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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第90話 新星環機


朝靄に霞む夢咲巴東港へ、澪星が静かに接岸した。

埠頭ではすでに作業員たちが待ち構え、貨物を降ろす準備を整えている。


隣の埠頭に停泊した彗星の巨大な扉が開くと、キャタピラ星馳が唸りを上げながら貨物を牽引し、ゆっくりと姿を現した。


ここからは、龐統部隊と徐庶部隊に分かれての行軍となる。

徐庶部隊はリニアモノレール建設に合わせて進軍し、三十六日目には玄冥原近くまで到達。さらに四日を費やして迂回し、四十日目に陣形を敷く予定だ。


一方、龐統部隊は劉備の下にいた頃に下見をした桟道を利用し、玄冥原を目指す。

距離にして二百四十粁――十日間の行軍が計画されていた。


龐統隊の副将には、学生でありながら周循が選ばれた。

馬に代わりに、ジャイロバイクとロックモービルを用いるこの戦において、その操縦と戦術に秀でた周循こそ適任とされたのだ。


さらに最小部隊の竈隊も龐統隊に同行し、山を登ることとなった。


すでに船からは黒層鋼のレールが星馳に牽かれて次々と降ろされている。


碧衣がこちらに声をかけてきた。

「じゃあ、早速リニアモノレール工事に行くわね。三十六日以内に玄冥原までレールを引いておくから。あなたたちはまだ三十日近くここにいるんでしょう?暇があったら工事を見に来なさいね」


