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創世神話Ⅰ 女神たちが紡ぐ三千五百年物語  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第88話 夢咲長巴道


漢中進出を決めた会議の最後に、華蓮は皆を見回して告げた。


「今回の巴東から南鄭への道は、邪神との衝突を避けては通れないわ。

星愛(ティア)と紗良と碧衣、それに龐統と徐庶はここに残って……少し話をしましょう」


私と紗良は顔を見合わせ、龐統は腕を組んで渋い表情を浮かべ、徐庶の細めた目には光が宿っていた。


―――――


残った四人に妖艶な微笑みを向ける華蓮。


「会議でも話した通り、巴東から南鄭を結ぶ街道は玄冥原が大きな鍵を握っている。

そして、そこには趙高(ちょうこう)が居座っている。

しかも玄冥原にある霊道を通る魂を喰らい、邪神へと成り果ててしまったのよ」


徐庶が腕を組み、華蓮に問いかけた。

「何故、趙高(ちょうこう)の魂が居座っているのですか……。

人の魂は冥界へ向かい、転生神の審判を受けるのではないのですか?」


(徐庶さん、夢咲学園でしっかり学んでいるのね。思考が神に近づいてきているみたい)


華蓮は目を細め、吐き捨てるように言った。

「フン、ヘルメスが取り逃がしたのよ。まったく男神ときたら使えないわね。

趙高(ちょうこう)の魂は真っ黒で、本来なら断絶されるはずだった。

ペルセポネに頼まれて、私はその尻拭いをしているというわけよ」


「なるほど……そのような理由があったのですね」

徐庶は静かに頷いた。


「しかも、邪神へと成長してしまっている。

邪神と言えども、神は神。人の子では消し去ることはできないのよ」


話しながら、探るように私を見つめる華蓮。


私は、人が退治できない存在ならば、無駄な犠牲を払うより神に任せるべきだと考えた。

「ならば、華蓮様お一人で神核を断絶すればよいのではありませんか」


珍しく困った顔を見せる華蓮。

「神核は美味しいから、できるならとっくにやっているわ。

でもね、取り巻きの亡霊がいるでしょう……亡霊の数だけ復活できるのよ。

さすがの私でも、何千もの趙高(ちょうこう)の神核は食べきれなくてよ」


思わず、魂を食べ過ぎてお腹を膨らませる華蓮を想像し、クスリと笑ってしまった。


星愛(ティア)、あなたの心は見透かしているわよ。

あなたは知らないでしょうけど、私はあなたが生まれた時から見てきたの」

ニヤリと笑い、私を見据える華蓮。背筋に悪寒が走った。


(何を言い出すか分からないわね……)


