

「一番長く生きている」


ニーコス

「おいくつなんでしたっけ?」

「最近、誰かに聞かれてちゃんと答えられなかったんです」


カナリア

「え?年齢?」

「さぁ?……二万歳以上?」

「……いるのが当たり前だから、もう考えてなかった」


ニーコス

「いただきます。その言葉」

「これからは、年齢を聞かれたら『ずっといるんだから、ずっといるんです』、って答えます」


【ト書き】

カナリアが吹き出す。

ミナトは頭を押さえたくなる。


【ト書き/ミナト内心】

(おい!まさか、始祖って、カナリアさんの師匠なのか?)

(六属性統合魔法を探してるっていう、ほんとにいたのか?)

(居るってことだな。まてまて、ダメだ、ということは)

(どうせろくでもないことは分かっている)

(分かっているが気になる。何年前まで覚えていられるのか?ということだ)


ミナト

「……その方、二万年前の事覚えておられるのですか?」


カナリア

「ぷっ!」

「アハハハハッ!」


【ト書き】

ついに声を上げて笑う。


長い金髪が揺れる。


カナリア

「師匠はね、魔法の腕は信じられないくらいすごいけど、最近の事しか覚えてないの!」

「だから、『忘れた』が口癖ね。」


【ト書き】

ニーコスが「あー」と納得した顔をする。


カナリア

「あと、最近って、大体100年くらいの事ね。ちなみに私が一番新しい弟子よ。」

「100年前に見つけてもらって、弟子にしてくれました」


【ト書き】

カナリアは胸を張る


カナリア

「それ以上前になると、私たちと同じでぼんやりしてるね」


【ト書き】

ミナトは静かに天井を見る。


もはや何も言わない。


カナリア

「……真面目な話、あの人の忘れ物って、時々、お祭りになるのよ」

「今回のきっかけもそれだったしね」


【ト書き】

ジンがそこで会話へ割って入る。


ジン

「ミナト」

「注意しておくことは時間についてだけだ」

「具体的に言えば通じる」

「速いとか遅いとか比較語を使うと致命的に折り合わない」


カナリア

「そうね」

「一日は一日で私たちも同じだからね」

「二日後とか一時間後、って言われれば、わかるわよ」


【ト書き】

ミナトは小さく頷く。


【ト書き/ミナト内心】

(対処方法だけ)

(そう、対処方法だけ)

(理解しておけば今は良い)

(そうしよう)


【ト書き】

だが。

気にならなくなったわけではない。


それだけは確かだった。


────────────────────────

【Scene 16:ジンの部屋(触媒の話)】

────────────────────────

【ト書き】

部屋の空気が少し落ち着く。

夏の朝。

窓から差し込む光が机の端を照らしている。


【ト書き】

カナリアはようやく椅子へ腰掛けた。

ニーコスはお茶を飲んでいる。

ジンは書類を一枚手に取っている。


【ト書き】

今回の件。

分からないことはまだ多い。

黒い影。

遺物。

事件。

盗難。


【ト書き】

だが。

ミナトの中で引っかかっているものは少し違った。


【ト書き/ミナト内心】

(黒い影)

(遺物を調べていた)

(触媒も汚染した)

(でも)

(何のために?)


【ト書き】

ミナトの視線がジンへ向く。


ミナト

「ジンさん」


ジン

「ん?」


ミナト

「触媒って大切なものだったのですか?」


【ト書き】

ジンが少しだけ首を傾げる。


ジン

「触媒?」

「あー」

「盗まれたやつか?」


【ト書き】

ミナトは頷く。


ジン

「いや」

「あれは属性統合演習用にちょっと加工されているが、そこまで貴重でもない」


ミナト

「そうなんですか」


ジン

「持ち出し禁止のものだからな」

「過去に学生が無断で持ち出して問題になったこともあるが」

「まぁそういうものだ」


【ト書き】

ジンはあっさり言う。


【ト書き/ミナト内心】

(そうなのか)

(じゃあ目的は触媒じゃない?)


