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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第99話 屍兵


夕陽に赤く染まる結界の中で、夢咲の軍勢は優勢に立ち回っていた。


私は、あまりにもうまく運びすぎていることが心配になり、孫尚香に話しかけた。

「そろそろ夕暮れね。暗くなる前に皆一旦引いてくるかしら……

華蓮様の話だと、暗くなったら何が起きるか未知だから引くようにと言っていたけど」


孫尚香も少し不安なのか、腕を組み戦況を見ながら答える。

「あまりにもうまくいきすぎている。深追いは禁物だと思うのだけど」


紗良が不安な私たちを見ながら口を開いた。

「龐統、徐庶、孫瑜が指揮しているから、大丈夫だよ」


戦況を眺めていると、死・景・杜・驚の陣に向けて押し上げていた孫瑜隊と、敵陣を自由に駆け回っていた徐庶隊が徐々に下がってきていた。

生門の陣を囲んでいる龐統隊は結界の外へ直ぐに抜けられるためか、湧いてくる冥迷邪鬼の攻撃を続けていた。


(皆さん、しっかり華蓮の命令を守っている)


戦場の様子を見て安心し、自分のなすべきことを思い出す。

「そろそろ私たちも竈と灯花の灯を見に行きましょうか」


竈隊の皆が視線を合わせ、頷き合った。


「じゃあ、私が高架橋の上に立って合図を送ったら見回りに出てね」

言葉を残し、紗良はジャイロバイクに跨り高架橋を目指した。


そのとき、今までに聞いたことのない声が大地を揺るがした。


「ブォー――!」


声帯を潰したかのような大きな雄叫びが大地を震わせた。


その声は死・景・杜・驚の敵陣からと、生の敵陣から響いてきた。


そして、わが軍の将の雄叫びと、剣と剣がぶつかり合う音が聞こえてきたのだ。


(幻想のような冥迷邪鬼との打ち合いでは聞こえてこなかった音だった)


紗良の方を見ると、戦場の様子が不安なのか停車してこちらを振り返っていた。

咄嗟に、上から状況を把握できる者がいた方が良いと考え、大声を上げた。


「私たちに構わず行きなさい!」


紗良もすぐに私の意図を理解し、高架橋へ走り出した。


「琴葉、徐庶さんのところに移動できるわよね。直ぐに状況を確認してきて」

私が声をかけると、琴葉は頷き、煙だけを残して消えた。


「ねえ、何この腐臭は?」

碧衣が袖で鼻を覆いながら尋ねる。


小喬が慌てて駆け寄り、声を上げた。

「冥迷邪鬼が実体化したのよ!この匂いは死体の匂い。屍兵(しへい)よ、死んだ姿のまま蘇ってきているわ」


「えっ、今なんて……」

理解を超えた言葉に、私たちは唖然とした。


(そういうこと……趙高の神能が発動した。趙高が現れたということなの)


玄冥原の中央から徐庶の声が響く。

「おのれ趙高!主はどこまで英霊たちを愚弄する気か。主だけは許さんぞ!」


続いて孫瑜が声を張り上げる。

屍兵(しへい)を斬れぬ者は退け!わしらが背を守る、早く退け――!」


休門を囲む龐統隊からも声が響いた。

「よいか、屍兵(しへい)を斬れぬ者は下がり、生門前の我らの陣を守るのじゃ!」


腐臭に交じり、鉄の匂いが漂ってきた。


「趙高が現れたみたいね」

皆に聞こえるように声をかけると、琴葉が突然現れた。


「趙高が中央にいる!月弓も銀の鉄翁も使うな!孫尚香も前に出るな!」

そう言い残すと、再び消えた。


すかさず橋梁の上を見ると、琴葉が紗良の前に現れ、また消えた。


直ぐに玄冥原中央の上空へ視線を向けたとき、視界の端に星が瞬いた。

ドーン――!


空気が震え、音に続いて衝撃波が玄冥原の大地を襲う。

趙高、兵士、屍兵(しへい)は耐えきれず片膝をついた。


音の発生源には、大鎌を担いだ華蓮が瞳を赤く光らせ、趙高の真上に浮かんでいた。


「つまらないわね」


華蓮が指を鳴らすと、銀糸が線を描き趙高に突き刺さった。


やっと事態を理解したのか、趙高が上を向いて怒鳴る。

「お主、儂を恐れて地に降りて来れぬか!」


「あら、嫌ですわ。腐臭立ち込める大地に降りたら、服に匂いが着いてしまいますもの」


(えっ、どうして二人の会話が耳元で聞こえるの?)


