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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第95話 小競り合い


まだ星が夜空を満たす時刻、予定通り竈と灯花の設置を終えた。

私と孫尚香、琴葉は南西の傷門に設置した竈の前に立ち、互いの目を見つめ合う。


琴葉が真剣な顔で頷いた。

「紗良に、これから火を入れると伝えてくるね」

言葉と煙を残し、彼女は紗良のもとへと消えていった。


孫尚香が朱纏の(しゅてんのやり)を下段に構える。

槍の軌跡を追うように銀の粒子が弧を描く。

舞姫の聖女の名にふさわしく、優雅で舞を披露するかのような構えだった。

星愛(ティア)、いつでも灯りをともして大丈夫」


星の残る空に、一筋の青白い矢が弧を描いた。


やがて琴葉が煙と共に蜘蛛の姿で肩に乗り、囁く。

「紗良も、いつでもいいと言っていたよ」


私は頷き、傷門の竈に火を灯す。

オリーブチップが勢いよく燃え上がり、辺り一面にオリーブオイルの香りが広がった。


すぐに立ち上がり、休門へと並ぶ灯火に次々と灯を入れていく。

灯火からは蓮の香りが溢れ出した。


視界の端に銀色の矢が弧を描くのが見えたが、私は並ぶ灯火に意識を集中させた。


(ついに始まったのね……私は私の役割に集中する。みんな、お願いね)


そう思いながら灯火に灯を入れていくと、蜘蛛姿の琴葉が耳元で囁いた。

「火を入れた途端、灯りに誘われるように冥迷邪鬼が姿を現したよ」


私は休門の竈に灯を入れながら琴葉に尋ねた。

「さっきの銀色の矢は、紗良の矢だったの?」


「うん。銀糸の矢は華蓮がいない時は一本しか放てないから心配だったんだけど……昨日の夜みたいに、冥迷邪鬼が灯火に吸い寄せられ、導かれるように竈の炎へ入っていくから、今のところ尚香の出番はないよ」