【ト書き】

カナリアも腕を組む。


カナリア

「うーん」

「じゃあやっぱり遺物?」


ジン

「分からん」


【ト書き】

即答だった。


ジン

「そもそも遺物を狙ったなら」

「わざわざ触媒を盗む理由がない」

「触媒を狙ったなら」

「遺物まで触る理由がない、最も……水時計については起動のさせ方もわからん代物だ」


【ト書き】

指で机を叩く。


ジン

「だから分からん」


【ト書き】

沈黙。


【ト書き】

カナリアが思い出したように言い出す。


カナリア

「水時計、壊れたよ。多分発動した時に割れて中の水がこぼれた。

 残骸からは何の残滓も感じられない。」

「それから、水時計の他に、もう一つ気になる遺物があった」

「カメの甲羅を模したようなやつ。薄く光ってた」


【ト書き】

沈黙。


ジン

「壊れたか……あの水時計は、動かし方もわからん、うかつに破壊もできん。

 そういうことで置いてあったが、壊れたんなら仕方ない

 残滓がないか調べて、処分しよう。

 亀の甲羅のやつは、調べさせる。光るのは聞いたことがある。

 法則が……一部しかわかってなかったはずだ」



【ト書き】

ニーコスは湯飲みを持ったまま首を傾げる。


ニーコス

「つまり」


ジン

「つまり、何も分からんということになる」


ニーコス

「なるほど」


【ト書き】

納得しているのかしていないのか分からない返事だった。


【ト書き】

実際には。

ジンは少しだけ嘘を混ぜていた。

触媒そのものは禁制品ではない。

危険なものでもない。

だが。

演習用触媒には多少高価な素材も含まれている。

分離できれば売れる。

別用途への転用も不可能ではない。


【ト書き】

もっとも。

量は少ない。

危険な流用も難しい。

大騒ぎするほどではない。


【ト書き】

そして何より。

今その説明をしても。

意味がない。


【ト書き】

ジンは書類を閉じる。


ジン

「どっちにしろ」

「今は犯人探しより警戒強化だ」

「実害は出てる」

「黒い影もいる」

「触媒も消えた」


【ト書き】

そこで一度言葉を切る。


ジン

「だから、見つけても追うな」

「まず報告しろ」


【ト書き】

その言葉に。

ミナトは少しだけ視線を逸らした。


【ト書き/ミナト内心】

(追った)

(かなり追った)

(まずいか?報告してない)


【ト書き】

何も言わない。

ジンも言わない。

たぶん察している。


【ト書き】

夏の日差しが少し強くなる。

事件は終わっていない。

だが。

少なくとも三人は帰って来た。

それだけは確かだった。


────────────────────────

【Scene 17:午前・教室(編入生の予告と猿)】(午前)