慌てて周囲を見ると、皆も同じように華蓮と趙高のやり取りを耳にしていた。


「ねえ尚香、耳元で二人の会話が聞こえるのだけど……」

孫尚香は左右に首を振り、苦笑して答える。

「華蓮様の神能の一つです。華蓮様の聞いた声、話す言葉が視界に入る者へ届くのです」


「それって、自分の言葉を皆に宣伝したいだけなのでは……」


途中まで言って慌てて口を塞ぐと、空に浮く華蓮がこちらを見てニヤリと笑った。


「でも、あなた薄汚い男ね。最近亡くなった英霊の魂だけを残して、屍兵として実体化させるなんて……近寄るのも汚らわしいわ」


「左様、知った顔をそうやすやす斬れぬであろう。わはははは――!」


「何が『わははは』よ。紗良、実体化すれば月弓の矢が刺さるわよ、月弓で全員浄化しなさい!」


華蓮の命令に応じ、高架橋の上で紗良が矢を放った。

青白い光が天空へ突き進み、万を超える矢が地上へ降り注ぐ。


寸分の狂いもなく、一万を超える屍兵に矢が突き刺さった。

矢を受けた兵は英霊へと姿を変え、銀の粒子となり夜空へ旅立っていく。


「あらあ、自慢の屍兵(しへい)、みんな消えてしまいましたね。うふふ……」


歯ぎしりしながら華蓮を見上げ、趙高が怒鳴る。

「うぬがあ、覚えておれ!」


趙高が一回転し……何も起こらない。

もう一度一回転し……やはり何も起こらない。

不思議そうに腕組みをする趙高。


「あなた、本当にあんぽんたんね。地中に逃げようとしても無理よ。自分の体を触ってみなさい」


華蓮に言われ、自分の身体を触り驚く趙高。

「こ、これは……人の身体ではないか」


「そうよ、私の銀糸に多能性獲得細胞を仕込んでおいたのです」

「……何だそれは?」

「存在が消えるものに説明は不要ですわ。

ただ言えるのは、あなたのつまらない屍の神能より、ずっと夢咲の科学が上ということね」


「碧衣、この男、頭だけ出して埋めてくれるかしら」


碧衣は頷き、銀の鉄扇を水平に構えると趙高の真下に穴をあけ、地下水を満たした。


「うわ、な、なにをする!」

溺れまいと必死に頭を水面から出す趙高。しかし穴は次々と土で満たされていった。


「やめろ、これは……な、なにをする!」


華蓮がゆっくり地上に降り立ち、薄笑いを浮かべて指を鳴らす。


「いたたた――!歯が、歯がぁ……!」

「痛いでしょうね。銀糸で歯神経を突かれれば、痛いに決まっているわ」


華蓮が私たちの方へ振り向き、声をかけた。

「もうこの男は何もできません。近くに来ても大丈夫ですよ」


私たちは趙高の周りに集まった。


「さて――秦の四女神、いらっしゃい」


華蓮の呼び声に応じ、今朝女神となった四人が趙高の前に立った。

その姿は女神ではなく、秦の時代の姿に戻っていた。


私は驚いて華蓮に尋ねた。

「えっ、朝は女神の姿だったのに、今は何故元の姿に?」

「それはね、処刑は暗殺されたときの姿でしたいと強い要望があったから。

それに、人形劇としても映えるでしょ。

だから、処刑が終わるまでの間、秦時代の身体に戻すようにペルセポネに頼んだのよ」


趙高は知った顔を見るや否や声高に叫んだ

「お、お前ら、助けろ、儂を助けろ……同じ仲間であっただろう」

趙高の前の四人は冷ややかな目で趙高を見つめていた。


華蓮が趙高を見て薄笑いを浮かべた。

「神核はね、死を経験すると傷つくものなのよ。

そしてその傷が深ければ深い程、砕け散りやすくなる。

もちろん、壮絶な死を迎えれば一回で砕け散り、その存在が永遠に失われるの」


趙高は華蓮を睨みつけながら声を上げた。

「だから、なんじゃ……儂の存在を消す気なのか?」

「よくお分かりだこと、これからこの四人にあなたの処刑をしてもらう予定なの」


趙高の顔が驚きと恐怖が入り混じった顔になる。