私は次の南東、生門を目指す。

紗良が矢を連射しているのか、銀の矢が小気味よく行く手を切り開くように降り注ぐのが見えた。

やがて孫尚香の槍の舞が始まったらしく、私の視界には槍の動きをなぞる銀糸が弧を描き、銀の粒子が空間を埋め尽くしていた。


私は灯花を見失わないように、確実に灯を入れていく。

池の前にさしかかると、冥迷邪鬼の姿は消え、生門に灯を入れた。


「邪鬼どもが、東の池のほとりにも集まり始めている」

そう言い残し、孫尚香は東の開門へと走り出していった。


灯火に灯を入れながら私は声を張り上げる。

「今どうなっているの?」


琴葉は落ち着いた声で耳元に囁いた。

「尚香が舞うたびに、浄化された魂の粒子が天へ昇っていくよ。

それに、邪鬼どもは尚香の槍の舞の間合いには入れないみたい」


私は尚香の後を追い、次々に灯花へ灯を入れていった。

東の開門の竈に火を灯し、次の北東の死門へと歩を進める。


孫尚香の叱咤する声が戦場に響いた。

「ここからが勝負よ!死、驚、景、杜と門が続く。惑わされずに進むのよ!」


辺りには異臭が立ち込める。

その匂いを覆い隠すように、灯花から蓮の香りが広がった。

死門には銀の矢が突き刺さり、槍の舞に呼応する銀糸が絶え間なく弧を描いていた。


死門の竈の前に立ち火を入れると、炎が一気に舞い上がる。

灯火に浄化された魂たちが元の姿を取り戻し、炎へ吸い込まれるように冥府へと旅立っていった。


だが、数が多すぎる。

進行はここで止まらざるを得なかった。

私は初めて灯火から目を離し、孫尚香へと視線を移す。

玄冥原全体を見渡すと、休門から死門へ冥迷邪鬼が補充されるように流れ込み、さらに死門からこちらへと押し寄せてくるのが見えた。


私は冥迷邪鬼を睨み、怒りを露わにする。

「邪魔よ、どきなさい!」

一瞬たじろぐ冥迷邪鬼たち。しかしすぐに再び襲いかかってきた。


私の行動を苦笑しながら見ていた孫尚香が呼びかける。

「このままでは間に合わない。開門から休門へ抜けて、杜門から落としましょう!」


私は頷き、尚香がジャイロバイクに跨るのを見てAIろくに飛び乗った。

「ろくちゃん、冥迷邪鬼は見えないのよね」

「残念ながら見えません」

「じゃあ、全力で孫尚香のジャイロバイクに追従しなさい」


返事の代わりにモーターが唸りを上げ、尚香のジャイロバイクにぴたりと貼りつくように追従する。


私は肩に乗る琴葉蜘蛛へ声をかけた。

「振り落とされないように、しっかり捕まっていなさい」

「華蓮に比べたら余裕だよ」と琴葉は軽く答える。


AIろくの速度計は時速百六十粁を示していた。

「ろくちゃん、どういうこと……最高速は百四十粁じゃなかったの?」

「ジャイロバイクのスリップストリームに入っているのですよ」

「な、なによ、そのすりっぷなにがしって!」

星愛(ティア)様……今はしっかり捕まっていてください」


尚香のジャイロバイクは器用に左右へ振れ、冥迷邪鬼を避けながら疾走する。

AIろくも寸分違わず同じ動きをなぞり、追従していった。


まるで冥迷邪鬼の群れを切り裂く一陣の風のようだった。


思った通り、傷門と休門の冥迷邪鬼は減っていた。

「尚香!これなら一気に杜、景、驚門へ灯りを入れていけそうね!」

孫尚香は落ち着いた表情で頷く。

「もともと杜、景、驚門は自然の力で敵兵を欺く門。だから兵の数も多くは置けない陣なの……一気に畳みかけましょう」


私たちは頷き合い、それぞれの星環機から飛び降りた


私たちは難なく驚門までの竈と灯花に灯を入れ、残すは死門のみとなった。


再び死門を望む位置に立つ。

日の出まであとわずか。

この門を閉じなければ、陣が綻びとなるのは明らかだった。

幸いにも、こちらへ迫ろうとする冥迷邪鬼は灯火に触れて浄化され、近づくことはできないでいた。


「これだけの数……今の私の力では無理ね」

悔しげに呟く孫尚香。

紗良の銀の矢が群れを射抜き続けるも、数の暴力には到底抗えなかった。


その時、東の方角が閃光に包まれ、背後から地響きが轟いた。

ドーーン!!

振り返ると、大鎌を携えた華蓮が立っていた。


私と琴葉は顔を見合わせて笑い、孫尚香は慌てて問いかける。

「華蓮様、その大鎌は何ですか……また鬼女の姿ですか?」


「あら、いけませんか?私、この飾りが気に入っているのですよ」

「飾りですか……戦には不要だと思いますが、神の意見は絶対ですよね」

「ふふ、尚香も神らしくなってきたわね。神は気まぐれで、我儘なのよ」


(それは主に華蓮様のことでは……)


そう思った瞬間、華蓮が私を鋭く睨んだ。

星愛(ティア)、思っていた以上に頑張ったわね……。琴葉、紗良に伝言を頼んでいいかしら?」


「うん、いいよ」

蜘蛛の姿のまま肩に乗る琴葉が即答する。


華蓮は口角を上げ、冷酷な笑みを浮かべた。

「天空に銀の龍が現れた時、月弓の矢を死門にいる全ての邪鬼へ放つように――そう伝えて」


「りょうかいでーす!」

琴葉は軽やかに返事を残し、紗良のもとへと転移した。


華蓮は満面の笑みを浮かべ、深く頭を下げた。

そして顔を上げると、残忍な笑みがその口元に広がっていた。


「さあ、皆さん。楽しい人形劇の始まりです。ウフフフ」


(うわ、また始まった……今度は何を仕掛けるつもりなのかしら)