困った顔をしている私を見たからか、紗良が話を継ぎ、華蓮に尋ねた。

星愛(ティア)と軍師二人がこの場にいるのは分かります。

ですが、将軍という立場の私まで呼ばれたということは……趙高(ちょうこう)との戦が始まるのですか?」


じっと紗良を見つめ、華蓮が答えた。

「ふふ、よく分かったわね。周瑜からしっかり学んでいるようね。

あなたたちには神器を与えるから、亡霊たちは人の子の力で何とかして欲しいのよ」


華蓮は何でも一人でこなしてきた印象があるので私は驚いた。

「華蓮様が人の子に頼むって、趙高(ちょうこう)って邪神が相当強いということなのですか?」


私の言葉に、紗良の表情が真剣さをまし、龐統と徐庶が射抜くように華蓮を見つめた。


趙高(ちょうこう)が危ないって言うわけではなくてよ。

澪を思い出しなさい。彼女はあんな可愛くて小さい身体で、この星だって破壊できる力を持っているの……」


ハッとして私は華蓮を見つめた。

趙高(ちょうこう)に、この星を破壊する力がると言うのですか?」


趙高(ちょうこう)にどんな力があるか分からないのよ。

ただ言えることは、何が起きても不思議ではない、神と神の喧嘩になるわ……

それだけ、趙高(ちょうこう)の動きに集中したいのよ。

あなた達だって、気付いたらペルセポネの前にいたなんて嫌でしょ」

そう言い放ち、悪戯っぽい笑顔を見せる華蓮だった。


過去に趙高(ちょうこう)の、八門金鎖の陣を突破したことがある龐統の眼に光が宿る。

「あの時、私たちの剣や槍は空気を切るように亡霊たちには傷ひとつ負わせることができなかった。

神器はしっかり傷を負わせることができる物なのですか」


ニヤリと笑い華蓮が答えた。

「切るだけで、魂が煙と化して浄化され、冥界に旅立つわよ」


「そ、それは凄い」

龐統は感嘆の表情で驚いていた。


コン、コン――。


乾いたノックの音が会議室に響いた。


「お入りなさい」


華蓮の凛とした声が空気を震わせる。

ドアを開けて顔を覗かせたのは、孫尚香、黄月英、婉貞姉妹、そしてミレイアだった。


「待っていたわ。これで役者は揃ったわね」


華蓮は満足げに頷き、微笑を浮かべる。

その瞳には、底知れぬ光が宿っていた。


「これより、漢中までの街道建設――そして玄冥原に巣食う冥迷邪鬼どもとの戦を議する軍議を始めます」


場の空気が一瞬張り詰める。

華蓮の声は冷ややかでありながら、どこか甘美な響きを帯びていた。


「まずは月英。夢咲長巴道の計画について説明していただけるかしら」


月英は中央の卓上に浮かぶ3Dホログラムを指先で縮小した。

南端の赤い点滅は巴東、北端の赤い点滅は長安を示している。


「我ら技術班は、長安と巴東を結び、漢中を貫くリニアモノレール線を施工します。

――ミレイア、大型ビジョンに映して」


指示と同時に、巨大なスクリーンに未知の乗り物が走る映像が映し出された。

滑らかに伸びる軌道を、蛇のようにしなやかに駆け抜ける姿。


「まるで蛇みたい……」


思わず口をついた私の言葉に、徐庶が頷く。

「これは、一度に多くの物資や人を搬送できそうな代物ですな」


龐統が首を傾げ、月英に問いかける。

「月英先生、これほどのものを造るには、何年もの歳月が必要ではありませんか?」


その瞬間、月英の瞳が微かに光を帯びた。

私は、その光を見逃さなかった。


「龐統君は、もう碧衣先生から地球の構造について学びましたか?」


月英の問いに、龐統は静かに頷いた。

それを確認すると、月英は言葉を続ける。


「柱を設置する箇所に、星馳で運んだ黒層鋼製のレールを置きます。

柱となる部分には、あらかじめ厚みを持たせてあります」


私は思わず口を開いた。

「それでは柱の上にレールは載らず、地上を走ることになるのではありませんか?」


月英は視線をこちらに移し、逆に問い返す。

「ここで碧衣さんが銀の鉄扇を使い、マントル層の柱を地上へ引き抜いたらどうなると思います?」


しばし考え、私は答えに辿り着いた。

「六千度の高温、高密度のかんらん岩が黒層鋼を溶かしながら地上へと柱として現れる。

しかも溶けた黒層鋼がかんらん岩をコーティングし、柱上部のレールは完全に癒着する……」


「そう、それで強度の高い柱と、柱に癒着したレールが完成するのです」

月英は頷き、碧衣へと視線を移した。

「ちなみに碧衣様、柱となるマントルを地上へ抜き出すのに、どれほどの時間がかかりますか?」


碧衣は落ち着いた声で答える。

「黒層鋼の溶け具合を見ながら調整しますので……五分ほどでしょう」


華蓮は満足げに頷き、二人の言葉をまとめる。

「おおよそ、二十四時間工事を続ければ一日五キロ。

巴東から長安まで五百十キロ――普通に進めれば百二日で夢咲長巴道は開通いたしますわね」


その瞳に獲物を狙う光を宿しながら、華蓮は3Dホログラムへと視線を移した。


「夢咲長巴道は碧衣と黄月英・婉貞姉妹に任せます。

残りの者は、工事の障害となる玄冥原を攻略いたします」


一同の視線が、妖艶な微笑を浮かべる華蓮に集中した。

軍議が開かれるのは、夢咲連環府では建安十三年(西暦二百八年)以来、実に九年ぶりのことだった。

一瞬にして部屋の空気が張り詰めた。


(夢咲は私と曹英の交渉人が交渉で勢力を広げ、戦とは無縁だったけど、今回の相手は人ならざるもの……)