────────────────────────

【ト書き】

午前。教室。

社会科の講義が始まる。だが、今日は社会科のいつもの教官

だけではなく、講義に似つかわしくない匂いを漂わせた

男が一人、講壇に上がっていた。


短い夏の盛り。窓からの光は強いが、谷沿いの建物は影が深い。


北川光(資料を配布し終えてから

「おはよう!」

「1週間ぶりだな、元気にしてたか?」


【ト書き】

ざわざわと声が上がる。

琉生が「光るじゃん」と声をあげる。



北川光

「おー、琉生元気か?」

「皆元気そうだな、立花、春日井、それに水理も」


【ト書き】

光は一通り生徒の顔を確かめた。


北川光

「手元の資料、表に向けろ」


【ト書き】

資料は、タイトルに、火風岩猿(カラヨドロスガパ)についてと題が出ていた。


北川光

「危険事象についてのレポートだ」

「我々協会は、社会的に損害が出る危険性があった場合、予防措置を講じるために調査を行いレポートを出す活動をしている」

「その手元の資料は、前回の森林演習の際に、突如襲ってきた火風岩猿についてのものだ」


【ト書き】

教室が静かになる。


北川光

「初めて目にする者もいるだろうから、読み方を簡単に教えておく」


「この手のレポートでは、重要な点は2点ある。」

「被害状況と対策だ」


「対策については、お前らでもできることがあるから見ておくように」


【ト書き】

光は資料を軽く叩いた。


北川光

「俺からは以上だ、」


レポート

────────────────────────


危険事象調査報告書


7月16日 11時発生 火風岩猿(カラヨドロスガパ)災害について


1.状況

  森林演習の最終日、集合場所にて、10時52分頃、火風岩猿が東側斜面に出現

  監視者2名、および生徒2名を重傷に追い込んだ。

  その後、水理湊が行った弱体化、渡辺陸斗及び守屋廉、立花蘭土による波状攻撃によるダメージ蓄積

  そして、春日井陽菜による頭部破壊によって沈黙

2.調査方法

  ・魔力残滓による映像再生 調査結果A参照

  ・過去視能力による調査 調査結果B参照

3.原因

  7月15日2~4時頃、何者かによって召喚陣の刻印がされ、11時前に起動、結果召喚された。

  刻印実施者の魔力残滓は不可逆暗号化によって解明ができない。

  したがって、術者不明となる。

4.対策

  警邏強化:演習時の森林の探知強化のため、俯瞰器の設置を検討

  警備強化:演習前後に森林立ち入り者の許可制の導入

5.補足

  調査結果A:残滓再生調査結果、侵入経路不明、召喚陣刻印は突然生成された。状況的に残滓の消去を行い証拠隠滅を図っている。

  調査結果B:過去視調査結果、侵入経路不明、召喚陣刻印を何者かが実施。対象については、阻害処置が強く判明ができない。


  火風岩猿は、迷宮の中層以下で出現、北部自由地帯に稀に表れる猿様の魔物である。

  3属性を扱い初級、中級の冒険者には極めて危険な存在である。


────────────────────────


教官

「光さん、ありがとうございます。」

「これ、過去視調査まで?だいぶ金掛けましたね……」


【ト書き】

教官は光に礼を言い、光は手をあげてそれにこたえる。

そして、光の方から教官に時間を取ってもらってありがとうと礼を言ったのち、教室を後にした。


教官

「次の連絡事項は、編入生についてだ」

「毎年、合同課程が始まるころに転入生を迎えることになっている」

「今年も、一人迎え入れる予定だ」


「これは、この学校の方針で、ま、いわゆる多様性というやつだ」

「親戚や知り合いに編入を望んでいたものがいた場合、募集要項を見るように勧めてくれ」


【ト書き】

生徒たちの背筋が少しだけ伸びる。

ミナトは、レポートから目が離せずにいた。


ミナト内心

(俺の名前がある。俺が弱体化、最初に書かれている。でもその前に光教官が結構殴ってた。

 それが出ない?何かあるのか?とどめは、はるなの頭蓋への一撃か、だよな。

 いや、自分の手で倒せたらそりゃいいよ、うん、でも、あれが精いっぱいだった。

 その後の治療については、名前が上がらないんだな。公平なのか?

 違うか、表彰ってわけじゃない、何が起きて、どうしたか、そしてこれからどうするのか

 が書かれているだけ……)


【ト書き】

他の生徒がレポートの事は忘れて前を向き講義を聞き始めている中、

ミナトとはるなの二人は、じっとレポートを見ていた。


────────────────────────

【Scene 18:ベイルスレイブ別邸(魔石の効果)】(夜)

────────────────────────

【ト書き】

別邸。応接室。

夜。谷底は冷える。短い夏は夜が冷たく

湯気がありがたい。

ミナトは本邸から送られてきている新型魔石と保管箱を

まじまじと眺めながら時折、解析のために目に虹色の光をともしていた。


ミナト

「すっごいな、この魔石、人工でしつらえた割にずいぶん高品質じゃないか?」

「すっごいな、この保管箱は、零度?一定の温度を保ち続けられるのか」


リーン

「ふふふ、鬼族の魔法を活用されたそうです」


ミナト

「そうか!すごい!」


【ト書き】

リーンは自分の出自に由来する技術を褒められてうれしそうにしている。

ミナトは、すごいすごいと、言いながら保管箱を手に取って、上から下から

と眺めている。


ミナト

「これがあれば、ある程度物持ちが良くなるな、それにしてもこの高品位魔石はどうするんだ?」


リーン

「こちらに書かれておりますが、魔石も保管箱も別邸内で好きに使って、結果を教えてほしい、だそうです。」


【ト書き】

ミナトの口角が上がる。


ミナト

「好きに使っていいのか、そうか、何しようかな」


リーン

「保管箱はやはり、冷やしたいものでしょうか?水など?」

「魔石は、充魔力をした後、各設備動力用のものを交換をするつもりです」


ミナト

「そうだね、魔石はそれでいいね。でも保管箱は……書類とかじゃない?ほら、紙って痛みやすいし、虫が食べるし」


リーン

「なるほど、ありですね。さすが主様、賢い」


【ト書き】

零度維持をする魔法の保管箱に紙を入れる。

最高のアイディアだと二人は喜んでいた。


ミナト

「あ、そうだ、ニーコスが言っていた始祖の事だけど」


リーン

「はい?ああ、あの昔話の?」


ミナト

「ほんとにいるらしい、二万歳以上だって」


リーン

「……、主様、さすがにもう私も子どもではないので、そのようなからかいは……」


【ト書き】

ミナトの喉が鳴る

(え?からかい?いやそんなつもりはないんだが、でもカナリアさんの事

 リーンは知らない…ん~)