「では、先ずは私からやらせてもらいます」

そう言い、扶蘇(ふそ)が趙高の前に立った。

「のう趙高よ……父、始皇帝の遺志を継ぐべき私を、偽りの(みことのり)で死に追いやったな。

その(みことのり)の刃をお前に返してあげよう」


趙高が李斯(りし)を睨み、叫んだ。

「そこにいる李斯(りし)はどうなのだ。儂と共に偽の(みことのり)を作ったのだぞ!」


扶蘇(ふそ)李斯(りし)を見て静かに頷いた。

「実はな、魂を捕らわれていた時に、李斯(りし)は四百年もの間、私の下僕として仕えてきた。

罪を背負い続け、償い続けたのだ。

四百年共に過ごせば、情も芽生えるものだろう」


そう言うと扶蘇(ふそ)は趙高に(みことのり)を読ませ、短刀を自害できる位置に置いた。

「お前が偽詔で私を葬ったように――今度はその詔で、お前自身を葬るのだ」


趙高は震える手で詔を読み上げ、短刀を使い、自らの命を絶った。


趙高は一回目の死を経験したが、直ぐに多能性獲得細胞が働き意識を戻した。


「では続いて私が処刑を執行させてもらいます」

そう言いながら蒙恬(もうてん)が、趙高の前に立った。


「なあ蒙恬よ、毒を持ったのは儂ではないぞ。まずは儂をここから出してもらえぬか?」


蒙恬(もうてん)は冷ややかな目で趙高を睨んだ。

「戦場で兵を欺き、私を毒で葬ったであろう。毒を盛られた苦しみを、今度はお前が味わえ」


そう言って趙高の前に毒を満たした杯を置いた。

「さあ、別れの杯だ。しっかり味わって飲むがよい」


華蓮はなかなか飲もうとしない趙高に業を煮やし、四本の歯の神経を銀糸で刺激した。

「ギャー!」悲鳴を上げる趙高に華蓮が声をかける。

「早く杯の酒を飲んで、楽になればいいのですわ」


やがて歯の痛みに耐えられず、趙高は杯の酒を飲み干した。

こうして、趙高は二度目の死を経験した。


「では続いて私だな」李斯が趙高の前に立つ。

胡亥(こがい)様即位後、権力を握るため私を利用し、やがて謀反の罪を捏造して失脚させた。最後は私を獄に落とし、車裂きの刑に処したのを私は忘れていない。その苦痛を、今度はお前が受ける番だ」


趙高は青ざめ、泣き叫んだ。

「やめろ、やめろ、やめてくれ!」


その声空しく、両手両足を縄で縛られ、反対側は馬に繋がれ、李斯が馬の尻を叩いたた。

こうして、趙高は三度目の死を経験した。


「さて、最後は私ですね」冷ややかな目で趙高を見つめる胡亥(こがい)


趙高は弱々しい声を振り絞った。

「胡亥殿、私は忙しくてあなたの話を聞くことができなかっただけではないですか」


胡亥は無視し、言葉を続けた。

「お前の偽詔で兄扶蘇を殺し、私を帝位に縛り付けた。その帝位は民の血で汚れ、私を孤独にした。最後にはお前に見捨てられ、屈辱の死を強いられた。今度はその帝位の帯で、お前の命を締め上げてやる!」


そう言い、木に吊るした縄を首に巻き、椅子の上に立たせた。


もう疲れ果てた趙高は、直ぐに四度目の死を自ら受け入れた。

そして神核が砕け散り、身体は灰と化し完全に抹消された。

こうして玄冥原の趙高との戦は幕を閉じた。


玄冥原の霊道の入り口に灯花を並べ、全ての兵が一口の酒を酌み交わし、英霊たちを静かに惜しみ、別れを告げた。

戦には勝ったが、かつての英霊たちに思いを馳せる静かな夜となった。




ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

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更新は偶数日の朝7時過ぎを予定しています。

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