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断罪イベント直前、悪役令嬢に“乙女ゲー辞めて、RPGやらね?”って誘ったらノリノリで乗ってきた件

作者: あおたん

 

「ねえ、パピコの片割れ取られるのと、雪見だいふくの一兎取られるのどっちが嫌?」


 この世界に来て、苦節十余年。

 今日は『悪役令嬢上等!すべては神エンディングで拝む、推し王子様の断罪顔(ご尊顔)のため!』と、こいつが待ちに待った神エンディング、もとい断罪イベント当日だ。


 そんな佳境の最中に、俺は人生でクソほどどうでもいい質問をされていた。


「なんだそれ、今聞くことかよ。それに、片割れはまだしも、あのアイスを一兎って何だよ。一兎って」

「いや、だってほら。あれって実はうさぎだったりするじゃない?」

「はぁ?んなわけないだろ!」

「え?あなた知らないの?一体前世で何してたのよ。アレ、うさぎなのよ?あんなに白くてもちもちで、うさぎがアイスになっちゃったに決まってるじゃない」


 こいつはあれか?頭がお花畑なのか?ねじが何本か外れてんのか?

 ギラギラしたあのシャンデリアに脳みそ焼かれちゃったか?それともこの出来の悪いワインもどきに酔っぱらっちまったのか?

 てかなんで俺、ドレスだのフリルだのに囲まれて、砂糖菓子みてぇな貴族どもと十年も付き合ってやってるんだよ。


「はいはい、そうかいそうかい。んで、そうだな、パピコか雪見だいふくか取られるのはどっちが嫌か、だったっけか?もちろん、俺はパピコの方が許せない。あのパキッとちぎられて持っていかれるのが何だか好かん」

「ええ!?あり得ない……。私は断然、雪見だいふくね。あの白くてふわふわで可愛らしいうさぎの方が絶対価値があるもの」

  「うわっ、あり得ねぇ」


「はぁ?あなたの方があり得ないでしょ?大体あなたね。一つの雪見だいふくにはうさぎの魂が一つ──」



 ああ、また始まったよこいつ。どうしてこうも、俺とこいつは合わねぇのかな。


 だってこいつあれだぞ。

 人が死なないはずの乙女ゲールートで、もう三回は死に損なってるんだぞ。

『乙女ゲームは恋愛じゃないの!戦いよ!』とか真顔で言いやがるし、神エンディングに命かけすぎだろ。俺の心臓、何個あっても足りる気がしねぇんだわ。



「──ああ、なんだか私、また食べたくなってきちゃったわ、雪見だいふく」


「そりゃ、お前が話題に出すからだろ。うわ、そうか俺、もう十年以上パピコ食ってねぇのか。ガチで飯テロやめろ」

「だって、これからあの神エンディングが始まるかと思うと緊張しちゃって!何だか身体が熱いのよ!」


 そう言うとこいつは顔を真っ赤に染めて、パタパタと手で顔を仰いだ。

 金のロン毛に、食欲が無くなりそうな青い目。悪役らしいでしょ?と自慢げに見せてきた深紅のドレス着こんで、表情筋がイカレそうなほどにニタニタしてやがる。


 まあ、そうだな。あれだ、悪役令嬢ってだけあって、ビジュは悪くないのな。


「はい、はい。出たよ乙女ゲーオタク、乙」

「う、うるさいわね。あなただってゲーマーじゃない!」


 ゲーマー?ふん、悪い響きじゃねぇな、全く。そうだよ、俺はゲーマーだよ。

 シューティングゲーに、格ゲー、レースゲー、たまに音ゲーまで嗜む、正真正銘のゲーマーだ。でも、俺が今一番やりたいのは剣と魔法の冒険RPGだ。

 ああ、早くやりてぇな、ロール・プレイング・ゲーム。


「あ、あのさ、聞くけどよ。神エンディングのため、悪役令嬢としてこれから俺に断罪されるのと、お前の愛してやまないあの神エンディングぶっ壊して俺と冒険に出るのどっちがいい?」