私は微笑んで答えた。

「うん、無茶して事故だけは起こさないでね」


碧衣は珍しく笑みを浮かべた。

「大丈夫よ。あなたたちこそ、新しい乗り物に振り回されて怪我しないでね」


そう言って手を振り、迎えに来た星馳に軽やかに飛び乗ると、現場へと向かっていった。


私は紗良と琥珀を見て、少し寂しげに呟いた。

「はあ……行っちゃったね」

琴葉が相槌を打つ。

「うん、行っちゃったね」


紗良は苦笑を浮かべる。

「あなたたち、碧衣と別れるのがそんなにつらいの?」


私は首を振り、紗良を見つめた。

「たぶん、リニアモノレールや玄冥原、新しい乗り物……いろいろあって、心が不安になっているんだろうな」


すると紗良は柔らかく微笑み、静かに答えた。

「何も心配ないよ」


そんな話をしていると、琴葉が奥の埠頭を指さし、大きな声を上げた。

「見て! あれ……あれが新しい乗り物なの?」


私と紗良は、別の埠頭に着岸した彗星へ視線を移す。

そこから現れたのは、誰も乗っていない二輪の乗り物と、前輪が車輪で後輪がキャタピラの奇妙な車両。

整然と隊列を組み、こちらへと進んでくる。


紗良の表情がぱっと明るくなり、まるで子どもがおもちゃを見つけたような目をして言った。

「あれがジャイロバイクとロックモービルだよ」


私は二輪なのに倒れない不思議さと、見たこともない形状に驚き、思わず声を漏らした。

「何、あの乗り物……」


紗良は得意げに胸を張る。

「うん、最近は夏口の学術院にも配備されたんだ。とても面白い乗り物だから、星愛も琴葉もきっと気に入ると思うよ」


そのとき、目の前に停車した二輪の乗り物を琴葉が横から押した。

車体はわずかに傾き、すぐに元の位置へ戻る。


「なんでよー!」

琴葉は再び横から押し倒そうとする。


その様子に紗良は腹を抱えて笑った。

「無理だよ、琴葉。この乗り物はジャイロバイクって呼ばれていて、倒れない構造になってるんだ」


「こうなったらー!」

琴葉が足を振り上げようとした瞬間、紗良が素早く襟をつかむ。

「いま、蹴とばそうとしたでしょ?」


問い詰められた琴葉はキョトンとした顔で紗良を見返す。

「いやねー、私がそんなことするわけないでしょ」


三人は顔を見合わせ、同時に吹き出した。

さっきまで胸にあった不安は、笑いとともにどこかへ消えていった。


―――――


その後、玄冥原の趙高討伐隊の幹部が招集された。

招集場所の巴東星環府の平原には数千台のジャイロバイクとロックモービルが並んでいた。


「ねえ、紗良凄い台数じゃない?」

私が紗良に聞くと、紗良はジャイロバイクとロックモービルの列を見ながら答えた。

「たぶん、今回参加する兵全員に支給されるんだと思うよ」


龐統隊からは、龐統と周循、周妃と先に巴東入りしていた小喬。

徐庶隊からは、徐庶と周胤。

そして、一番少人数の竈隊からは、私と紗良、琴葉、孫尚香が集まった。


ミレイアが得意げな顔で車列の前に立った。

「みんな集まったようね。

埠頭で見て知っている人もいると思うけど、ジャイロバイクとロックモービルよ」


皆は感嘆の声を上げ、その中から徐庶が質問した。


「馬が見当たらないでのすが、ひょっとしてこれらの乗り物が馬代わりになるのですか?」


ミレイアが自身の笑みをうかべ徐庶を見た。

「そうよ、これからの夢咲の騎馬はジャイロバイクに変わるのよ」


そう言い、皆にゴーグルを渡すように側付きに命じた。


(えっなに、これ、こうやってつければいいのかしら……

ゴーグルを被ると、視界が三百六十度開けた)


「うわわわ……前と後ろまで見える」

思わず大きな声を上げた。他の者も同じように驚きの声をあげていた。


「さあ、ゴーグルを一旦外して、私が言う乗り物にそれぞれ乗車しなさい」


それぞれが華蓮に言われた乗り物に乗車した。

ロックモービルには私と琴葉、そして医療班の小喬と周妃。

それ以外は、ジャイロバイクに跨った。


「あの……ミレイアさん。申し訳ないのですが、女性の漢服だと非常に乗りづらいのです。

それに殿方には目の毒になるのではないでしょうか?」


小喬が遠慮がちに口を開くと、ミレイアは頷きながら答えた。

「そうね。女性陣は着替えた方が良さそうね」


すぐに側付へ命じ、更衣室へ案内させる。私たちは着替えの間へと移動した。


用意されていたのは、戦闘用に工夫された漢服だった。

裳は袴のように分かれていて脚を動かしやすく、乗車の際には裾を帯に差し込めばすぐに戦闘姿勢へ移れる。

上衣は腰丈までの短袄で、軽快さを保ちながらも伝統の斜め襟を残している。

さらに外套を羽織れば、防風と防塵を兼ね備え、走行中でも裾が翻りすぎることはなかった。


「うわー、すっごく動きやすい!」

私が声を上げると、琴葉は嬉しそうに身をひねりながら答えた。

「うん、これならロックモービルに跨っても恥ずかしくないね」


小喬も頷き、安堵の笑みを浮かべる。

「ほんとう……これなら殿方も変な目でこちらを見ることはなさそうね」

周妃も母の言葉に安心したように頷いていた。


私たちは再び皆のもとへ戻り、ロックモービルに跨ってみた。

その姿は、古代の気品を残しながらも未来の機動兵を思わせるもので、違和感はなかった。


(うん……小喬さんも満足しているみたい。私も満足、満足)


やがて全員の準備が整い、場の空気が静まる。

私たちは息を整え、ミレイアの言葉を待った。


「さあ、始めましょうか」

ミレイアの声に、皆の表情が一斉に緊張に染まった。


「まず、声は出さないで私の話だけ聞いてね。

この星環機は声に反応して速度を調整し、停止するの。

そして赤い点が進行方向を示すわ。行きたい方向に目を動かせば、赤い点が追従するでしょう?」


「きゃはー!」

突然琴葉が大声を上げた。

「わー、動いた、動いたー!」

ロックモービルが土煙を巻き上げ、ぐんぐん加速していく。


「戻りなさい」

ミレイアの一言で、ロックモービルは静かに彼女のもとへ戻ってきた。


(なるほど……最終権限はミレイアにあるのね)