「うふふ、皆真剣な顔をしていますわね。

夢咲が人の子の命を懸けるのは久しぶりですものね。

ミレイア、あなたがはじき出した進軍計画を皆にお話しなさい」


ミレイアが腰を上げ、指を鳴らすと、3Dホログラムの地図に玄冥原に向かった赤い二本の線が出現した。

そして、その線を見た龐統の顔がハッとした表情になる。


「龐統君は気付いたようね。

一本は巴東から伸びる夢咲長巴道。

そしてもう一本、蛇行しながら伸びる赤い線は、龐統君が以前劉備の兵を引き連れて登った道」


龐統の顔に不敵な笑みがこぼれた。

「私に再びこの道を登れということですね……

あの時は決死の覚悟で、八門金鎖陣を千の兵を引き連れ横切り逃げ帰りました。

ミレイア先生には勝算がおありようですね」


ミレイアの澪譲りの得意げな態度が現れた。


「勿論よ、私は成功率百でない事は行わない主義よ。

龐統君には三千の兵を引き連れて同じ道を登り、今から四十日後に玄冥原に出て、鶴翼の陣形で正門を抑えてもらうわ」


大きく頷く龐統。

「この龐統、役目をしっかり果たさせてもらいます」


ミレイアの視線が碧衣と徐庶に向いた。

「碧衣と黄姉妹は確実にリニアモノレールの建設を進め三十六日後には、玄冥原迄開通なさい。

そのあと碧衣と徐庶君はリニアモノレールとキャタピラ星馳を使い五千の兵を玄冥原に輸送します」


碧衣と徐庶が、緊張した面持ちでお互い一瞥し頷いた。


ミレイアは頷く二人を見た後、一息入れて話を続けた。

「碧衣は三千の兵を引き連れて、鶴翼の陣で開門を抑えるのです」


碧衣が涼しげな顔をミレイアに向け頷く。

「ええ、承知したわ」


「そして、徐庶君は景門の前に二千の兵を率いて布陣し抑えるのと、

その中から、千の兵を引き連れて、先鋒の陣で正門から開門、開門から正門に突撃をかけ、敵の勢力は剥ぎ取り、陣形を崩していくのです」


徐庶が目を細めてミレイアに尋ねた。

「いずれ、陣形を変えてくると思いますが、その時は私の判断で戦術を変えても良いのですか」


ミレイアは頷いた。

「あなたは夢咲学園でも成績が優秀だし、任せるわよ」


「はは、しかと大役を果たして進ぜます」

徐庶は深々と頭を下げた。


(あら……私と紗良と尚香には役割がないのかしら)


そんなことを考えていると、龐統が口を開いた。

「残りの危険な死門・杜門・傷門・驚門・休門は、どうするのですか」


ミレイアが華蓮へ視線を送り、華蓮は私に目を移す。

袖で口元を隠しながら、妖艶に微笑んだ。

「うふふ……星愛(ティア)には、とっておきの場所を用意してあるの」


背筋にゾワリと悪寒が走る。

「私と紗良と尚香で、死門・杜門・傷門・驚門・休門を守るのですか……?」


華蓮は目を細め、私と紗良、尚香を見渡した。

星愛(ティア)は各門の前に竈を築き、灯花を敵陣を囲むように並べる。

そして――灯を入れるのは星愛(ティア)、あなただけ。

他の者は決して触れてはならないのよ」


紗良が驚き、声を荒げる。

「それでは星愛(ティア)が危険すぎます!

なぜ灯を入れるのが彼女でなければならないのですか!」


華蓮は私の頬を両手で包み、瞳の奥を覗き込むように見つめた。

紗良が憤慨の色を浮かべるが、尚香が手を伸ばして制する。

華蓮は紗良を一瞥し、静かに言葉を紡いだ。


「女神ヘスティアは暖炉の神。その炎は人に安らぎと癒しを与える。

女神テイアは光の女神。その光の下では、何人たりともすべてを見抜かれる。

その神威が融合した時、癒しと浄化の力はとてつもなく強大になる。

たとえ人の子として生まれた星愛(ティア)でも、その一片は溢れ出てしまうの」


(えっ……母が光の神だから、私もその神威を持っているとでも言いたいの?)


私は華蓮の瞳を覗き返す。

すると、彼女は嬉しそうに笑みを浮かべた。

「そうそう、この生意気な妹姉の目。

姉として生まれながら、最初にクロノスに飲み込まれ、最後に吐き出された末子。

姉の性格を持ちながら、末っ子の気質を宿す瞳。

人の子であっても変わらない……だから、あなたでなければならないのよ」


見つめ合う私と華蓮を見て、紗良は収まりがつかず声を荒げた。

「そんな、意味の分からない理由では納得できません!」


「あらあら……狩猟の神の気質と正義の神の気質が融合すると、こうなるのかしら。うふふ。

よく考えなさい。沙市で盗賊を討伐した後の灯、許都で舞を披露した時の灯、野営で竈を作り料理をしている時――

いつも星愛(ティア)の周りには、安らぎを求めて人が集まっていたでしょう」


紗良は何かに気付いたのか、落ち着きを取り戻した。

そんな紗良を見て、華蓮は怪しく笑う。


「あの子は天界では私から逃げているのに……やっぱり、可愛いわね」


その呟きは、私の耳にだけ届いた。

私はキョトンとしながら、紗良を見つめる華蓮を凝視した。


「冥迷邪鬼どもは実体を持たぬゆえ、動物を依り代にして灯を消しに来ます。

紗良はリニアモノレールの柱の上から月弓を放ち、星愛(ティア)を援護しなさい。

灯花と竈に近づくものは、すべて射抜くのです。

尚香は星愛(ティア)の傍らで守護を。ミューズの聖女であるあなたなら大丈夫でしょう。

ただし――星愛(ティア)の灯に近づける冥迷邪鬼は、相当な霊力を持つ者です」


私と紗良、尚香は華蓮を見つめ、静かに頷いた。

その様子を見て、華蓮は珍しく檄を飛ばす。


「よく聞きなさい。

冥迷邪鬼の刃は人の身体を傷つけることはできません。

しかし、その刃は魂を奪う。

倒れた者があれば、必ず身体を持ち帰りなさい。まだ生きているのです。

私が趙高を断絶すれば、肉体に魂は戻ります。

このことを肝に銘じて戦に臨みなさい」


そう言い終えると、華蓮はいつもの妖艶な笑みに戻った。


「さてさて……ヘルメスが逃がした趙高の神核は、どんな味かしら。

うふふ、楽しみだわ。

さあ――大人形劇を始めましょう」


こうして、夢咲長巴道の開発と邪神討伐は、ついに動き出した。



ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

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