そう思った瞬間、華蓮が私を鋭く睨む。

「あら、星愛(ティア)様。そんなに期待されると、私もっと頑張ってしまいますわよ」

「いえ、結構です」

私はジト目で華蓮を見つめ、手を振った。


「陽が昇る前には炎の結界を完成させますわ」

華蓮が告げると、周囲の空気が彼女に吸い寄せられるように集まり始めた。

長い黒髪が逆立ち、そこから無数の銀糸が生まれ、上昇気流に乗って天へと舞い上がる。


やがて銀糸はゆっくりとぐろを巻き、うねりながら巨大な姿を形作っていった。

そう――そこには、とぐろを巻く銀龍が浮かび上がっていた。


刹那、リニアモノレールの橋梁が青白く輝く。

三日月のような弧を描き、銀龍の身体を射抜く無数の月弓の矢。

矢は銀龍を貫通し、銀糸を纏って寸分違わず冥迷邪鬼へと降り注いだ。


瞬く間に死門に群がっていた邪鬼たちは銀色の粒子となり、天へと消えていった。


「あなたたち、私が美しいからって、そんなに見とれなくてもいいのよ……

早く残りの灯花に灯を入れてきなさい」


私と孫尚香は顔を見合わせ、残りの灯花に火を入れた。


すると、竈と灯火で描かれた円に沿って半透明の球体が立ち上がり、私たちを包み込む。

まるで玄冥原そのものが、赤みを帯びた巨大な半透明の椀に覆われたかのようだった。


私たちが戻るのを待ち、華蓮が声をかける。

「これで竈班の仕事は終わりよ。立派な結界でしょう?冥迷邪鬼も邪神も、ここからは出られなくなったわ」


私は空に舞う銀龍と炎を思わせる半球体を見上げ、驚きを隠せなかった。

「華蓮様……こうなることを分かっていたのですか?」

「当たり前でしょう。あなたの灯と私の神威が融合した結果よ。

これほどの騒ぎを起こして差し上げたのだから、そろそろ出てきそうね」


華蓮は玄冥原の中心をじっと見つめる。

私と孫尚香、そしていつの間にか戻っていた琴葉も、その中心を凝視していた。


中心では、冥迷邪鬼を吸い込むように地面が黒い渦を巻き、人の形を形作っていった。


その影は五人の人となって現れる。


「お前らが、我が居城で騒ぎを起こしたのか」


ニタリと笑う華蓮――と思いきや、いつの間にか中心に立つ男の前へと歩み出ていた。

「見つけたわよ、趙高……随分、腹黒い邪神のようね」

「生意気な娘、我に逆らう気か。儂がてご……」


趙高が言葉を言い切る前に、華蓮が一喝した。

「跪け!その臭気を撒き散らさないでくれるかしら」


趙高は跪き、肩を震わせ、ただ下を向くのみだった。

対照的に、華蓮は楽しげに笑う。


木の枝を拾い、枝の先で趙高の顎を持ち上げる。

「これからあなたは、人の子に魂を少しずつ削られていくわ。

そして最後の魂が帰依した時、私が良い物を与えてあげる」


恐怖とも怒りともつかぬ目で華蓮を睨む趙高。

「そうそう、この四人は私が頂いていくわね」

そう言って指を鳴らすと、龍から四本の銀糸が伸び、四人に突き刺さり、彼らは亡くなる前の姿へと戻った。


華蓮は四人を見て微笑み、趙高を見下す。

「私が用があったのはこの四人……残念ながらあなたは用なしね。

さ、参りますわよ。ついてきなさい」


趙高が動けないためか、他の冥迷邪鬼も動きを止めていた。

華蓮は四人を伴い堂々と歩み、結界の外へ出ると指を鳴らした。


すると趙高の自由が戻り、冥迷邪鬼に命令する。

「あの者どもを追え!」

だが冥迷邪鬼は結界に触れた瞬間、銀の粒子となり消えていった。


華蓮は機嫌よさげに先頭を歩く。

「さて、私たちは一仕事終えたし、生門でお茶会を始めましょうか。

浮島夢咲も招待しているから、仕事を終えた竈班も参加しなさいね」


趙高は成す術もなく、歯噛みしながら私たちの背中を睨んでいた。

やがて陽が昇り、鬨の声が一斉に響き渡った。



朝陽に照らし出される休門の陣の前では、龐統隊三千が鶴翼の陣を構えていた。

その横には、先鋒の陣を組んだ徐庶隊千。

残りの千は生門前で救護班と共に待機している。

本来なら開門前には華蓮隊が布陣しているはずだったが――。


「華蓮様、開門前の総大将は華蓮様ではないのですか」

私が尋ねると、華蓮は悪戯っぽい微笑みを浮かべて答えた。

「これから楽しいことがあるの。だから浮島夢咲から孫瑜を呼び出して、開門前の三千の兵は孫瑜隊にしたわ」


「ミレイアには頼まなかったのですね」

意外に思い、私は華蓮に尋ねた。

「ミレイアはこの先二千百年間、夢咲の創造を支える重要な存在なの。だから戦場に立たせるわけにはいかないのよ」

「それで、孫瑜さんに頼んだのですね」

「そう。それに人の子たちには実戦経験を積ませたいから、今回は孫瑜にしたの」


歩きながらそんな話をしていると、各陣から雄叫びが一斉に響き渡った。

いよいよ、夢咲の軍と趙高の軍の激突が始まろうとしていた。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

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更新は偶数日の朝7時過ぎを予定しています。

引き続き楽しんでいただけると嬉しいです!

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