「はあ!?転生してきて十余年、私達が血眼になって辿ってきたこの神エンディングをぶっ壊すなんて正気?」


 まあそう来ますよね。十年前から思ってたけどよ。こいつ、まじ釣れねぇのな。

 俺はただ、RPGがしたいだけなのによ。

 僧侶と二人で冒険がしたいのによ。マジこいつ、分かってないのな。


「いや、だって俺、そのジョリジョリ?とか言うゲーム詳しくねぇし」

「ロミジョリよ!ロ・ミ・ジョ・リ!」

「はいはい。そうですねそうですね。ジョ・リ・ジョ・リ!」

「ああ、もう!」


 プンスカと地団駄を踏むと、こいつは手で頭を掻き乱した。

 お嬢さん、『今日は神エンディング当日よ!気合を入れてお化粧しないと!あっ、髪のセットも忘れちゃいけないわ!ヒロインより目立たない、悪役令嬢らしいお化粧よね?だからリップは──』なんて仰っておりましたけども、その努力、全て水の泡になってしまいますよ?


「私、何度も語り聞かせてきたわよね?あの希代のゲームクリエーター、シラスが作ったロミジョリの魅力を!」

「あ?まあ、良い子守唄だっ──」


「あ、あなた、もしかして聞いてなかったの⁉」

「い、いや、だって、俺興味ねぇし」


 うん、そう。俺興味ねぇもん。

 こいつの推しが見かけに寄らず甘党で、好物のケーキのレシピが公式サイトにだけこっそり公開されてるとか。隠しイベント発生条件が仲間の好感度を均等にあげることだとか。

 そんなこと、俺興味ねぇもん。


「なによそれ!私達約束したじゃない!ロミジョリのあの神エンディングを実際に見ようって!リアルよ!3D高画質よ⁉忘れたとは言わせないわ!」

「それは忘れてねぇよ。シラスの作ったゲームの神エンディングを見ようってな、確かに約束した」

「じゃあ、とっとと断罪して頂戴よ!それが無いと神エンディングは見られない、確定イベントなのよ!」

「だから、俺はシラスの作ったゲームの神エンディングを見ようとか約束してねぇって」

「はぁ?何を言ってるの?御託並べてないで早く私を断罪して頂戴よ!」


 こいつ、マジか。俺何度も説明したはずだぞ?天才シラスのゲームの魅力を。

 シューティングゲーに、乙女ゲーに、RPGに、音ゲーに。何でもござれなあのシラスの凄さを。そしてそのゲーム全ての世界線が矛盾なく繋がってしまっているぶっ飛び具合を。


 あれだけ懇切丁寧に説明してやったのに、忘れちまってるって正気か?


「だから、シラスが作ったゲームはジョリジョリだけじゃねぇんだよ。俺の知ってるRPGゲームではあんたと俺、二人で冒険に出てたんだわ。魔王討伐に向かう勇者と僧侶。それが俺たちだった」

「え?何ふざけたこと言ってるの?あなたが雪見だいふくを一個って言い張るぐらいつまらない話よそれ」


 その例えの方が十分つまらんだろ。ってお前、なに目ん玉かっぴろげちゃってんだ?お前はあれか?出目金か?じゃあ俺はあれか?金魚の糞か?


「んなこと、知るか。俺はお前と一緒にいれりゃ何でもよかったんだよ。やっと今日だ、ガチで待ちわびたぜ」

  「そうね、苦節十余年。私達はやっと、あの断罪イベントの舞踏会に来ているわ」


「何度も言うけど俺。正味、断罪とか神エンディングとかどうでもいいんだよ。でもな、お前の我が儘に合わせて十余年も付き合ってやったんだ。お前がその落とし前をどうつけてくれるかには興味がある」

「え?普通、今になってそんな事言う?あなた、暇だからいいって言ってたじゃない!」

「ああ、俺の知ってるRPGの冒険が開始する今日、この日までは暇だったからな。俺がお前に捧げた十余年。そろそろ、返してもらわねぇとな?」

「そ、そんなのずるじゃない!」


 うわ、すっごい。こいつ、顔が真っ赤っかだぞ?まじで切れてんじゃねぇか?