ミナト

「教官で森の人がいます。」


リーン

「はい」


ミナト

「その人は、凄い魔法使いです。

 僕にもできない事を軽々やります」


リーン

「はい」


ミナト

「その人の師匠が始祖だと、その人が言いました。

 百年前に弟子にしてもらえたって」


リーン

「はい」


ミナト

「だから……実在する」


リーン

「はい、森の人は、二万年もの間の事を覚えておいでなのでしょうか?」


【ト書き】

リーンは鈴が鳴るような声をあげながら、首をこてんと傾けて

ミナトをのぞき込むように見て質問をしてきた。


ミナト

「いや、百年くらい経つと忘れていくらしい」


リーン(改まる。短く)

「森の人の寿命は確か……二千年ほどでしたか?」

「そうすると普通の森の人でも二十回は、忘却の彼方ですね」

「私達より長生きなのは存じておりますが、果たして?」


ミナト

「……うん、記憶は」


リーン

「ということではないでしょうか?」


ミナト(小さく)

「……了解」


【ト書き】

ミナトは力なくうなずく。

ミナト内心

(だめだ、この従者を説得させる言葉を俺は見つけられない。

ロマンが通じない。くっそ……)


ミナト

「そろそろ宿舎に戻る、リーンは?」


(最後に一つだけ)


「ニーコスと一晩過ごした」


【ト書き】

ぽうっとリーンの頭に光が灯る。

角のあたりからだ。

そして、ゆっくりと、見開いた眼でミナトの目をのぞき込んできた。


リーン内心

(ミナト、その言葉の意味は?

 ここの所、森の人の話題が多い、

 長寿の種への憧れではないですね、

 それに、教官の優秀さより、

 ご学友のニーコス嬢を選ぶということは、

 将来のお立場に必要だから注目しているわけではない、

 となると、


 《《お側に置きたい》》


 ……ならば、問わねばなりません!)


リーン

「はい、それで、《《ミナト》》?」


ミナト内心

(食いついた、良し一気に行くぞ)


ミナト

「魔道具の事故に巻き込まれて、二人で一晩過ごした。

 その時間は魔道具のせいで無くなったけどな。

 ニーコスは、危機的状況にあっても、動じずにしっかりと対応をしていたよ」


ミナト内心

(くっくっく、ここで森の人が優秀だと伝えておいてからの)


ミナト

「僕は、森の人は信用できるって思ったね」


ミナト内心

(どうだ!

 これでも、からかいだと思うか??

 完璧だろ?

 ん、なんだ、リーンの角に火花?)


リーン

「左様でございますか、それでは、

 お伺いしたいことが出てまいりました。

 主様は、ニーコス様と――――――」


リーン

「《《どのような関係を望まれているのでしょうか?》》」



ミナト内心

(待て、どういう意味だ?

 関係?関係って言ったか?

 学友だろ?それ以外何が?

 まさか、いや、ニーコスを俺が?

 いや、ない、まずい、なぜそんな感じにズレた?)


ミナト

「もう一度言うよ……はぁはぁ……。」


ミナト内心

(なんだ、言葉が詰まる)


ミナト

「僕には、ニーコスはただの学友だよ」


リーン

「はい、ご学友であることは存じております。」


ミナト

「森の事を良く教えてくれるいい奴だ」


リーン

「はい、左様でございますね」


ミナト

「……」


ミナト内心

(だめだ、なんでかわからないが、これもツマネタだ……)


ミナト

「……そろそろ宿舎に戻るよ。リーンは?」


リーン

「はい。まだお荷物がすべて整理できたわけではありませんので、私は明日戻ります」


ミナト

「了解。待ってるよ」


【ト書き】

ミナトは椅子から立ち上がり、鞄をしっかりと肩へと掛け直した。


ミナト

「じゃあ、行ってきます」


リーン

「はい、お気をつけて行ってらっしゃませ」


【ト書き】

応接室の扉が静かに閉まる。

残されたリーンは小さく微笑みながら、新しい魔石と保管箱へ視線を向けた。

夏の夜は静かだった。


タイムリープもの、難しいですね。なんとかかけた感じです。酷暑というか天災級の暑さが続く中、この設計書、小説開発における乱文整序の乱雑な乱雑な制作過程、そして小説本体ともどもお読みくださりありがとうございます。その1PVが励みとなっています。これからもよろしくお願いします。


うあぁあーはるなの漢字ミスが!修正しました。

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