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第09話 私達の選択

風羽の眼が細くなり、遠くを見つめるように思慮深く話しを始める。


「実はね、白洲さんとは重要な取引をしてるんだ。学園では18年かけた大規模計画を進行中でね…」


(澪ちゃんと取り引き、ひょっとして魂抜きの件かしら…)


ここまで、驚くことばかり話され、私達はその話しの先を知りたくて、口を挟む者は誰もいなかった。私はあまりの情報量の多さと、その日常離れした内容に少し酔っていた。

そんな私を紗良がそっと肩を抱き引き寄せてくれたので、『紗良は私の気持ちを理解してくれているんだ』と思い、少し安心して、風羽の話しの続きを落ち着いた気持で待てた。


「計画の詳細は極秘事項だから、詳しくは話せない。

ただ一つ言えるのは、これは地球全体の危機を救うための計画だということさ」


(何!?、今度は地球規模の話し。平然と『地球全体の危機を救う計画』なんて、よくもいけしゃあしゃあと言えるものね)


私は少し腹立たしく思ったが、好奇心には勝てなかった。

他の5人も同じ気持ちなのか、真剣な面持ちで風羽を見つめていた。

私は計画に対する強い好奇心と、白洲さんとの取引内容を早く知りたい気持ちが交錯した。

まさに期待と不安が入り混じったような複雑な表情が浮かんでいた。


「そして、その計画を行うにあたって学園は、創造神の力を加えたいと考えたのさ」


(どういう事、これって計画のために学園が澪ちゃんを呼んで、澪ちゃんはそれに応えたっていうわけなの)