「俺たちの約束は『シラスの作ったゲームの神エンディングを見る』ことだ。一言も『ジョリジョリの』とは言ってない。お前が勝手にそう思い込んで、別のゲームの話をしても聞く耳持たなかったのはお前だ」

「なっ!!!」


 残念だったなお嬢さん。気付くのがちっとばかし遅かったな。


「どうしようかな~。おれ、十余年もお前に付き合ったんだよな~」

「ひ、卑怯よ!」


 泣き落とし?そんなもん、俺には効かん。

 いや、別に。ウルウルした青い目を拭ってやりてぇなとか、そんなに視線ふらふらさせて隠すなよ、とか、俺別に思ってねぇし。


「もう俺、こんなラブコメゲームの登場人物飽きちまったしな」

「な、何よその顔は!魔王よりも酷い顔よ!」


 俺は吊り上がった口角をグイッと手で戻した。いや、別にニヤついてねぇし。


「は?失敬な。俺はお前の愛してやまない、ライアン・メーデン様だぞ?廊下を歩けばキャーキャーと声が上がる騎士団長様だぞ?まあ、騎士団長はお前の無茶ぶりのせいだがな」

「だ、だって。ライアン・メーデン第三王子様は、努力家で、誠実で、実直な男の中の男なんですもの!」

「知らねぇよ。俺の知ってるライアン・メーデンはひ弱で、非力で、泣き虫で……それでも、僧侶と一緒にまぐれで魔王を倒しちまう、そんな馬鹿みたいな男だよ」


「……何それ、ずるい」

「何がだよ」


 潤んだ瞳でずるい、って駄々こねるとか。お前は幼稚園児か?

『悪役令嬢たるもの、いかなる時も冷静沈着に。相手を言葉で掌握し、跪かせるのが作法というもの』とか言う、お前には荷が重すぎる矜持はどこ行ったんだよ。


「だって、私の知らないライアン様をそんな風に言われたらずるいに決まってるじゃない!!ねえ!もっと教えてよ!」

「……はぁ⁉」


 いや、お嬢さん。そう来ますか、そう来ちゃいますか。

 あなたのツボはそこでしたか。何を言っても聞く耳持たなかったお嬢さんの攻略キーはこれでしたか。意外と簡単でしたね?ずいぶんとチョロかったですね?気付けなかった俺が馬鹿みたいですね?


「こうなったら神エンディングなんてそんな既存のルート、もうどうでもいいわ!教えて頂戴!!あなたの知ってるライアン様のお姿を!!!」

「あぁ?しゃーねぇなぁ。じゃあ断罪なんてそんなまどろっこしいこと辞めて、一緒に冒険でもするか?悪役令嬢様よ」

「ええ!もちろん!ライアン様の新ルート開拓だわ!!」


 ぱあっと顔を輝かせ、悪役なんて言葉が似つかわしくないほどに、馬鹿正直な笑みを浮かべるこいつ。


「はぁ……、ライアン様じゃなくて、そろそろ俺のこと見てくれねぇのかよあんたは」

「え?何か言った?」


 ああ、もうマジで。そういうところだぞ。そういうところ。

 ちゃんと人の話を聞きましょうって、小学校で習わなかったのか?お前は。

 まあ、別にいいか。これから何十年もこいつと過ごしていくことになるんだし


「いいや、何でもない。10余年も付き合ってやったんだ、パピコ一本寄越せよ?」

「ええ、これから冒険に付き合ってあげるんですもの。雪見だいふく一兎で手打ちにしてあげるわ」


 なんか、ジョリジョリのヒロインが金のカーテン越しに熱い眼差しを向けて来てる気がするけど、そんなNPC、正直どうでもいい。

 わりぃな、NPC。俺たちは新ルートいや、俺ルート開拓するんで。一足お先に。


「……一兎じゃなくて一個だし」


 俺が呟くと、ジロッと睨まれた。やっぱこいつ、怖えぇわ。


パピコの片割れ取られるのと、雪見だいふくの一兎取られるのどっちが嫌ですか?

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