「ダメでしょ。話は最後まで聞きなさい」――コツン。


軽く拳骨を落とされた琴葉は、負けじと口を尖らせる。

「だって、面白そうだったんだもん」


「まったく……華蓮に似たのかしら、この子は。本当にじっとしていられないのね」


ミレイアは気を取り直し、説明を続けた。

「この星環機は常温超電導モーターを車輪に搭載しているわ。

最高速度はジャイロバイクで二百二十粁(キロメートル)、ロックモービルで百四十粁。

ただし路面の状態に応じて自動制御されるの」


(最高速度の制御を切る方法……知りたいけど声は出せない。そういえば琴葉のロックモービルは今、ミレイアに制御が移っている……!)


私は久しぶりに星紡ぎの呼吸で琴葉へ語りかけた。

『琴葉、最高速の制御を聞いてみて』


琴葉はにっこり笑い、問いかける。

「ミレイア、最高速度の制御を切る方法はあるの?」


「まったく……琴葉はそういうことばかり気にするのね。あるわよ。

でも、操作に慣れるまでは教えられないわ」


「そっかあ、残念だな」

琴葉は私の方を振り返り、ウィンクを送ってきた。


ミレイアは続ける。

「制御に使う言葉は単純なものがいいわ。

例えば動くときは『ららら』、止まるときは『ピッ』。

AIが学習して、会話と制御を区別できるようになるからね。

それに、ゴーグルをつけている者同士で通信もできる。だから普段使わない言葉を選ぶのがいいわ」


皆は納得したように頷いた。


「まずは、小さな声で、人が歩く速度くらいで操作する練習を始めなさい」


こうして、ジャイロバイクとロックモービルの操作訓練が始まった。


私は一旦ゴーグルを外し、ロックモービルから降りて皆に呼びかけた。


「皆さん、私から提案なのだけど――隊ごとの言葉を決めるのはどうかしら?」


ぞろぞろと星環機から降りた仲間たちが、私の周りに集まってくる。


龐統が歩み寄りながら声をかけた。

「星愛様、その案に私も賛成です」


徐庶も頷き、言葉を添える。

「左様。皆がてんでバラバラな声を上げながら攻めてくるのを想像してみなされ」


孫尚香が肩をすくめ、面白おかしく言った。

「やー、だー、ほほほ、ざー……色んな声が混ざったら、ただの変な集団にしか見えないわね。

でも同じ言葉で動けば、威圧感は格段に違うわ」


琴葉が大笑いする。

「でも、バラバラも可愛いと思うよ。間抜けな雄叫び部隊夢咲――あっという間に伝説になるんじゃない?」


紗良が真剣な顔で琴葉を睨む。

「そうやって茶化すものじゃないよ。みんな真面目に話しているんだから」


琴葉は反省する様子もなく、「ごめん、ごめん」と軽く謝った。


私は苦笑しながらまとめる。

「琴葉は別として、皆賛成のようね。今回は大きく分けて、龐統隊、徐庶隊、華蓮隊、医療隊、そして私たち竈隊」


琴葉が「華蓮がいない……」と言いかけた、その瞬間――


どーん!