私の気持ちが伝わっているのか、私の肩を抱いている紗良の手に力が入る。


「そこで私たちは白洲さんと接触を図り、図書館の主任司書兼学生として迎え入れることにしたのさ」


私は少し今の状況が見えてきた気がした。

でも疑問も残ります。何故、空港で事件を起こし、わざわざ私達の記憶に偽りの記憶を植え付けたのか理由が分かりません。

その質問を風羽にぶつけます。


「理由は簡単さ、私達の計画が予定通りに事が進めば、二人の女神の記憶が戻るが、失敗すれば記憶は戻らない。

その時はまた元の生活に戻る条件を出した。

それが嫌だったんだろうな。彼女はこの話は断ったんだよ。

ただ、この話を持ち掛けた時点で彼女には夢咲学園に二人の女神がいることを伝えたから、彼女なりに考えての行動だったんだろう」


「そっか、計画に関係なく、確実に女神と再会するための方法を選択したのね」


風羽は頷く。「でも、ここにいる限りは計画に必然的に巻き込まれるんだけどね。

計画が成功すれば『月詠みの儀』も必要なくなるからね。

それに、私達、天界の神全員が今回の計画は成功すると信じているんだよ」


風羽は一息つくと、より慎重な口調で話し始めた。


「そして空港で事件があり、青木さんの魂を抜いた事が切っ掛けで、私達は彼女の計画を知り、再び彼女と接触を図ったのさ。

そして、白洲さんには、女神2人との接触を全面的に禁止すること、そして例え女神から接触があっても、自身の過去について一切触れないことを厳しく条件付けしたんだ。

その代わり、私たちは月黄泉の儀を行うことを正式に認めたのさ」


ここで点と線が結びついたのか、碧衣が私たちの顔を見つめながら話した。


「なるほどね、学園はどうしても澪ちゃんを手放したくない。

そして、澪ちゃんも女神を手放したくない。

今は、微妙なバランスで学園と澪ちゃんの関係が成り立っているのね。

それに、これでやっと白洲さんが言いたくても言えなかった理由が分かったね。

私、ずっと気になっていたんだ」


私たちは皆、碧衣の言葉に深く頷き、共有された理解の中で互いに目を合わせた。


でも私はどうしても黙っていられずに、私は風羽に質問をした。


「生徒の魂はどうなるの?それに2人の女神もどうなるの‥」


言葉を続けようとしたその時、緊張した声が理事長室に響き渡った。




「風羽さん!見つけたわよ」


重い空気の理事長室に灯里理事長の声が響く。

一同がモニターに目を向けると、そこには欧米風の室内が映し出されていた。

暖炉の上には4体の可愛らしいアンティークドールが整然と並べられていて、そのうちの2体の目には、モニター越しでもわかるほど明るい光が宿り、涙の様な輝きにも見えた。


風羽はニコリとほほ笑んだ。


「全く彼女らしいね。

こんな可愛いくて貴重なアンティークドールを、空き巣に入られたら持ち去られるとは思わないのかな‥。

確かに頭は切れるけど、こういうところは本当に乙女というか‥」


どこか温かみを込めて呟いた。

じっとモニターを見つめていた紗良が、突然私の手を強く握り、声を震わせて言った。


「まさか、これは4人分の魂を入れるための依代なの?」


風羽はニコリと笑い頷きました。


地図に目を移すと、モニターに映っていたのは住宅街の一軒屋のようだった。

風羽は顎をさすりながら目を細めた。


「学園内の住宅を貸し出していたけど、彼女はやはり自分の家も持っていたみたいだね」


風羽の表情が明るい表情に変わった。


「さて、一人の生徒が試験中に倒れて、しかも、空港で見た職員と同じような眼をしていた。

それを複数の生徒が目撃しているのだから、私達にも説明責任はあるよね」


風羽は灯里理事長と月弓校長の方を見て尋ね、校長が応える。


「いま、緊急の職員会議中で、ここまでわかったのだからそろそろ私達も出席した方がいいと思います」


「今晩は緊急の保護者会になりそうね」と理事長が付け加える。


彼女の顔には、事の重大さを理解しているかのような深い思慮が表情に浮かんでいた。


「と言うわけだから私からのお願いを聞いてくれるかな」


私達は顔を見合わせ、風羽の方を向いて静かに頷きます。


「実はね、白洲さんは最初から抜いた魂は返すつもりで、綺麗な人形を依代に選んだのかもしれないね。

月黄泉の儀の後3人が天界に行った後は依代の魂は4人に返すように頼まれているんだ」


魂が戻される話しを聞いて、私と紗良は顔を見合わせ、ほっとした。

そして澪ちゃんの意図を知り、少し不安が解消されたように感じた。


風羽は私達の反応を見て、さらに話を続けた。


「だから、次の新月の魂抜きは素知らぬ振りをして、見なかったことにしてくれ。

その後、学園の計画が次のステップに移行し、きっと2人の女神がミレイアを救うはず。

それに依代のある家と依り代も学園が24時間監視するので、安心してくれ」


私達6人は顔を見合わせ、それぞれの目に新たなる決意が感じられた。

静かに頷いた私たちの心の中では、これから始まる大きな使命への覚悟が固まっていった。




◆星愛の自宅で◆


私の家に帰り、リビングで私達は椅子に座り脱力していました。

リビングには夕焼けの日が差し込み、オレンジ色の光がゆっくりと部屋を染めています。

椅子に座る6人の影が長く伸び、それはまるで今日一日の長さを表しているかのようです。


沈黙を破ったのは琥珀の一言だった。


「今日はいろいろあり過ぎて疲れちゃったね。今頃学校は大変だろうね」


私は緊急保護者会の様子を想像しながら、少し肩をすくめた。

そして、内心では次の行動に不安を感じながらも、払拭したい気持ちで、関係のない今の状況を口にした。


「それより私達お昼も食べていないし、みんなお腹空かないの?」


紗良がにっこり笑い、みんなを見ながら口を開く。


「ほんと、お腹すいちゃったね。

もう夕飯の時間だし、試験も終わったしパッと豪勢な夕飯にしようよ」


いつも冷静な碧衣が、少し私達を明るい話題ながらもこれからの事について話した。


「私思うんだけど…天界の神々が信じているのだから、私達も学園の計画を信じるしかないね。

私達にできる事は、澪ちゃんと本当の友達になれる様に頑張って、孤独ではないことを知ってもらうのが一番かなってね」


琴葉が「でもまずはご飯! 神様だって空腹は敵よ!」と、真面目な顔で言った。


真面目な顔つきになった琥珀は腕を組んでじっと考え込み言い放った。


「じゃあさ、今からご飯を作るのは大変だし、どうせ、主任司書様は図書館で本の整理をしているよ」


琴葉はその言葉に拍手を送ってニッコリ嬉しそうに提案する。


「じゃあ、駅前の欧州屋に澪ちゃん誘ってご飯しちゃおう」とまとめた。


みんなで顔を見合わせて笑い合った。


6人で図書館に向かうと、澪ちゃんは小さな身体でせわしなく受付で図書カードの整理をしていた。

私が声をかけると、彼女は顔を上げ、満面の笑みで手を振ってくれた。

その笑顔を見て、私は内心ほっとした。


(多分、私達が澪ちゃんが魂抜きをしたことを知っていることは分かっているはず。なのに、笑顔で私達を受け入れるのは、やっぱり寂しいからなのかな)


私達6人が夕飯に澪ちゃんを誘った時、一瞬考え込むような沈黙が見られたが、直ぐに満面の笑顔になった。

陽も落ちた学園とは対照的に、新しい友情が紡がれ始めるのを感じて、幸せな気持ちになった。

すれ違う臨時保護者会に向かう保護者達から、澪ちゃんを囲むように歩き、試験の出来やこれからの事を話しながら、澪ちゃんを守るように欧州屋を目指した。


私のママ(灯里理事長)が家に帰った時に、私達に保護者会の様子を話してくれた。

保護者会では今わかっている真実が語られた。

この魂が抜ける症状は、昔からあったこと。

政府は正式には発表していないけど20年前頃から徐々に増えていること。

身体的には何の異常もなく、現代医学では対処できないこと。

精神的な崩壊として考えられていることを聞いた保護者たちは、相当動揺していたとのことだった。

そして、試験最終日だった高等部は4月の進級式までは休校にしたということが伝えられた。


私達は進級式までの春休み、図書館に入り浸り、いつしか澪ちゃんも私の家に寝食を共にするようになった。

いつの間にかみんなからはミオの愛称で呼ばれるようになり、ミオが図書館の仕事が休みの日は、映画に旅行に、7人の友情を深めていった。



そして、私たちは迎えるのであった──夢咲学園計画の次のステップが動き出す日を。



学園は、神々のゆりかご。あなたの“絆”が世界を紡ぐ─


ここまで読んでいただきありがとうございます。


初めて小説を書いて、投稿した作品です。


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作品作りの参考にしますので、よろしくお願いいたします。

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