大地を揺るがすような地鳴りが響き、土煙が舞い上がる。風に流された煙と一緒に、紫の外套が舞うのが見え、華蓮の姿がゆっくりと現れた。


「まったく、人の子は面白いことを思いつくわね。

それとも、星愛お姉さまの案かしら?」


華蓮は微笑みを浮かべ、軽やかに言葉を続ける。

「変な掛け声を決められると困るから……こうして来ましたのよ。うふふ」


しばらく考え込んだ後、皆の意見がまとまったようなので、私が口を開いた。


「私たち竈隊は炎をイメージして――走行時は『ボ』、停止時は『シュッ』にしましょう」


龐統が一歩前に出て、低い声で応じる。

「我ら龐統隊は、轟くような響きで走行時は『ゴ』、停止時は沈黙を示す『ン』といたそう」

満足げに頷く龐統の姿に、周囲も納得の色を見せる。


徐庶が目を細め、静かに言葉を紡ぐ。

「我ら徐庶隊は整然とした隊を表す。走行時は直線的な響きの『リ』、停止時は区切りをつける『ト』としよう」

その落ち着いた声に、皆が自然と背筋を伸ばした。


小喬は小首を傾げ、柔らかな微笑みを浮かべる。

「私たち医療隊は癒しを担います。走行時は安らぎの響きを持つ『ハ』、停止時は収束を示す『ン』にいたしましょう」

その優しい声に、場の空気が少し和らいだ。


最後に華蓮が皆を見回し、艶やかに口を開いた。

「皆さん、なかなかよくお考えですわね。華蓮隊は――走行時は風が吹き抜ける『フ』、停止時は風が収まる『スッ』にいたします」


(それは違いますね、華蓮さん。きっと『フ』は笑い声で、『スッ』は銀糸を飛ばす音……)


そう心の中で呟いた瞬間、華蓮がこちらに視線を送り、ニヤリと笑った。


ミレイアが私たちを見て頷いた。

「皆さん、操縦の言葉は決まったようね。では、人が歩く速度で――自由にいろいろな場所へ行けるように練習を始めましょう」


華蓮がミレイアに視線を向け、静かに口を開いた。

「私の隊の練習はあなたに任せますわ。私はこれから襄陽へ戻ります」


そう言うと、華蓮の身体はふわりと空へ浮かび上がり、光となって消えていった。


(ほんと、華蓮は自由人ね)


そう思いながら、私はロックモービルに跨った。

「とりあえず、この原っぱで練習しましょうか」

私の言葉に皆が頷き、ゴーグルを装着して前方を見据える。


赤い点が視線に合わせて動くのを確認したその瞬間――私は恐る恐る声を出そうとした。


「ボーー!!」


大きな声が響き渡り、視線を向けると琴葉のロックモービルが土を蹴り、人の歩みより少し速い速度で前進していた。


耳元からミレイアの声が届く。

「琴葉、もうあなたの行動はお見通しよ。皆の星環機も、今は最高速度を時速六粁に制御してあるから大きな声を出しても大丈夫。

まずは人の歩く速度で走らせて、慣れてきたら徐々に上限を上げていきましょう」


ミレイアの説明を聞いて、私は少し安心して声を出してみた。


「ボ」


ロックモービルが赤い点に向かって前進する。

(なるほど、声は一度でその速度を維持するのね)


もう一度、先ほどと同じ大きさの声を出すと、倍の速度で走り始めた。

(意外と簡単……次は止まってみようかしら)


「シュッ」


同じ大きさの声を出すと、速度が半分に落ちていく。

(なるほど、声の強さで速度が変わるのね)


続けて「ボ」と言い、今度は大きめの声で「シュッ」と叫んだ。


グン――。


ロックモービルは前に沈み込み、静かに停止した。


そんなことを繰り返しているうちに、日没が近づいてきた。

陽が弱まると、ゴーグル越しの景色は黒く沈み、物の輪郭が緑色に浮かび上がる。


(えっ……真っ暗なのに、周囲がはっきり見える!)


そのとき、龐統の声がゴーグルを通じて響いた。

「これなら夜陰に乗じて、敵の寝首を掻くことも容易ですな」


私は思わず反応する。

「龐統さん、夢咲は中立です。あまり物騒なことは言わないでください」


「いやいや、済まなかった。あまりにも便利な機能ゆえ、つい本音が出てしまいました」


(本音って……誰の寝首を掻くつもりなのかしら)


そんなやり取りをしながら、皆も次々と試し、暗くなる頃には歩く速度で自在に操縦できるようになっていた。


「いいわね、今日はここまでにしましょう。上出来よ……明日はもう少し速度を上げていきます。今日の練習はここまでです」


ミレイアの声がゴーグルから響く。

私は空を仰いだ。緑色の天の川が夜空に広がり、静かに輝いていた。



ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

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更新は偶数日の朝7時過ぎを予定しています。

引き続き楽しんでいただけると嬉しいです!

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